神火の力vs愛の力
馬化したままの竜騎に解呪を続けているリグーリの所に、桜華と その妹達が来た。
「いいところに来てくれた。
桜華、俺と一緒に頼む。
他は此奴に解呪を頼む。
人だからな、弱い術でなければ魂が弾けちまうから気を付けてくれ」
「はい、理倶様」一斉。
頷いて桜華を連れたリグーリはキツネの隠し社へと瞬移した。
―・―*―・―
【ソラ兄~、サイオンジさんと一緒に俺トコ来て~】
【え? 彩桜、何処に?】
【お稲荷様の隠し社なのぉ。
俺の気に瞬移してなのぉ】
【うん。ちょっと待ってね】
【ありがとなの~】
―◦―
【サイオンジ!】
【キツネ殿がピンチだぁな?】
【たぶん! 行きましょう!】
【トク、留守を頼むぞぃ】【はいっ】
ソラがサイオンジを連れて彩桜の気へと瞬移すると、2つの氷塊の山を大勢の神が囲んでいた。
【これは? あの氷は……?】
【狐儀師匠とメイ姉なのぉ】【えっ!?】
【そんじゃあガイアルフ様とフィアラグーナ様が必要なんだぁな?】
【うん! お願い!】
内の神を目覚めさせた2ユーレイはドラグーナとオフォクスの所へ飛んだ。
《ビシュヌ、キャンプー。早く解きなさい》
シヴァの視線が更にキツくなる。
《そうは言うが……》
《何を混ぜて掛けたのやらなのです》
《落ち着いてパズルを解きましょう》
ケイロンが穏やかに宥めた。
《主軸は判ったぞ》
オーディンがビシュヌとキャンプーに光球を飛ばした。
《早く唱えよ!》
《《はい!》》 《おいシヴァ》
《こんな時に何ですブラフマー》
《今ピュアリラは? 其方は全く見えぬのだ》
《融けないように強い結界を成していますからね、見えなくて当然です。
厄介に絡んだ術は、其方の社の主達を滅しようと、融かそう融かそうと働くのです。
今ピュアリラと夫は、その悪力を阻止しようと氷結術を保っているのです。
現状、神力不足な他の神には無理。
ガネーシャにはブラフマーが治癒を……お願い、します》
《そうか。息子の状態が分かっていながら私に頼む程なのだな。
ならば全力でシヴァの愛息子を助ける!》
―・―*―・―
沙織が自室で書の練習をしていると――
〈本浄さん、お願いがありますので伺わせて頂きます〉
――唐突に聞こえた声に驚いていると、声の主らしい男性と今日 知り合ったばかりの少年が現れて、口の前に人差し指を立てた。
〈はじめまして。猪瀬 八郎と申します。
緊急事態でサジョール様の御力が必要なんです。
詳しくは向かった先でお話しします。
ご同行、お願い致します〉
〈沙織さん、お願いします。
一緒に来てください!〉
《お嬢さん、驚いてるのは よーく分かるけど眠らせてでも行かせてもらうよ》
「眠らせなくても……参ります」
〈〈ありがとう〉!〉
八郎が二人を連れて瞬移した。
――暗闇に巨大な象頭。
《来てくれたか!
すまぬが私では神力不十分なのだ。
此奴に治癒を頼む!》
「ここは……この感じは、昼間 来た……」
「うん。奥ノ山のお社。
酔っ払った神様達が暴れたらしい。
昼に見た白いお稲荷様達は大怪我して、お社は木っ端微塵。
だから象の神様が怒って、暴れた神様を押し潰してるんだって。
でも象の神様も大怪我してるから助けてあげたいんだ!」
よく見ると、象頭の神は煙や炎をあちこちから上げていて痛々しい限りの状態だった。
「わかりました。
あの美しいお社を……お稲荷様を……ワタクシも許せません!」
《ありがとよ、お嬢さん。
治癒は得意だからね、アタシに任せな!》
《よーし加われサジョール!》
《後押しなら任せろ!》
―・―*―・―
そうして長く闘った者達が夜明けの気配を感じた頃――
「兄様!!」「メイ!!」
――ようやく氷塊の山が狐儀と梅華の姿に戻り、狐儀をリグーリが、梅華を瑠璃が抱き締めて神力を注いだ。
弱々しい半透明の暗灰色だった狐達が確かな身体を成し、忽ち色も毛艶も美しく戻っていった。
「リグーリ……ありがとう……」「お姉様……」
「「無事で何より」だ」ぎゅっ。×2。
「兄様、人世を救ったんだってな」
「そうですか……無事なのですね。
良かった……」
「メイ、無茶をするな」
「この性格は……お姉様と同じです」ふふっ♪
「治らぬ病、か?」
「そうですね」ふふふ♪
《ビシュヌ、キャンプー。此方に》
《謝らねば――》《邪魔をする気ですか?》
シヴァがビシュヌを睨む。
《ですが先に――》《先に此方です》
キャンプーも睨んでから二神を連れて出た。
「皆様、ありがとうございます」
狐儀と梅華が寄り添い、微笑み合って、感謝を込めて深く頭を下げた。
《本当に、ご無事で何よりです。
では皆様、持ち場に》
ケイロンは見回して微笑むとオーディンを連れて離れた。
集まった神達も各々の持ち場へと瞬移して消えた。
【瑠璃、行かないと無理みたいだよ】
【ふむ……青生も行くのか?】
【今ピュアリラ様の後ろに隠れておくよ。
治癒は一緒に。いいよね?】
【頼む。では行こう】
手を取り合って瞬移した。
【サーロン、俺達も行こっ】【うん!】
ソラがサーロンに変わると同時に彩桜が連れて瞬移した。
【犬達の散歩は任せろ】【ありがと紅火兄♪】
ドラグーナを休ませる為、兄達は先に帰った。
―◦―
彩桜とサーロンが山の社に行くと、空では龍狐神ラピスリが眩しい程の治癒光を注いでおり、その背中で青生が小さく手を振った後、悟達を指した。
頷いて三人の背後に跳んだ彩桜は回復治癒を放ち、サーロンはガイアルフから習いながら回復術を唱えた。
《今ピュアリラ……》
ガネーシャに向けた回復光を一緒に浴びたので、神力使い果たし状態から復活したキャンプーが見上げて涙ぐむ。
【神火の力を打ち消せるのは愛のみ。
人世を護り、キャンプー様をお護りなされたガネーシャ様に夫として愛の力を向けてください】
《しかし、この絆は――》
【ガネーシャ様からの愛は真実。
このままでは何をしようが燃え尽きてしまいますよ。
既に意識を失っております。
下敷きの大神様方も諸共となってしまいます。
お早くお願い致します】
《キャンプー早く!!
ガネーシャはお前等が神殺しとならぬよう、己が命を失おうが構わぬと阻止した為にマントルまで落ちたのだ。
お前らが落としたのだ!
夫としてでなくとも親友として助けよ!!》
ブラフマーが怒りも露に叫んだ。
それでも動かないキャンプーをビシュヌが連れて飛んだ。
《早くしろ!!》
ガネーシャの頭頂に生えている尾に押し付ける。
《キャンプーよく聞け!
ガネーシャはお前が負に傾くのを止めたいからと最強の絆を望んだのだ!
これ以上、禍を生まぬようにとな!
繋がれば明るくなるだろうからとな!
ガネーシャにも好きな女神は居たのだ。
結婚を約束していたのだ!
だが行方知れずだ。
見つかった時に話すからよいのだと。
今はキャンプーを救いたいからと言ったのだ!
今ここでガネーシャを救わずして、お前は親友として、神として! この先、生きていられるのか!?》
《ガネーシャ……》
《あ~、キャンプ~だ~。
良かったぁ、無事なんだね~。
ボク――……ごめんねぇ……もう……支えてあげられ、な、ぃ…………》
《ガネーシャ!! ガネーシャ!?
返事をしろガネーシャ!!》
炎が赤から金に変わり、高く上った。
ガネーシャはグラリと傾き、ゆっくりと前のめりに――
《死ぬなガネーシャ!! 生きてくれ!!
私と共に生きてくれ!!》
次々と立ち昇る金炎は青生が放つ氷結が消していたのだが、数も勢いも増すばかりで追いつかなくなってきていた。
《ん? ガネーシャ?》
ゆっくりとガネーシャの鼻が持ち上がり、ビシュヌとキャンプーを掴むと放り投げた。
《ガネーシャ何を!?》
《燃え尽きようとしておるのだ!!》
一緒に飛ばされているビシュヌが水晶玉を弾き返す。
《愛でしか救えぬ!!》
《死ぬなガネーシャ!!》
一気に激しさを増して噴き出し始めた金炎を夜空に高く立ち昇らせ、崩れ落ちようとしている象頭に着いた。
《好きだから死ぬなっ!!!!》
金炎の中、それとは違う青い輝きがガネーシャから迸った。
朝陽も顔を出し、舞い上がる新雪が赤く煌めいた。
光の共演は美しいのだが、風の音だけの静けさが不安を煽る――
《うん♪ ボク死なないみたい~♪
キャンプ~♪ だ~い好きだよ~ん♪》
小さく戻りつつ水晶玉を鼻先でキャッチした。
《うっ……》
《大丈夫?》小首を傾げて覗き込む。
《お前こそだ》つまりドアップだ。
《ボク? マントル温泉でお肌スベスベ~♪》
《熔けかけているのではないかっ!》
《キャンプ~も温泉入る? 一緒に入ろ~ね♪》
《おいっ!? 何処へ――》《温泉だよ~ん♪》
ぽよん ぱよん ぱよ~~ん♪ と弾んで行った。
《ビシュヌ、ブラフマー。
皆様を救出しなければ》《ああ》《だな》
下敷きにされて気絶している大神達へと今ピュアリラの治癒光が降り注ぐ。
《《《ありがとうございます》》》
「あっ! 境内の掃除をしなければ!」
沙織が我に返った。
「みんなで一緒にしよ~♪」
「はい♪ 早く終わるです♪」
「そうですね。では」八郎が纏めて瞬移。
――本浄神社。
一斉に動き、参道の雪掻きを始めた。
「眠らなくてもよろしいのですね?」
「回復治癒したから大丈夫なの~♪」
「奥ノ山のお社は?」
「元通りになるから大丈夫なの~♪」
「そうですか……」
「来てくれて、ありがとなの~♪
ん~と、だいたい終わりかにゃ?
サーロン一緒に♪ せ~のっ「浄化♪」」
参道だけでなく社も浄化光に包まれて輝かんばかりに綺麗になった。
「あら……」
驚いた沙織が社を見ている間に、彩桜達は掃除道具を片付けていた。
「それじゃ、まったね~♪」
「あっ! 爆走散歩は!?」
「紅火兄がしてくれた~♪」
「ええっ!?」
騒いでいる悟を連れて八郎が瞬移し、彩桜とサーロンは仲良く手を繋いで瞬移した。
「不思議な――いえ、人が知らぬ事の方が多いのでしたね」
沙織は理倶から聞いた話を思い起こしながら家に入った。
大変な事になりましたが、狐儀と梅華も、ガネーシャも助かりました。
そしてガネーシャはキャンプーを連れて温泉に新婚旅行?
元気で何よりですけどね。
酔いが覚めた大神様達は、これから社の修復作業です。
そちらは結果くらいしか書くつもりはありませんけど。




