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雪の稲荷山へ



 翌早朝、爆走散歩から戻ったサーロンと悟が彩桜の部屋に入るとニコニコな彩桜が座っていた。

「えっ?」「笑ってる……」


「ん? 何か変?」


「「大丈夫?」」


「ほえ? ぜ~んぜん大丈夫だよ♪」


「だって昨日は――」「寝てないよねっ!」

「入院動物の世話!」「してたんだよね!」


「ちゃんと寝たよ~♪

 他の みんなは?」


「昨日は彩桜が戻らないと聞いて、朝の散歩組だけが泊まったんだ」

「祐斗クンと堅太クン、帰ったです」

「また来るってな」「はい♪」


「それじゃあ~、みんなが集まる前に一緒に行かない?」


「どこへ?」「行くですか?」


「キャンプー様と直接 話したいんだ」真剣。


「白竜のために?」


「うん。天罰じゃなくて助けてもらいたいの。

 だから、まずはお稲荷様トコ行ってみよ~と思ってるの」


「稲荷山に? 動いて大丈夫?」


「サーロンどぉして不安? 俺が心配?」


「えっと、まだ雪が……」

「だよな。山なら積もってないか?

 場所を教えてくれ。

 俺が行くから」「ボクも!」


「山登りなんてしないから~♪

 コッチ来て♪」


「待って!」「彩桜!」

サッと部屋を出た彩桜を慌てて追った。



 そして稲荷堂の座敷。

「コレ、通路なの。

 お稲荷様トコ行ける近道なの~♪」

パッと襖を開けた。


「ただの押入れ――あっ!」「確かに道……」


奥の壁に穴が開いた。


「神様の力で道なるの♪ 行こっ♪」


彩桜が先頭で押入れに半分入った時、渡り廊下を足音が走って来た。

「「彩桜!!」」


「あらら~」祐斗と堅太、もぉ来ちゃった~。


「何してるんだ?」「押入れに入ったりして」


【どうするの?】【困ったにゃ~ん】

とサーロンと話している間に、彩桜は祐斗と堅太に腕を掴まれて押入れから引き出されてしまった。


【正直に話す?

 昨日のも、みんなには上手く誤魔化してくれたし】


【でも神力ないと通路が使えないよ?

 山登りなっちゃうよ?】


【彩桜さえ大丈夫なら登ろうよ。

 明日と明後日はイブとクリスマスだし、青生お兄さんと紅火お兄さんのテニスの試合もあるよね?

 その次の日には彩桜はイタリーに行くんだから】


「黙るな彩桜」「何を隠してるの?」


「話すから離してぇ。

 天罰の神様に会いに行こぉとしてたのぉ」

押入れからリュックを出した。


「アイツのためにか?」


「悟には親友なんだからぁ」


「そっか。そんなら俺達も行くぞ」「そうだね」


「山登りだよ? 稲荷山に行くんだから~」


「鍛えるのにいいじゃねぇかよ♪」


「だったら登る準備して来て~」


「ちゃんと待ってろよ?」


「黒瑯兄にお弁当も頼むからぁ」


と、一旦 解散。



―◦―



 山の麓までは一部始終を聞いていた紅火が車で送ってくれた。

【気を付けて行け。帰りも呼べ】

【ん♪ ありがと紅火兄♪】

【頭痛がしたなら即座に呼べ】

【大丈夫だよぉ】【呼べ】【うん♪】



 登山道、と言っても五合目まではファミリーハイキングコースになっている緩やかな広めの道が続いている。


「おい、あれ」堅太が前を指した。


「巫女さん?」「どう見てもそうだよね」

「寒くないのかにゃ~?」「寒いですよ」


 薄そうな白の着物に鮮やかな赤袴の女性が前を歩いていた。

後ろで束ねた長いストレートの黒髪に白い雪が付いているのが、より寒そうに見えてしまう。


「でもブーツ?」「藁っぽくない?」

「積もってる想定で草鞋(わらじ)の代わりに藁靴なのかにゃ?」


「そもそもワラジなんかで登ろうとしてたってのか?」


「知~らにゃい。聞いてみる?」


「追いつけるの? 速いよ」

「あの長いのナンだろな?」


巫女は身長よりも長い、包んでいる何かを持っている。

ぱっと見の大きさは琴くらいだ。


「巫女さんならファサファサとか?」

「アレ、ナンて名前なんだろな」


「ソレも聞いてみる?」


「追いつけたらね」


とか話しながら、ずっと追い掛ける形になって登って行った。



 ハイキングなら とんでもなく異常な速さ、装備十分な登山にしても驚異的な速さで平然と登る巫女を追い掛けて、既に1時間を超えていた。


「もしかして山頂まで登るのかな?」


「間違いなく積もってるだろ?

 あの格好でか?」


「今のところ全然平気そうだよね」

「山のどこかに神社ってあるのか?」


「奥ノ山の七合目ならある~。

 昔は稲荷山にあったけど台風で何回も壊れちゃったから、稲荷山が盾なって暴風 防げる奥ノ山に移したんだって~」


「まさか奥ノ山まで、あの格好で!?」


「追い掛けてみる?

 その神社に神様いるかもだし~」


「気になるのもあるけど、女の人ひとりで行くの心配だから追ってみないか?」


「悟に賛成だ♪」「そうだね」「行くです♪」



 稲荷山の山頂に向かう本格的な山道と、奥ノ山に向かう道の分岐を巫女は迷う事なく奥ノ山へと進んで行った。


「やっぱ、その神社に行くんだな」


「息も乱れてなさそうだよね」『彩桜?』


驚いて一斉に声の方を向くと、山頂側の道を男が駆け下りて来た。


「慎也さんだ~♪」足は止めない。


「何してるんだ?」合流した。


「巫女さん追ってるの♪」「彩桜」つんつん。

「狐松先生の弟さん♪」「ええっ!?」一斉。


「君達とは、はじめましてなのかな?

 狐松 慎介の弟で慎也。

 雪と山小屋の様子を見に来ていたんだ」


「その声っ! 前に聞いたの思い出したぞ!」

「どこで?」「彩桜が押入れに入ってた店!」

「山小屋のお仕事してるですか?」


「知り合いが管理してるんだけどギックリ腰でね。

 冬場は閉めてるんだけど雪が気になると言われて来たんだ。

 で、君達は?」


「友達が神様の天罰で馬なったから~、その神様と話したくて来たんだけどぉ~、あのヒト気になるから追っ掛けてるの~」

考え考え、でも正直に。


「確かにな。

 冬の山に巫女さんは気になるよな。

 一緒に行ってもいいかな?」


「うんっ♪」「あの~」


「ん? やっぱり邪魔かな?」


「そうじゃなくて、馬になったとかスンナリ信じてくれたんですか?」


「この兄弟とは長い付き合いだからな。

 非常識茶飯事。慣れっこだよ」


「「ああ~」」納得。悟とサーロンは苦笑。


【理俱師匠、あのヒトも神様 入ってるよね?

 神様 寝てるよね?】


【だからキツネ様に様子見てろって言われて来たんだよ。

 昨日の今日な彩桜も走ってるしな】


【もぉ大丈夫だってばぁ】


【死にかけた自覚あるのか?】


【あるけどぉ、大丈夫なのぉ】


【ま、見張ってるからな。

 で、この向こうって……あの社に行くのか】


【狐儀師匠のお社だよねぇ】


【ボロ社しか見えないとは思うが……】


【神様 起きたら見えちゃう?】


【確実に見えるよ】


と話している間に奥ノ山に入ったらしく下りは終わり、また上り道になった。



―・―*―・―



 輝竜家では料理教室が始まり、男子はアトリエに追いやられていた。


「彩桜は動物病院で手伝っているとしても、体育会系4人は何処に行ったんだ?」

彩桜のパソコンを借りて調べものをしていた凌央が手を止めて呟いた。


「鍛えに行ったとか?」

冬休みの宿題をしていた直史も顔を上げた。


「どこまで体力あり余っているんだか。

 直史、解らなかったら聞いてよ。

 星琉と尚樹も遠慮しないで」


「「「有難き幸せでごじゃりましゅる~♪」」」


「恥ずかしいからやめて」


足音が上がって来た。


「遅くなってゴメン。オヤツも貰って来たよ」

カップケーキの皿とポットとカップが載った盆を少し上げて示した恭弥がペコリ。


「謝らなくてもいいよ。

 何も決めていなかったんだし。

 台所の様子は?」


「玄関でお盆を貰ったから見てないけど楽しそうだったよ」


「そう。恭弥は宿題? それとも復習?」


「両方持って来たんだ。

 教えてもらえる?」


「当然。どっちからでも。

 でも先に食べない?」


「そうだね♪」







この日は祝日で『冬の日』です。

日本は春分・秋分の日だけですが、邦和には春夏秋冬『○の日』があります。

なので冬休みと春休みは1日長い気分になれます。

ちなみに瑠璃 青生 彩桜の誕生日は『春の日』です。


この章は冬の日と その翌日にかけてのお話です。



彩桜は すっかり元気らしいです。

どこまで本当なのやらですけどね。


狐松(こまつ) 慎也(しんや)、リグーリです。

彩桜君親衛隊の一部とは会っていましたし、堅太も声だけは聞いていました。

これからチョイチョイ登場します。


巫女さんは誰? ですが、まぁ追々です。



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