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初単独ライブは杮落とし前の機材テスト



 穏やかなクラシック曲を弦楽と管弦楽で2曲続けると、子供達は すっかり夢の中で、大人達も多くが睡魔と闘っている状態になっていた。

 輝竜兄弟としてはクラシックは安らぐものなので問題ないのだが、せっかく来てくれたのだから楽しかったと思ってもらいたい方が強かった。


〈やっぱクラシック愛好家よりも他ジャンルの音楽好きが来てるみたいだな〉


〈そうですね。音楽は好きだから誰が何をするとは聞いていないけれど来てみたという感じですね〉


〈そんじゃあセトリ通り、やってやろーぜ♪〉


 兄弟からの同意の声を受けて白久がマイクを握った。

『本コンサートは、このホールの機材テストの為のものですので、様々なジャンルの曲を用意しています。

 あくまで機材テストですので爆音にはせず、お子様にも安心安全な範囲の音量に留めさせて頂きます。

 どうかご理解の上、お楽しみください』

と話している間に、他の兄弟は後ろの(カーテン)を開けて要塞3(パーカッション・)(ドラム)セット(・シンセサイザー)が載った可動ステージを前に出していた。


 ポップな音が流れ、照明はカラフルになる。

子供達は目を覚ましたらしく、暗い客席に小さな頭がピョコピョコと生えてリズムに合わせて揺れる。


〈あれれ?〉〈どーした彩桜?〉〈後ろの上!〉

〈客席のかぁ?〉〈俺達の後ろ!〉〈アレかぁ〉


兄達が神眼を向けると、上からスクリーンが下りてきていて、要塞セットに下端が少し被るくらいの高さで止まった。


〈次がアニメのだからキャラクターが登場するのかな?〉

〈そっか~♪〉


 青生が予想した通りで、耳とシッポが付いた、必要な時だけ手足や翼が生えるボールのようなキャラ達が、ポップ曲が終わると降って弾んだ。が――

〈ん? 曲の邪魔にならないようにかぁ?〉

〈オトナの事情かもな〉〈あ~、かもなぁ〉

――どうやら無音の映像らしかった。


『みんな~♪ 一緒に歌ってくれるかなぁ?』

弾みながら前に出た主題歌のボーカルでもあるキャラの声をパーカッション要塞に隠れている彩桜が真似た。


『は~い♪』と客席から可愛い声が返ってくる。


 イントロで子供達は立ち上がり、キャラ達と同じように弾み始める。

歌う予定ではなかったが、彩桜がキャラ声で歌い始めると、すっかり目覚めて元気になった子供達も歌い始めた。


〈コーラスあったよな? どーする?〉

〈ファルセットで?〉〈しかねぇよな〉


戸惑いつつ兄達が重ねると、子供達よりも大人達が喜んでいた。


〈どーなってるんだ? 何か変なのか?〉

〈なんだか純粋に楽しんでいませんか?〉

〈そう、感じるな。皆、臆せず続けよう〉

〈藤慈、高音域、頑張ってくれるかぁ?〉

〈はい♪ 彩桜の声、そっくりですね♪〉

〈さっき見ただけなのにな♪〉〈流石だ〉

〈音程キープ大変なのぉ。ガンバルのぉ〉

〈んな感じなんか全然だ♪ ノッてけ♪〉

〈だよな♪ 肩の力抜いて気楽になっ♪〉

〈神眼で客席を見てごらん〉〈わあっ♪〉


子供達の笑顔で元気になった彩桜は楽しくなって歌いきった。


『元気な歌声ありがと~♪

 それじゃ、みんな~♪ まったね~っ♪』


キャラ達は大きく弾んで上に消えた。


 照明が少し暗くなって曲調の転換を示す。

大人達の期待が膨らむのを感じた兄弟は嬉しさを音に込めて発した。

 大人も子供も知っているロボットアニメの主題歌は邦和とドイツでは異なっているが、カッコイイのは共通していた。

スクリーンにはオープニングや戦闘シーンなどがランダムに流れている。

前曲は彩桜が可愛く頑張ったが、今度はハードロックなので兄達が声を張った。


〈けっこう立ち上がってるね~♪〉

〈嬉しいよなっ♪〉〈うんうん♪〉



―・―*―・―



「彩桜が……お兄さん達も、歌ってませんか?」

怨霊退治と死神捕獲した後の夜明けが近くなった公園で瞑想していたソラが、ふと感じ取った歌声に首を傾げた。


「だぁなぁ」《楽しそうに歌ってるぞ♪》

親子共鳴でフィアラグーナが拾っているらしい。


《フィアラグーナ、何を歌ってるんだ?》

ガイアルフにもフィアラグーナとの絆から微かに聞こえている。


《オフォクスに連れてってもらおうぜ♪》


《そうか♪ 呼んでやるよ♪》



―・―*―・―



 聞いて覚えたのはアニメのオープニングのまま。つまり邦和ならテレビサイズと呼ばれる短いものなので、どうしてもメドレーになってしまう。


〈次も彩桜がメインだけど大丈夫?〉

〈うんっ♪ 俺、ヒロインする~♪〉


 ハードロックの余韻が残る中、ステージ側も暗くなり、スクリーンに雷光が走って古城を浮かび上がらせる。

それだけで女の子達の歓声が上がった。


 蹄の音が迫り――

『それ以上は私が進ませない!

 悪魔達! 覚悟なさい!』

――クラシカルなピアノとバイオリンが闇夜を切り裂くように響き、ギターが重なり追う。

メタルな(ツー)バスとベースが雷鳴の轟を生む。


『光よ! 我が剣に力を!』

イントロの音量に負けないセリフが響くと、高らかなファンファーレと共にステージが明るくなり、ライトは青空を連想させる爽やかな色に。曲調も爽やかに変わる。

前半は可愛いヒロインが歌い、後半は転調して歌声も騎士に変身後の中性的なものに変わる。


〈彩桜って、やっぱり凄い……〉

この曲の最初に到着してホールの天井近くで聴いていたソラが呟いた。


〈ほえ? ソラ兄?

 あ、サイオンジさんとお稲荷様も来てるぅ〉

彩桜は間奏中。


〈見つかっただぁよ♪〉〈ごめんなさい!〉

〈楽しませてもらうだぁよ♪〉


〈うんっ♪〉

サビの繰り返しに入った。


 変身後は男性なのか?――と思わせるシーンも多いアニメなので、『騎士様』に恋する女の子は作中だけでなく多い。

その謎めいた中性的な声をドイツ声優も上手く表現していて、真似る彩桜も上手く再現している。

彩桜の場合は前半のヒロイン部分の方が凄いのだが。


 そして曲が終わり、アニメメドレーは終わったと示すかのようにスクリーンが上がっていった。



 次は邦和の幼児向け番組でよく流れる『世界一周みんなで踊ろう』という様々な民族楽器が登場する曲で、お得意の『とっかえひっかえ』をしようと考えていた。

不安なのは邦和でしか流れていない曲だという事だったが、音楽は世界共通言語だと信じて視線と笑みを交わした。


 通しでリズムを刻むドラムには白久が着いた。

他6人が前に並んで正座する。

出だし4小節だけは琴のみだからだ。


 和の音色に感嘆の溜め息が混ざる。

が、サッと立ち上がると琴を持って舞台袖へ。

その間をドラムソロが繋ぐ。

ステージに戻った兄弟は漢楽器を手にしていた。


 独特の音色が若干アップテンポで流れる。

兄弟には見えていないが、ステージの上方に横長の電光掲示板が下りていて国名や地域名を表示していた。

『漢中国』が点滅して『次はインド』に変わる。


 前に並んでいる兄弟がクルリと後ろを向き、前に向き直ると楽器が変わっていた。

客席が響動(どよ)めく。

そして忍者だと歓声が湧く。

表示から『次は』が消えている。


〈ガイアルフ様、もしかして瞬移を使いましたか?〉


《使っていたな♪

 とんでもなく素早くなっ♪》


〈やっぱり♪〉


『次はアフリカ』

躍動的なリズムが響き、広大な大地と吹き抜ける乾いた風を表現する音色が野性的に乗る。


《ったく全力出す所がコレとは面白い奴らだなっ♪》

《だがまぁ音楽は神が好む所だからな♪》


〈出せる場所をようやく見つけたんだぁよ〉


〈エンタメなら大丈夫とか?〉


〈見てるモンにとっちゃあ手品と同じだぁ。

 常識の範疇で何かしらの仕掛けがあると信じて見るからよぉ、バレやしねぇってモンだぁよ〉


〈確かに そうですよね。

 あれ? あそこ……録画してませんか?〉


〈だぁなぁ。

 けどまぁ、大神様で ようやく見えるんなら問題なんかねぇよぉ〉


〈そうですね♪〉


話している間にワルツやらフラメンコやらがあって、今はカンツォーネだ。


『次はアメリカ』


〈アメリカ? あ、カントリー?〉


すぐに『メキシコ』と出る。


〈楽しそうですね♪〉

〈もっと南に行くかぁよ♪〉


その通りで『ブラジル』。


〈サンバカーニバルですね♪〉


右へ左へとステージ上をパレードを模して踊るように歩いてクルリ。


『アメリカ』


〈あれ? また? ハワイアンだ♪〉


 そして邦和に戻って祭囃子(まつりばやし)で締め括った。

幼児向けなので分かり易い有名なものを集めているが、とにかく楽しい曲だった。



 続いてはジャズとバラードで落ち着いた大人のコーナー。

それまでの演奏で、この謎の集団に観客は惹き込まれているので、そう言えば最初のクラシックも良かったなと、思い起こすのに丁度良いコーナーになっていた。

もう一度 クラシックも聴いておきたいと、ギャップを楽しみたいのも込み込みで客達の殆どが思い始めた頃、バラードが終わった。



 余韻が消えて拍手が湧き上がる中、楽器が撤収されて要塞セットが載った稼働ステージも後ろに戻された。


 クラシックに戻るのかと期待が膨らむ中、ステージが暗転。

両側から飛び出した2人をスポットライトが追うと、後ろの(カーテン)を掴んでいるらしく要塞セットが見えなくなった。

高い宙空をクロスした2人は宙返りに捻りを加えてステージ両端に着地。

 それと同時に明るくなったステージに残り5人が弾んで宙返りを交えつつ駆け出、(はす)に被った中折れ帽を手で押さえて洒落たお辞儀をしているようなポーズで、同時にピタリと止まった。

 それが合図だとばかりに曲が流れ出す。

クラシック演奏用の黒服を少し着崩して曲調に合わせている兄弟が、一斉に帽子を舞台袖に投げて動き出す。

投げる角度を違えた帽子の軌跡すらも美しいと歓声に込めて、曲を知っている者も知らない者も立ち上がってリズムに合わせて身体を揺らし始めた。


 歌声が乗ると歓声も高まる――


〈ソラよぉ、この歌は何だぁよ?〉


〈邦和のダンスユニットの曲ですけど、邦和よりも欧州で流行ってるそうです。

 アジアはダンスユニットが多いけど、欧米では珍しいらしくて〉


〈ほ~おぉ。

 確かに、な~んも知らねぇオイラでも聴いて楽しい観て楽しいだなぁよ♪〉


〈ダンスユニットの欧米ツアーでは和語と英語だったから、独語にしてるのも喜んでる理由だと思います〉


〈流石だなぁよ♪ もう終わりかぁ?

 あっという間だなぁよ〉


 兄弟は深く礼をして暫く留まり、爽やかな笑顔で風のように両側に捌けた。


『これにて本公演を終了――』


アナウンスはアンコールの拍手に掻き消された。







出来立てホヤホヤの大きなホールで思いっきり真剣に楽しんだ輝竜兄弟でした。


ソラとサイオンジもオフォクスが連れて来ました。

彩桜、大喜びです。



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