表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
381/870

2日目③:柔道着で野球もテニスも



 歴史研究部は6回表でポジションチェンジを宣言して投手・捕手が入れ替わった。

彩桜が柔道着だから判別できるものの、部で揃えた紅火作のスポーツウェアでコソッと替わっていたら誰も気付かなかっただろう。


「後半も全力で楽しも~ねっ!♪」

「楽しむで~す!♪」

彩桜が後ろを向いて両手を大きく振り、サーロンも立ち上がって彩桜と同じように両手を振った。


皆も振り返す。

「打たせていいからな!」「うんっ!♪」



 バッターは書道部長。

「袖と裾は絞って止めてるのね。

 本気なのね……」

投球フォームを観察。


投げ――スパン! 「ストライク!」


「え……」


もっと長身なら理解できる。

上から勢いよく落ちて来たように見えた。

もう1球なら見ても大丈夫だと構え直した。


スパン! 「ストライク2!」


「見え、ない……」


焦りが背筋を(のぼ)り、冷や汗が(くだ)る。

せめて何か情報を得なければ――と思っているうちに球はミットに収まっていた。


「ナメてたのは私達の方ね……」

悔しいけど、ちょっと清々しいと思いつつベンチに戻った。



 連続奪三振でチェンジすると彩桜は柔道場へ走って行った。

「ボク、トイレです」サーロンも校舎へ走る。


 打順は1番の祐斗から。


「サーロンは まだまだだからいいとして、彩桜は間に合うのか?」

素振りをしに行きつつ堅太が呟く。



 凌央が打ち上げさせられてアウトになり、堅太がファウルで粘っていると柔道着が走って来ているのが見えた。

間に合いそうなのでヒットで出る。祐斗は三塁に進んだ。


「ギリギリ~」

ベンチ横を通り抜けてバッターボックスへ。


打って、1周して、また柔道場へ。


「忙しいヤツ♪」「でも楽しそうだよね♪」


校舎からサーロンが出てきたのが見えた。


「サーロンも間に合ったな♪」



―◦―



 今度はチェンジギリギリで戻った彩桜が大急ぎで袖と裾を止めている。


〈彩桜、大丈夫?〉一緒に守備に向かう。


〈ありがとサーロン♪ 大丈夫だよ♪

 サーロンのおかげ♪

 柔道、1回戦と2回戦 続けてしたから、ちょっと余裕できたかも~♪〉


〈でも進みが早くない?〉


〈待ってくれにゃいかなぁ〉


〈狐松先生が行ったね♪〉〈ん♪〉


〈あ……Bグランド、サッカーの開会式?〉


〈俺達いいのかにゃ?〉


『歴史研究部は、見えていますので、そのまま野球を、続行してください』

エコー分を区切りながら伝えてくれた。


〈野球、続ければいいんだね。

 彩桜、あと2人だよ〉1奪三振した。


〈また竜騎君いないねぇ……〉


〈そうだね。プールの方から見てるね〉


〈サッカーも出ないのかなぁ〉


〈もう戻れないのかもね〉


〈コッチ睨んでるけどぉ〉


〈うん。ボク達と、その向こうの陸上部を睨んでるよね。

 でも、竜騎クンよりも……〉


〈うんうん!

 馬龍様の方が竜騎君すっごく睨んでるぅ〉


〈内に目を向けてくれたらいいんだけどね〉


〈だよねぇ。早く謝らないと~〉


〈また馬にされてしまうよね……〉


そんなこんな心配しているうちにチェンジになった。



―◦―



「あの二人ホンットに強い!

 もう敬遠しない?」

撫子キャッチャーの華道部長がピッチャーに話しながら守備に向かう。


「打たれるの分かってても投げたいよ。

 コッチがまた打てなくなったから、もう負けは決定でしょ? 投げさせてよ」


「そっか」

書道部、茶道部の部長と目を合わせていく。

「うん、OKみたいね。それでいこっ♪

 負けても悔いは残したくないもんねっ」


頷いて離れた。



―◦―



 彩桜とサーロンは全ての打席がホームランではなかったが、それでも印象としては誰しもが『ホームランばかり』だと思えた。


 そして大差で歴史研究部が優勝した。



「ね、ソフトボールもできる?」

表彰式の後、ベンチを片付けていると、撫子連合を応援していたソフトボール部員も一緒になって来ていた。


「部員半分はナンでもアリです♪」

一番近くに居た堅太が振り返って答え、祐斗とサーロンを引っ張った。

彩桜は既に柔道場だ。


「試合前に書道パフォーマンスのをお願いしたけど、ソフトボールでも練習試合をお願いしたいの」


「それも顧問と部長に相談します」

祐斗が申し訳なさそうに答えた。


「狐松先生、応援に来てないのね……」


「彩桜の個人戦の調整してくれてるんです」


「いろいろ大変ね」苦笑。


「俺達の目標は『全部全力で楽しむ』ですから大丈夫です♪」

堅太が笑顔で胸を張ると金メダルが光った。


「堅太、まだ掛けたまま?」


「おう♪ 嬉しいからな♪

 みんなで取ったからなっ♪」


「そっか。じゃあ私達も首に掛けておかない?

 みんなで取ったんだから♪」


「そうね。頑張った証よね」

「このメダル、キレイでカワイイよね♪」


「歴史研究部、空沢を見てないか?」

陸上部の2年生が数人ずつで捜しているらしく、あちこちに同じジャージが居る。


「見てませんけど?」「悟、サッカーですか?」


「そうなんだよ」

「歴史研究部の1回戦より先にコッチのシード戦になったから捜してるんだ」


「プールの向こうです」サーロンが指す。


「「プール!?」」


「馬白クン居るです。見えて行ったです」

悟は神眼で見て行ったので嘘ではない。


顔を見合せた後、頷き合う。

「ありがとう! 冴喜 居た!」

「部長も呼ぶから止めて!」

別方向に走った。



「引き留めて?」「ケンカ止めてだろ」


「あなた達、それも巻き込まれそうね」

「あまり良い噂 聞かないから気をつけてね」


「あっ、ありがとうございます!」

居るのを忘れそうになっていた。



―◦―



「サッカー出たいんだろ!

 謝るだけじゃないか!」


「謝る理由なんか無い! 離せ!」


「離さない! 一緒に行こう!」

「馬白! 空沢!」「喧嘩は駄目だ!」


「あっ!」

悟が声の方を向いた隙に竜騎は力いっぱい振り(ほど)いて走り去った。


「空沢 追うな。もういい」


「……はい」走り去った方を向いたまま。


「行こう。もうすぐサッカーの試合が始まる」


「はい」視線を落とす。


「決勝まで進んで待とう」肩ポンポン。


「はい!」決意の涙目を上げた。



―◦―



 逃げた竜騎は闇雲に走っていて柔道場から出て来た彩桜と鉢合わせになってしまった。


「まだ逃げてるの? 俺と戦いたいんでしょ?

 サッカーでもバレーでもいいけど参加しなきゃ戦えないよ?

 個人戦にエントリーしてないんだから」


「ウルサイ!」

彩桜が話している間ジリジリ後退(あとずさ)っていたが反転して走った。


〈ダメだぁ。サーロン見ててね〉

〈もちろん。テニス頑張ってね〉


次は軟式テニスの決勝戦だった。



 柔道着のままな彩桜が走ってテニスコートに行くと、フェンスを囲む壁となって待ちかねていた観戦者から歓声が上がった。


『只今より、軟式テニス、男子、決勝戦を行います。

 歴史研究部、輝竜 彩桜君。

 卓球部、球威(たまい) 琢磨(たくま)君。

 第1コートに、入場してください』


全校放送が入り、自習している3年生もベランダに並んだ。

「彩桜! 頑張って!」


「あ♪ 徹君ありがと~♪」

入場しながら3階ベランダに向けて、ついラケットを振ってしまって歓声が大きくなる。

「あ~、やっちゃったぁ」



―◦―



「沙都莉ちゃん大丈夫?

 教室に戻ってベランダから見る?」


「大丈夫。

 せっかく確保してくれてたんだから、ここから応援したい」

美雪輝達がクラス用に特等席な場所を広く確保してくれていた。


「そうね♪」手を繋いだ。


「ありがと」笑顔で前を向いた。



「堅太、隣行かなくていいの?」

堅太 祐斗 夏月 沙都莉と並んでいる。


「いや、今ムリだろ」


「顔、赤いよ?」


「ほっとけよなっ」外方(そっぽ)向いた。



「夏月」繋いでいる手を軽く引く。


「ん?」


コソッと堅太を指す。夏月が頷く。


「「せ~の♪」」


祐斗が堅太を、夏月が沙都莉を内側になるように押した。


「何しやがる!?」

押した祐斗の方を向いたが、もう居ない。

「なっ――どこ行った?」

夏月の向こうで笑っていた。

「ったく~」

動くのは諦めた。


堅太 沙都莉 夏月 祐斗の並びに落ち着いた時、試合が始まった。







竜騎は相変わらず不穏ですが、歴史研究部と彩桜は楽しく順調です。

撫子連合とソフトボール部の皆さんとも仲良くなれました。



〈2日目・午後〉

グランドA :野球決勝戦(優勝:歴史研究部)

    B :サッカー(団)

体育館 AB:バレーボール(団)予選

テニスコート:軟式テニス(個)準決勝~

柔道場   :柔道(個)男子



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ