1日目②:野球予選、時々個人戦
歴史研究部にとっては野球予選2試合目の吹奏楽部戦にも勝利して、昼休みに入った彩桜達は屋上で弁当を広げた。
「恭弥、けっこうヤルな♪」
「少年野球してたから……」
「言えよなぁ」
「どこ守ってたの? 変えるよ?」
「ファースト」
午前中は くじ引きでファースト祐斗、セカンド恭弥、サード凌央、ショート堅太だった。
「でも打つのは苦手なんだ……」
「いいヒット打ってたと思うよ。
じゃあ内野、入れ替えようよ。
堅太はサードが良くない? 肩が強いから」
「どこでもいいぞ♪」
「そうだね。
祐斗は足が速いからショートが良くない?」
「じゃあ凌央がセカンドだね」
「決まりだな♪ で、彩桜。
チョコチョコ抜けてたのは個人戦か?」
堅太は無言な彩桜をつついた。
「ん。テニスと卓球してた~」
「午後は?」心配そうな祐斗。
「卓球あと決勝したら、ソコ剣道なる~。
体育館半分バスケだから~。
テニスまだまだある~」
「テニスって人気あるんだな」
「テニス教室で硬式してる人が多いんだよ」
「あ~そっか。けっこう親子で行ってるよな」
「そぉなんだ~」
「やっぱ知らずに勝ち進んでるんだな」
「彩桜らしいよね♪」「彩桜なら当然」
「凌央君それ褒めてる?」「褒めてる」
「ありがと♪」
「そんな前提とか気にせずに勝つ。
それが彩桜だからね」「「「うんうん♪」」」
「彩桜?」つんつん。
「あ、うん。凌央ありがと♪」
「照れてたんだろ♪」
「あ~、うん」えへへ~。
―◦―
彩桜とサーロンは神眼で竜騎を含む男子陸上部員が居る部室をずっと見ていた。
「俺がピッチャーで失点なし。
俺のホームランで勝った。
何が違うんだよ!」
「そこは違わないけど言い方が悪い!
これは団体戦なんだぞ!」
竜騎と悟が言い争っていた。
これを見て彩桜は固まっていたのだった。
「悟は野球じゃないだろ!
口出しするな!
塁に出なければ足は生かせないだろ!
それを言って何が悪い!」
「俺達は野球部じゃない!
打てなくても仕方ないだろ!
団体戦なんだから勝ち進みたいなら黙れ!」
「俺だけで勝ったんだ! 悟こそ黙れ!」
「白竜だけで――」「そこまで!」
部長と副部長が間に入って止めた。
「状況を説明してもらえるかな?」
顧問の元気と話す為に職員室に行っていた二人は、部員達に視線を走らせた。
「事実を言っただけだ!」「言い方が悪い!」
「当事者は黙って」「落ち着こうね」
副部長が竜騎と悟を連れて部室から出た。
「馬白が自分だけで勝ったように言ったのを空沢が言い方が悪いから詫びろと」
「確かに相手に点を取らせず、ホームラン。
だから馬白だけが活躍したけどね」
2年生達がウンザリだと目で訴えた。
「次の試合は午後イチだけど、どうする?」
「もうキャッチャーしたくないよ。
要らないみたいだし」
「棄権でもいい」「そうだな」「俺も~」
「ヤル気が消えたよ」「1人でやれば?」
「1年は?」
補欠も含めて集まる。
「先輩が棄権でいいなら、やりたくありません。
5人とも同じ意見です」
「少し待っていて」外へ。
「冴喜、どう? 落ち着いた?」
「空沢は落ち着いたよ。
馬白は、あれ」ズンズン遠ざかっている。
「困ったものだね。
まぁ、次の試合時間になったら戻るよ。
でも彼が戻ったら棄権だけどね」
「やっぱりね。
種目決めと選手決めで既に懲りているのに、追い討ちを掛けてトドメを刺したね。
戻らなくても棄権?」
「戻らなければ抜きで参加かな?
楽しめばいい行事なんだから」
「深長さん、冴喜さん。
明日からのは、どうなるんですか?」
「彼次第だよ。
反省は……しなさそうだから、来るか来ないかで決めよう」
「そうですか……」
「もう一度、元気先生の所に行く?」
「そうだね。皆に伝えてから行こう」
―◦―
〈彩桜、どこ行こうとしてるの?〉
卓球の決勝戦前に、狐松に呼ばれているからと皆から離れた彩桜をサーロンが追って来た。
〈火に油注ぎに行く〉
〈それって……〉
〈逆効果なっても今と同じ。
これ以上 悪くなんてならないから。
もしかしたら良くなるかもだから〉
試合は明日なので、ひと気なんて全く無い柔道場の裏に竜騎は居た。
砂利を踏む足音で向いた竜騎の目が彩桜を捉えると、直ぐに敵意剥き出しに鈍く光った。
「こんな所に何の用だよ」
「ソレ言うなら馬白君も同じだよね?
俺、柔道場 来るの初めてだから下見。
明日、試合だもん」
「俺を追って来るなよ」フン。
彩桜の横をすり抜けるしかないので近付く。
「あのね。野球、予選で当たらないでしょ。
俺と対決したいんなら謝らないと。
先輩達、棄権するって話してたよ。
次の試合、君が謝らないまま行ったら棄権。
だから早く部室に戻って謝ってね」
横に並んだ時に話し始めて、止まらず進む竜騎の背中に祈るように続けた。
竜騎の背中は『棄権』という言葉に小さく反応したが、振り向きも、返事もせずに去って行った。
「サーロン行こ」「うん……」
―◦―
足早に柔道場から離れた竜騎は、勢いそのままに人目を避けつつ歩き続けていた。
「棄権するだと? 偉そうに。
どうせ棄権なら行かなくてもいいよな。
サッカーとバレーで対決したらいいんだし。
俺が行けば棄権と言ったな?
だったら俺が行かなかったらやる?
それなら俺抜きでやってみろ。勝ってみろ。
2年生だからって偉そうに!」
ブツブツ言いながら今度はプール裏に向かった。
―◦―
〈行かないを選んだね……〉
〈うん。謝るの、ハードル高いんだねぇ。
サッカーは予選ないから当たるかもだけど~〉
〈でも1回戦と2回戦は当たらないよ。
当たるのは決勝戦になるよ。
それまでに喧嘩して棄権じゃないかな〉
〈バレーも予選でダメかにゃ~?〉
〈最初から棄権かもね。
彩桜、そろそろ行かないと〉
〈ん。頑張る~〉
―◦―
「馬白は来ないみたいだね」
冴喜がグランドをぐるりと見渡した。
試合開始間近。一応、陸上部の野球チームはグランドに集まっていた。
対戦相手のバレーボール部は既に並んでいる。
「皆、まだ棄権だとは言っていない。
どうしたい?」
「馬白が来ないんなら……やるか?」
「だな」「楽しめそうだよな」「うん」
と、並びに行った。
―◦―
卓球は彩桜が優勝して表彰式。
小さいが金銀銅のメダルが用意されていた。
ステージで授与式をしている間に卓球台が片付けられて剣道の試合の準備が進んでいる。
このメダル……〈紅火兄 作った?〉
〈この5年、寄贈している〉
〈そっか~♪〉
表彰式が終わって、応援してくれた皆と喜び合いたかったが、剣道も最初の試合になっていたので急いで着替えないといけなかった。
「後で ゆっくりねっ♪」タタタタタッ!
「もしかして~♪」「ちゃんとハカマ?♪」
「きっとカッコイイねっ♪」「だぁねっ♪」
「剣道は静かにね」
「「は~い♪ 波希センセ♪」」
「他の5人は?」
「ほら、あれ♪」「バレー部がバスケ♪」
「そっち応援しないの?」
「「彩桜君 最優先♪」」
「そ……」
「波希センセも応援してるよ♪」
「スネちゃダメだぁよ♪」
「スネてなんかないから」ムッ。
「スネてる~♪」「だぁね~♪」
彩桜が戻って来た。
そのまま駆け抜けて剣道の開会式へ。
「「カッコイイ~♪」」
―◦―
のびのび野球の方は――
「どうやら さっきの試合は、1年は馬白に萎縮していて、2年は嫌気が勝っていたみたいだね。
普通に強いじゃないか」
「これを見ると余計に来年が憂鬱になるよ」
『あれ?
陸上部、さっきとピッチャーが違うぞ』
「「ん?」」
声の方を見ると、次の試合の相手になるサッカー部員達が見に来ていた。
少し離れているが、そちらに耳を傾ける。
―◦―
「あの変なリズムの投球を研究しとこうと思ったのにな……」
「変拍子投法なっ♪」
「武道連合がメチャクチャ苦戦してたって聞いたから来たのになぁ」
「打つ方もムチャクチャだったらしいぞ。
狂暴ブン回し打法♪」
―◦―
「確かにね。的確な表現だよね」苦笑。
「でもまぁ、それで勝ったんだから、その点は悪く言えないよね」溜め息。
二人は試合の方に集中した。
『嫌われ者の白竜』継続中です。
全く反省なんて出来ないようです。
〈1日目・午後〉
グランドAB:野球(団)予選
体育館 A :卓球(個)→剣道(個)
B :バスケットボール(団)予選
テニスコート:軟式テニス(個)
・野球 予選Aブロック(Aグランド)
撫子連合、水泳部、吹奏楽部、歴史研究部
・野球 予選Bブロック(Bグランド)
陸上部、サッカー部、武道連合、バレー部




