一大事からの生還
【父様、お忙しいのは重々承知しておりますが、野放しにしないでください】
珊瑚をオフォクスの背に押し付けて短く詠唱し、固定した。
【ラピスリ……怒っておるのか?】
【いえ。感謝しております。
それとこれとは別です。
他の修行者に迷惑ですので。
メイにも話しておきます。
では後程お手伝いに参ります】瞬移。
「珊瑚よ。言うて解らぬのならば封じるぞ」
「イヤッ!」
「チャムが増えおったな……」溜め息。
「おじぃちゃまにシッポくっついちゃったぁ!」
ジタバタぽすぽすタンタンタタンッ!
「暴れるでない」《オフォクス~♪》ぽよん♪
「ガネーシャ様、如何なさいましたか?」
《その子もボクの子孫だよねっ♪》ぱよん♪
「はい」間違い様も無く。
《連れてっていい?♪》ぴょんぴょんぷよん♪
暫し考え……「どうぞ」
《あっりがと~♪》
鼻でスッと吸って取り、頭に乗せて弾んで行った。
静かになって安堵しつつも別な不安が過るオフォクスだった。
―・―*―・―
「あ♪ お帰りなさいです♪」
「彩桜は?」
サーロンと悟はキャンプーが警戒するからと言われて神眼を向けていなかった。
「青生お兄さんと一緒に馬白君と犬達を運んで行ったよ」
祐斗達は白久の車で輝竜家に戻ってアトリエに来た。
「白竜を!? 何処へ!?」
「たぶん青生お兄さんの病院だよ。
ショウとデュークは家だけど」
「って、動物病院だよな? どうして!?」
「悟が落ち着いたら話してやる」肩ポンポン。
「お~い後組、昼メシだ。
遅くなったがシッカリ食え♪」
「「「ありがとうございます♪」」」
「彩桜の分は運ぶから心配すんな♪」
「「「いただきます♪」」」
―・―*―・―
冬の早い夕暮れが雪雲に後押しされて早められて迫っていた頃、彩桜は処置台に横たわり、青生の治癒を受けていた。
〈あれれ?〉
「気がついた? あまり無茶しないでね」
〈腕は当たりにいったけどぉ、頭は事故なのぉ〉
「命に関わる重傷だよ。
よく立っていられたね」
〈青生兄と白久兄来た時、視野狭くて、暗くて青生兄しか見えなかったのぉ。
よく聞こえなくて、話すのも大変だったぁ。
くらくらしてたけど頑張ってたのぉ〉
「だろうね。
だから運ぶのを手伝ってと言ったんだよ」
〈ありがと~〉
「そろそろ眠ったら?」
〈ん……青生兄だぁい好き~……〉くぅ……すぅ――
「青生、彩桜は?」
もう一度、隠し社に珊瑚の様子を見に行くとオフォクスが不在だったので、戻る迄の間、魂頭部を目覚めさせる手伝いをしていた瑠璃は、まだ外来診察が休憩時間なのもあって診察室ではなく処置室に戻った。
「あ、お帰り。うん、もう大丈夫だよ。
でも確かめてもらえる?」
「ふむ」彩桜の額に手を当てた。
「処置は完璧だ。
しかし……よくこれで普通に動けたものだな」
「うん。無理をして頑張っていたらしいよ」
「心配を掛けたくないのにも程があるな」
「頑張り過ぎるから心配だよ」
「そうだな。外来には私が行こう。
青生は彩桜に付いて居てくれ」
「ありがとう瑠璃」
「ん? この犬達は?
骨折と内臓損傷を彩桜が治したのか」
処置台の下で眠っている番犬達も念の為にと治癒で包んだ。
「状態を話して馬白さんから預かったんだ。
入院室に連れて行こうとしたら、彩桜に付いていたいって」
「それで馬達は?」
「大型動物の入院室だよ。
もちろん別々の部屋に入れたよ。
竜牙には白桜が、馬白君には狐儀殿が付いてくれているから心配しないで」
「そうか。狐松先生も忙しいな」
―◦―
瞬移で運ぶ為に眠らされていた竜騎が目覚めた。
椅子に掛けていた狐松が竜騎の前に立つ。
「馬白君、此処は動物病院です。
元に戻る迄、此方で過ごしてください」
また泣き始めた。
「それは反省の涙ですか?
それとも現状を憂いての涙ですか?」
どうして馬なんだよ!
「天罰を受けたからです。
どうやら己が何をしたのかを自覚しておらず、その結果も考えられていないのですね。
竜牙号は馬白君の怒号を聞いた恐怖から心肺停止となっていたのです。
私の馬の脚を折ろうとしましたね?
そんな事をすれば乗っていた久世君も大怪我を負った事でしょう。
慎桜も、もう生きてはいなかったでしょうね。
それと、もうひとつ。
今、輝竜君は脳内損傷で手術を受けています。
故意に全力で蹴りましたね?
これだけ理由があれば天罰に十分相当するのではありませんか?」
俺の馬を呼んで何が悪い!
アイツが俺を運んだからだ!
アイツらが俺の前を塞いだからだ!
俺は何も悪くない!
「そうですか。では馬のままで居なさい」
暴れようとした竜騎は動きを封じられた。
「ただの馬として、日々 解呪を受けなさい」
意識も失った。
―◦―
処置室に事務処理を終えた藤慈が来た。
「彩桜は?」
処置台から具現化ベッドに移された彩桜は静かに眠っている。
「もう大丈夫だよ。
明日の朝には元気な彩桜に戻るよ」
「そうですか……無事で良かった……」
「そんじゃあ今夜は戻らねぇんだな?」
黒瑯も来て彩桜専用の巨大弁当箱を差し出した。
「青生が代わりに食ってくれ。
カラ持って帰らねぇと皆が心配するからな」
「彩桜の量なんだよね。どうしようかな……」
「タッパーかナンかねぇのかよ?」
〈瑠璃、まだタッパーある?〉〈持って行く〉
「持って来てくれるからね」にこにこ♪
「瑠璃さんに会えるとなると、こんな時でも笑えるんだな」
「もう彩桜は、ただ眠っているだけだからね」
「兄貴達だ~い好き♪」むにゅん♪
「ふむ。本当に無事らしいな」「うむ」
「金錦兄と紅火まで来たのかよ」
「「当然だ」」『お~い何処だぁ?』
「白久兄様ですね。私が行きます」
白久が来る迄に、瑠璃が彩桜の昼食が入っていた巨大弁当箱と複数のタッパーを積み上げて去った。
急いた足音が迫り、勢いよく開いたドアから白久は真っ直ぐ彩桜に寄った。
「やっぱ変だと思ってたんだ。
友達を俺に預けるとか彩桜らしくねぇからな。
馬白社長が居る前で蹴られた所を押さえてたくらいだから、よっぽどだったんだろ?」
「はい。ですが もう大丈夫です」
「予定通り行けるのか? 演奏できるのか?」
「大丈夫ですよ。彩桜ですから。
ドラグーナ様も支えてくださっていますから」
「そっか。青生が言うんだから間違い無ぇな」
「白久兄さん、宮東さんが――」
言い終わる前に駆けて来る靴音が迫り、ドアがノックと同時くらいに開いた。
「白久君、彩桜君は(!)?」
医師として来たのは表情から明白だった。
「無事ですよ。
わざわざスミマセン。
寝てますから向こうに」連れて出た。
―◦―
竜騎の病室に再生神姿のロークスとチャリルが現れた。
【補填用の新魂よ】
【神力の写しを抜くのだろう?】
【ありがとう。よく分かったね】
【無自覚な上に呪を受けておるのに神力だけは使えるなんぞ危険極まりないからな】
【ラピスリ様に抜いて頂いたところなのですよ】
淡く光る水晶玉を見せた。
【ならば早速】馬の背に手を当てた。
【そうね。補填しないとね】同じく。
【ありがとう。始めます】
―◦―
白久は宮東を事務室に連れて入ると、二人を見たジョーヌが席を立った。
「聞いててもいいぞ?」
「そろそろ受付に立たないといけませんので」
会釈して出て行った。
〈確認もせずに案内してしまいましたが……〉
〈ありがとな♪ 感謝しかねぇよ♪〉
「そんじゃあ甘えますか。先輩どうぞ」
ジョーヌが光で包んだ椅子を勧めた。
〈浄化光ってヤツですよね?〉〈〈だよ〉〉
返事はポケットから。
「どうして動物病院に?
金錦君は東京じゃなかったのか?
戻るくらいに重篤なんじゃないのか?」
「順に、全て話しますよ。
氷垣さんの完治にも絡みますしね。
ですが先に。
口外しないとお約束頂きます。
あと、怖いとか気味悪いとか、俺の頭がおかしいんじゃないかとか思ったら、ソッコー言ってくださいね」
「口外は当然しないよ。
馬白社長に聞かれてもね。
でも後のは……どうして?」
「常識外な話ですので」
「信じるよ。どんな話でもね。
僕も竜騎君が馬になるのを見たんだからね」
「そうでしたね。
じゃあ、まずコイツらです」
ジャケットの両ポケットから豆チワワ達を出して宮東の掌に乗せた。
「実は龍神様なんです」
「え?」ぱちくり。
〈おい白久イキナリかよ〉
〈固まったじゃねぇかよ〉
「喋っ、た……?」
竜騎は無自覚な大神の欠片持ちなので、全力で蹴れば神力を込めてしまいます。
彩桜も防護したのでしょうが、それでも生死の境をさ迷う程の大怪我を負ったんです。
青生は兄弟には話さずに彩桜の治療をしていましたが、仲良し兄弟は察知して集まりました。
そして宮東先輩も。
常識外の世界にようこそです。




