理子叔母さん
昼に喫茶店から戻ったソラは、響と話しながら のんびりと店番をしていた。
「響って祓い屋でもないタクヤさんを普段でも片仮名呼びなんだね」
喫茶店のマスターから教えてもらった方法で紅茶を淹れてみた。
「どうぞ」
「ありがと♪ ん♪ すっごく美味しい♪
私、男の子の名前を覚える気が全く無かったのよね~」
「そっか。みんなイジメっ子だから……」
「うん。ちゃんと覚えたら無意識に呪ってしまいそうだから覚えなかったの。
ちゃんと覚えたのは お兄が初めて。
お姉ちゃんのカレシだからね。
次がソラ。それから彩桜クン。それだけ」
「バンドの皆さんは?」
「なんかね~、店長が察知したのかな~?
私のバイト初日に、いつかデビューするならって話になって、片仮名呼びに決まったのよ。
バイトはタクヤ君が誘ってくれたんだけど、中学ずっと一緒だったのに、改めて名前なんて聞けないでしょ? だから そのまま」
「これからも覚えないの?」
「う~ん……それも踏み出す、ってことに絡むわよね?
だったら、これからは覚えないとね。うん」
「手始めに彩桜のお兄さん達を覚えるのは?
皆さん響と同じでイジメられて育ったらしいから」
「そうね。少しずつ踏み込んで、乗り越える練習ね♪ うん♪
でも、もう白久さんと紅火さんと青生先生は覚えたわよ?」
結婚式場でお世話になったでしょ♪
テレビ直してくれたでしょ♪
きりゅう動物病院でしょ♪
「それなら あと半分だね♪
修行スイーツを作ってくれる黒瑯お兄さんと、自転車を貸してくれた藤慈お兄さん、ボクに歴史の本を貸してくれる金錦お兄さんの3人だけ。
響は気で判別できるから顔が同じでも大丈夫だよね♪」
「そっか。普通の人は顔で判別するのよね?
それは難問よね~♪」
「だから響は大丈夫♪」「うん♪」
「あ、奏お姉さんだ」「ショウのお散歩ね♪」
神眼で見ている。
ソラが戸を開けに行った。
「犬用クッキー、用意しますね♪」
「お姉ちゃん早いね~♪」
「響、助けてほしいの」
「もしかして理子叔母さん来てるとか?」
「そうなのよ。
お父さんもお母さんも居ないのに。
だから散歩しないと、って逃げて来たの」
「じゃあ一緒に散歩しながら作戦会議ね!」
「ごめんなさいね」
「いいって~」
ショウはまだ大喜びで食べている。
ソラは座敷に逃げていた。
「ソラ、バイト終わったら来てくれる?」
「うん。18時閉店だから、片付けたら すぐ行くよ」
響が店を出て数分。
ソラが浄化した食器を片付けていると彩桜が現れた。
「ソラ兄~♪」ハグ♪
「来てくれたんだ♪」
「うん♪ 今日の合同練習 終わったから~♪」
「早くない?」ソッチは朝だよね?
「今日は個人練習メインなの~♪
だから ちょっと来たの~♪
ランちゃんトコも行くの~♪」
「そっか。忙しいんだね。
あ、祐斗達は狐松先生からサーロンが いつ漢中国に帰るのかを聞きたかっただけみたい。
彩桜がついて行くんじゃないかとも心配してたけどね」
「そっか~。
それで、どぉするの?」
「心配してくれたの嬉しかったからギリギリまでサーロンするよ♪
響も前向きだから話せそうだし♪」
「ん♪ 祐斗達も夏休みとか会えるって分かったら安心すると思う~」
「うん。それも話すよ。
ボクもまだまだサーロンしてたいし」
〈ソラぁ、ダメだ~。叔母さん頑固~〉
「「あ……」」顔を見合わす。
「また お見合い叔母さん?」
「来てるらしいんだ。
ボクと響が結婚するって知ってヒートアップ」
「奏お姉さんを先に結婚させたい?」
「たぶんね」
「奏お姉さんにカレシ居たら?」
「どうなるだろうね……。
そういう話にすればいいって?」
「だから夏まで待ってって」
「そうか。お兄 復活までの時間稼ぎだね?」
「うんうん。だからね――」
そんな必要は無いが耳に寄ってコショコショ。
「――ね♪」
「うん。ボクなら出来るよね。
出たトコ勝負だけど、様子を見ながら やってみるよ」
「一周忌までは何も進めたくないから、ってコトにして、それから動き始めるとしたら夏まで時間稼ぎ出来るよね?
順番に固執されたら~、響お姉ちゃんとソラ兄カケオチするとか強気宣言しちゃう?」
「そのくらいしないと無理なのかもね。
様子見ながら考えるよ。
いっぱいアイデアありがと♪」
「えへへ~♪
好き勝手 言っちゃったけど、頑張ってね♪
それじゃ、また来るねっ♪」
ニッコニコで紗の所へ行った。
―◦―
「いらっしゃ――あ、ヨシさん、スイーツですか?」
「ソラくんにお願いがあって来たの。
想いの欠片を借りてほしいのよ」
「そうですか。
エィム様に相談しますので情報をください。
それと店番もお願いします」
「情報ね」手を繋いだ。「これでいいかしら?」
「はい。でもヨシさんも会いたいですよね?」
「それは……そうだけど……」
「誰か頼め――あ、いらっしゃいま――あ♪」
「ツカサちゃん♪ 店番お願い!」
「え? いいけど……」
「紅茶とチーズケーキでいいですか?
それならすぐに用意できますので」
「え、ええ……」
―◦―
そんなこんなあって寿と司が居座り、すっかり暗くなってからソラが紗桜家を訪れると、ショウは部屋に閉じ籠った奏と一緒に居るらしかった。
「ソラ♪ 入って♪」「お邪魔します」
「あら~、こんばんは♪
もう式場も予約したんですって?」
「おい、イキナリな挨拶だな」
晃典がムッとしている。
「3月だなんて、何をそんなに急いでるの?
もしかして、おめでた?」
「いい加減にしろ!
東京で一緒に暮らす為だと話しただろ!
奏を追い詰めて、響には嫌味か!
こっちの都合も考えずに居座って!
もう帰ってくれ!」
「兄さん、真冬の夜に追い出すの?」
「それだけの事を言っただろ!
二度と来るな!!」
「ね、叔母さん。
もしもお姉ちゃんに新しいカレシが居たら?」
兄妹喧嘩の間に響とソラは打ち合わせていた。
「居るのなら早く結婚させなきゃね~♪」
「でも お姉ちゃんはカケルさんの一周忌までは動きたくないの。
踏み出すのは、それからにしたいのよ。
ゆっくり進みたいの。
だから今まで何も言わなかったの。
解ってもらえない?」
「どうしても響ちゃんの方が先になるの?」
「そうなるよ。どうしてもね。
私達、もう住む所も決まってるんだから。
お姉ちゃん待ってたら同棲になるよ?
順番大事な叔母さんとしては、それって許せるの?」
「それは……今からでも変えられないの?」
「それぞれが住むのなら、差額は叔母さんが払ってくれる?
東京だから高いよ?」
「どのくらいなの?」恐る恐る。
「もう院生の寮募集は締め切られたから、普通のアパートとかになるのよね~。
二人別々だと月20万は軽く超えるよ。
今 押さえてるのは家族用の学生寮だから戸建てで5万なの。
毎月15万以上、20万超えるかもだけど、お願いしていい?」
「そんな……」
「出せないのなら口出しもするな。
こっちは考えて動いているんだからな」
「もうっ、兄さんたら!」
「翔君は響との生活の為に働いて貯金しているんだ。
住む所も調べて押さえてくれたし、向こうでもバイトして暮らすと言ってくれている。
それをブチ壊すのなら、それなりの覚悟でいてもらわないと困る」
「そんなぁ」
―◦―
その頃、ソラ本体は奏と話していた。
つまり居間に居るソラは分身だ。
「響も叔母さんの性格を考えると、間違いなく会わせろと言う筈だと。
ですから お兄の代わりをさせてください」
「でも、叔母さんも翔君を知って――ショウ!」
「う……」 ハッハッハッハッ♪
それまで寝ていたショウがムクッと起きると、ソラを見つけて飛び掛かった。
ワフワフワフ♪
「ったく~」「翔君、早くお風呂に!」
「いいです。浄化」「え……?」
ソラの服から滴っていた水滴も、ショウが作った水溜まりも、すっかり消えてしまった。
「お兄は寝てて!」爆眠!
ポテッと伏せて眠った。
「翔君……何をしたの?」
「ボクは祓い屋ですから。それに――」
立ち上がって具現化を解き、浮かんだ。
「――ボク、ユーレイなんです」
「え……」
「ビックリさせて ごめんなさい。具現化」
着地して身体を成した。
「お兄は今は犬です。
だからお姉さんより先にユーレイになります。
そうなったらボクのように身体を具現化して、人として生きられるんです。
ボクが生きられるって証明します。
その時間稼ぎを一緒にお願いします」
「ええ……ありがとう翔君。
翔と一緒に生きるために、私、頑張るわ」
「もう1つ驚かせてしまうかもですが……」
「今なら何を見ても大丈夫よ。
翔と生きるためなんだから」
「いずれは お兄が現れますから、これから見せるカレシも お兄でないと矛盾します。ですから……偽装」
「え……翔……」
「姿だけです。
ボクも頑張って演技しますので。
居間では大騒ぎです。
気持ちが落ち着いたら下に来て、電話したから待ってとお願いします」
「わかったわ」
「では――」ぺこりとして消えた。
「頑張らないと……うん!」
とうとうソラは奏にユーレイだと話しました。
奏の方は常識外を見ても弱禍が膨らまないようです。
カケルとの未来が見えた嬉しさも大きいし、夏に常識外ワンクッションありましたからね。
それにしても厄介なお見合いオバサンです。
寿がソラに頼んだ何かも理子絡みらしいです。




