犬に乗った少年、再び
「牧丘さん、ど~もご無沙汰してます♪」
山南牧場の事務所には牧場主と娘が居た。
「ああ輝竜さん。向こうでお待ちですよ」
小屋の方を指して、娘と一緒に席を立った。
「スミマセンねぇ、場所をお借りして」
一緒に歩き出す。
「そもそもは輝竜さんの小屋ですから遠慮なくですよ」
「ありがとうございます♪」
「ええっと白久君?」
「山南牧場の牧場主、牧丘さんとお嬢さんの歌音さんです。
先輩が見えたと受付から聞いて、ちょっと連絡しておいたんですよ」
「んん?」
「ま、どうぞ♪」ドアを開けた。
「馬白さん!?」
「その隣が鞍木さん。
南渡音の浜近くに山南牧場の乗馬練習場を作る予定でしてね、鞍木さんには其処の責任者をお願いしようと思っているんです。
スポンサーとして馬白さん。
所有していた土地をご提供くださったんですよ。
で、先輩の病院候補地も近くなんです」
話しながら席に着いた。
「そこで僕に繋がるのか。って!
最初から僕の話を予想していたのか!?」
「そうであっても、そうでなくても加わってもらいたかったんですよ」
「そうでなくても僕に? どうして?」
「先輩も竜騎君が気になっていますよね?」
「それは確かに……」
「では、話を進めましょう」
―・―*―・―
悟達は馬白家に着いた。
〈サクラ~♪〉
「あれれ? ショウだ~♪」「デューク!?」
広い庭の遠くから大型犬達が駆けて来た。
〈サクラとユートも遊びに来た~♪〉
「お見舞いに来たんだってばぁ」
【犬な神様達ウチから引っ越し?】
【修行で浄化するんだって~♪】
〈まだ寝てるよ?
出て来ないだけかもだけど~〉
「たぶん閉じ籠ってるだけだよ」
悟が悲し気に答えた。
『いらっしゃいませ』〈僕の友達~♪〉
ショウが玄関に向かって走った。
〈入れてあげて~♪〉フリフリフリ♪
「隅居さん、竜騎君は?」
ショウを追う形になった悟が尋ねた。
隅居は残念そうに目を閉じ、小さく首を横に振った。
「ですが奥様がお待ちですので此方に。
皆様もどうぞ」
輝竜家の居間とは また違った豪華さの応接室に通されたが、悟はどうしても竜騎と話したいからと部屋に行かせてもらい、彩桜も追った。
「これ、連絡物です」
祐斗が悟から預かった物を渡した。
「ありがとう。
この厳重なのは通信簿ね。
失礼するわね」
封を開けて一瞥して溜め息。
「あら、ごめんなさいね。
皆さんとは大違いなのよ」
「ですから勉強会に誘いに来たんです」
「俺の通信簿、1学期と比べてください」
堅太が堂々とテーブルに広げた。
「これは……その勉強会の成果かしら?」
「はい。ほぼ2だったから親から部活停止 喰らう寸前だったんです。
助けてもらって4と5になったんです。
なんせ1位から4位まで揃ってますから」
「「そこまで言わなくていい」から」
凌央と祐斗が身を乗り出した堅太を引いて座らせた。
「この2人が3位と4――」「「いいからっ」」
「空沢君を追った輝竜 彩桜君とサーロン君が満点で1位です」
「沙都莉サンキュ♪」
「「サーロン大丈夫?」」「はい」苦笑。
「俺達、今は仲いいけど、こーなったのは最近なんです」
「そう繋げるんだ」「おう♪ 祐斗の真似だ」
「それまで僕達は彩桜をイジメていたんです」
それならと祐斗が継いだ。
―◦―
「白竜、起きてるんだろ。開けてよ」
悟はドアを叩きながら呼び掛け続けていた。
彩桜は竜騎が警戒するだろうからと、ドアを開けた場合を考えて離れて見ている。
「白竜! 返事してくれ!」
『もう友達でも何でもない! 来るな!』
「元気そうだな♪」『ウルサイ!!』
「馬になりかけた時の、覚えてるか?
彩桜とサーロンが上着脱いで被せて隠してくれただろ?
お兄さんも協力してくれて、馬みたく叫んだのも全部、過呼吸って事にしてくれたんだよ。
なぁ、意地張ってないでコッチ来いよ。
白竜だって、犬に乗ってたコ捜してただろ?
会えるから来いよ」
『そんなエサに乗るかっ!』
「エサじゃなくて本当だから来いって」
『騙されるもんか!!』
〈悟、キャンプー様が怒ってるから今日は そこまでに。ね?〉
〈そうだな……〉
―・―*―・―
その頃キツネの隠し社では――
《おいキャンプー、そんな怒る事か?》
不穏を纏う浄化用の保護水晶をツンツン。
《ビシュヌ様……》
《ん? その気……器に怒りじゃなく、落ち込んでるのか?》
《そ、そのような……》
《悩んでいるのか? 話してみろよ》
《どうかしたのか?》
《負の感情が漂っていますよ?》
ブラフマーとシヴァも寄って来た。
《そうだろ。
キャンプーが何やら抱えているんだ》
《何ナニ何~♪ 悩みって何~?♪》ぽんっ♪
《ガネーシャ、お願いがあります。
向こうに参りましょう》
《は~い♪ 父様♪》ぽよん♪ ぱよん♪
《離してくれたのだな?》《おそらくな》
離れる象神父子を見送っていたが、キャンプーに向き直る。
《《で、どうした?》》
《いえ、別に……何も悩みなど……》
《無いとは言わせぬぞ》《ほら言えよ》
《ありませんてばっ!!》霧を纏った。
《おいっ!》《水晶ごと消えるとは……》
《捜すか?》《不穏を撒き散らかされては困る》
《確かにな》《シヴァの代わりが必要だな》
《そうだな》《誰が良いか……》
ビシュヌとブラフマーは目覚めていない魂頭部の方が圧倒的に多く、目覚めていても未だ半覚醒状態な者も多い社内を見回した。
忙しくしているケイロンからは微笑み返されただけだった。
《今ピュアリラは来んのか?》
《昼間は人として忙しいのでは?》
諦めて自分達だけでキャンプーを捜し始めた。
―・―*―・―
祐斗と堅太が陸上部に話したよりも詳しく過去を話し終えた時、悟と彩桜が戻った。
「竜騎は……やっぱり……」
「でも少し話せました」
「お返事あったから前進です♪」
「そう……ごめんなさいね」
「3学期末のテストには間に合わせます」
「俺達も友達なりますねっ♪」
「こんなに良い人達に囲まれているのに、あの子ったら……」
「誤解なだけですから、これから解ってもらいます。
諦めませんから」
「可能性を閉ざさないよぉに挑み続けます♪」
「狐松先生の言葉だね♪」「だなっ♪」
「僕達も諦めませんから」「おうっ♪」
祐斗と堅太がハイタッチ♪
「実は、南渡音中学校に転校させ――」
「ソレはダメです!」一斉!
竜騎の母は初めて笑みを溢した。
「ええ。ありがとう。
転校させようかと思っていたの。
でも、このまま様子を見るわ。
可能な限り、この家にも戻ります。
ですから竜騎をお願いします」
ゆっくりと深く頭を下げた。
中学生達は慌てて口々に騒ぎ、まだ立ったままだった悟と彩桜が身体を起こさせた。
「俺達が友達なりたいだけですからぁ」
「僕達は友達に『なる』だけど、彩桜と悟は『戻る』だよね?」
「ん?」
「この前、話してたじゃないか」
「あ♪ 凌央ありがと♪ うん戻る~♪」
「それは?」
「大きな犬に乗ってたチビッ子ですよ♪」
不思議そうに首を傾げていた竜騎の母に悟が笑顔で説明した。
「あら……ええっ? 実在したの?」
「はい♪」「えへへ~」
「僕達の母も彩桜が毎日 犬に乗って出掛けていたのを見ていたそうです」
「そぉなの?」
近所の一団、笑顔で頷く。
が、すぐに曇る。
「危険だから僕達には見せないように必死だったらしいけど」
「そぉなるよね~」にゃはは。
〈大きな犬ダメ?〉
ショウがドアを開けて入って来た。
続いて ぞろぞろ大型犬。
「デューク!」祐斗が出そうと走る。
〈ちゃ~んと足 拭いたよ~♪〉
二足立ちして両手パー♪
〈みんなも拭いてあげた~♪〉
【ソラ~♪ お兄、ヒトいっぱいで小さくなってるから大丈夫だよ~♪】
【ソレ言いに来てくれたの?】【うん♪】
「ショウてば~♪
ビックリしちゃってるから外で遊ぼ~ねっ♪」
〈うんっ♪ 乗る?♪〉「いいの!?♪」
〈もっちろ~ん♪〉「ありがとショウ♪」
サッと乗り、
「それじゃ失礼しま~す♪」
笑顔満開で手を振って出て行った。
「僕も失礼します!」
祐斗はデュークを連れて出た。
我王と義王も新入り達を従えてスキップするように後を追う。
「俺達も行こーぜ!」
「ありがとうございました!」
「ごちそうさまでした!」
一斉に席を立って礼をして走った。
残った悟が向き直って、ひと呼吸。
「騒がしくて ごめんなさい。
みんなイイヤツで、彩桜は変わってないんです。
でも普段は犬じゃなく馬に乗ってるんです」
「それじゃあ竜騎と同じ?」
「だから友達に戻れると信じてます。
彩桜のお兄さんも、その繋がりを利用するって動いてくれてますから」
「もしかして社長が休みを取ったのは――」
「はい♪ おじさんはソッチです。
みんなで楽しく乗馬計画です♪」
やはり白久は企んでいました。
『みんなで楽しく乗馬計画』は、悟と彩桜は知っているんでしょう。
サーロンも、かな?
前夜に白久が彩桜の部屋で話し込んだらしいので。
キャンプーはラピスリにフラれて落ち込んでいるのは間違いありませんよね。
シヴァは本当に用があってガネーシャを呼んだようですよ。
父子揃って凄い大神様なんですから。




