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不幸を齎す女



 全て運び終えた後、昼食は用意したからと引き留められ、折角なので頂いたソラとカケルだったが、長居は申し訳ないからと帰ろうとした。


「ソラはバイトよね? だったら私も行くわ。

 お姉ちゃんもショウの散歩しない?」


「そうね……ショウを連れて来るわ」



 玄関を出てすぐの所で姉妹を待っていると――


「ショウ! ダメッ!」


奏がドアを開けた時にソラを捉えたショウ(カケル)が大喜びでソラ(本人)カケル(ソラ分身)に飛びかかっていた。


〈もうっ! 浄化!!〉

同時進行で消して、押し倒されただけな状態にした。


〈ソラ! お兄が!〉〈あっ……消えたね……〉


(かける)君は……?」父。

(そら)君、ごめんなさい。大丈夫?」母。


「ボクは大丈夫です。

 カケルさんは……本当にカケルさんだったんです。つまりユーレイです。

 だから衝撃が大き過ぎて保てなかったんです」


「私がお願いしたの……まだ無理だって言われたのに……」


「奏……」


「お姉ちゃん、説明はソラに任せようよ。

 部屋に行こ。ショウも連れてくね。

 お姉ちゃん……ごめんなさい」

響は奏を支えて家の中へ。華音も一緒に。

ショウは心配そうに見上げながら追って入った。



「ボクはヨシさんの弟子です。

 ですから、その力を使いました。

 でも……一周忌前なので不安定だったんです。

 時が満ちていなかったんですよ。

 分かっていても他に方法がなかったんです。

 奏お姉さんの心が壊れないようにするには……」


『だからボク、行かなきゃ』「え? 理人?」


理人が理子の背で姿を成した。


『ボク、消えたくなくなったの。

 だから修行しに行くね。

 おかあさん、おばあちゃんトコ行くだけだから泣かないでね』


「おばあちゃんって……」


『ひぃおばあちゃん。ヨシおばあちゃん。

 ずっと一緒だったけど、ボク、消えてもいいと思ってたから修行してなかったんだ。

 霊体を保つ修行しなきゃ消えるの。

 さっきカケルおにーちゃんが消えたのと違ってホントに消えちゃうの。

 ……おかあさん。ボク……居てもいいよね?

 おかあさんトコ、また帰ってきていいよね?』


「行かないでよぉ」


『それはムリ。消えちゃうよ?

 ボク、消えたくないから行くの。

 行かなきゃなの。


 アキおじさん、カケルおにーちゃんも一緒に修行するから次は大丈夫だよ』

理子の背から下りて低い位置に浮かび、晃典を見上げた。

『カナデおねーちゃん、元気になるのイチバンでいいんだよね?』


「そう、だな……頼んでもいいかな?」


『うん♪』「理人ぉ、行かないでよぉ」


『おかあさん、ムリ言わないで。

 おかあさんがボクをユーレイにしたんでしょ。

 だからボク、消えてもいいと思ってたんだ。

 ヨシおばあちゃんに保ってもらってたんだ。

 ボクだって離れたくない。

 離れたくなかったんだ。

 生きてたかったんだよ』


「あ……ああっ――」


『おかあさんから霊力もらったら保てると思ってた。だから重なったの。

 でもダメ。このままじゃ消えちゃう。

 おかあさん、思いやり、覚えて。

 ワガママやめて。

 自分がしてもらいたいコト、他の人にもしてあげて。

 自分がしてほしくないコト、他の人にはしないで。

 それだけでトラブル減るから。

 みんなと仲良くなれるから。

 お仕事、転々なくなるから』


「そういう事だったのか……。

 理人は大人だな。

 しっかり修行して、理子を支えてくれるんだな?」


『うん。そのつもり。

 でも……おかあさんが思いやり覚えないと修行しても消えちゃうかも。

 おかあさんが迷惑かけるとボクの霊力どんどん吸い取られちゃう。

 おかあさんと繋がっちゃったから。

 だからダメって注意してたの。

 ボク、修行イッパイ頑張らなきゃ。

 アキおじさん、おかあさんをお願いね?

 迷惑かけるの止めてね?』


「ああ。約束するよ。

 困った奴だが、僕の妹だからな」


「アキおじさん ありがと♪

 でも……」泣き崩れている母を見詰める。


「本当に困った奴だな。

 もう行きなさい。

 あれを待っていると行けなくなる」


「うん。ヨシおばあちゃん!」


「修行する気になった?」「うん♪」

「じゃあ山籠りね」「ボク頑張る♪」

「ソラくん、それも預かるわね」

現れた寿(よし)理人(あやと)を連れ、空いている手をソラに向けて差し出した。


「はい。お師匠様、お願いします」

小さな水晶玉を渡した。


「それは?」


「理人の本体が入っているのよ。

 まだ自力では保てないの。

 ソラくんが霊力を足してくれていたのよ。

 そんな状態でも理子を助けたいからって。


 カケルくんも同じよ。

 まだ保てないのに、記憶も不十分なのに奏ちゃんを護りたいからって。

 カケルくんは消滅していないわ。

 また修行して復活するから、アキもそう覚えておいてね」


「復活って……?」生き返るのか?


「少なくとも私みたいにユーレイとして現れるわよ。

 結婚は二の次。そうよね?」


「そ、そうだ、な」


「アヤ。いい加減、顔を上げなさい。

 行ってらっしゃいくらい言えないの?」


「理人ぉ……」


『うん。いってきます。

 おかあさん、元気しててね』


また泣き崩れた。


「もうっ、困った子ね。

 理人、行きましょ」『は~い♪』

寿と理人は笑顔で消えた。



 響だけが家から出て来た。


「奏は?」


「ショウと話してるよ」「はあっ!?」


「壊れたとか思わないでね。

 理人クンの本体 見たんでしょ?

 カケルさんの本体はショウの中なの。

 だから話してるのよ。


 理子叔母さん。

 安易に理人クンの命を奪ったこと、シッカリ反省してね。


 ソラ、もう行かないとでしょ?」


「うん。完全に遅刻」「急ぎましょ!」

「それでは失礼します!」一緒に走った。



「また迷惑を掛けてしまったのか……」


「あなた~、理子さ~ん。

 そろそろ入らないと冷えるわよ~?」

玄関ドアから顔を出している華音が呼んでいる。


「そうだな。これもご近所に迷惑だよな。

 大声で泣きたいのなら部屋に入ってくれ。

 こんな所で泣いていると理人君が消えてしまうぞ。

 父親を知っていても理子の所に来てくれた優しい理人君をまた死なせる気か?」


「そうね! それを聞かなきゃね!」ムクッ。

サッサと家に入った。



「理人、道は遠そうだぞ……」天を仰ぐ。


《うん。わかってる♪

 だからボク頑張るね♪》


「あ……」


苦笑を浮かべて晃典も家に入った。



―◦―



 ソラと響は稲荷堂でホッと息をついたところだった。


「お茶、今日は干菓子だから抹茶にするね」


「へぇ~、そういうのもあるんだ♪」


「うん」茶道具を準備中。


「ソラってホントに七変化? 分身の術も♪

 それに演技力もスゴいね♪」


「もう言わないでよ」真っ赤。


「私、理子叔母さん苦手だったんだ。

 大嫌いだった。

 我が儘で言いたい放題で、私とお姉ちゃんも傷つけられたけど、颯人(はやと)叔父さんが可哀想だった。

 でも……ソラが少し変えてくれたと思う。

 これから変われるのかもって思えるの。

 ありがとソラ」


「まだまだ頑張りたかったんだけど、お兄を保てなかったから修行に行かせてしまってゴメンね」


「ううん。いいタイミングだったと思う。

 あの水晶って、想いの欠片が入ってるの?」


「ただの水晶玉だよ。

 想いの欠片は(もろ)くて借りられなかったんだ。

 でも理人クンの想いは話したよ」


「生きてたかったんだよ、って言葉?」


「うん。拾えたのは それだけだったんだ。

 姿と声は確かめられたけどね」


「お父さんは?」


「響も知りたいの?」


「もしも叔父さんだったら一緒に居られるかも、って思ったの」


「って、それじゃあ……」


「うん。トシ兄と小夜子さんと同じ。

 小夜子さんので調べてて見つけたの。

 でも同姓同名かもって……颯人叔父さんだなんて思いたくなくて……」


館端(たちばな) 颯人(はやと)なら特別保魂されている。

 名を貰った子も一緒に保魂しよう。

 館端 理人として。

 確かに親子だから』


「エィム様、粗茶ですが」コトッ。


『それなら身体を成そうかな』姿を見せた。


「私服って、そんな普通なの?」


「この国の人の服でないと違和感しかない。

 客が来たら困るだろ」

響の隣の椅子は空けて、その隣に腰掛けた。


「そんな間 空けなくても~」手招き。


「敵対――」「私の結界♪」「――そうか」

席を詰めた。


「うん。いい味だ。

 紗桜 理子の今後次第では、彼の世で今度こそ家族と成れるだろう」


「今のままだと?」


「救いようが無い。

 自分勝手な理由で夫を不幸にし、子の命を絶った。

 嘘を重ねて再婚しようとし、相手の男の人生をも狂わせた。

 加えて、僕の協力者達に迷惑を掛けている。

 ま、最後のは審判の天秤には乗らないけど、僕の救う気が失せるのに十分だろ?」


「確かにね~」響は苦笑。

「その、人生を狂わされた男性って……?」

向かい合っているソラは身を乗り出した。


「助けようとでも?」


「出来るのなら」


「そう。それなら情報だけは教えるよ。

 タイミング的にも――ま、伝えればいいよね」

ソラと手を繋いだ。


「ありがとうございます」


「それじゃあ僕は これで。ご馳走さま」

茶碗と皿を浄化して姿を消した。



「干菓子って、こんなに美味しかったのね~♪

 なんだかもちもち? しっとり?

 あんこも美味し~い♪」


「特別なんだよ。黒瑯お兄さんのお菓子って」


「うん♪ ちゃんと覚えるね♪」







理子の件、まだ続きます。



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