表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
400/870

犬に乗って南へ



 執事長の隅居(すみい)から許可を得て、彩桜達は まだ雪が舞っている馬白家の庭で遊び始めた。


 銀河(さらら)は悟を待とうと、玄関脇の山茶花(さざんか)の近くに行って本を読み始めた。


聖良(せら)さん〉〈えっ?〉


不意の声に顔を上げると、サーロンが皆の荷物を運んで来て近くの木の根元に(まと)めて置いたところだった。

〈やっぱり話せるんだね〉

まだ荷物が倒れないようにごそごそしている。


〈もしかしてサーロン君も……私と同じ?〉


〈うん。ずっと気になってた。

 ユーレイなんだよね?〉


〈気づいてたのね……〉


〈うん。ボクもユーレイだから〉


〈サーロン君、いくつで?〉


〈8歳の誕生日に。交通事故で〉


〈私、4歳で。山で落ちちゃって〉


〈じゃあ先輩だね。

 その偽装と具現化はキツネ様?〉


少し考えてから小さく頷いた。

〈動かない自分を見て泣いてたら、大きな白い狐さんが咥えて背中にポンッて。

 顔を上げたら神社の中みたいな場所で『まだ早い』って。

 他にも何かお話ししてくれてたけど、覚えてるのは、それだけ。


 気がついたら病院で、お父さんとお母さんが目を開けたって喜んでたの。

 途中の木に引っ掛かってたって。

 10日も眠ってたって。

 だから夢だったのねって思ってた。


 でも……次の誕生日の夜に狐さんが来たの。

『身体を成長させねばならぬ』って。

 それから半年毎に その繰り返し。

 去年の誕生日に聞いてみたら、ユーレイだと教えてくれたの。


 文化祭の少し前が誕生日だったから、また狐さんの所に。

『今後は修行し、己が力で姿を成せばよい』って。この腕輪を貰ったの〉


まだ着けていない腕輪をポケットから出して見せた。


〈この霊体が掴めるようになりなさいって。

 修行の仕方を習うのに1週間くらい居たわ。

 その間『私』は盲腸で入院してたらしいの。

 私、ユーレイなのに……これからも生きてていいのかな?

 生きてる人達、騙してるのかな……?〉


〈そっか。それで悟クンと付き合うの躊躇(ためら)ってたんだね。

 ボクの婚約者、生き人だよ。

 大丈夫だから踏み出してね〉


〈普通に生きていられる?〉


〈うん。大丈夫だと信じてるよ。

 結婚して、一緒に歳を重ねるつもり♪

 それに、他にも居るから安心してね〉


〈3年生の双子のお姉さん?〉


〈うん♪ 彩桜ん家に住んでるよ♪

 あっ、悟クン出てくるから行くねっ〉

走って皆の所へ。


〈ありがとう!〉


玄関扉が開く。

「あれ? 銀河ちゃんだけ?」


「みんなは犬と遊んでる♪」


「どうして離れて?」


「待ってたの。行きましょ♪」

悟の荷物を自分のと並べて、手を引いて走り出した。


「走っていいのか!?」


「大丈夫♪ もう大丈夫よ♪」


 運動するの怖かったけど

 サーロン君は思いきり運動してるもの♪


「何かあった?」


銀河は足を止めて振り返った。

「うん。でも……24日に♪」


「え?」


「早く行こっ♪」また走り出した。



―◦―



【サクラ~、ガオウとギオウがね~】


【うん。俺も気付いた。

 だから聞いてみたんだ。

 ちょっと計画変更。一緒に行こっ♪

 白久兄と青生兄にも伝えたからね♪】


【うんっ♪ ありがとサクラ♪】



―◦―



「ナンだよアイツら……俺の家で騒ぎやがって」


外からの楽し気な声に引き寄せられるように見ていた竜騎は、窓下の壁に八つ当たりしてからベッドに戻った。



―◦―



「え? 乗るって……?」


「祐斗はデューク、堅太は我王、凌央は義王♪

 一緒に来て~♪」

彩桜はまたショウに乗っている。


「祐斗と凌央ならまだしも俺なんかが乗ったら潰れちまうだろ」


「だ~いじょ~ぶ♪」〈うんうんへ~き♪〉


「で、どこに行くの?」


「い~から~来て~♪」もう門に向かっている。


「ま、待って!」祐斗がデュークに乗った。

「デューク大丈――わっ!」デューク走る。


「おいっ!」「待って!」

乗る、即、走る!

「「わあっ!」」


「サーロン、みんなをお願いね~♪」

言い終わりが門から出た時。


「は~い! 行ってらっしゃいです!♪」



―◦―



「ウソだろ……」


また見ていた竜騎だった。



―・―*―・―



 山南牧場で話した後、白久達は港近くの浜を見、厩舎と鞍木が住んでいた家だけがポツンと建っている空き地に行った。


「此処が乗馬専用牧場予定地です。

 浜が近いので牧場にも防砂林を植えます。

 観光用、競技用馬の飼育と調教が主な目的。

 あとは子供達の遊び場です♪

 馬を身近に感じてもらいたいんですよ」


「目的は良いと思うよ」で、僕は?


「この北に、広い道に面した空き地があるんですよね。

 土地が一段高くなっていますから、此処からだと壁にしか見えませんけどね。

 病院を建てたら、病室から馬が見えます。

 上階だったら海も♪

 いい感じじゃありません?

 あ、臭いは強力空気清浄機を牧場に配置しますのでご安心を♪」


「ウチの牧場で臭いを感じましたか?」


「言われてみれば……全く」


「此方も同じになりますよ」

「で、この家は新婚さん用に建て直します。

 馬も複数になりますから厩舎も大きくして、従業員用の家も近くに建てます。


 少し北東に小中学校があって、周辺には住宅もそこそこあります。

 病院が建てば周りに店も建つでしょう。

 住宅も増やしますよ。

 ウチはそういう会社ですからね♪

 では、このまま近くを散策しましょう」



―・―*―・―



「ね、もぉ過去の話、しないでよ」

公園で犬達を休ませると止まった彩桜が3人に困ったような笑顔を向けた。

「俺、と~っても丈夫でしょ。

 それに……もぉ気付いてると思うけど、怪我なんて簡単に治せちゃうんだ。

 だから気にしないでよ。

 もぉ忘れてよ。

 俺、今と~っても幸せなんだから。ね?」


「それで俺達3人だったのかぁ」

「首謀者だからね」「うん……」


「首謀者なんて悪い言葉 使わないでぇ。

 友達でしょ?」


「そんなら……1発ブン殴ってくれ。

 過去をブッ飛ばしてチャラにしてくれよ」

「それがいいね。スッキリしそうだ」

「うん、そうしてよ。お願い」


「やぁだぁ~」


「治してくれりゃ誰にもバレねぇよ」


「ダメなのぉ。イヤなのぉ」ぐすっ――


「お~い泣くな。

 またイジメてるみたいじゃねぇかよ」


「うん。俺イジメられてるぅ~」


「おいおい」


「そんなコト言うなら俺、サーロンと一緒に漢中国 行くもん」


「「「ダメッ!!」」」


「だったら友達。殴るナシね?」


「しゃーねぇな」

「スッキリしないんだけど?」

「でも仕方ないよ」


「お・と・も・だ・ち~♪」ぴょんぴょん♪

その勢いのままに、またショウに乗った。

「行こっ♪」


「え? この話するのに離れたんじゃないの?」


「ソレもだけど、目的地もあるの~♪

 早く乗らにゃいと犬達 連れてっちゃうよ?」


「うわっ!」「待って!」「乗るから!」



―・―*―・―



「住む人を集めるには仕事がないとね。

 という事で、数社と交渉中です。

 呼び込めたら一気に動きますよ」


宮東(くどう)が溜め息をついた。


「先輩? どうかしましたか?」


「白久君を医者に、というのは諦めざるを得ないと思ったまでだよ。

 そんなに目を輝かされては溜め息しか出ないよ」


「ま、俺なんかヤブにしかなりませんから♪」

『白久兄~!♪』


白久が大きく手を振る。


「何に乗って……犬!?」


「今日のところはドッグランでもいいですよね♪

 牧場予定地に戻りましょう」



―◦―



【サクラ♪ みんなを包んでる光は?

 落っこちないよ~に?】


【ソレもだけど、破邪も。

 悪い思い出、消えろ! って。

 弱禍の置き土産だから】


【そっか~。早く消えるといいね~】


【うん。

 ね、我王と義王の神様は?

 よく見えなかったけど最初 居たよね?

 写しなってるよね?

 お稲荷様が抜いたの?】

毎朝、馬白家前を爆走しているので随分前に気付いていた。


【この前、お空の散歩した時だと思う~。

 僕達、寝ちゃったんだ~】

記憶に蓋をされたらしい。


【そっか。

 ま、写しでも大ケガ防げてるからいいよね。

 デュークには犬の神様が力くれたの?】


【うんっ♪

 ナンジョウさんのお弟子さんのサトルが来て、話しやすくしてあげるって♪】


【そっか~♪】


【フツーの犬に乗っちゃダメって話しといた方がいい?】


【そぉだね~♪ 後で話すねっ♪】

「白久兄に追いついた~♪」


「おう♪ 先 行って走ってていいぞ♪」


「うんっ♪」〈まだ走る~♪〉

ショウ達は大人達を追い越して牧場予定地に向かった。



 随分と後ろに全力で飛ばして来ている自転車を見つけて、白久は小さく笑みを溢した。


鞍木も馬白も気付く。


「まだですよ」囁いて目配せ。


小さく頷いた二人は前を向いた。







我王にはクーゴソンの魂手、義王には魂足が入っていたんですけど、神力の写しと置き換えた後ナスタチウムに乗って空を散歩している間に、眠らされて記憶に蓋をされたようです。(15章)


彩桜はその時ドラグーナの中で寝ていました。

一晩中、馬白家上空から破邪を当てて疲れて眠っていたんです。

そのずっと前から毎朝 通るので感知して気になっていたんです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ