クリスマステニス大会
翌朝、日曜日だろうが、明日から海外だろうが、瑠璃が変わりなく仕事をしていると背後に神の気配が現れた。
【ハーリィ、チャリル。
姉弟で来るとは何事だ?】
【かなり頑張って消してるのに流石ね♪
新魂の塊を持って来たのよ。
まだまだ必要でしょ?】
【確かに必要だ。ありがとう。
そうか、丁度良いな。
チャリルに見てもらいたいものがある】
【いいわよ♪ 何?】
【連れて来る】瞬移。
青生を連れて戻った。
【夫だ。魂が人神魂らしいのだが――】【え?】
【それは魂生神でも驚く一大事だな】
【確かめるわね!】
「瑠璃、昨日の話ので、わざわざ呼んだの?」
じーーーっと見られて困り顔。
「いや。別件で来てくれたのだが、魂の専門家なのでな。確かめてもらっている」
「そうなんだ。
ドラグーナ様に何か悪い影響とかあるの?」
「それも含めて確かめてもらっている」
【確かに人神魂ね。
それもかなり精製度が高いわ。
おそらくはドラグーナ様を封じる為に人魂より強い人神魂を故意に使ったのよ。
重要部位なのね?】
【左頭部だ。胸部も同じ魂を使っている】
【人神は尾が重要だとは知らないから、他に使っているとすれば右頭部と手ね。
人神は頭こそ大事だと思っているし、神として核のある胸部と、手の重要性くらいは、これ程の重要作業を担当するくらいの高位職神なら理解しているでしょうからね。
判別を難しくしているのは、人魂素材で更に包んでいるからよ。
ラピスリ、見方を教えるから他の部位を確かめてね】
【悪い影響があるのか?】
【とても強い封印になっていたんじゃない?
それが解けた今は悪影響は無いわ。
あとは身体から離れた時が要注意ね】
【それ迄に父の分離が出来ていれば問題無しなのだな?】
【そうなるわね。
今は身体という殻があるから混ざり合ったりしないけど、上手く身体から切り離さないと混ざってしまうわ。
と言うか、ドラグーナ様が強すぎるから包んでいる全てを吸収してしまうわね】
【神魂連動が起こる兄弟か……。
平気で無茶をするからな、突然 身体から離れぬよう、よく見張っておく】
【それがいいわね♪】「瑠璃?」
「どうした?」
「何か酷い事、言ってない?」
「詳しく聞いていただけだ」ふふっ♪
「平気で無茶をするって誰の事かな?」
「聞こえていたのか」はははっ♪
【うん、ラピスリ幸せそうね♪】
【幸せだ。神としても結婚したのでな】
【そうなのね♪ おめでとう!】
【偽装かもと思っていたが、確かに結婚の絆だな。おめでとう】
【ありがとう】青生も嬉しそうに礼。
【結べたのも神魂だからなのか?】
【神力十分だとしか聞いていないが、そうなのかもしれんな。
おそらくケイロン様はお気付きになられていたのだろう】
―◦―
神達が帰った後、1件だけ入っていた予約外来の診察を終えた瑠璃が事務室に入ると青生が笑顔で向いた。
「テニスの試合は?」
「考えがあってね、少し遅れて行くんだ。
ね、結婚の絆が神魂でなければならないとしたら紅火は神魂なんだよね?
結べたんだから」
「そうなるな。
他の兄弟も、と考えていたのだろう?
早目に確かめると約束する」
「テニススクールに皆集まるんだ。
一緒に来てくれる?」
「此処は?」
「桜華様とガネーシャ様が任せてって」
「ふむ。では行こう」
―・―*―・―
そのテニススクールでは――
「えっ? 青生さんが遅れるんですか?」
球威が驚きの声を上げた。
「急患らしい。
間に合わなければ俺が青生として出る。
誰も知らぬのだから問題無いだろう?
それとも俺では不満か?」
「いえ! 不満なんて全く!
豪庭が先に紅火さんを選んだだけですから!」
「ふむ。
豪庭、青生となる可能性もあるが、よいか?」
「はい!」
―◦―
上級コースのトーナメント戦が始まり、1回戦が早い球威・輝竜(青)ペアが呼ばれた。
「ふむ。間に合わなかったな」
黒地に青ラインのスポーツウェアを羽織り、薄群青のキャップを被った紅火が球威と一緒にコートに入った。
すんなり圧勝。
「プレイし辛いか?」「いいえ!♪」「ふむ」
そして次の試合が豪庭というタイミングで青生が来た。
「遅くなって すまない」
「青生は俺として出てくれ。次だ」
「うん」
青生が赤ラインのスポーツウェア、臙脂のキャップを着けた丁度その時、豪庭・輝竜(紅)ペアが呼ばれた。
あっさり圧勝。
「紅火を選んでいたのに悪かったね」
「いいえ! とてもプレイし易かったです!」
そのままのペアで試合が進み、決勝戦で ようやく2ペアが当たった。
その頃には観客席に兄弟が揃っていた。
「ナンで紅火と青生は入れ換わってるんだ?」
「確かに入れ換わってるな♪」
黒瑯が首を傾げ、白久は面白がっている。
「最終的に豪庭君と球威君をペアにしたいのだそうです」
藤慈が にっこり♪
「はあ?」「ふ~ん♪」「ふむ」
「豪庭君は紅火兄様を選んでいました。
球威君が青生兄様です。
豪庭君も紅火兄様もパワープレイタイプ。
球威君と青生兄様はテクニカルタイプです。
入れ換われば、異なるタイプの良さが見えるだろうと動物病院の事務室で話していました」
「そっか」
「にしても、この試合、終わるのかぁ?」
「そうですね……」苦笑。
「彩桜?」「寝てるのか?」
「寝てたら寝言でニギヤカだろ」
「ヒドいんだぁ~。
試合に集中してたのっ」
可能な限り豪庭と球威に打たせているのは伝わるが、どんな球でも青生と紅火が打ち返すのでラリーが果てしなく続いていた。
「青生も紅火も楽しんでやがるな♪」
「終わらせる気が無さそうだよな♪」
そのラリーが終わらないまま40分が経過し、豪庭と球威に疲れが見え始め、指導員達が集まって話し始めた。
「客席は楽しそうなんだがなっ♪」
「テニス好きにとっちゃあスーパープレイの連続だからなっ♪
けど、この後 懇親会だろ?
終了予定時間ってのがあるんじゃねぇか?」
「そこで打ち切って両ペア優勝でしょうか?」
更に30分。
同時に始まった隣接コートの3位決定戦は、とっくに終わっていた。
それは見えていたが、それでも対戦が楽しくて仕方のない青生と紅火は元気そのものでプレイしていた。
そこに指導員達が集まる。
豪庭と球威の動きが悪くなっているのと、このままだと試合が終わらないと理由付けて、スクールの代表から試合の中断が宣言された。
『両ペアを優勝とします!』
豪庭と球威が その場に座り込む。
青生と紅火が終了の握手をしてから二人を支えて拍手喝采の中を退場した。
表彰式が終わり、パーティーが始まる迄の間に休憩室で黒瑯特製スポーツドリンクを飲みながら、
「少しは落ち着いたかな?」
テーブルを挟んで並んでいる二人に青生が微笑んだ。
「はい、どうにか……」「タフですね……」
「二人一緒に基礎体力向上メニューをやってみない?」
「「やります! え? 一緒に!?」」
「最初に選んだのは自分と同じプレイスタイルだったよね?
違うスタイルと組んでの試合はどうだったかな?」
「あ……そうか……」「勉強になりました」
互いを見ないままだが同じように頷いた。
「豪庭君と紅火は似ている。球威君と俺もね。
だから二人でダブルスをしたらいいと思う。
補い合って強くなれるよ」
「「え……」」『コイツと?』と睨み合う。
「ほら、よく揃う」くすっ♪
「息も合う。
互いを認めるだけで良いペアになれるよ」
まだ悩みながら睨み合っているが続ける。
「年末年始は留守にするから3学期からになるけど、ペアを組むのなら来てね。
それじゃあ俺達はこれで」
「あのっ!」「パーティーは!?」
「青生兄 紅火兄~♪
コート借りたから遊ぼ~♪」
駆けて来た彩桜が、立ち上がった青生に ぱふっと飛び込んだ。
「お~い、その紛らわしい帽子と上着、ちゃんと戻してくれ~」
白ラインの上着にマットな銀キャップの白久が入口で笑っている。
「そうだね」くすくす♪
笑いながら交換した。
「まだなのかよ?
せっかく2面 借りたんだから早くしろよな」
「黒瑯兄 真っ黒なの~♪」「ウッセー!」
「4組でダブルスです♪」
藤慈は慎介と腕を組んでいる。
慎介は兄弟の色とは被らない緑だ。
「金錦兄さんは?」
「素振りしてる~♪ 準備バッチリ♪」
わいのわいのと出て行った。
「さっきの狐松先生だったよな?」
「そう見えたね。
僕はパーティーより見学しに行くよ」
「当然ソッチだ! 行くぞ!」
外まで走って、ふと立ち止まる。
「なんで一緒に?」「見たいからだろ」
また駆け出した。
「球威を認めたら強くなれるんなら認めてもいい、と思う」
「確かにね。張り合えるのは豪庭だけだしね。
ペアを組まないと教えてもらえそうにないし、組んでみるか?」
「組んでやるよ。次の大会はダブルスだ」
「僕の足、引っ張らないでよね」
「球威こそなっ」
なんだか可笑しくなって、声を出して笑いながら一緒に駆けた。
張り合う為に部活まで同じにしていた豪庭と球威でしたが、仲良くなれそうです。
これまた、めでたし めでたしです。
輝竜兄弟+慎介は時間いっぱい勝敗の着かないテニスを楽しむんでしようね。




