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また馬に



「あっ」


 暴れる竜騎の踵が彩桜の腕に当たり、彩桜がバランスを崩したので、今だとばかりに思いきり蹴ったのが彩桜の耳の辺りに当たった。

枯れかけの雑草の茂みに落ちた竜騎は、すぐに起き上がると全力で走って逃げた。


「竜騎!!

 困った奴だ。怪我は無いかね?」


「大丈夫です。落っことして ごめんなさい」

蹴られた耳を押さえている。

もちろん浄化と治癒の為に。


「暴れたのだから落ちたのは自業自得だ。

 その耳……」

『クラシック界の超新星』という言葉が(よぎ)る。


白久と宮東が走って来た。「「彩桜!」君!」


「だ~いじょ~ぶ♪」パー♪


「コノッ、紛らわしいんだよっ♪」肩をチョン。


「えへへ~♪ えっとぉ、竜騎君は?」


「「あ……」」キョロキョロ。「「居た!」」



―◦―



「どけ!!」


「行かせないよ」

馬に乗ったままの祐斗達が竜騎の行く手を塞いでいた。

「つーか、このまま勉強会に連れてかねぇか?」

「それがいいね」


「勉強会だと!? そんなもん行くもんか!!」

竜牙そっくり馬に向かって身を低くして突進した。


――が、竜騎は時が止まったかのように固まった。


〖馬の脚は命とも言える。

 それを折ろうとしておるのだな?

 もう許せぬ!〗

天から降った怒声が低く轟いた。


ぎこちなく四つん這いになった竜騎の身体が馬に変わっていく。


〖お前の脚を折ってやる。覚悟せよ!〗


竜騎は声は出せないが涙は出せるらしくポロポロと零していた。



「なんだか……こういう不思議なこと慣れたよね?」

「そうだね。最初の幽霊は驚いたけどね」

「あ~、あの時なっ♪」

見ていられなくて目を逸らした3人は気を紛らわせようと話していた。


チラリと視線を戻すと、竜騎は すっかり馬になっていた。

「真っ黒だね」「服がボロボロ……」

「パンツって、あんな伸びるんだな」

「今その話?」「そう言うけどなぁ」

「確かに黒に白って目立つね」苦笑。


その時、悲鳴のような(いなな)きが響き渡った。



―◦―



【キャンプー様、そこまでに】

雪雲の中に保護水晶を見つけたラピスラズリは、声を掛けてから上空へと瞬移した。


〖今ピュアリラ……ではなく男神か?〗


【器の少年を許し、導く事こそ神の道ではありませんか?】


〖何者だ!?〗


【今ピュアリラです。

 神にとって性別なんぞ自在のもの。

 大した事ではありますまい。

 社に戻り、本日の解呪をお受けください】


〖器の解呪は?〗


【明日に。それまでは反省させるべきでは?】


〖ふむ。よかろう〗


【では】保護水晶を確保した。【参りましょう】


〖その前に聞きたい〗


【何でしょう?】


〖その姿は、私が結婚の絆を結ばぬようにか?〗


【私の夫は、下で馬を蘇生している人です】


〖絆が……出来ている……〗


【はい。ケイロン様に結んで頂きました】


〖そう、か……〗


なんだかシュルシュルと縮んだように思えたが、キャンプーが黙ったのでラピスラズリは瞬移した。



―◦―



【えええっ!? 師匠達っ!

 キャンプー様 行っちゃったよ!?

 元に戻せるの!?】


【しゃあねぇだろーがよ。

 キャンプー様がアイツの脚 折ろうとしてたんだからよぉ】


【そうですよ。

 神でも再生不可能な程に粉砕しようとしていたのを阻止したのです。

 一晩このままでも仕方ありませんよ】


【どぉするのぉ?】


【輝竜家で預かってください。

 キャンプー様が落ち着き、彼が反省したならば解いて頂きます】


【仕方ないなぁ……】目を閉じた。


【お~い彩桜?】


【考えてるだけ~】目は閉じたまま。


【ふ~ん】



―◦―



「あ、あれは……竜騎は……?」


「信じて頂けるかどうか……ですが正直にお話ししますね。

 竜騎君は馬の神様の怒りに触れたんです。


 まず、竜牙を怖がらせた結果――」

「白久兄さん、診断結果は俺が」「――頼む」


「竜牙号は驚きと恐怖から発作を起こし、心肺停止状態になっていました。

 蘇生して落ち着きましたが、馬の神様が呼んでくださった声が聞こえなければ俺は間に合っていません。

 つまり、一度目は大目に見てくださったんです」


白久が目配せして継いだ。

「さっきのが二度目なんです。

 人が乗っている状態の馬の脚に体当たりしようと突進していた。

 当たっていれば馬も人もただでは済みません。

 ですから馬神様は竜騎君を馬にして、その脚を折ろうとしていたそうです」


「それは、あの馬達が救済を求めて阻止してくれました。

 竜牙号も一緒に祈ってくれたから免じてくださったんです。

 竜騎君が反省すれば人に戻れるそうですよ」


「反省すれば、か……」


「「信じてくださいますか?」」


頷いて複雑な心境のままの苦笑。

「私にも『許せぬ』『覚悟せよ』と低い声が聞こえたのでな」


「元に戻るまでお預かりしてもよろしいですか?」


「竜騎を……お願いします。

 竜騎と話しても?」


「ええ、勿論どうぞ。

 近くに行きましょう」



―◦―



 彩桜は先に竜騎に寄って背を撫でて(なだ)めていた。


「なぁ彩桜、降りるの手伝ってくれよ」


「あ、うん」



 降りた3人も加わって背を撫でる。

「悟が見てなくて良かったな」


「そぉだね~」


「もしかしてサッカーの時も?」

「ヒヒーーーン! なっ」

「ゴールキーパーな僕にも聞こえたよ」


「うん。だから服で隠したの。

 白久兄が急いで連れてったの」


「じゃあまた元に戻れるんだね?」


「たぶんね~」「反省したら戻れるよ」

「青生兄だ~♪ 白久兄もいる~♪」

「俺はオマケかっ」「うんっ♪」


兄達の後ろに馬白社長が見えたので頷き合って離れた。



―◦―



〈青生の治癒、もンのスゲーなっ♪〉

〈ラピスラズリ兄様と同等でしたね〉


〈ラピスリと結婚の絆を結んだようだな〉

青生を見ていたハーリィが納得したと頷いた。


あちこちから驚きの声が重なる。

〈あのラピスリが人と!? いいのかっ!?〉


〈神だと名乗ってもよい神力なのでは?〉


〈ならばジョーヌも結んで頂けるな♪〉

〈修行を頑張るのじゃぞ♪〉〈はい♪〉


〈もしかして他の兄弟も?〉


〈同じくするだろうな〉

〈ドラグーナ様も強く、保ち易くなるのでは?

 オニキスにとっても喜ばしくはないか?〉


〈そっか……だったらいいか♪〉


〈ワラワも人と結んだが如きじゃ。

 オニキスも確と修行せよ〉


〈虹香ぁ、今ソレ言うなよなぁ〉


〈黒瑯の方が強いやも知れぬの♪〉〈うむ♪〉


〈お~い虹香ぁ〉


〈何じゃ? 修行したいのかの?〉


〈・・・後で頼む〉〈うむ♪〉



―◦―



 父は彩桜達がしていたように息子の背を撫でた。

暫く無言で、ゆっくりと。


「竜騎、自分の行動をよく省みなさい。

 理解し、反省したならば元に戻れるそうだ。

 ちょうど冬休みだからな、馬のままでも生きられる場所で暮らしなさい」


父を見る息子の大きな瞳からは止めどなく涙が零れていた。


「人に戻れたならば、輝竜君の勉強会に参加しなさい。

 こればかりは有無を言わせないからな。

 まだ見捨てていないからこそなのだからな」


反応を待ったが泣くばかり。


「中身まで馬になったのか?」


ふるふると顔を横に。


「私の言葉を理解しているのなら学びなさい」


父は息子の背をポンポンとして離れた。



―・―*―・―



【本日の解呪は、ここまでに。

 では失礼致します】


〖今ピュアリラ!〗


【はい?】


〖いや……、あ、ありがとう〗


【では、また明日に】

青龍男神から龍狐女神に戻り、微笑んで姿を消した。



――社の外。


「そのお社に勝手に入るな!」

入口前で力丸が毛を逆立てて怒っている。


「ただのキツネなんかにサシズされたくないわ!

 アッチいってよ!」

「珊瑚ってば、ヤメなよ」


「オマエら何者なんだよ!」


「オフォクスのマゴ、ヒトノよ!

 マゴだから入っていいの!

 ただのキツネ! だまりなさいよねっ!」


「ただの狐じゃない! 俺は神の王の子だ!」


「王の子?」「じゃあヒトカミじゃないの!」

敵だと認識した珊瑚が攻撃体勢で跳んだ。


「そこまでだ」ぽすっ。 「なんなのっ!?」


「ラピスリ様っ!」「俺の女神様っ!」

「騒いで「スミマセン!」」


「やぁん、はなしてぇ」ジタバタ。


「紫苑、力丸。修行に戻りなさい」


「「はい!」」


「一緒に修行すればよい」


「「はいっ!」」


「珊瑚は連れて行きます」「ええっ!?」


「「はいっ!!」」


「よく頑張っているな」

優しく撫でて微笑み、去った。



―・―*―・―



「彩桜、運ぶのを手伝ってもらえるかな?」


「ん……」


「白久兄さん、後をお願いします。

 久世君、鷹前君、波希君。

 彩桜を借りるから白久兄さんの車で帰ってね」


「「「はい」」」


「青生、ンな心配すんなって。

 犬達と馬にされたコを頼んだぞ。

 彩桜? 無口なのは心配してるからか?」


「え……っとぉ~、うん。お願いね、白久兄」


「任せとけって。そんじゃあ後でな」







竜騎はまた馬にされてしまいました。

真っ黒なのは禍の影響のようです。


彩桜の様子がおかしいようですが……?



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