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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第一部 第1章 ショウと力丸
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慈愛の女神ラピスリ



 封じられていた神アーマルが目覚めた。


〈ウンディの事は思い出せたか?〉

子狐(フェネギ)が根元近くまで降り、視線で『座らないか?』と示した。


アーマルは応じて座り、記憶の糸を辿った。


〈ウンディ? ウンディ…………そうだ!

 ウンディこそ今どうしている!?

 僕が人として生きたのならば、ウンディもそうなのだろう?

 僕はウンディと同罪となった筈だよな?

 しかし……こうも思い出せぬとは……〉


〈思い出せなくて当然だよ。

 記憶は抜き取られているのだからね。

 その断片的な記憶は、切り離せず残っただけのもの。

 それだけ思い出せれば十分だよ〉


〈そうか……断片であったか……〉


〈再生の神としての記憶は?

 此れから自身を再生せねばならぬが〉


〈どうやら神としての基本的な部分は残っているようだ。

 再生ならば大丈夫だ。

 しかし神でない者に再生したならば、この記憶は再び閉ざされてしまうな〉


〈また思い出せばよかろう?〉


〈その通りだな。

 フェネギとゆっくり話したいところだがランマーヤが気掛かりだ。

 話は神に戻れた後としてよいか?〉


〈元より其のつもり。急ぐとしよう。

 ウンディまでも連れて来られぬようにもね〉


〈そうか。無事なのだな♪ ん?

 まさか利幸(としゆき)か!?

 もしやフェネギ、我等を共に生かせてくれたのだな?〉


〈オフォクス様が百年も前から備えてくださっておられたのだからね。

 ドラグーナ様も七つに分けられはしたが兄弟として共に暮らしておられるよ〉


〈そうか。

 では僕も再生し、備えねばならぬな〉


〈今後も友として表立っては協力出来ぬが、私も此の姿で力を尽くすと誓おう〉


二神は心眼のみで仰ぎ見た。

神眼にしなかったのは相手に気取られない為だ。


〈樹の上に来ていた子供……降りて行ったようだな〉


〈先回りするつもりらしいね〉


彼奴(あやつ)の息子なのであろう?〉


〈三千分の一の、だよ〉


〈そんなにも増えたのか?〉


〈其れ(ゆえ)に作りは雑だ。

 ま、人世の方が仲間は多い。

 案ずる要は無いよ〉



―・―*―・―



 コレ……結界ってヤツ? 何の?

 でも……この下に行かなきゃ。

 さっきの狐と人の感じ、こっちなんだもん。


 ほとんど聞き取れなかったけど

 アーマルって大悪神(ワル)だよね?


 捕まえたら父様もお認めくださるかな?

 今なら人だから捕まえられるよね?

 僕は神なんだから。


 人もこの縄で捕まえられるのかな?

 でも神だから……う~ん……

 考えるより~、やってみよ~♪


 うん。入れた♪

 アーマルのニオイ……こっちだ!



―・―*―・―



 アーマルとフェネギが現世(うつしよ)の門に着くと、柱に隠れていた神が手招きした。


〈やあ、リグーリ。

 なかなかに良い変装だな〉


老神(ろうじん)が嬉しそうにニヤリとした。

〈アーマルこそ。

 飛翔としての猫の被り具合は感服ものだぞ〉


〈あれは素の飛翔だ。

 僕は何もしておらぬぞ〉


〈利幸はウンディのままだが?〉


〈確かにな♪〉はははっ♪


〈封じられ度合いが違うのやも知れぬな〉

子狐が小首を傾げて思案する。


〈ああそうか。

 トビキリの賢神だから厳重に封じられてもおかしくはないな〉

爺様が合点したとポンと手を打つ。


〈またその飛翔に戻らねばならん〉

肩を竦めて苦笑した。


〈ならば儂も老神リグーリに戻らねばのぅ〉

〈私は愛らしい子狐に徹するとしよう〉


再会の喜びもあって、ひとしきり笑い合うと真顔に戻り、頷き合った。


〈早く、堂々と笑い合える世にせねばな〉

〈生きておる事が肝要だ。()すれば叶う〉

〈次代も育っている。だから()ぐに叶う〉

拳を挙げ、共にと誓う意味で互いの甲を合わせた。


〈次代とはエィム達か?〉

降下を始めた。


〈そうじゃよ。儂が指導しておるんじゃ♪

 なかなかに優秀じゃぞ♪

 基礎を叩き込んだアーマルの素晴らしさが輝いておるわぃ。


 しかもオフォクス様が見事な相方をお生みくださってのぅ。

 力も真反対なら、性格も真反対じゃ♪

 二神(ふたり)のこれからが楽しみじゃよ♪〉


〈ミュムは? エィムと並ぶ秀神であろう?〉


〈ミュムは再生に進んだんじゃ。

 じゃからハーリィが付いとるよ〉


〈そうか。ハーリィならば確かだ。

 僕の弟子の中では群を抜いて堅実だからな〉


同代(どうだい)の中でも随一じゃよ♪〉



―・―*―・―



何奴(ナニヤツ)!?」


〈そう敵意剥き出しで問われて答えるなんぞと期待しておるのか?〉


 ショウフルルはアーマルの気配が強く残っている場所を目掛けて真っ直ぐ飛んでいた為に、建物なども無視して通り抜けていたのだが、唐突に首根っこを掴まれ、止められてしまっていた。


「僕が誰だか知っての狼藉か!?」ジタバタ。


〈ふむ。ティングレイスの子なのだな?〉


「父様を呼び捨てにするなんて――」


〈神の王なんぞと認めてはおらぬからな〉


「お前っ、父様に歯向かう堕神だなっ!」

神を捕獲する為の唯一の武器である縄を手に身構えた。


〈その通りだが、その様子では人世(ひとよ)は敵陣だという事すら教えられていないのだな〉


「えっ……敵陣、なの?」


〈堕神だらけにしたのはティングレイスだ。

 それなのに味方になると思うのか?〉

子神の手の縄を消した。


「悪さしたから堕神にされたんだろ!?」

しかし縄が消された事に気付いていない。


〈憐れなものだな〉


「なっ……僕の問いに答えろ!!」


〈人の魂でも、もっと精製するぞ。

 欠片(にごり)だらけの粗悪な魂に、ほんの形ばかりの神力(ジンリョク)、か……〉

その僅かな神力を引き上げ、心話が出来るように導いた。


〈無礼なっ!〉

すんなり心話に移ったが気付いていない。


〈『王子』という肩書きだけを与えられた雑兵、か……〉

これまでは言葉を送り届けていたが、通常心話にした。

そして魂を探り始めた。


〈黙れっ!!〉


〈そうか。その欠片……ふむ〉


〈黙れと言っているのが――〉


〈聞こえてはいる。が、愚かな言葉に耳を貸す程に暇ではないのだ。

 学ぶのは好きであろう?

 学びの場を与えてやろう。

 愛に触れた事すらも無さそうだからな〉


ショウフルルはまだ暴れていたが、簡単にクルリと向かい合わせにさせられた。


見上げると、やわらかく暖かな微笑みを(たた)えた女神が手を伸ばしてきた。


ショウフルルの動きが止まる。

何か武器を出せば容易に攻撃できる近さ。

そう、頭では分かっていても全く動けなかった。


 あ……この感じ……って何?

 あったかくて……嬉しい!


 えっ? もうおしまいなの?


頭を撫でてくれていた手を追って、更に見上げると、女神はフッと笑って包み込んでくれた。


 あったかい……さっきよりずっと――



―・―*―・―



〈其の欠片は此度(こたび)も連れたままなのかな?〉

頭と胴を合わせたよりも大きな(ふさふさ)が嬉しそうに揺れている。


〈友の父であり、僕の師なのだから集めて当然であろう?

 僕自身の力は封じられているから反発も阻害もしない。

 丁度良いとも言えるのだよ〉

師の子達に微笑みを向けた。


〈で、幾つ集めたんじゃ?〉

老神に徹しているリグーリが覗き込む。


〈まだ3つだ。次生はもっと集める。

 10も集めればトリノクス様ならば復活なさるであろう〉


〈ウンディに2つ込めているよ。

 先程の子供にも父を感じたが……〉

子狐(フェネギ)が目を細めて考え込む。


〈欠片すらも精製せずに神の魂とするなんぞ、(おの)が子にすら愛も情も無いのだな。

 それで三千も生んだのならば個々なんぞ覚えておらぬのであろう?〉


〈その通りじゃよ。

 己が手足として作った迄じゃ。

 側近達からは王子とチヤホヤされてはいるが、憐れな存在(もの)じゃよ〉



―・―*―・―



 ショウフルルが もそもそと顔を上げると女神が微笑んだ。


〈コレ……何? とっても……嬉しいんだ〉


〈心が暖かくなったか?〉


〈うん。初めてなんだ。

 こんなふうに、、あったかくなったの〉


〈残念ながらお前の父は、ただ都合のよい手足として子を量産しただけだ。

 お前の存在も個としては認識しておらぬ。

 雑兵のひとり。それだけであろう。


 人世で生きる堕神に何が分かる、と思っているのであろうが、遠く離れているからこそ見えるものもあるのだ。

 証拠と言うのならば、その魂の粗雑さ。

 それだけで十分であろう。

 神の力と欠片の力は反発する。

 稀に協調するが、悪くすれば打ち消し合った末、神としては無力となり堕とされる。

 それでも構わぬと……その意思の現れだ〉


〈僕……そんな……〉


〈泣くな。

 未だ幼いお前には希望も未来も、幾らでも選び進んで行ける道が在る。

 人世で生き、学んでみぬか?〉


〈僕を……堕神にするの?〉


〈学んだ後、戻りたければ戻ればよい〉


〈そんな簡単に……〉


〈個を認識されておらぬのだから容易く王子にも戻れよう〉


〈僕の魂って濁ってるの?

 今さら浄められないの?〉


〈想いの欠片ならば、想いを充たしてやれば昇華する。

 堕神の欠片は、その神を超えれば己が力にも出来よう。

 遥かなる道程(みちのり)だがな〉


〈修行……すればいいの?

 でも、どうやって?〉


此方(こちら)で生きてみる気になったのならば、良い師に会わせてやろう〉


〈うん。僕、もっと知りたいんだ。

 だから……お願いします! 女神様!〉


〈私は慈愛と再生を司るラピスリ。

 人の世で生きる為、神としての過去は封じるが、よいか?〉


〈はい! お願い致します、ラピスリ様!〉







先回りしてアーマルを捕らえようとしたショウフルルは、慈愛の女神ラピスリに捕らえられてしまいました。



アーマルと話しているフェネギとリグーリは、アーマルが欠片を集めている師トリノクスの子です。


四獣神トリノクスは堕神とされた後、浄魂され、今は『堕神の欠片』の状態なんです。



アーマルは四獣神ドラグーナの子で、ウンディはアーマルの弟で親友です。


四獣神の子供達は同時期に生まれた集団を『同代(どうだい)』と呼んでいます。

同代長子アーマルを支え、堕神とされているドラグーナまでもが浄魂されないようにと戦っている同代達なんです。



職域・浄化域で行う『浄化』は、本編でソラが使っていた浄化力とは異なり、死魂を魂の素材に戻す全作業を言います。

魂の浄化の中心的作業が、魂から記憶や想いを分離して素材に戻す『浄魂』です。


その魂の浄化を邦和では『成仏』と捉えているんです。

たぶん、過去の死司神達がそう教えたんでしょうね。



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