小さな父様
翌朝、キツネの社では――
「ん~~♪ い~っぱい寝ちゃった♪
浄化っ♪ キラキラでっきた~♪
お稲荷様♪ おはよ~ございます♪
今日も宜しくお願い致します!」
元気に目覚めた彩桜が自分を浄化して稲荷にペコリと頭を下げた。
「浄化は軽く出来るのだな。
では、其の力を破邪へと強めようぞ」
「はいっ♪」
「彩桜様、先に朝食は如何ですか?」
狐儀も人姿で運んで来た。
「狐儀師匠だ~♪ ありがとございま~す♪
いっただっきま~す♪」ぱくぱくっ♪
「ゆっくり食べればよい」
「ん♪ んんん~んん♪」〈美味しいです♪〉
稲荷と狐儀が笑っていると入口扉が開いた。
「オフォクス様、お呼びで――うわっ!」
「ん!♪」ごっくん!「龍神様だ~!♪」
「オニキス、入れ」
逃げようとしたオニキスの尾はキツネに掴まれていた。
「うっ……」〈逃げたいんですけど~〉
「真っ黒ツヤツヤでカッコイイ~♪」
〈昨夜、話した通りなのだが――〉
「彩桜は龍神の欠片持ちだ。指導せよ」
「オレがっ!? ですかっ!?」
「あ♪ なんか黒瑯兄みたいな龍神様だ~♪
宜しくお願い致しますっ!♪」
〈オレが父様の指導なんて出来るハズ――〉
〈今は人の子供、しかも1/7だけだ。
教え育てて貰った恩を返すと思って指導せよ。
儂は出掛けねばならぬからな〉
「此奴は未だ若い。
故に緊張しておるが、確かに龍神だからな。
彩桜の力を引き出すには最適だ。
儂は出掛ける故、基礎から頼んだぞ」
〈浄化から破邪へと上げよ〉
「ぅ……はい」睨まれて渋々。
「狐儀は力丸の方だったな?」「はい」
「と、言う事だ。ま、気張らずともよい」
オニキスの尾をグイと引き、肩をポンとして笑って消えた。
「ごちそ~さまでしたっ♪」
「片付けますね。
彩桜様、頑張ってくださいね」「うんっ♪」
〈それではオニキス、頑張って〉ふふっ♪
〈助けてくれよなぁ〉
〈私にも弟子が居りますので〉
〈力丸って神なのか?〉
〈いずれ会わせますよ〉笑って消えた。
うっわーっ! スッゲーわくわくな目!
父様って、こんな目するんだ……
あ、指導なぁ……しねぇとなぁ。
「と、とりあえず、乗るか?」己が背を指す。
「うんっ♪」
爪で襟首を引っ掛けてポイッ。
身軽な彩桜はストッと上手く座った。
「一気に上行くぞっ」急上昇!
「わあっ♪」
「輝天包囲!」「すっご~い♪」
オニキスは習ったばかりの防護壁で身を包み、人からも神からも見えなくした。
外からは見えないというだけで、内からは全て見えているし、風も感じる。
最初こそ眼下の景色を楽しんでいた彩桜だったが、やがて目を閉じ、何かを確かめるように風だけを受けていた。
「なんか……懐かしい……のかな?」
「え?」目覚めた……のか?
「俺の中の龍神様が、そう感じてるのかな?
とっても懐かしくて……飛びたいんだ……」
「そんなら修行しねぇとな。
彩桜なら飛べるよ」
「飛べるんだ……龍になれるの?」
「ああ。
その力を極めれば龍になって飛べるんだ」
「頑張ります! お願いします!」
「解った」父様だと思うなっ、オレ!
オニキスは泣きそうになってしまったがグッと堪えて降下した。
―・―*―・―
瑠璃と紗が手を繋ぎ、ショウを連れて歩いていると――
「お♪ ショウは朝も散歩してたのか♪」
――声がし、振り返ると利幸が寄って来た。
「オニーサンおはよ♪」
「紗チャン、ゴキゲンだなっ♪」
「おとまりしたの♪」
「瑠璃ん家にか?」「うんっ♪」
「だから帰宅途上だ」
「そっかぁ♪ オニーサン家にも来るか?」
「おとまり?」
「トーゼンだろ♪」「いくっ♪」
「紗と約束する前に澪の許しを得ろ」
「おっと、だよなっ。
瑠璃は午後、澪さんトコ行くか?」
「約束はしておらぬぞ?」
「俺だけっつーのもナンだから来てくれよ。
なっ?」「ふむ……」
「いまからダメ?」
「そんなにオニーサン家に来たいのかぁ♪」
「お泊まりが楽しいだけだ。
利幸の家でなくても構わぬ」
「ったく~。言葉でサクッと斬るなよなぁ。
これから面接なんだよ。だから午後な」
「また転職するのか?」
「おう♪ 勝利がもっといいトコ紹介してくれたんだ♪
公園で待ち合わせだから、もう行くぞっ♪」
―◦―
紗を送り届け、動物病院に向かう途中、瑠璃は小夜子が住むアパートの一室を見上げた。
また留守か……
会わねば治癒すらも発動出来ぬ……。
溜め息と共に、先日有って話した時の事を思い出した。
―・―・―*―・―*―・―・―
利幸に頼まれ、小夜子に会った瑠璃は悩んだ末、病名を告げた。
「やっぱりね……だろうと思ったのよね」
「そう猶予は無いが、今ならば治療可能だ。
早急に診察を受けろ」
「……私ね、大きな借金があるのよ。
癌の治療って……かかるでしょ?
だから……ムリよ」
「金の心配なんぞしている場合か。
懸念がそれだけならば私に任せろ」
「そんな……簡単に支払える額じゃないの。
だから私は家を出たのよ。
あ……そっか。迷惑かけないように手を打たなきゃ。
子供に借金残せないわよね……」
「だから私が払うと言っているだろう」
「ムリだってば~。
見たら払うなんて言えなくなるわよぉ」
「ならば見せろ」
「もうっ、瑠璃ってば~」立ち上がる。
「言葉失っても知らないわよ?」
「これよ」
箪笥から出して来た紙をテーブルに広げた。
「ふむ。完済しよう」
「そんな簡単にぃ。
こんな大きな借りなんてイヤよ」
「私は命を救うのが仕事だ。
これで友の命が救えるのならば安いものだ。
完済する。だから病院に行け」
「だって、この額よ?
それに瑠璃とは高校の頃、ほとんど話してもないのに……」
「澪の友は私の友だ」
「ありがと。でも……それなら尚更よ。
友達に払ってもらうなんて――」
「そうまで言うのならば、私から借りたという形にすればよい。
それならば文句は無かろう?」
「ホント……潔くてカッコイイわねっ♪
少し……考えさせてよ……お願い」
―・―・―*―・―*―・―・―
あれから連絡も取れず、留守ばかり……
金の工面でもしているのか――
〈ラピスリ様――〉
神眼で探ろうとした時、呼び止められた。
〈今日はフェネギ様として、ですか?〉
〈あ……そうですね。
オニキスが来ております。
ご一緒に神世の話等、如何でしょうか?
今宵にでも〉
〈解りました。では夜に〉
―・―*―・―
「ん。だいぶ気が研ぎ澄んできたな。
そんじゃあ、浄化を破邪に変える。
破邪は攻撃型の浄化とも言えるんだ。
禍に対する唯一許されてる武器だな」
「ワザワイ?」
「人の負の感情が生み出すのが怨霊。
神の負の感情が生み出すのが禍だ」
「じゃあ怨霊にも武器になるんだねっ♪」
「そうだ。怨霊に対する最強の武器だな」
「祓い屋になりたいから頑張る~♪」
ソレって……父様が戦うってコトかっ!?
「あ……まただぁ。
俺が戦うって、そんなに変なのぉ?
み~んな そんな お顔するぅ」
「いや、これはだな……彩桜の龍神様は、ものすっごく優しくてな、戦うとか大キライなんだよ。
だから欠片が見えてるヤツは、どーしてもビックリするんだよな」
「ん~とね、なんとな~く解るけどぉ……。
護りたいから戦うのも必要、ってダメ?
俺もね、できれば戦いたくなんかないの。
でも……みんなが笑って生きられるよぉにしたいから……俺が頑張るしかないって思っちゃったの」
「そっか……」やっぱ父様だ……♪
「だからね、今は戦うだけどソレ越えたら、もっとずっと修行して強くなって、怨霊が――えっと神様の禍も、できないくらい楽しく生きられるよぉにしたいの」
うん。小さくても無自覚でも父様だなっ♪
オニキスは笑顔で頷いた。
「だなっ♪
よ~し! ビシバシいくからなっ♪」
「うんっ♪ お願いします!」
オニキス、実は父様大好きっ子です。
人の子にされてしまった尊敬する偉大な父。
そんな父を指導することになってしまったオニキスですが、悲しいだけでなく発見もありで、なんだか希望も湧いてきたようです。
お泊まりブームな紗は、利幸の家にも行くようですが……。
本編、覚えていらっしゃいますか?
小夜子の方は、病名を知っていながら何をしているのやらです。




