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瑠璃と青生と彩桜



〈ショウ♪ 久しぶり~♪〉


〈あ♪ サクラ~♪

 風邪、もう大丈夫なの?〉


彩桜はキツネの社に泊まり込みで修行に行く度、学校を病欠にしているのだった。


〈うんっ♪ へ~き♪ あ♪ 瑠璃姉♪〉


〈ショウ、散歩に行くか?〉〈〈うんっ♪〉〉


〈彩桜、澪に声を掛けておくから繋ぎ変えておいてくれ。リードは小屋の壁だ〉


〈うんっ♪ あれれ?〉〈紗の声だな……〉


〈なんか……泣いてる?〉〈ふむ〉




 瑠璃が玄関ドアを開けると――


『カナちゃんちで おとまりするのっ!!』


――紗が力の限り叫んでいた。



「澪、紗、どうした?」


「瑠璃……ごめんなさいね、騒がしくて」


「子供には有りがちなのだろ?

 構わないが、どうしたのだ?」


「お泊まりブームなのよ。

 昨日はウチで夏菜(かな)ちゃんと莉子(りこ)ちゃんがお泊まりしたの。

 だから今度は紗が行きたいって――」

「いくのっ! おとまりするのっ!」


「ふむ。行かせてみたらどうだ?」


「でもね……夏菜ちゃん()はお祖父さんが要介護だし、莉子ちゃん家は共働きで帰りが遅くて、その間はお祖母さんだけだから、とてもじゃないけど無理なのよ」


「ふむ。

 しかし そう説明しても無理だろうな」


「そうなのよ……」


瑠璃は、話している間も大騒ぎでジタバタ暴れている紗を抱き上げて涙を拭いた。


「私の家でどうだ?

 大勢で賑やかな家だから3人くらい増えても問題ないぞ」


「カナちゃんとリコちゃん、いっしょ?」

「いいの? 瑠璃」


「ああ、一緒に来ればよい。

 いつでも歓迎する」


「おとまり いくっ♪」


「どの夫婦も子供は未だだ。

 良い練習になるだろう。

 ショウの散歩に行っている間に双方と相談してくれるか?

 心配ならば保護者や兄弟も来てもよい。

 澪も飛鳥を連れて来るか?」


「そうね……どちらもウチには泊まっていいんだから、私が一緒なら許してくれそうね」


「部屋も多く余っている。

 食事も出るから、たまには楽をすればよい。

 では、散歩に行ってくる」


紗を澪に渡して、カーテンに隠れて様子を見ていた飛鳥を連れて外に出た。



―◦―



「え……? ウチに来ちゃうの?」


ショウの背でご機嫌な飛鳥を支えて歩いていた彩桜が、瑠璃の話を聞いて立ち止まった。


ショウは飛鳥を落とさないよう慎重に止まって彩桜を見上げた。


「区別が難しい程に同じ顔ばかりなのだから静かにしていれば問題無かろう?」


「う……ん……」


「そんなに嫌なのか?」


「ううん。仲良くなりたいよ。

 だから今の俺じゃダメなんだ。

 この前だって護れなかったから……」


「青生と同じような事を言うのだな」


「え?」


「東京に居た頃、彩桜には見せぬようにしていたが、二人の命を狙う者達が度々現れていたのだ」


「青生兄と俺を? なんで?」


「彩桜は己が持つ力を如何に考える?」


「動物や物と話せるコト?」


「それも、なのだが……祓い屋ともなれる その力は、神の欠片が所以(ゆえん)となっている」


「あ……お稲荷様も言ってた龍神様の欠片……」


「そうか。知っているのならば話は早い。

 神の欠片を持つ者は、祓い屋ともなれる。

 死者の魂を導かねばならぬ死神にとって、祓い屋は敵とも思える程の邪魔者だ。

 故に目覚めておらぬうちに欠片持ちを葬り去ろうともするのだ。

 だからこそ私は無自覚な兄弟に声を掛け、同居させたのだ」


「じゃあ瑠璃姉には、公園で困ってた俺達に欠片(かみさま)が見えたの!?」


「薄暗い公園の前を通り過ぎようとしていたら、ブランコの方に光を見た。

 積み上げた段ボール箱で姿は見えなかったが、その向こうに強い欠片を持つ者が居ると私の欠片が示したので近寄ったのだ」


「光なんて……見えたんだ……」


「瑠璃光の向こうに薄紅光が見えた。

 澄みきった清らかさに惹き付けられたのだ。

 その清らかさは性格の反映でもあるが、無自覚(ゆえ)の濁りの無さでもあるからな」



―・―・―*―・―*―・―・―



 5年前の5月――


 大学院生になった青生と小学生になった彩桜が夕闇の公園でブランコに腰掛けて、この日に解体が始まって半分くらいになったアパートを見上げていた。


ブランコの横には二人の荷物が詰められた段ボール箱が積み上げられている。


「すまない。宿は取れなかったよ」

安い宿を検索しては掛けていたが、とうとう電池が切れた携帯電話をパタンと閉じた。


「青生兄♪ どの兄貴トコ行くの?♪」


「充電できたら金錦兄さんに連絡してみるよ。

 他は会社や学校の寮とかだから無理だからね。

 こんな事になってしまって……すまない」


「大家さん、もっと早く言ってくれればよかったのにね~」


「俺は殆ど留守だし、彩桜は静かに遊ぶから部屋に気配が無くて、とっくに引っ越したと思っていたそうだよ」


「ふぅん」


「俺が貼り紙を見落としたのが悪いんだ。

 荷造りできただけマシなんだろうね」


「ギリギリセーフだったねっ♪

 段ボールで秘密基地しよっ♪」


「基地、ね……でも、それしかないかな?」


『ならば来ればよい。

 部屋ならば余っている』


「「え?」♪」


段ボールの塔の向こうから小柄な女性が姿を見せた。


「来ればよい。運ぶのも手伝おう。

 すぐ近くだからな」

サッサと2つ重ねた箱を抱えて歩きだした。


「うんっ♪」

彩桜も2つ抱えて駆けだした。


「さ、彩桜!?」

慌てて残りを抱えて追って走る。



―・―・―*―・―*―・―・―



「彩桜が眠った後、青生は1泊分だと、なけなしであろう金を支払いに来た。

 そこで私は欠片の話をし、留まって修行するよう持ち掛けたのだ。

 修行し、力を開けば狙われるが、開かずとも(いず)れは狙われる。

 無自覚なままであれば無抵抗なまま死ぬ事になるであろう、と」


「それで居候なっちゃったんだ~」


「居候は1週間だけだ」


「へ? じゃあシェア?」


「入籍した」


「えええっ!?」


「月が変わり、家賃を払うと言ってきたので区役所に行った。勿論、同意の上だ」


「ほえぇ~。あ、じゃあ青生兄と瑠璃姉がイチバンだったんだ……」


「そうなるな」


「だから金錦兄の結婚式にも来てたんだ~♪

 俺、金錦兄か牡丹姉ちゃんのお友達かな?

 って思ってた~♪」


「どちらも歳下だ。

 中学、高校で顔くらいは見知っていたが、その程度だ。


 話を戻すが、結婚式が随分と後になったのは、青生が自分はまだまだ未熟で、獣医師としても欠片持ちとしても修行の身だから、夫だと胸を張って言えないと言い張ったからだ。

 青生は頑固だからな。

 同じように彩桜も頑固なのだな。

 青生が育てたからなのか、まるで複製のように似ている」


「なんか~♪ 似てるって嬉し~な~♪

 俺、兄貴達み~んな大好き♪

 でもね、青生兄がイッチバンなんだ♪

 だからカバンに隠れてついてっちゃった♪

 カバン開けた青生兄、ビックリして、笑って『じゃあ一緒にね』って♪

 俺が出しちゃった青生兄の荷物、後で紅火兄が送ってくれたよ♪」


「流石、彩桜だな」ふふっ。


「流石ってぇ~、あ……」「ん?」


駆けて来る澪と紗が遠くに見えた。


「飛鳥お願いっ」逃げた。


〈何処に行く?〉〈お稲荷様トコっ〉


〈仕方の無い奴だ……ショウ、引き返すぞ〉


〈うんっ♪〉


瑠璃は飛鳥を抱き上げて澪達の方へと歩き出した。




「瑠璃、今日でもいいの?」


「それを確かめる為に走って来たのか?

 電話すればよいものを……」


「一緒に……お願い」拝む。


「そうか。挨拶――いや、面接か?」


「そうじゃないと――ううん。そうかもね」


苦笑を交わしつつ、紗の友の家に向かった。


〈僕も行く~♪〉


〈来ればよい〉ふふっ♪


〈どーして笑うのぉ?〉


〈今日は、そればかりだと思っただけだ〉




『来ればよい』か……。



 ずっと遠くから見守っていた、堕神とされた父ドラグーナの2/7に、その言葉でようやく近付けた彼の日に思いを馳せ、瑠璃は空を見上げて目を細めた。



―◦―



〈ラピスリ……もしや父様に――〉


〈言うなっ!

 蓋が開いて以降、殆ど眠っているというのに、目覚めたと思えば余計な事を言うのだな!〉


〈いや、だがしかし――〉〈寝ていろっ!〉


〈アーマル地雷ドッカ~ン♪〉〈ショウ!〉


〈仲良しさんは~、からかっちゃダ~メ〉


〈〈誰に習った!?〉〉


〈タカシ~♪〉


〈は?〉〈え?〉

〈兄様、覚えておらぬのか?〉

〈全く……〉


〈兄様と飛翔は別なのか……?〉


〈僕は別だと思う~♪〉


〈〈そう、なのか……?〉〉


〈うんっ♪〉


〈だとすればラピスリにも希望が――〉


〈だから言うなと言っている!!〉


〈ルリ真っ赤っか~♪ でも、どーして?〉


〈そこは解らぬのか?〉〈確かめるな!〉


〈アーマル教えて~♪〉


〈いや……それも地雷ではないか〉


〈じゃあタカシになるの待つ~♪〉


〈兄様、眠るなよ〉〈うっ……〉







アーマル(飛翔)ラピスリ(瑠璃)ウンディ(利幸)は、ドラグーナ(輝竜兄弟)の子です。


幼少期、一緒に基礎修行した歳の近い四獣神の子の集まりを『同代(どうだい)』と彼ら内では呼んでいます。


初代(サンダーリア~ソニアールス)は龍ばかり8子でしたが、次代は調整しようとしたのではなく、小動物神の里を護らせようと12子にしていました。

副都に連れて行かれてしまいましたが。


それ以降の代は狐や猫が混ざっていたりいなかったりで、龍は10子にしていました。

その龍の子達は同代1班で人神が住んでいる場所や街道、職域を禍から護らされていたんです。


アーマル達は89代で、再生域の守護(護り)をしていたんです。

フェネギ・リグーリ兄弟(トリノクスの子)も、ディルム・ハーリィ兄弟(マリュースの子)も同代です。



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