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ウィスタリア



 1週間後――


「たっだいま~♪

 紅火兄♪ お店で遊んでいい?」


「今日も来ている」ぼそっ。


「もしかして紗ちゃん?」


背を向けたままの紅火が頷いた。


「じゃあ俺、お稲荷様トコに泊まる~」


言いながら彩桜は紅火が居る畳の部屋に上がり、本棚の前にランドセルを置いて、押し入れの襖を開けた。


「月曜は学校行くからねっ」

小さく手を振って入った。



「いつまで避ける気だ……」

パタンと閉まった襖に目を向け、紅火は呟いて溜め息をついた。



―◦―



 その頃、居間では――


「黒瑯、おやつを所望致すぞ」「いたすぞ♪」


「姫ぇ、紗ちゃんに変な言葉 教えるなよなぁ」


「早ぅ作るのじゃ♪」「のじゃのじゃ♪」


「すぐ作っからフツーに喋れってぇ」


「早ぅせよ」「おやつなのじゃ♪」「お♪」


「『お♪』じゃねぇよ」呆れ顔で台所へ。


(しか)らばチャンバラじゃ♪」「うんっ♪」


「お~い静香姫様ぁ、暴れるんなら庭でやれよなっ」


「白久殿、早い帰宅じゃの。

 クビにでもなったのかの?」


「黒瑯も居るじゃねぇかよっ」


「黒瑯は休みなのじゃ」「のじゃ♪」


「俺は直帰しただけだよっ」


「では、共にチャンバラなのじゃ♪」「のじゃ♪」


「ナンでそーなるんだよっ」


「暇なのじゃろ? 遊んでやろぅぞ♪」


「あのなぁ……あ、今日は紗チャンだけなのかぁ?

 飛鳥や夏菜チャン莉子チャンどーした?」


「ひとりで来たのじゃ♪」「のじゃ♪」


「へ? 姫様、澪サンに電話したのか?」


「母上に申さず来たのか?」「?」きょとん。


「姫様語が解ってねぇんだよ。

 紗チャン、お泊まりだってお母さんに言って来たのか?」

しゃがんで頭をぽんぽん。


紗は答えずに静香の後ろに隠れた。


白久がサッと更に後ろに回り込み、紗を捕まえ、高く上げた。


「そっか♪ ひとりで来たんだな♪

 エライぞっ♪」


「え?」

高い高い状態から頑張って白久の顔を窺うと、笑顔だったので、つい笑みを溢した。


「ちゃんと車に気をつけて来たんだろ?」


「うん♪」


「そこはエライ♪ が、お母さんに心配かけてるんじゃねぇのか?」


「カナちゃんち行くって言ったもん」


「嘘ついたかぁ。賢いなっ♪」

下ろして向かい合った。


「っ……ごめんなさぁいぃ」うるっ――


「そっか。

 嘘は悪いコトだって解ってるんだな。

 そんなら、その『ごめんなさい』は誰に言うべきなんだろうなぁ?」


「……ママ……」


「よくできました♪

 じゃあ電話かけようなっ♪」


「……うん」


「怖がらなくていい。素直に謝るだけだ。

 そんなにも この家に来たいと思ってくれたっての、俺は素直に嬉しいんだ。

 だから笑ってるんだぞ♪


 ってコトで、戌井サン、輝竜です。

 聞こえてましたよね?

 今晩、紗チャンはウチに泊まりますんで。

 ……いえいえ、さっき言った通りですよ。

 嬉しいから、いつでも大歓迎ですよ。

 紗チャンに換わりますね」

ニッコニコでスマホを渡した。


『紗?』


「ママ……ごめんなさい!」


『そう……次は、ちゃんと言ってね?』


「うん。おとまり……いいの?」


『今日は特別ね。よい子にしてね?』


「うんっ♪」

嬉しそうにスマホを差し出した。


「よくできました♪

 それでは明朝は、いつも通りに。

 ……ええ。瑠璃サンの出勤時に一緒に。

 ……いえいえ、ご心配なく。では」

通話をオフってニコッ。

「オヤツが来たぞ♪」「わあっ♪」


両手に皿な黒瑯が戻って来た。


「黒瑯、その生クリームの塊、何だぁ?」


「ふわっふわのパンケーキだっ♪」


「足りぬぞ?」「まだ焼いてるよっ」

「然様か♪ 然らば紗姫、手を洗おぅぞ♪」


「うんっ♪」

手を繋いでピョンピョン出て行った。



「可愛いよな……」

呟いて、台所に向かう。


「黒瑯も子が欲しくなったかぁ?♪」

弟を追い掛けた。


「白久兄こそ」

パンケーキを裏返す。


「だなぁ。そろそろマジで考えねぇとな」


「ただなぁ……オレ、自分の店 出したいんだよな……」


「ホテル辞めるのか?」


「次の春くらいには。

 まだ具体的にはナンもだけどな。

 前から なんとなく夢みたく考えてたけど、青生が開業したのが羨ましくて仕方なくて踏み出そうって決めたんだ」


「そっか。夢に向かうかぁ♪ 頑張れ♪

 で、ナンで夢と子が絡むんだぁ?

 黒瑯が産むんなら絡むだろーが――あ、あの姫様に給仕させるつもりかぁ?」


「ムリだろ。家事の1つもしやしねぇのに。

 そうじゃなくて、経営とかの勉強しようと思ってるんだよ。

 暫く無収入な上に学費かかるからな……」


「おいおい、せっかく兄弟が多いんだから頼れよな。

 経営なら俺が教えてやる。

 会社とは違う部分は瑠璃サンや若菜サンも知ってるんだからな。

 これなら学費は要らねぇだろ。

 無収入ったって、この家があるのに何の心配があるんだよ?」


「白久兄……」『御代(おか)わりは未だかの?』

「ったく~」運んで行った。



 そして戻って次を裏返す。


「ま、心配せずに夢も子作りも向かやぁいい」


「ん。ありがと」


「おいおい、感動して泣いてるのかぁ?♪」


「あのなぁ――」『只今』「あ、金錦兄だ♪」


「青生の声がしなかったな……」


『ただいま』ワン♪ ワン♪『ショウ♪』


「青生とショウかぁ?」

「ナンか……もう1匹いるんじゃねぇか?」

犬の足音が多い。


「黒瑯、犬のご飯も――」「任せろ♪」


「青生、ショウと、、その犬は?」

藤色を思わせる灰のトイプーぽい犬が白久を見上げて小首を傾げた。


「保護したんだ」「また東京の野良かぁ?」

「うん」「何匹目だよ?」「さぁ……」


「青生なら また里親見つけるから大丈夫だ。

 ウチに増えたって今更だろ? な?」

白久と青生の前にパンケーキの皿を置いた。


「姫様達のは?」


「キリがねぇから晩飯の後だ。

 次は犬用だからな♪」ワン♪

「白久兄のはブランデー、青生のは甘さ控えめなチェリーとチョコのソースだ♪」


「へぇ、いただきます。

 黒瑯、ペット同伴可能な個室を設けたレストランとか、どうかな?

 ペット用メニューも当然ね。

 予約の時に健康診断やトリミングの希望があったら出張するよ。

 あ、ビターな中の甘酸っぱさがアクセントになって、とても良いよ。美味しい」


「青生、俺達の話 聞こえてたのかぁ?

 ん♪ 俺好みのい~い味だ♪」


「ん? 黒瑯はずっと前からレストランしたかったんだよね?」


「青生なら……気づいてても……うん。

 アリだよなぁ……青生だもんなぁ……」

背を向けたまま呟く。


「よ~し! 皆で黒瑯を後押しだっ♪」

「そうだね」にこにこ。

「ふむ。食器と調理器は任せろ」


「紅火も匂いに釣られたかぁ?♪」「む……」


「焼いてるから心配すんな♪

 コッチは、うん。いい具合に冷めたな。

 ショウとノラ、食っていいぞ♪」ワン♪


「ノラじゃなくてウィスだよ」


白久が寄って しゃがんだ。

「そっか……捨て犬かぁ……」なでなで。

「首輪とか無ぇぞ?

 コイツが名乗ったかぁ?」


「うん。

 もっと長い名前な気がするんだけどね」


「青生と彩桜みたく動物と話せりゃいいんだけどなぁ。

 紅火と金錦兄のはビターチョコソースにブラッドオレンジとルビーグレープフルーツ添えだ♪」


「長ぇなっ♪」あははっ♪


「赤いのばっか残ってたんだよ」


「ふむ」「美味い」 「トーゼンだっ♪」


「だ~いぶ気分が上向いたみたいだなっ♪」


「おう♪ 前進あるのみだっ♪」


「そーこなくちゃなっ♪」

             『只今戻りました』

「藤慈もコッチ来いよ♪」 『あ、はい……』


「そーいや彩桜は?」「お稲荷様の所だ」


「またかよ」「ああ」「困った奴だよな」


「彩桜は会いたいからこそ、お稲荷様の所で修行しているんだよ。

 見守ってあげようよ」


「青生がそう言うんなら……なぁ?」


皆、フォークを咥えたまま頷いた。




〈すっご~い♪ 揃った~♪〉


〈もしかして……話せるのですか?〉


〈うんっ♪ 僕はショウ♪

 えっと~、、ウィスタリア?〉


〈あ…………〉


〈ど~したの? 大丈夫?〉


〈……ええ、大丈夫です。

 どうやら何か開いたみたいです〉


〈あ♪ パッカ~ンねっ♪

 時々なるよねっ♪〉《お前、堕神だな?》


〈えっ……〉


《私はトリノクス。

 ウィスタリアよ、今 開いた隙間を慎重に開いてゆけ。

 力を取り戻せば神に戻れる》


〈私が……神……あっ!〉


《そうだ。思い出せ。開いてゆけ。

 我々は堕とされた仲間を集めねばならぬ》







輝竜家の四男・黒瑯の妻・静香は『姫様』と呼ばれています。

あんな言い方をしていましたが、黒瑯は静香が大好きなんですよ。


輝竜兄弟の妻達は、ドラグーナの使徒神をしていた龍の女神達です。

その使徒神団の長をしていたのが(ランマーヤ)で、副長が瑠璃(ラピスリ)だったんです。




 ドラグーナ

┌──┴────────────┐

……アーマル ラピスリ ウンディ……

 ┌─┴─────┐

ランマーヤ(紗) サファーナ(飛鳥)




ただ遊んでいるようでいて、その実は使徒神団長だった事から強く封じられているランマーヤを目覚めさせようと頑張っている静香(シャイフレラ)なのでした。



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