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ユーレイ七変化



 居間の兄妹喧嘩は口だけに留まらず、手が出そうになっていたので晃典(あきふみ)をソラが、理子(あやこ)を響が羽交(はが)い締めにしている状態だった。


分身に重なって入れ替わったソラは晃典の前に回って椅子に押し戻して座らせた。

「ありがとうございます。

 でも落ち着いてください。

 ボクなら何を言われても大丈夫ですから」


(そら)君……大人なんだな……」


「叔母さん、ソラは ああ言ってくれてるけど、そんなに邪魔してソラを侮辱するんだったら私はカケオチでも何でもする覚悟だからね。

 だいたい叔母さんに言われなくても、そんなことくらい、お父さんだって とっくに知ってるし、破局なんて有り得ないんだから。

 大学院だって外国に行っても私達は不自由しないんだからね。


 お姉ちゃんを先になんて、もう諦めてよ。

 前を向こうとしてる お姉ちゃんを虐めないでよ」


「響ちゃん……」

力が抜けたので響も理子を座らせた。



「ごめんなさいね。

 響ちゃん、翔君」


「いえ、確かにボクは大学を出ていませんし、両親が居ないのも単なる事実です」


「理子叔母さん、私が会わせなかったからって(そら)君に酷いことを言わないで」

戸口に姿を見せた奏が理子を見据えながら居間に入った。

「電話したから、少し待ってもらえる?」


「奏、本当に……?」心配溢れる父。


「まだ、お付き合いもOKしていないの。

 でも響と(そら)君にまで迷惑を掛けてしまうから……」


「お姉ちゃん、私達はいいから無理しないで」


「理子、今夜は泊めてやるが、もう来るな。

 娘達の こんな辛そうな顔は二度と見たくないからな」


「兄さんてば、私が今まで何度 釣書を――」

「それが迷惑だと何度言った!!


 奏、無理をしなくていい。

 ゆっくりでいい。

 もう結婚しなくてもいい。

 だから――」ピンポーン♪


「来たみたい」

視線を落としたまま玄関に向かった。



 そして――


「どうぞ入ってください」


「えっ?」「あ♪」〈ユーレイ七変化(へんげ)ね♪〉


〈茶化さないで!〉

「はじめまして!

 優生(ゆうき) (かける)と申します!」

スーツ姿の青年がピシッと深く礼!


ソラは知らずにカケルらしくを想像して挨拶したのだが、紗桜家にとってはデジャブそのものだった。


(かける)、君……?」

「あらあら、とにかく先に夕食にしましょうね♪」


 ずっと台所に居た華音(かのん)が両手に大皿料理を持って来たので、ソラ(分身)と響がテーブルの上を片付けて綺麗にした。

「お姉ちゃん、私達はコタツに行かない?」


「そうね」


理子と離れたい一心な響がサッサと自分達の食器を運んだ。


「ソラとカケルさんも、こっちね♪」


「ありがと」「はい!」ソラも大変だ。



 食事中、炬燵(こたつ)組は理子を見ないようにしていた。

響とソラは和ませようと努めて話している(ふう)で、奏とカケルは ほぼ無言で距離感を演出しつつ。



 緊張感が漂いまくりな夕食が終わった。

華音と一緒に食器を片付けた後、響は炬燵に戻ったが、奏は父の近くで足を止めた。

「お父さん、お母さん。

 事情を説明したいから部屋に行くわね。

 響と(そら)君も一緒にお願いしていい?」


「ああ、それがいい」


「理子叔母さんも気が済んだ?」

視線は合わさず落としたまま。


「それで結婚は――」「理子!」


「奏、もう行きなさいな。

 お父さんと私に説明するのも、ちゃんと紹介するのも、まだまだ待ちますからね。

 奏が納得できる形で、ゆっくり進めなさいな」


「ありがとう、お母さん」

消え入りそうな(はかな)さを漂わせて居間を出た。


「ソラ、行きましょ。カケルさんも」

炬燵組は奏を追って2階に逃げた。



―◦―



 奏が部屋に行くとは言ったが、奏の部屋にはショウ(カケル)が居るので、また惨事にならないように響の部屋に入った。


 疲労困憊状態で炬燵を囲んで座り込む。

ソラは分身を消して、姿を戻した。


「とりあえず、これでお見合い攻撃はなくなりそうね♪」

響が頑張って奏に笑顔を向けた。


「早く結婚しろ攻撃に変わりそうだけど……」


「お父さんが初めて あれだけ怒ったんだから、これからは護ってくれるわよ。

 あれ? ソラ、お兄は? 消したの?」


「消したよ。次は帰る時でいいよね?」

消したのはソラをしていた分身で、ソラ自身はカケルをしていたのだが。


「私は いいけど、お姉ちゃん……ビックリしないの?」


(そら)君はユーレイで、(かける)になれるのも見せてもらったわ♪」


「お姉ちゃん……元気だったの?」


「ええ♪ この先、(かける)と生きられるって(そら)君から教えてもらえたから♪」


「じゃあ さっきまでのは演技!?」


「ええ♪」


「お姉ちゃんて女優!?」



―◦―



「兄さん本当にいいの?

 落ち込んでる奏ちゃんを飛び越えて、響ちゃんたら自分だけサッサと幸せになろうとしてるのよ?」


「もう黙ってくれないか」


「それに相手は親なし学歴なしで就職もしてなかったんでしょ?

 そんな――」「黙れと何度も言わせるな!」


「理子さん、我が子のように心配してくださるのはありがたいけれど、奏も響も私達の子なの。


 離婚したことや、産めなかったことを繰り返し言われたら理子さんなら どう思います?

 離婚はご自身で決めたことですよね?

 お子さんが居ないのも最初は仕事優先だと産まなかったからですよね?


 (そら)君のご両親は事故で亡くなったそうなの。

 幼かった(そら)君は何も悪くないわ。

 生き辛くなって渡米したのも仕方のないことだと思うの。

 理子さんなら異国で、たった一人で生きられますか?

 (そら)君は頑張って生きてきたはずですよ」


「どこからどう見ても好青年だ。

 よくも折れも曲がりもせずに生きてきたと思うよ。

 響は、だから好きになったんだろう。


 二人は結婚するのは卒業してからと決めていたんだ。

 早めたのは僕だ。

 友達すらも作れなかった響が、こんな自分でも幸せになれるのだから希望を捨てないでと奏に見せたいからと(そら)君を連れて来たんだ。

 それなら東京でも一緒に暮らせばいいと僕が結婚を早めたんだ」


「そんなの初耳なんだけど?

 知らなかっただけなのに私が悪者みたいに。

 そんなに責めなくてもいいじゃない。

 離婚だって、したくてしたんじゃないし、再婚できると思ってたんだもん。

 華音さんに傷つけられちゃったわ」


「まだ解らないのか。

 その何倍も理子は(そら)君を傷つけたんだぞ」


「事実を言っただけじゃない!

 兄さんが知らなかったらと思って教えてあげたのに!」


「離婚も子が居ないのも事実だろ。

 事実であっても口にしてはならない事がある。

 華音は それを教えようとしただけだ。

 そんな事すらも解らずに――」

『そうね。情けないったら』

「――婆さん、遅いよ」


『私だって忙しいんだからぁ』

やっと姿を見せた。

「でもアキは私に慣れたのね♪」


「まぁ何度も会ったからな」ユーレイ婆さんに。


「アヤ、何とか言ったら?

 鯉みたいにパクパクしてないで♪」


「そりゃあ驚くだろうよ」「そうですね♪」


「害にしかならないのなら、もう()の世に連れて行こうかしら?」


「イヤよ!」


「あら、声が出たわね♪

 孫で末っ子だからって何でも甘えていいなんて思わないでね。

 もう大人なのだから」

話しながら理子に迫る。


「イヤぁ! 死にたくないの!

 おばあちゃんゴメンナサイ!

 謝るから来ないで!!」


「理解しての謝罪じゃないから許さない。

 家族も居ないのだから生きていても意味なんてないでしょ」

〈ソラくん、10歳くらいの姿(ユーレイ)で来てくれるかしら?〉〈はいっ〉


ぼんやりと男の子が浮かぶ。


「あれがボクちゃんのお母さんよ」


『おかあさん?』「ヒィイィイーッ!!」


「離婚後、お付き合いしていた人の子なのか、颯人(はやと)君の子なのか分からないからって中絶なんかして。

 それがバレてフラれたのよね?

 離婚はアヤがしたくてしたんじゃないの。

 浮気相手の方に走ったのも馬鹿だし、そんな理由で子を捨てるなんて馬鹿にも程があるから、やっぱり連れて行くわ。

 我が子と一緒に彼の世で暮らしなさい」


「ゴメンナサイごめんなさいゴメンナサイ!」


『おばあちゃん、ボク、おかあさん許していいよ。

 泣いてるから許してあげて?』


「そう? 優しいのね」


『おかあさん、ボク、お名前ほしいな。

 それだけでいいから』


「なっ、なまっ、、どうしよう~」

理人(あやと)とか、どうだ?」

「ソレ! あああああやっ――」


『うん♪ ボク、アヤトね♪

 ありがと、おかあさん。バイバイね』

寂しそうな笑顔で手を振る。


「アヤ、仏壇くらい用意しなさいよね。

 毎日 手を合わせて謝りなさい。

 私が ずっと連れているの、忘れないでね」

一緒に消えようと――「待って!」


「何?」


「それで、結局どっちの子だったの?」


「やっぱり彼の世に連れて行くわ」


「ぎゃああああっ!!」


〈悪気は無いんですね?〉

〈それだけに困った子なのよぉ〉

〈でも扱い方は分かりました♪〉

〈ソラくんに任せていいの?〉

〈お任せください♪〉


『おかあさん、おばあちゃんに謝って?』


「ゴメンナサイ!!」


「理人、お母さんを見張っていてもらえる?」


『うん♪』スイ~、背中にピトッ。

『おかあさん、これから一緒ね♪』


「ぎゃあああああーーーっ!!」ジタバタバタバタッ!


『ボク、もう離れないから♪』

背中に溶け込むように消えた。


理子は喚き散らしながら背中を払おうとバタバタしている。


「アヤ、あなたの子なのよ?

 何を騒いでいるのかしら?」


「だっ、だって幽霊!」


「幽霊にしたのはアヤでしょ。

 もう入っちゃったんだから責任持って面倒見なさいね」


《うん♪ おかあさんに見えなくても、ボクずっと一緒だよ♪》

理子の心に響かせた。


「改心しなさいな。

 思いやりを持ちなさい。

 そうすれば理人は成仏できるでしょうね」


理子は涙目で何度も何度も頷いている。


〈理解はしていないのでしょうけど……〉

〈それでも変われると思います〉

〈そう?〉

〈ヨシさんのお孫さんなんですから♪〉

〈ソラくんてばぁ~〉


これも響を護る為だと決意を固めるソラだった。







ユーレイ七変化なソラです。

分身と偽装を駆使してカケルとソラと理人くん(って、まだ三変化ですね)。

理子を改心させられるのか?

超難題だと思います。



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