ドイツに到着
ドイツのオッテンバッハ社空港に着いた輝竜兄弟は、出迎えてくれたアルニッヒが用意したバスで移動し、夜の早い地の寒い静寂の中に建つ真新しい大きなホール前でバスを降りた。
「もっと早くにキリュウ兄弟を知っていれば、我が社の創立100年記念ホールの杮落としは君達に頼んだのだがね」
「では、此方は未だ?」出来立てホヤホヤか?
この場は白久だと空港で金錦が後ろに行ってしまったので、受け答えは すっかり白久に任されてしまっている。
「ええ。君達のイタリー公演と同じ頃に、御曹司が入れ込んでいるロックバンドを呼んでの初ライブをする予定だよ。
社長は君達のファンでね、キリュウ夫妻が出るからという理由でベルリンでのクリスマスコンサートのスポンサーになったらしいんだ。
君達が来ないと知って初めて理由を話してくれたんだがね。
それが悔しくて社長は、それならローマでのカウントダウンコンサートだと勝手に決め込んで、社の空港の永久利用権でキリュウ事務所、それから秋小路と直接交渉したそうなのだよ」
「そんなにも俺達なんかを……。
すみませんでした。
末弟が中学生ですので、クリスマスには間に合わないんですよ」
「いやいや、熱烈ファンなら気付くべきだよ。
そんな訳で未公開だが、杮落としの予行としてのコンサートをお願いしたい」
「本当にいいんですか?
俺達、素人集団ですよ?」
「何を言っているのやらだ。
無冠の超新星キリュウ兄弟、頼んだよ」
〈またナンか装飾が増えたな〉
〈でも無冠はホント~〉
〈そんなら彩桜がナンか取れよ〉
〈ほえ? 兄貴達は?〉
〈年齢制限ってヤツがあるんだよ〉
〈そぉなの!?〉
「此処がリハーサル室。
開演まで1時間あれば十分だと聞いている。
食事の時間も込みで2時間ある。
楽しみにしているよ」
アルニッヒは笑って去った。
「美味しそ~な匂いコッチ~♪」走る♪
「「イキナリかよ!」」
白久と黒瑯の声は無視して、いくつか見えるドアの中から的確に食事が用意されている場所のを彩桜は開けた。
「すっご~い♪ 兄貴達、早く早く~♪」
「「恥ずかしいから騒ぐなっ!」」
―・―*―・―
邦和は真夜中。
響の机で勉強していたソラは異変を感じて外に神眼を向けた。
〈ソラ~、退治しに行こ~♪〉
〈お兄は?〉
〈ぐっすり~♪ ヒビキは?〉
〈寝てるんだよね。
だから今夜の相棒はショウだよ〉
〈うん♪〉
響が寝る時には机に置いている鈴を掴むと、ユーレイとして壁を抜けて外に出て探り直し、身体を具現化してショウを連れて瞬移した。
――街外れ。
何故こんな場所で怨霊化?
とソラが首を傾げるのも無理は無いくらいの、負の感情を感じるどころか閑散と静まり返った状況だった。
〈サイオンジ!〉
〈来てくれたかぁよ。
避難誘導は必要なさそ~な場所だからよぉ、サッサと終わらせるぞぃ〉
〈はい!〉〈飛んだから捕まえる~♪〉
ショウは先を輪にした投げ縄をヒュンヒュン回して狙いを定めていた。
〈ヒュ~~~ン♪ ハイッ♪〉
〈そのまま保っててくれよなぁ!〉〈うん♪〉
サイオンジとソラが豪速で飛ぶ。
〈破邪の剣!〉〈今だ!〉
神眼で捉えた弱点=膨らんだ弱禍を同時に貫く。
怨霊は咆哮を上げて萎んでいった。
〈あっという間だぁよ〉剣を消した。
〈やっぱりサイオンジって凄い……〉
〈なぁに言ってるだぁよ。
ソラが凄くなったんだぁよ♪〉〈僕は~?〉
〈ショウも凄いぞぃ♪〉〈うん♪〉えへへ~♪
【ありがとう。その魂を貰えるかな?】
【エィム様、呼んでないのに?】運ぶ。
結界の外なので手渡しも可能だが、死神には気付いていない振りをして放った。
【気遣いも ありがとう。
僕達の拠点近くだからね】受け取った。
すぐに背を向けて飛び始める。
【つまり……怪しまれているのかもね。
このまま見張っていてくれたら有り難い。
頼めるかな?】
【はい!】
―・―*―・―
「兄貴達~、すっごい いっぱい来てるよ~」
食事を終え、音出しを休憩した彩桜は神眼で客席を見ていた。
「確かにね。若い人や子供も居るね」
「姉ちゃん達は? あ♪」「特別席だね」
「一般客にクラシック?
アルニッヒさんと話してみる!」
白久が走って行った。
「社員さんが家族連れ?」
「たぶんね。クラシックが好きだからと集まってくれたのならいいけど、社長さんに招待されて断れずに、なら可哀想だからね」
白久が出たドアを見た。
「うんうん」
「この国での人気アニメは邦和のものばかりですよ。
主題歌はアレンジが違っていたり、別の曲だったりですけど」
藤慈は早速タブレットで調べていた。
「聴いて覚える~♪」「そうだね」「はい♪」
聴いていると白久が戻った。
「社長さんまで喜んでくれたからヤルぞ♪」
「アニメの主題歌やる~♪」
「お♪ いいな♪
俺にも聴かせろ♪」
「そんなら楽器 運ばねぇか?」「うんっ♪」
次々と自宅のアトリエに瞬移した。
「ったくスッゲーよなっ♪
俺も修行ガンバルぞ!
ん? 兄貴?」
リハーサル室から出ようとしていた金錦が振り返って微笑んだ。
「音響担当者を呼んで来る」「俺も!」
そして音響やら照明やらの担当者達に耳コピしたアニソンを披露した。
「あと、この曲を流してもらえますか?」
ウケの良さにニンマリしながらセットリストを書いた紙の1曲を指して渡した。
「任せとけ♪ 歌うのか?」
「此処で流すから歌ってくれるか?」
「ええ♪」
白久が振り返った時には、既に踊れるように場所を空けてヘッドセットマイクを着けていた兄弟が笑顔でスタンバっていた。
「白久兄~♪」
ヘッドセットマイクが飛んでくる。
事も無げにキャッチして着けながら兄弟の所へ。
音響担当者達がブースに入って少ししてイントロが流れ始めた。
『マイクテスト~♪ いくぜっ♪』
クラシック用の黒服なので、なんだか歌って踊る執事軍団だが、だんだんと増えているスタッフ達はどんどん笑顔になっていった。
「照明も任せてくれ」
「シッカリ組んだからな♪」
「今日は ただ聞くだけかと思っていたが仕事が出来て嬉しいよ」
「いろいろ試せそうだしな♪」
「これから様々なジャンルのステージになる場所だ。練習の機会をありがとう」
「受け入れて頂けて、此方こそ感謝するばかりですよ。
それじゃ全力で真剣に遊ばせてもらいます♪」
開演時間が間近に迫っていた。
―・―*―・―
〈また捕まえたよ~♪〉
〈これで5人目だね〉【ソラ、ありがとう】
廃教会の窓から中を窺う死神をショウが縄で捕まえては植物壁の向こうの木に吊るす。
繰り返す事5回でエィムが戻った。
【そういう事か。
彼らは僕と同じ中間管理職だよ。
僕の足を引っ張るネタを探しに来たらしい。
怨霊化させたのも僕が祓い屋と通じている証拠を掴もうとしたのかもね。
まだ来ると思うけど、とりあえずその5神は連れて行くよ】
エィムは姿を見せずに水晶玉に封じようと――
〖それならボクが連れてってあげる~♪〗
ぽよん♪ と象頭。
鼻に縄を絡めて回収して消えた。
【ガネーシャ様は神力封じ無効なんですか?】
【そう、らしいね……】 〈また捕まえたよ~♪〉
【そっか。ショウも前足で持ってますね】
【確かにね。
敵にはしたくない存在だね】
【そうですね】苦笑。 〖また貰ってくね~♪〗
【【あ……】】顔を見合せる。
【なんだか……】【似てますよね?】
【チャムも そうだし、どうやら あのタイプは必ず仲間にしないといけないらしいね】
【そっか。お兄を捕まえてましたね。
あのタイプには気をつけます。
仲間にもします】
その元を作ったガイアルフはバツが悪くてトリノクスにも入れたとは言えず、静かに聞いていた。
〈また捕まえたよ~♪〉〖はいは~い♪〗
【たぶんもう終わりです!】〖は~い♪〗
―◦―
〖オフォクス~♪ 終わりだって~♪〗
【有り難う御座います】
〖オフォクスも~〗【は?】
〖ちょっと緩めてあげる~♪〗ぽよ~ん♪
【嫌です!!】術移!
〖あれれ~? ま、いっか♪
また狙っちゃうもんね~♪〗
ぷよん♪ と人姿の女神に。
〖バステ~トに教えてもらったから~♪
支配 解いて~、核の神力 封じちゃお~♪〗
神力封じの縄で縛ったまま転がしている死神を1神 浮かせた。
《お目覚めなさい。
私は古より甦りしアミュラ。
貴方を悪しき縛りから解放します。
ついておいでなさい》
ラピスリそっくりな女神ガネーシャは真面目に導き始めた。
輝竜兄弟はドイツで演奏準備中です。
いつも自宅のホールで遊んでいるように、オッテンバッハホールでも歌って踊るようです。
邦和ではエィムの足を引っ張ろうと謀る人神達をソラとショウが捕まえています。
ひとまず終わったようですが、これだけで終わりそうにはありませんよね。




