ベルリンの朝
翌朝のベルリン。
兄達がリビングで寛いでいると、早朝から出掛けていた彩桜とサーロンが戻った。
「瞬移で戻ったのかぁ?」
振り返った白久が苦笑。
「だってぇ鍵が見当たらなかったんだもん。
青生兄このコ、神様だよね?」
彩桜が差し出した掌には小さな小さな真っ白な子猫がグッタリ伸びていた。
青生が貰い、瑠璃も掌を翳す。
「確かに神だな」「魂が窮屈そうだね」
「生きられる?」
治癒を纏わせた指先で撫でる。
「必ず助ける」「部屋に行こう」立ち上がる。
「俺……」
「大丈夫だから散策を続けていてね」
「また探してくれないか?」
「そっか。うんっ」
サーロンと手を繋いで瞬移した。
――子猫を見つけた公園の木の枝から下りると、小柄な白猫が何かを探している風だった。
〈猫さん、どしたの?〉
少し遠くで伏せる。サーロンも。
〈人、なの?〉警戒。
〈人だけどぉ、話せるんだから信用してぇ〉
〈確かに話せてるわね。
でも……〉《獣神王様?》
〈やっぱり神様 入ってるんだ~♪
ドラグーナ様、起っきて~♪〉《ん?》
《獣神王様っ!》
〈俺は引き受けていないからね〉
《やはり獣神王様ですね♪》
〈おふざけは そのくらいにしてくださいね。
グランディーヌ様〉
《あら、もうバレてしまったわ♪
お義父様も、お久しぶりでございます》
《あ、ああ。オフォクスを呼ぶから待て》
なんだかタジタジなガイアルフ。
《ええ♪》
〈待っている間に私の子を捜してくれない?〉
〈もしかして、真っ白ちっちゃいコ?〉
〈知ってるの!?〉
〈グッタリだったから兄貴が治癒してるの。
ドラグーナ様の治癒なのぉ〉
《それなら安心よ、ブランカ》
〈そう? 信じていいの?〉
《信じていいわよ♪》
【父様、何事――桔梗!?】《あら、あなた♪》
【猫に包まれておるのか?】
《そうなのよ。しかも半分だけなの。
でも尾があるからブランカも鍛えて、ブランカの子供達にも協力してもらおうとしていたのよ♪》
〈魂キツキツでグッタリなってたから青生兄と瑠璃姉が治癒してるのぉ〉
【ふむ。子供達と言ったな?】
《全部で4匹よ。みんなグッタリなの。
私、込め過ぎてしまったのね……》
【全て助ける。預かってもよいのならばな】
〈お願いします!〉
《あなた♪ 私達の子にもしましょうね♪》
【ふむ。救うには必要であろうな。
皆、共に。ソラもな】【はい!】
青生と瑠璃の部屋でサーロンは浄化に専念し、他は全力治癒で子猫達の命を救った。
【では社に連れて行く。ソラも行くぞ】
【はい! お願いします!】
【また来てね~♪】【うん♪】
【自力で来られるよう、急ぎ鍛える】
【ん♪】【お願いします!】
猫達とサーロンを連れた稲荷はニヤリとして彩桜の頭をポンポン。
【見つけてくれて ありがとう】
そして瞬移した。
「彩桜、皆が待っているよ。行こう」
「まだ出発じゃないよね?」
「疲れた?」回復治癒で包む。
「ありがと♪ でも大丈夫♪」
「金錦兄さんから話があるんだよ」
「もしかして俺、兄貴達 待たせてた?」
「待っていないよ。
各々、好きに楽しんでいたからね。
でも、もう出掛ける程の時間も無いし、ローマでも忙しいだろうから、どうかと打診されたんだよ」
「青生兄、何してたの?」
「瑠璃とビリヤードをしていたよ」
「どっち勝ったの?」
「勝敗が着くと思う?」
「だよね~♪ 行こっ♪」
リビングには皆が揃っていた。
「では馬頭雑技団の今後について意見を貰いたい。
先ずはクリスマスチャリティーコンサートの際の騒ぎに起因する知事と市長からの提案、キリュウ事務所と両親の反応について報告する。
知事と市長からは、これだけ騒がれるのならばご当地アイドルとして県庁または市庁に所属して欲しいと求められた。
そこで事務所に問い合わせると、顔を隠しているのだからキリュウ兄弟とは別としてなら活動しても構わないとの事だった」
「って、事務所的にはクラシックしか認めねぇって事か?」
黒瑯が不満そうに手を頭の後ろで組んだ。
「事務所としてはクラシック界ならば動き易く、勝手を弁えているという強みも有るのは確かではあろうが、私達の活動を束縛したくないという意味だと私は捉えている。
有難い事に高く評価して頂いている為に、キリュウ兄弟として活動すれば多額の金銭が動く現状となっているのでな」
「そっか。つまりボランティアとかは顔を隠せば自由にやっていいんだな?」
「黙認して貰えるのだろうな」
「ですが、そうなると雑技団は無所属。
そこが新たな問題で、県か市に属するか否かというところに戻るんですね?」
「青生の言う通りだ。
活動を続けるのならば個人事務所を立ち上げるか、何処かに所属すべきだろう」
「そうしないと また騒ぎも起こるでしょうし取材やらも賑やかになるでしょうね」
「その通りだ」
「青生、その顔、ナンか考えてるんだろ?」
「所属するのなら個人事務所で、表向きは山南牧場とか慈善団体とかの専属がいいかな? くらいですよ。
公共になってしまうと、キリュウ兄弟と各々の仕事に加えてのイベント活動になるでしょう?
それだとスケジュール的に厳しくなるのは目に見えていますからね」
「ねぇ、父ちゃんと母ちゃんは?
反対してないよね?」
「していない。
自由に楽しめばいいと言ってくれた」
「ん♪」
「なぁ、昨日みたいなヤツは?
クラシックだけじゃなく演奏しただろ?」
「昨夜のコンサートはキリュウ兄弟として出演し、報酬は既に事務所に支払われている」
「ホテルとかジェットとかは?
貰い過ぎじゃねぇのか?」
「その辺りは事務所が秋小路様、オッテンバッハ様と話し合い、決めた事だ。
それが今の私達の正当報酬なのだろう」
「オレ達、重た~いヤツになってねぇか?」
「なっている。
だからこそ音楽と真剣に向き合い、更なる修行を積まねばならない」
弟達、真剣な眼差しを意気込みで煌めかせて頷く。
「背負った名に恥じぬよう、世の評価を裏切らぬよう、高みを目指し続けよう」
「「「「「「はい!」」」」」」
「で、個人事務所で決定なんだよな?」
思ったら即 行動な黒瑯にしては珍しく再確認。
「私達は常識外だ。それが最善だと私も思う」
「事務所、誰が運営するんだ?」
「俺達兄弟と狐儀だ♪」
やっと白久が口を開いた。
「狐儀って、忙しいんじゃねぇのか?」
白儀やら狐松やら狐松やら……。
「白儀と狐松親父として随分と俺を玩ってくれたからな。
しかも教頭を引退しても消しもせずに居候してるから、いいポジションだと思ってマネージャー頼んどいたんだ♪
ついでに事務所の社長もやってもらおうぜ♪
マネージャーの延長線上って事でなっ♪」
「白久君」「ナンで白儀!?」
「いいでしょう。白儀として引き受けますよ」
溜め息と共に姿を狐儀に戻した。
「ですが……」
「ナンだよぉ」
「赤子の頃からお世話してきたのですからね。
偉そうな口を叩くのは許しませんよ」
ツカツカツカ――
「わわわわっ」逃げっ!「来るなっ!」
白久も速いが狐儀も速い。
あっという間に廊下の向こうに見えなくなった。
「では、そろそろ出るとしよう」
「「「「「はい」♪」」」」
『悪かったって! 許してくれーーーっ!』
「狐儀師匠が連れて来てくれるよねっ♪」
エレベーターに乗った。
―・―*―・―
邦和は夕方。
「おや? 坊っちゃん、どうかしたのですか?」
珍しく定時退社した結解は会社前に佇んでいる琢矢を見つけた。
「あの、えっと……」
「次の参考書ですか? 机にありますよ」
普段よりは柔らかく話そうと、また頑張っている。
「それは年明けでいいです。
あの……少し話を、いいですか?」
「構いませんよ。何処に行きますか?」
「えっと、コーヒーショップとか……」
「混んでいますよ? 構いませんか?」
「混んで、、ますよね……」
「その裏手に小さな喫茶店があります」
「じゃあ、そこで」
「行きましょう。
仕事方面の話ですか? それとも?」
歩き始めた。
「これからを考えたくて……。
常務の話、過去とか知りたくて……」
「自分も そんなに多くは知りませんよ?」
「知ってるだけで、、いいです」
「白久サンには聞かないのですか?」
「それは……怖くて……」
「そうですか。此処ですよ」
洒落た扉を開けるとカランカランと音がした。
なんだか空気がセピア色をしていると感じた薄暗いが暖かい照明の店内を進み、最奥の席へ。
「話は注文してからにしましょう」
老マスターが水を運んで来ているのが見えて、琢矢は慌ててメニューを開いた。
「いらっしゃい。いつもの?」
「ええ。ブレンドのホットをお願いします」
「え、えっと、、カフェオレ」
「かしこまりました」
オフォクスの妻グランディーヌ登場です。
オフォクスは桔梗と呼んでいましたが。
どうやらガイアルフは苦手みたいですよね。
邦和では坊っちゃんが結解さんを待ち伏せ。
気に入っちゃったんですかね。
地星では、芸術には多額の報酬というのが常識になっています。
クラシック音楽も芸術なので、『クラシック界の超新星キリュウ兄弟』は既に報酬ランキング上位に入っているんです。




