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オニキス



 犬のウィスタリアが青生に拾われた日の夜更け――


《ラピスリ、少し話せるか?》


〈はい。トリノクス様。

 ウィスタリア兄様の事でしょうか?〉


《そうか。見えていたのか》


〈はい。青生は勘で拾ったのでしょうが。

 ウィスタリア兄様には初めてお会いするのですが、確かに兄だと共鳴が示しています。

 人ではない動物にされている堕神も居るのですね……〉


《ラピスリはバステート様を助けたのでは?》


〈確かに……ですがバステート様は猫神様。

 ですので不自然とは感じませんでした〉


《人世の竜は絶滅しておる。

 故に龍神は他の動物にされてしまうのであろうな。身近な犬猫は多かろうな》


〈今後は尚一層 気を付けます〉


《だからこその獣医なのか?》


〈私は……青生が目指していたから。

 それだけで御座います。

 青生は、それが己の務めだと感じたのではないでしょうか。

 ……それも無自覚なのでしょうが〉


《ふむ。それでウィスタリアなのだが、家族に加えてもらえぬか?》


〈そのつもりで御座います。

 リリシャルス様がお世話してくださいます〉


《そうか。安堵した。

 神力の解放も手伝ってくれそうだな》


〈はい。父様とは違い、封印が緩いと感じましたので、早く神に戻って頂きます〉


《そうだな。緩く、雑な封印だ。

 と、我々は感じるが、普通の人神ならば此れが限界とも考えられるな》


〈そうですね。大いに利用させてもらいます。

 千に近い兄姉達の殆どが封じられているのですから〉


《堕神も多かろうが、神王殿の水晶にもな》


〈はい。いずれ必ず奪還します〉



―◦―



 その頃、藤慈とリリスの部屋では――


「ありがとう、藤慈♡」


「力丸が山に行ってしまいましたからね、動物に慣れるのに丁度良いと思いますよ。

 専門学校は如何ですか?」


「とても楽しいわ♪」『藤慈、いいかな?』


「あ、青生兄様。どうぞ」


襖が開き、するりと犬達が入って来た。

どちらも嬉しそうに尻尾を振っている。


「お風呂に入れたんだ。

 ショウは連れて行くけどね。

 ウィスタリアを宜しくね」


「ウィスタリア? 長くなったのですね♪

 良い名前だと思います♪」


「瑠璃がそう呼んだんだよ。

 俺も『ウィス』より長いんじゃないかと感じていたから、それでいいと思ったんだ。

 でも普段は『ウィス』だけでいいんじゃないかな?」


「嬉しそうですので私もそう呼びます」

「どちらでも ちゃんと分かってるのね♪

 長くても短くても名前が出る度に向いて小さく返事しているわ♪

 ウィス、おいで♪」


ウィスタリアだけがリリスの所に行った。


「賢いですね。どちらも」「そうね♪」


「ショウ、紗ちゃんの部屋に行こう」

ショウだけが てってっと廊下に出た。


〈ウィスおやすみ~♪〉

〈おやすみなさい、ショウ♪〉


「それじゃあ、おやすみ」パタン。

「「おやすみなさい♪」」



「私ね、ウィスって藤慈に似てると思うの」


「そ、そうですか?」


「瞳の優しさとか、そっくりよ♪」


藤慈とウィスタリアが互いをじっと見た。


そして、気恥ずかしくなったのか揃って目を逸らし、俯いた。



―・―*―・―



〈此方に!〉〈すまねえっ!〉


山から跳んだ白狐と急降下して来た黒龍がすれ違い――


〈闇化包囲!!〉


――白狐(狐儀)が放った術を纏った御札が黒龍を護る防壁を成した。


月の無い宵闇に闇色の防壁が拡がる。

黒龍を見失った追っ手達は、暫く留まり行方を探っていたようだが、諦めたのか天高く去って行った。




〈オニキス!〉


〈大じょ……ぶ……〉


〈とてもそのようには見えません。

 この背の傷……内に何か入り込んで!?

 此は噂に聞く神力射(ジンリキシャ)の矢!?

 何故、そうまでして人世に!?〉

治癒と回復の光で黒龍(オニキス)を包み、探りながら体内に残る(やじり)を滅していった。



 大型の弩に似た神力射は、四獣神が全て堕神となった後に造られた武器である。

その矢は、(まと)と認識した神力に向かってどこまでも追尾し、当たれば鏃だけを体内に残し、人に対する毒矢のような呪気を神の全身に染み渡らせる凶悪なものである。



〈どーしても……オフォクス様に……オレの記憶、見て……もらいたくて、な……〉


〈呼びましたのでっ〉


〈ありがとな……フェネギ……〉


〈狐儀、如何した? ふむ〉強い光で包む。


〈ありがとう、ございます……オフォクス様〉


〈オニキスだな?

 今迄、何をしておった?〉


〈あ……一気に楽に……スッゲー♪

 あっ、すみません!

 禍の滝の近くに居ました。

 人神じゃあ近寄れない森を盾にして四獣神の子が集まってるんです。

 父様達のようにはいきませんが、協力して小さな禍なら地に封じて、手に負えないのは転送道を見つけたので押し込んでました〉


〈然うか。良い場所を見付けたものだな〉


〈神世の何処(どこ)彼処(かしこ)も敵だらけ。

 禍の方が、よっぽどマシだとジワジワ増えているんです。

 転送道は偶然見つけました。

 本来 何を転送するものかなんて考えてる余裕も無いから、分からないまま禍を転送するようになったんです。


 森から出る気は無かったんですけど……直感で兄様だと思える声を聞いたんです。

 なんか……言葉までは聞き取れない声が暫く続いていて、その最後に『これならきっと……グレイは目覚める』ってハッキリ聞こえたんです!

 だからオレに届いた聞き取れなかった部分、そんな記憶でもオフォクス様ならきっと聞き取って頂けると信じて来たんです!

 兄達の声、どうかお願い致します!〉


〈ふむ。流して貰おう〉手を取った。


〈ありがとうございます!〉


オニキスの手からオフォクスの手へと光が流れた。


〈何度か声が届いておったようだな〉


〈え? マジかよ……あっ!

 ありがとうございます!〉


〈よくぞ来た。確と休め。

 この記憶、分析させてもらうぞ〉


〈お願い致します!

 あ、父様は……無事なんですか?〉


〈人として生きておる。

 フェネギに聞けばよい〉

ニヤリとして消えた。



〈来る途中のも全部見えちまったのかな?〉


〈オフォクス様ですので〉ふふっ♪


〈そっかぁ。

 人世の門トコに神力射がズラッと並んでるなんて誰も言ってくれなかったんだよな。

 死司神やら再生神やら、どーやって通ってるんだろなぁ〉


〈人世で働く神には(あかし)が渡されるようです。

 通行証なのかもしれませんね〉


〈持ってない神に一斉射撃かぁ。

 とんでもねぇな。あ! だからかっ!

 全力で逃げてたらディルムが現れたんだよ。

 そうだよ! そこで矢が追ってこなくなったんだよ!〉


〈よくディルムだと判ったね〉くすくす♪


〈死神鎌 振り上げて襲いかかってきたんだ。

 けど、爪で止めたら話しかけてくれてな。

 名乗られて笑いそうになったよ♪

 で、リグーリを目指せってな♪〉


〈リグーリの気を目指したのですね〉ふふ♪


〈リグーリ見て、とうとう笑っちまったよ♪〉


〈そうでしょうね〉くくっ♪


〈で、戦うフリしながら話してくれたんだ。

 下に見えてる街の結界を2つ通って山に行けってな。

 んで、やっとこフェネギに会えたんだ♪〉


〈リグーリから連絡が届いたのですよ。

 急いで跳んだら懐かしい顔が迫っていたのです。嬉しかったのですよ〉


〈オレはホッとして気絶しそうになっちまったよ♪〉


〈無事で……良かったです……〉


〈オフォクス様って、やっぱスッゲーな♪〉


〈そうですね。

 此方で共にオフォクス様をお手伝いくださいますよね?〉


〈もう神世には戻れそうにないからな。

 人世で頑張るよ。

 あ……父様――人な父様は?

 アーマル兄様やウンディも堕神なんだろ?

 誰か見てるんだよな?〉


〈ラピスリ様が使徒神様方と共に〉


〈ん? 同代に『様』? ナンで?〉


〈此方で大変お世話になっておりますので〉


〈な~んかアヤシイよなぁ……あ♪

 フェネギ、ラピスリが好きなんだな?♪〉


〈違います!!〉


〈ムキになってやがる♪

 そーいや昔々も護ってたよなっ♪

 ほら、あの残虐人神が来た時♪〉


〈……マディアは……ユーチャリス姉様は……無事なのでしょうか……〉


〈あ……すまねぇ〉


〈いえ。ふと思っただけです。無事ですよ〉

己に言い聞かせるように頷いた。


〈無事だよ。絶対! 皆 無事だっ!

 父様が無事なら、間違いなく無事だ♪

 もう治ったから父様 見に連れてってくれ〉


〈今から? 夜ですよ?〉

〈治ったか。

 流石、元気が取り柄なオニキスだな。

 儂の社に1/7が来ておる。

 寝顔を眺めに来ればよい〉


〈では、主様の社に参りましょう〉


〈ナナブンノイチ?〉


〈見れば分かりますよ〉くすくす♪

〈オニキス――〉


〈えっ、あ、はい!〉


〈先程の声はオニキスの兄姉、ドラグーナの初代の子等だ。

 封じられておるが生きておる。

 初代が生きておるという事は、他の兄弟も滅されてはおらぬという事であろう。

 敵神よりは遥かに格上だからな〉


〈オフォクス様、ありがとーございます!♪〉







四獣神は子供達の名の文字数を同代で同じにしていました。

ドラグーナが当時の王から、全ての都、街や村に至るまで守護せよと命じられてしまったからです。


初代はそんなこと考えていませんでしたし、5代毎に同じ文字数になってしまうんですけどね。



オニキスはアーマル(飛翔)の代で、ドラグーナの子では同代4子です。

ウンディ(利幸)のすぐ下の弟なんです。


ウィスタリアは少し上の代で……えっと~、追々お話しします。m(_ _)m



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