克典叔父さん
太木を結解に任せて階段を駆け下りたソラは居間で震えていた響を抱き締めた。
「大丈夫だよ。必ずボクが解決するから。
今日は この結界の中に居るべきだよ。
奏お姉さんも、ショウも一緒に」
「でも……」
「ボクも居るし神様も居るから安全だよ。
それじゃあアパートに行くからね」
「お~いソラ。
そんな震えてるのに離れるなよなぁ。
姉さんトコにはオレが行く。
ヤツが向かってるからな、待ってろ」
【兄を頼れってぇ】【あ……はい♪】【ん】瞬移。
すぐに戻った。
「あの兄弟と同じ顔で良かったよ。
で、部屋だな。
あんま広いのも不安になるか?」
姉妹揃って頷く。
「そんじゃあコッチだ」
不安そうな姉妹を連れて風呂と台所の間の部屋へ。
着いた途端ソラがカケルを眠らせたのでショウも安心して付いて来ている。
「着替えやら諸々は風呂場に揃ってるらしい。
先に選びに行ってもいいぞ。
メシはオレに任せてくれ。
好き嫌いあるか?」
「特には……」「ええ……」
「ん。そんじゃあソラ、護衛は任せた」
「はい!」
―・―*―・―
理子はモーガオハイツ近くに居た。
また無自覚に神力を使って奏に向かっていたようだが、オニキスが連れて行ったので見失って首を傾げている。
【兄様、魂の内が見えるか?】
【いえ……何かに阻害されていますね。
隠れて居るのは確かに神。その程度です】
【封じて社に連れて行くか?】
【害を為す前に、そうしましょう】
狐の兄弟は全てを消して近寄った。
―・―*―・―
『兄さ~ん、着いたよ~』
玄関からの声に晃典は炬燵から出た。
「家族は?」
「車で待たせてる。駐車場、いつもの?」
「ああ、33番だ。
部屋は広い方の和室な」
「あれ? 婆さんの部屋は?」
「理子が居るんだよ」「ゲ……」
「克典も その反応か。
娘達はアパートで年越しすると逃げてしまったよ」
響から電話があったばかり。
「アパート?」
「奏の婚約者が住んでた部屋だ。
今は奏が借りてフルート教室しているんだ。
防音工事もしてな」
「へぇ~。
けどアヤが来てるんなら言ってくれよなぁ。
墓参りしたら帰ろうかなぁ」
「帰るなら連れて行ってもらいたいよ」「ゲ……」
とか何とか言いつつ家族と荷物を降ろして克典は車を置きに行った。
克典の家族も理子が居ると知ると、出来るだけ顔を合わせないようにか、買い物に出てしまった。
なので炬燵に取り残された形の兄弟は、なんとなくで話し始めた。
「最近、どうだ?」
「最近、ねぇ……今年は誰も受験じゃないから家族は平和だよ。
あ、会社は社長が倒れて大騒ぎしたな。
もうヤバいらしくて、まだ意識が戻ってないとか何とか。
社員としてはボーナスが遅れて焦ったよ」
「社長が倒れてボーナスに響くのか?
大きな会社なんだから総務や経理がやるんだろ?」
「大きいからこそ社長の承認が要るんだよ。
額がデカイからな。
今回ばかりは上層部が集まって承認したらしいけど」
「後継ぎとか代理とかは?」
「一人息子さんを追い出したから、ソッチも大変らしい。
けど、たぶん専務してる弟さんが継ぐと思うよ」
「追い出した? どうして?」
「もう、10年くらい前になるんだけど、女性問題? なんか元カノが騒いだらしくて結婚直前に婚約破棄で。
けど、いい人だったんだよなぁ。
真面目で穏やかで賢くて。
電子だか電気だかの工学博士。
だから信じられなかったよ。
社員みんな信じてなかった」
「元カノが会社に乗り込んで来たのか?」
「ええっとなぁ……婚約者さんがお嬢様なんだけど、将来 支えたいから社会人経験しときたいってOLしてたんだって。
その会社に元カノが入って、お嬢様の結婚相手を知って大騒ぎ。
捨てられて中絶せざるを得なかったって。
会社だけじゃなくて、お嬢様の家にも電話して。で、親から親へ。
社長が『この女性と付き合っていたのか?』って聞いたら頷いたんだって。
けどなぁ、徳示さんなら結婚前に子が出来るような事しないと思うんだよなぁ」
「10年前か……」
「うん。10年くらい前。10年ちょい前かな?」
「婆さん! 出て来てくれ!」「へ?」
「聞こえるんだろ! 早く!」「兄さん?」
「もうっ、忙しいって言ったでしょっ」出た。
「ええええっ!?」
「はいはい、ビックリよね。
アキみたくカツも慣れなさい。
それで何?」
「理人君は?」
「修行中よ。話したいの?」
「そうじゃなく、それなら話せるな。
理人君の父親は颯人君なんだろ」
「そうよ。アキは気づいてたから名前に『人』の字を入れたんでしょ?」
「似てると思ったんだ。
それで理子が不幸にした相手の名は?」
「それは言えないわよ」
「タキ電機の御曹司だろ」
「あら、知ってたのね」「ええええっ!?」
「繋がったな。
で、理子のせいで追い出された御曹司は?
今どうしてるんだ?」
「そこは知らないのね。だったら言えない」
「タキ社長が倒れたそうだ」
「あ~~~、そういうこと。
困ったわねぇ」「ヨシちゃん来て!」
金髪美女ユーレイ現る。
克典は驚き過ぎて、もう声も出ない。
「ん? あらあら?」兄弟をジーーーッ。
「スザクちゃん、孫達が どうかした?」
「入ってそうね」
【バステート様! 此方にも2人居ます!】
今度は人サイズの黒猫が現れた。
【確かに。キャティス! 起きなさい!】
「眠り修行に集中すると仰って……」
「そうですか。では少々手荒ですが――」
寿はバステートが放った光に包まれた。
「っ……」耐える!
《え? 姉様? どうかしましたか?》
【ヨシの孫達に欠片を込めたでしょう?】
〖ええ。あら、その2人ね♪〗
【あと1人はオフォクス様のお社に運ばれて来ました。
2人の欠片は眠ったままです。回収なさい。
運ばれて来た者の欠片を回収するには神力が必要なのだから】
〖回収できる程の神力は……まだみたい〗
【……確かに。では、何方かに――】
〖手伝ってあげる~♪〗ぽよよ~んと象頭。
「象のユーレイってのも居るのか……」
〖失礼しちゃうなぁ。ボクは神♪
ちょっと眠っててね~♪〗ハイ♪
ポテッと眠った兄弟を浮かせて、宙に魔法円。
〖始めるよ~♪
バステートちゃん、ボクの対面ね♪
ヨシちゃんは真ん中ね♪
スザクちゃん、バステートちゃんの背中を支えてね♪〗
楽し気にテキパキ。
位置に着くなり唱え始めた。
―・―*―・―
ノック音がし、
『入っていいか?』リーロンの声。
「はい!」ソラが返事。
「叔母は確保した。今、キツネ様の社だ。
一先ずだが安心してくれ。
けど今夜は泊まってけよな。
風呂も見たか?」
姉妹が頷き、ホッとしたらしい響が答えた。
「とっても広いし、浴衣とか可愛いのもあるし、ビックリしました。
温泉旅館だったんですか?」
「此処の歴史はソラに聞いてくれ♪
とにかく、ほっこりするのも良しだ♪
窓から見える雪被り紅葉もキレイだぞ♪
今年は遅れたから今が見頃だ♪」
「それなら……」「お姉ちゃん入ろ♪」
響が奏の手を引いて行った。
【あの姉妹は、ずっと叔母を避けてたのか?】
【そうだと思います】
【どーやら叔母の中の神が目覚めたらしい。
響チャンの神力の影響だろう。
けど叔母は無自覚だ。
だから叔母の意識と、内の神の意識とがゴッチャになって動いてる状態だ。
理由は不明だが、その神はソラと響チャンが結婚の絆で強化されるのが脅威で、阻止しようと叔母を動かしてるらしい。
姉さんを捕まえれば響チャンが現れるだろうってアパートに向かってたみたいだな。
今、キツネの社は死神ワンサカでヤヤコシイ状況だ。
後手にならねぇよーに頑張ってるが逃げられる可能性もある。
このままショウと一緒に護衛を続けてくれ】
【お兄をガッチリ眠らせてください。
ボクでは自信なくて……】
【あ~そっか。ラピスリ来ねぇかなぁ】
【どうしたオニキス?】【うわあっ!】
【呼んだのでは?】【イキナリだろ!】
【瑠璃先生、ショウの中のカケルさんをシッカリ眠らせてください。
今はボクの相棒に出来ませんので】
【ふむ】光で包む。
【余程の事が起こらない限り10日程は目覚めないだろう】
【ありがとうございます!】
【なぁ、その格好……】ヒラヒラワンピ?
【呼ばれて急いで来ただけだっ】瞬移!
【そっか。オフォクス様に呼ばれて来たのか】
【瑠璃先生、やっぱり綺麗ですね♪】
【オレにとっちゃあコエェ姉貴だよ……】
【兄さんてば~♪】あはははっ♪
【ま、笑えりゃいいか♪】
ソラはリーロンがドラグーナの子だとは知っています。
瑠璃の内の神もドラグーナの子だとサイオンジから聞いています。
が、この場合はリーロンが親戚のお義姉さんに対して言っていると受けとめて笑っています。
リーロンは瑠璃の双子の妹な梅華とは養子として姉弟ですので。




