馬牧場予定地
【ルルクル~♪】【うん。連れて来たよ】
馬牧場予定地には白桜とウィンローズに挟まれて竜牙が居た。
竜騎が輝竜家に忍び込んで以降、鞍木と竜牙は山南牧場で暮らしていたのを白桜が運んで来たのだ。
〈ここ……あのお家……〉
久し振りの浜風に不安が押し寄せた竜牙は、前足で地面を掘っていた。
〈落ち着いて竜牙。僕達が護るからね〉
〈うん……あ! 鞍木さん♪〉
〈うん。みんな竜牙の味方だよ。
坊っちゃんも来るけど、護るからね〉
〈ありがと。頑張るよ〉〈走らないの?〉
着いた途端、駆け回っていた涼楓が戻った。
〈これから彩桜の友達を乗せるんだから落ち着いてよね。
さっき打ち合わせた通りに頼んだよ?〉
〈またカケラっての、くれるんだろ?♪〉
〈うん。あげるから落ち着いてよ〉
〈頑張るよ♪ 心配しないで♪〉
他にも竜牙そっくりな黒灰色の馬達も居る。
その正体は竜牙に偽装した獣神達だった。
【キャンプー様、現れると思うか?】
【そう思うからこそ皆で来ているのですよ】
【オニキス、兄様。器は近いぞ】
【竜牙を囲みませんか?】
リグーリとエィムが寄って来た。
【にしても職神ってヒマなのか?
リグーリだけじゃなく弟子連れて来るなんて】
狐だらけ龍だらけで夫婦だらけ。猫科少々。
【未だ解呪が完了しておらぬキャンプー様が行方知れずとは一大事ではないか】
ハーリィがフンと鼻を鳴らし、ミュムと並んで竜牙の所へ。
【そーだけどよぉ、女神まで牡馬ってぇ】
【【同じでなくば意味が無いじゃろ】】
サリーフレラとシャイフレラはオニキスを置いてサッサと集まりへ。
【置いてくなっ!】走った。
彩桜が白桜達に馬具を着けていると、白久達が到着した。
「その馬……竜牙なのか?」
馬白が首を傾げた。
「いえ。見た目は同じですが雰囲気が違います。彩桜君そうだよね?」
鞍木が穏やかに微笑む。
「うん♪ 竜牙あっち~♪
このコ、狐松先生――」【彩桜様!】
「――の馬なの~♪ 慎桜なの~♪」
「あっち? ど、どれ、だ?」竜牙だらけ。
鞍木が真っ直ぐ竜牙へ。
「ですよね?」ポンポン。
竜牙は嬉しそうに顔を寄せた。
「竜騎が同じように見分けられたなら合格という事か。ふむ」
彩桜が手伝って慎桜に祐斗を乗せた。
ウィンローズに凌央、涼楓に堅太。
「それじゃ、ゆっくりパカポコお願いねっ♪」
白桜に乗った彩桜が先頭。続いてパカポコ。
到着した竜騎が厩舎に隠れたので、その前を通ろうと向かった。
「さっきトコが放牧場で、その外ぐるっと初心者さん用パカポコ場にするの~♪
でね、コッチ側に競技コース♪
向こ~にキャンプ場――」「待てよ!!」
竜騎が両手を広げて立ち塞がった。
「ここは俺の土地だ! 勝手言うなっ!!」
「違うよ~。俺と牧丘さんのだもん。
乗馬牧場にするんだもん」
「ウルサイ!! 俺の場所だ!!
俺の馬も返せっ!!」黒灰馬に突進!
「大声、お馬さんビックリするでしょ。
このコ、狐松先生の馬だよ。慎桜。
『俺の』って言うけど誰だと思ったの?」
降りて、喚き続けている竜騎の腕を引いて止めた。
「離せ!!」
「一緒に乗らない? ちっちゃい頃みたいに」
「悟から聞いたんだろ! お前なハズない!」
「さっき犬乗ってたのも見てたでしょ?
また一緒に乗ろうよ」
破邪を全身に纏って抱き締めた。
「離せ!! くっつくな!!
俺の竜牙を返せ!!」慎桜に手を伸ばす。
「だったら竜牙トコ行こ♪」
竜騎を抱き締めたまま跳んで白桜に乗った。
【ルルクルお願い♪】【うん】
降りる隙を与えず駆けた。
〈みんなはパカポコでねっ♪〉
「えっ? 父様!? 鞍木!?」
出掛けに母がドアが開いたままの応接室で泣いているのを見ていたので、父は会社に居るものだと思い込んでいた。
その為に、遠い前を歩く小さな後ろ姿では判別できていなかった。
無言で睨んでいる父と、深く頭を下げた鞍木の前を通り過ぎた。
「鞍木……ええっ? なんで!?」
ようやく竜牙だらけなのが見えたらしい。
「竜牙も居るよ。竜桜もね」
白桜を止めて降りた。
「『俺の』って言うなら見分けられるよね?」
竜騎から離れる。
「クッ……」
「毎日 乗ってたんでしょ?
友達なんでしょ?
これから浜 行って一緒に走ろ♪」
「ウソだっ!! 竜牙なんか居ないんだろ!!」
「居るってばぁ。だから鞍木さんも居るんだよ」
「こんなの分かるなんて有り得ない!」
「俺、分かるよ。鞍木さんも分かったよ。
人混みでも友達すぐに分かるでしょ。
おんなじだよ」
「クソッ! 竜牙!! 来い!!」
黒灰馬達は竜牙に動きを合わせてビクンとした後、ジリジリと距離を取り、散り散りに走って逃げた。
「大声ダメでしょ」
「俺の命令を聞け!! 来い竜牙!!」
どんどん離れる。
が、1頭が止まり、他の馬達が集まった。
〈どしたの!?〉
〈治癒するから心配すんな〉
〈オニキス師匠、不整脈?〉
〈ストレス起因の心臓発作だが案ずるな〉
〈ラピスラズリ様だ~♪ じゃあ安心♪〉
〈おい彩桜コノッ〉〈正当評価だな〉
〈ハーリィまでっ〉神達の笑いが湧く。
その笑い声が明るかったので、ようやく彩桜も安堵した。
しかし、その隙に竜騎は黒灰馬達の方へと走っていた。
彩桜が追う。また腕を掴んだ。
「今はダメ。ちょっと待ってよ。
雰囲気で解るでしょ」
「ウルサイ離せ!!」
「だから大声ダメだってばぁ」
竜牙は気を失っているらしく、両側を支えられていて足が地に着いていなかった。
「ビックリし過ぎて危なくなってるの。
静かにしてよね」
前の道に止まった車から、診察衣に羽織った白衣を靡かせて青生が走って来た。
「彩桜、その子を下げて。
必ず助けるから」
「うん、お願い。行こ」
「あれが竜牙なんだろ!
当たったから行くのを邪魔するんだな!」
「そぉじゃなくてホントに危険だから――」
「竜牙は俺の馬だ!!」
暴れて彩桜を突いたが、彩桜は微動だにしなかった。
「落ち着いてよ。今はダメだってば」
「離せ離せ離せっ!!」
「そこまでだ竜騎。
もう竜牙は譲渡した。竜牙の為にな」
「父様……どうして……?」
「この状況を見て判断した。
竜牙の不整脈は良くなっていたそうだ。
だが竜騎の声で立てなくなる程の発作を起こした。
もう、お前が乗るべきではない」
「そんな……」
「先日、山南牧場での竜騎の馬の扱いを見て、竜桜の購入もキャンセルした。
竜桜にも持病があるからな。
馬の扱いを、思い遣りを覚えなければ竜騎に馬は与えない。
この土地も手放した。
そもそもお前の土地ではなく私の土地だ。
好き勝手を言っているのは竜騎の方だぞ。
鞍木君の人生にも口を挟むな。
お前が解雇したのだからな」
「鞍木……戻ってくれないの?」
「勝手に解雇しておいて何を甘えている。
此処は既に輝竜君と鞍木――ではなく牧丘君の土地だ。帰るぞ」
「え? 鞍木じゃない?」
「お前の為に学んだ知識を高く評価して頂いたそうだ」
「そうなの。馬に関する知識の深さに惚れ込んじゃって♪
それに、人にも馬にも とても優しいし♪
この土地の事とかもあって、とりあえず入籍だけ先に。
だからもう――」「牧丘 巧馬になりました」
一緒に深く礼。
「まだ半分は輝竜さんの土地だけど、必ず全て私達が買い取るわ。
二人三脚で大きくしていくつもりよ♪」
「僕を見捨てるの……?」
「竜騎が不名誉な辞め方をさせたのだろう?
言動には責任を持て。行くぞ」
「イヤだっ!! ここは俺の場所だ!!
竜牙は俺の馬だからなっ!!」
暴れて父の手を払って突き飛ばした。
その勢いで馬達の方に行こうとした時、犬達が並んで見ているのが視界に入った。
我王と義王がサッと逃げる。
「待て! 父様、我王と義王がっ!」
「最近イジメてたでしょ」彩桜が睨んだ。
「我王と義王、坊っちゃんには抵抗できないって言ってた。
痛いけど我慢って言ってた。
骨折してたから治したけど何したの?」
「お前なんかに何が分かる!! 離せよ!!」
「外出禁止でイライラして八つ当たりでしょ。
分かってるでしょ?」
「ウルサイ ウルサイ ウルサイ!!」
大暴れするので彩桜は重量挙げのように担ぎ上げた。
【オニキス師匠、狐儀師匠。
俺まだやんないといけないのぉ?
こんな役ヤダぁ~】
【キャンプー様が現れる迄お願いしますね】
【頑張れよなっ♪】
【面白がらにゃいでぇ~】
「輝竜君、そのまま車に乗せてもらえるかな?」
「は~い」
【おい彩桜、ややこしくなるから帰すなよ。
途中で落として逃がしてやれよな】
【は~い】
怪我させないよ~に?
不自然ならないよ~に?
暴れるから難しいんだけどぉ~。
あ♪ あの草トコならいいかな♪
竜騎を誘き出すのには成功しましたが、竜牙が発作を起こしてしまいました。
青生と瑠璃が揃っているし、獣神だらけなので大丈夫でしょうけど。
行方不明のキャンプー様には現れてもらわないといけないし、竜騎には改心してもらいたい。
彩桜達、大変です。




