アーマル目覚める
ふた月程、ショウは具現化武器である縄を夜な夜な練習し、自在に操れるようになった。
飛翔が集めた欠片の神の導きに依って調整した念縄は、神の力が封じられる程には強くなく仕上がったので、安心して使えるものとなった。
《よいかショウよ。
強過ぎれば祓い屋達にも影響を及ぼす。
今の強さを超えてはならぬぞ。
仲間には脅威ともなる武器ではあるが、怨霊が堕神の欠片を持っておらねば、ただの縄でしかないと心得よ》
〈ダシン?〉
《私も堕神だ。アーマルもな》
〈やっぱりタカシがアーマルなの?
神様なの?〉
《そうだ》
〈欠片の神様のお名前は?〉
《トリノクスだ》
〈あ♪ 見えた~♪ 蛇の神様♪
あれれ? 狐の神様?〉
《何れも私だ。親が蛇と狐だからな》
〈へぇ~♪〉〈その御声……トリノクス様……〉
〈ん? あ♪ コギさん、こんばんは~♪〉
《息子よ、達者で何よりだ》〈息子!?♪〉
〈父様……御復活なされたのですね〉うるっ。
〈タカシ♪ タカシ♪ お顔上げて♪
ね♪ 知ってて集めてたの?〉
〈知って…………いたからこそ集めていたのだ〉
〈〈えっ?〉〉《ようやく目覚めたか》
〈アーマル……?〉飛翔ではなく?
〈フェネギ、待たせたな。
それに、世話になった。ありがとう〉
〈良かった……もう目覚めないのかと――〉
《させるものか。大事な弟子だ》
〈では父様が?〉
《何度も呼び掛け、慎重に開いた》
〈然様で――あ、私が集めました欠片で御座います〉
ショウの背に乗せると、内に吸い込まれた。
《力が湧く。感謝する。
欠片以上に、お前が父と呼んでくれた事の方が大きな力となったのだがな》
〈あ……〉
《今後は余所余所しく呼ぶな。話すな》
〈……はい〉尾が嬉しそうに揺れる。
《嬉しく思ってくれるのだな。
私も嬉しいぞ。
アーマル、ショウ、鍛えるぞ。覚悟せよ》
〈うんっ♪〉〈お願い致します!〉
《1つ忠告だ。
死ぬな。
少なくともドラグーナが目覚める迄は、な》
〈はい!〉〈ドラグーナ、様?〉
《アーマルの父、私の親友だ。
ランマーヤやウンディを護るのは良いが、無茶をするな。
死ねば再び記憶が封じられる。
封じられるだけならば まだしもだが、失う可能性も高い。
故に死ぬな》
〈はい!〉〈ランマーヤ? ウンディ?〉
《紗と利幸だ。
ランマーヤは成長を待つより他に無い。
ウンディの封印はアーマルより緩いのだが……性格故か、未だ未だ開きそうもない。
故に、込めてある私の欠片は回収するな。
其れを通じてウンディを支える》
〈ありがとうございます!〉
〈どーしてタカシがお礼?〉
〈アーマルとウンディは兄弟であり相棒であり親友なのですよ〉
〈へぇ~♪〉
〈兄様、目覚めたのですね〉現れた。
〈ラピスリ、感知したか?〉〈はい〉
〈ルリ? だよね?〉ラピスリって言った?
〈〈そうだ〉僕の妹、ウンディの姉だ〉
〈神様いっぱ~い♪〉
(ラピスリ、ショウを強く封じたのか?)
(いや、普通なのだが……開かぬな)
(そもそも神としての自覚が薄いのか?)
(さもありなん、だな)(そうか……)
ウンディとショウフルルに神だと自覚させるのはカナリ困難だろうと兄妹は溜め息をついた。
その時――
《オフォクス兄様……やはり御無事で!》
〈当然だ。トリノクス、もう死ぬなよ〉
姿を現した大白狐がニヤリ。
《先程アーマルとショウにそう言ったところなのです》
〈儂の社に行く。リグーリも呼んでやれ〉
〈はい! 主様!〉狐儀は笑顔で瞬移した。
《伯父ではなく主、と……?》
〈彼奴が勝手に呼び始めたのだが、人世では然う呼ぶのを許しておる。
敵神に聞かれても問題無い様にな〉
《敵神の話もせねばならぬな。
早く連れて行ってくれ》
〈ふむ〉
大きな白狐はショウを背に乗せて消えた。
―・―*―・―
アーマルが目覚めた頃、リグーリが弟子達と住む廃教会では――
〈お師匠様っ!
どうしてまだ教えてくれないのっ!?〉
――チャムがリグーリを相手に騒いでいた。
〈何度も言うたじゃろ。
修行が足らぬ。それだけじゃよ〉
〈エィムと組まされた理由が聞きたいだけなのにっ、どうして修行なんですかっ!?〉
〈全く……騒がしい奴じゃのぅ。
騒ぐ暇があるのならば修行せよ〉
〈じゃあ私の親が誰なのか教えてよ!!
私、獣なんでしょっ!?〉
〈自覚したのか?〉
〈エィムに言われたのっ!!〉
〈ほぅ。エィムには見えたのじゃな〉
〈どうして封じられてるのよっ!?
エィムは封じられてないのにっ!〉
〈基礎すらも足りぬお前さんを野放しにしておれば、獣神だとバレて堕神にされてしまうからのぅ〉
〈うっ……基礎すらも、ってぇ……〉
〈その通りじゃろ?
試しに解いてやるわい〉
チャムの前に鏡を出し――〈ほれ〉
〈犬!? ちょっと違う? 狐なのっ!?〉
〈人神の姿を保ってみよ〉
〈えっと~~~、えいっ! できたっ♪〉
〈尻尾〉〈ええっ!? えーーっ!!〉
〈人神に尾なんぞ無いぞ〉〈やんっ!〉
〈耳まで出おったぞ〉〈きゃあっ!?〉
〈すっかり狐じゃな〉〈どうしてぇ?〉
鏡の前でクルンクルンしていた淡桃狐がペタンと座り込んだ。
〈じゃから修行せよ。狐は封じるぞ〉
ついでに親がどうこう言わぬようにもな。
〈人を化かす狐って……獣神だったのね……〉
〈ま、そうじゃが……感想はそれか?〉
〈修行……します……〉
〈エィムは?〉
〈街の結界の上です〉とぼとぼ瞑想部屋へ。
〈単独は危険じゃのぅ……行くとするか〉
〈大丈夫だよ。ディルムに頼んだからね〉
〈フェネギ、どうした?〉
〈社に来て〉リグーリを連れて消えた。
―・―*―・―
街の結界の上に居たエィムの近くに、顔や名は知っているが話した事もない男神ディルムが現れ、まさに紳士な穏やかな表情で寄って来た。
〈ディルム様……どういった御用件なのでしょうか?〉
明らかに敵方のルロザムールの配下ディルムに対し、エィムは身構えた。
〈初対面であるから警戒も無理はないが、私の近くに居る方が得策だと言えよう?
ルロザムール様に気に入られておるからな〉
エィムは更に警戒を強めた。
が、ディルムはエィムの手を取った。
(そう露にするなってぇ)(え?)
(味方だよ。俺はリグーリの相棒だ)
(では――)(奴を見張ってるだけだよ)
(それでは、何かあったのですか?)
(いや、だがな)辺りを探り直す。
(エィムもコッチ側だと思わせるべきだろ)
(解りました)(それでいい)
獣神同士でなければ出来ない会話をした事でエィムも警戒を解いた。
その時、鎌や装束から高位の死司神である事だけは確かなのだが、エィムが初めて見る若い男神が近くに現れた。
男神は結界に手を翳して暫く留まった後、ひとつ頷いて消えた。
(エーデラーク様だ。
ナターダグラル様の側近中の側近だよ)
(そんな御方が何を?)
(結界を破壊しようとしてるのかもな)
(近くには誰も居ません。
行ってみましょう)(だな)
2神は、エーデラークが光を注いでいた場所に手を翳し、確かめて首を捻った。
(強化……?)(としか思えんな)
(何故ですか?)
(さぁな。企みの一環かかもな)
(それでしたら納得です)
(限界まで強化して破裂させる、とかかな?)
(出来るのですか?)
(この結界は、獣神の堕神か欠片持ちが成したものだ。
修行した人神なら破壊できるだろうよ)
(修行してそうでしたね)(ああ)
近くに別の死神が現れたので、2神は向かい合い、ずっと話していたかのように取り繕った。
〈君は優秀だと聞いたが、昇格ターゲットを未だ導けておらぬそうだな〉
〈はい……申し訳ございません〉
〈原因は?〉
〈この結界で御座います。
降りられぬ為、ターゲットを迎えにも行けないのです〉
〈そうか。相棒が不適、ではないのだな?〉
〈はい。チャムは無能ではありません〉
(……努力は足りませんが)
〈そうか〉(ま、頑張れ)
〈ターゲットを導かねば昇格は出来ぬが、昇格した暁には私の下に加われ。
目を掛けてやろう〉
〈ありがとうございます〉
〈相棒にも、そう伝えよ〉
(これからはリグーリとの連絡役も頼む)
〈はい!〉
近くの死神からの羨望溢れる視線を感じつつ、エィムは笑顔で礼をした。
久々登場の死神見習いエィムとチャムです。
つまりこの2神も四獣神の子なんです。
この章と次の章では四獣神とその子供達がメインで登場します。
龍神ドラグーナ、狐神オフォクス、オフォクスの弟で蛇狐神のトリノクス、獅子虎その他諸々大型猫総合神のマリュースが四獣神です。
ドラグーナの子は千。
つまり大勢登場するんです。
全部だなんて とんでもありませんし、百も出ませんけどね。




