雪舞う朝
キツネの社から動物病院に戻った途端、青生は彩桜に呼ばれて帰宅し、生演奏でのカラオケが始まった。
祐斗 直史 六花 サーロンを加えての演奏もあり、時間は楽しく瞬く間に過ぎた。
その最後に兄弟が歌って踊って締め括り、お疲れ会はお開きとなった。
「よ~し、送ってやるから自転車のヤツは先に外に出ろ。
自転車ごとバスに乗せてやっからな♪」
飲んでいなくても上機嫌な白久が大半を引き連れて行った。
いつも泊まっているメンバーは大部屋へ。
部屋は男女別だが、まだ間の襖を閉めていないので互いが見えている。
「白竜をどうやって連れて来ればいいんだろう……」
悟が呟いた。
「問題はソコだよな。
彩桜を全部エントリーとか卑怯なコトばっかしやがったからハードル高いよな」
堅太が並んで悩む。
「彩桜の家なんだからハードルより敷居だね」
冗談半分なようで凌央も真剣だ。
「あのなぁ。ま、凌央だから仕方ねぇか。
にしてもナンでアイツは個人戦で彩桜と対決しなかったんだろーな」
「いくつか考えられるよね。
とにかく彩桜を疲れさせたかった。
個人戦の種目には自信がなかった。
数を多くしたら、どれかで彩桜が負けるだろうと期待していた。
彩桜が部長だから同じように率いて出たいから団体戦だけ。とかね」
「彩桜は率いてねぇけどな。
手を繋いで横並びだ♪」
「そんな真実、見えていないよ」
「だろーな。お~い悟、元気出せよな。
みんなで考えよーぜ。
泊まるんだろ? 風呂行こーぜ」
「堅太は篠宮さんは? 送らないのか?」
「沙都莉も泊まるんだろ?」
女子の集まりは、ちょうどその話をしていたらしく振り向いたが、その後もまだ話していた。
「六花ちゃんと銀河ちゃんがお家に電話したいって」
楽器を片付けて戻った彩桜達に夏月が言った。
「いいよ~♪ コッチ来て来て~♪
狐松先生もお願~い♪
みんなも向こ~行こ~♪」
居間を指して廊下へ。
【ね、彩桜。
前から気になってたんだけど聖良さんて――】
【たぶんサーロン正解だと思う~】
【やっぱり……だから進展しないんだね】
【だと思う~。でもね、具現環 見えないのぉ】
【確かにね。でも、そんな新しくないから――】
【あ、そっか~。ソレも正解だと思う~】
【今度 確かめてみるよ】【ん。お願いねっ】
―◦―
青生は動物病院に戻る前に紅火の作業場に行った。
【随分と強くなったのだな】
手を止めず、背を向けたままの紅火が先に言った。
【紅火も そうしてもらわない?
俺は瑠璃と力を共有したんだ】
【俺も若菜と……可能なのか?】
【可能だと思うから来たんだ。
俺達兄弟が強くなればドラグーナ様も保ち易くなる。
きっと白久兄さんのドラグーナ様も早く目覚めると思うよ】
【ふむ。若菜と話さねばならぬ。
何をしてもらった?】
【神様の結婚の絆を結んで頂いたよ。
ドラグーナ様を避けてね】
【青生は神の域に達したのだな?】
【紅火なら とっくに達しているよ。
実は……瑠璃が他の神様から求婚されてしまったんだ。
だから負けない為に結んで頂いたんだよ。
神様と肩を並べられているのかも確かめた。
何者にも負けない、譲らない決意の絆なんだ】
【常に冷静な青生が瑠璃殿の事となると、そうまでも熱くなるのだな】
【うん。追い詰められた気分だったからね】
【そうか。若菜と話す】
紅火にしては珍しく、片付けもせずに立ち上がった。
【明日の夜、お社に呼ばれているんだ。
だから、その時にお願いしよう】
【ふむ。有難う】瞬移。
―・―*―・―
夜中の瞑想修行中に白久が来て話したりしたので、夜明け前に彩桜が回復治癒を当てて元気を取り戻してから、いつも通りに犬達と爆走散歩をして、いつも通りに終業式の朝を迎えた。
大勢 泊まっているのも慣れっこになってしまっているので。
「行ってきま~す!♪」「うわっ!」「寒っ!」
玄関を開けた途端、後ろの大勢が悲鳴を上げた。
爆走散歩した面々が笑う。
「うん♪ ほら見て~♪」「雪!?」大勢。
「一気に冷えたみたい~♪」「初雪です♪」
まだ積もってはいなかったが、けっこう激しく舞っている。
「だからマフラーと手袋~♪」大きな箱~♪
「どこから出したんだよ!?」ツッコミ堅太。
「さっきまで持ってた?」
首を傾げつつ凌央が濃いグレーを選んだ。
わっと集まる。
「慌てなくてもボクも持ってるです♪」
サーロンの手にも大きな箱。
「「「手品師でごじゃりましゅる~♪」」」
順番待ちしていた塊がサーロンに寄った。
「制服が届いてたのも手品で?」
「お風呂上がりにお部屋でビックリ!」
夏月と六花が笑顔で。
「狐松先生と一緒に家庭訪問した~♪」
「ご挨拶、大事です♪」
「だから「いつの間に!?」だよっ!」途中一斉。
「女子のお部屋には姉ちゃん達に入ってもらったからぁ」
「答えになってないだろっ!」
騒ぎながら、各々が好みの色を選んで箱が空になった。
「好みまで把握して用意したとか?」
「気にしにゃ~いの~♪」「答えろ彩桜!」
「んもぉ、遅刻するよ?」「余裕だよっ!」
彩桜とサーロンが外に逃げる。
「待てコノッ!」
本気では走っていないのが明らかな二人が先頭になって元気な集団が駆けて行く。
じゃれて騒いで、笑顔満開で戻って来た。
「一緒に行こ~♪」「みんな一緒です♪」
わいわいしながら祐斗が夏月と手を繋いだ。
直史は六花と、悟は銀河と並ぶ。
「沙都莉、ほら」外方向いたまま手を出す。
「うん」俯いて繋ぐ。
前で彩桜とサーロンを囲んでいた女子達がバラッと後ろへ。
「波希センセー寂しそ~しないの♪」「なっ――」
凌央を挟んだ美雪輝と愛綺羅が腕を確保して くっついていた。
「何してるの? やめてよね」視線が上方。
「「顔 赤い~♪」」「ウルサイ!」
その後ろでは星琉と尚樹を茉那実と夢結花が挟んで歩いている。
「昨日、テスト見せたら勉強会、本気だって認めてもらえたんだ♪」
「私も♪ これからも参加しなさいって♪」
「でねっ♪ 絵の勉強もいいって♪」
「だからバレー部から美術部に移るねっ♪」
「「これからもヨロシクねっ♪」」
「う、うん……」「よろしく……」たじたじたじ。
更に後ろ――最後尾の恭弥をバレー部3人が囲んでいる。
「私ね、リベロ目指してるんだ♪
今度 教えて♪」
小柄な緋怜が見上げて話す。
「私達も、レシーブ大事だと思うから一緒に「お願い!」」
恭弥よりも少し背が高い舞香と晶美が縮こまるようにして拝む。
恭弥は初めての状況に困りきっていた。
「ただの野球の応用だし……」ぼそぼそ。
「「「ありがと♪」」」「え?」
「彩桜く~ん!」「コートお願~い!」
舞香と晶美は彩桜とサーロンの所へ走って行ってしまった。
「僕……教えるだなんて……」言ってない。
「教えてください♪」
緋怜は残ってニコニコ見上げていた。
「彩桜達の方が絶対いいと思うよ」
「私は……。いいから教えてねっ♪」
「冬休みも集まるんだから……いいかな……」
「うんっ♪」
「みんな~♪ バレーとバスケ出来るよぉにしとくから自由に使ってね~♪
リーロン留守番してるから、ご飯とオヤツあるからね~♪」
「え?」「留守番?」「自由にって?」
「どーゆーこと!?」「彩桜君は!?」
口々大騒ぎ!
「俺、年末年始いないの~」「えええっ!?」
また口々に大騒ぎ!
「カウントダウンコンサートでイタリー。
兄貴達も姉ちゃん達もサーロンも一緒なの。
みんなにはライブ配信視聴チケットあるからねっ♪
夏は東京だから、みんな来てねっ♪」
「世界のキリュウ兄弟だ……」
「ソレ恥ずかし~からヤメてぇ~」
「やっぱ彩桜だなっ♪」
「それで、いつ行くの?」
「26日。飛行機は夕方なんだけど、朝から東京に行くよ」
「カウントダウンなのに?」
「リハとかあるから~」
「サーロンもリハか?」
「違うよぉ」「ドイツに行きます♪」
「ナンでドイツ?」
「両親と会うです♪」
「あ……」
皆、彩桜がクラシック界の超新星だとか、サーロンが留学生だとか、考えていると目の前から居なくなってしまいそうで、普段は思考から追い出していた。
今、それが胸に突き刺さったように思えて、恐怖すら覚えていた。
「どしたの?」
「あ~、いや、ナンでも」
「彩桜君と初詣 行きたかったぁ!」
「5日に帰るから~、6日に一緒に行こっ♪」
「そうだね♪」「おう♪ 待ってるからな♪」
「それまでに初詣デートは しといてねっ♪」
各々、隣を向いて目が合って、照れる。
「波希センセーはアタシ達とねっ♪」
「だぁね♪」「どーしてそうなる!?」
笑いが照れを吹き飛ばした。
皆、何とはなしに雪舞う空を見上げる。
「積もるのかにゃ……?」「綺麗です♪」
「ホワイトクリスマスになるといいね」
「それまで寒いまま?」「凌央君てば~♪」
「それよか教室に入らねぇか?」「あっ!」
のんびりし過ぎたと、急いで校舎に入った。
終業式前夜から始まりましたが、この章は終業式1日の出来事を綴りました。
彩桜達の中学校の2学期は、部対抗スポーツ大会が終われば終業式で冬休みです。
この1日は部対抗スポーツ大会の纏めから、次への繋ぎまで。
まだ『嫌われ者の白竜』が続いています。
前夜に彩桜とサーロンが何やらイミシンな会話をしていましたが、明らかになるのは終業式の後です。
具現環などの○○環は霊体(と呼んでいるが神世の物質)で出来ていますので神眼でなければ見えません。
作っている稲荷や紅火は、持ち運びの利便性やら見えない人にも存在が示せるようにと人世の物質に重ねて保管しています。
霊体だからこそ複数の○○環を重ねたりも容易なんですね。




