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ピュアリラ大神殿



 テイムとアクアローズの結婚の絆を結んでいる間に、ラピスリはアクアローズの両親の魂内を確かめていた。

その支配の緩さ、小ささに気付いたラピスリは、一般神(いっぱんじん)に掛けられた支配自体が弱いのか、それとも信奉者は意志が強く、支配に打ち勝って弱めてしまうのかを確かめたくなった。


「これにて、テイムとアクアローズは夫婦となりました。

 これからの神生(じんせい)何時(いつ)如何(いか)なる時も互いに手を携え、困難を乗り越え、幸せを築いてください」

掲げた掌から瞬く聖光を新郎新婦へと注いだ。


「「はい!」」


「プレナルムローズ子爵様、アクアミュゼ様。

 どうぞ此方に」


「あっ」「はいっ」

名乗っていないのにと驚き慌てつつ飛んで寄った。そして再び祈りの姿勢に。


「お屋敷の方にも祝福をと存じますが如何でしょう?」




 もう喋るどころではなくなった親娘とテイムを連れたラピスリが子爵家に術移すると、其処は東小都(ひがしこと)の外れだった。

広がる長閑(のどか)な風景に目を細める。

今朝、ザブダクルに話した古の緑豊かな獣神の地に近いのかもしれないと感じたのだ。


「このような所でっ、誠に申し訳なく――」


「何を仰いますやら。

 私は獣神。獣神は自然を愛します。

 荒れた地の多くなってしまいました神世に、こうも豊かな緑が残っていたのかと感じ入っておりました。

 緑の地をお守りくださいまして、ありがとうございます」

ゆっくり話しつつ辺りの人神達の魂内を探る。

「それでは祝福を――」上昇。


キラキラと暖かな光を注いだ。


【姉様?】


【エィムも来ていたのか】ふふっ♪


【来てはいけませんでしたか?】


【構わぬが、同代は?】


【また来ますから大丈夫ですよ。

 それよりも姉様の目的が気になって】


【一般神に掛けられた支配を確かめている。

 観測神は死司神より緩い。

 子爵夫妻は更に緩く、無に近い。

 だから周辺を確かめている】


【死司はナターダグラルの直下だから?】


【そうだとは思う。

 その上、他域の神格者(じんかくしゃ)を集めているからな】


【神力を抜いて、記憶を操作して、ガッチリ縛っているんでしたね】


【社でも解くのに難儀した。

 観測最高司補殿は容易に解けた】降下。


「今ピュアリラ様っ」

「「ありがとうございます!」」

親娘号泣でテイムが困っている。


「お泣きになるような大層な事では御座いませんよ。

 それでは、これにて――」「今ピュアリラ様!」


「何でしょう?」にこっ。


「どうかどうか! 地下の礼拝神殿にも!」

「どうかお願いいたします!」


「では参りましょう」【姉様!?】

【エィムは如何に?】【行きます!】



―・―*―・―



【ラナクス様、日記に描かれた図の通りの古い隠し部屋を見つけました】


 倉庫に居るプラムからの報告が伝わった。

自室の壁から日記帳らしき物を取り出した後、ラナクスに相談し、読めないものの複数箇所に図を見つけたので探していたのだった。


【然うか。ロークスとハーリィも来ている。

 直ぐに連れて行く】


【はい♪】


【ロークス、ハーリィ。

 やはり隠し部屋は存在した。開けに行こう】

『日記帳』の表紙裏に手書きされた図をトントンとして立ち上がった。


【ふむ】【私もよいのか?】

ラナクスに相談があると呼ばれたロークスと、書類を届けに来ていたハーリィも立ち上がる。


【プラムが大喜びだ】フッ。


【ふむ……】頬が熱くなっていく。


【これは職務ではない。

 故に公私混同には当たらぬ。完全に私事だ。

 行くぞ】



―・―*―・―



《よーし!

 なかなかイイ感じに落ち着いたな♪》


〈クーゴソン様って元気ですね〉欠伸(あくび)~。


《ナンだよサトル。修行が足りねぇぞ?》


〈一晩中 起きてたんですから眠いですよ〉


《そんじゃあ寝てろ♪》


〈クーゴソン様が起こしたんじゃないですか〉


《そうかぁ?

 そんじゃあナンか質問しやがれ♪

 詫びとして答えてやる♪》


〈質問て……そんな急に思いつき――あ。

 クーゴソン様の頭って、どこなんですか?〉


《頭は頭の位置に決まってんだろ》


〈じゃなくて! 誰に入ってるんですか?〉


《ソレが分かりゃ苦労しねぇよ!》

詫びとは思えない答え方だ。


《とは言えだ、ワシの頭も見つかっておらん。

 他にも、どうにも頭だけは見つからんと聞いた事がある》


《おいイノブタ、誰からだよ?》


《サルと違ってワシは目覚めて10年くらい経っているからな、何度か聞いた。

 だから勝手な想像だがな、神世に残されてるんじゃないかと思ってるんだ》


《悪趣味の極みだな。

 生首ばっか並べて何しよーってんだぁ?》


《人神は頭こそ重要だと信じている》


《確かにな。尻尾なんか見向きもしねぇよな♪》


《その愚かさで助かってはいるが、兎も角だ。

 人世に溜まった獣神の反撃を怖れて、大神の頭を隠してるんじゃないかと考えてるんだ》


《そっか。

 オイラ達も大神のハシクレだもんなぁ。

 ま、そーゆーコトなら頭は無傷。

 大事に保管してくれてるなら文句ナシだ♪》


《そういう考え方もあるか。ふむ》

〈けど今そうやって姿見せてる時って頭もありますよね?〉


《そりゃあオイラ達は大神だからなっ♪

 ある程度の神力があれば、ちゃ~んと姿が成せるんだよ♪》


《アヌビス様やバステト様は小さな欠片だ。

 しかし姿を成せる本物の大神様だ》


《ま、部分部分しか見せられなかったらドラグーナなんかブツ切りだぞ?

 頭は真っ二つに割られてるしなっ。

 それぞれ浮かんでたらキモいだろ》


〈確かに……〉想像してしまった。


《神として、そんなカッコ悪い姿なんか晒せねぇよ》



―・―*―・―



「今ピュアリラ様、此方が最大の礼拝神殿で御座います」


 神世の地下に隠して作られた神殿は確かに広かった。

前にアクアローズから聞いた時には誰も(かよ)っていないかのようだったが、そこそこの人神達が祈りを捧げている。


「この神殿は、何方(どなた)がお作りに?」


「獣神様で御座います。

 私は見てはおりませんが大きな大きな猫の女神様でしたと伺っております」


 言われて探ると、マヌルヌヌの神力を確かに感じた。そして大勢の獣神の気も。

瞬移だけでなく術移までも封じられているのは、信奉を妨げる如何なる者をも侵入させないという意志の現れなのだろうと、ラピスリは真上の里に訪問したと告げる気を送った。


【つまりマヌルヌヌ様が近道な地下道と、この神殿を作って隠して結界で護っているのですね?】


【そうらしいな。

 これだけでも大収穫。

 来た甲斐があったというものだ】


『あっ! 今ピュアリラ様っ!』

その声で信奉者達が一斉に後ろを向いた。


すぐにラピスリを見つけて集まり、祈る。


観測最高司補(ルルメスクス)殿……」苦笑。


「申し訳ございません。つい……」

「今ピュアリラ様、前にお願い致します!」


『おお……』と嬉しそうな響動(どよ)めきが拡がる。


ラピスリは慈愛の微笑みを湛えたまま、内心やれやれと思いつつ前に行った。

巨大なピュアリラ像の膝辺りに浮き、

「真ピュアリラ様に代わりまして、皆様に祝福を届けさせて頂きます」

煌めく祝福光を放った。


そして程よく集まっている人神達の魂を確かめるのだった。



―・―*―・―



【なかなかに手強いな……】

【扉を浮かび上がらせておくだけでも難儀だ】

【これもまた人神にしか見えぬ結界かもな】

ロークス、ラナクス、ハーリィはプラムが見つけた隠し部屋の扉前で唸っていた。

扉を見つけたプラムは、手前の倉庫で探し物を装って見張り役をしている。


【オフォクス様に伝えに行こうか?】

再生神(ハーリィ)は比較的自由に人世に行ける。


【【それならラピスリを連れて来てくれ】】


【確かに それが最善だと思えるな。

 しかし その古い日記とやらには開け方は書かれていなかったのか?】


【まだ解読途上だが、表紙には『3』を示していそうな三本線がある。

 開け方が書かれているのは、もっと前の日記なのかも知れん】


【ならば見つけた近くを探すか?】


【プラムの部屋だ。だから一緒に行ってくれ】


【そうか。では行ってくる】

薄暗がりでも見えるくらいに頬を染めて出て行った。



【結婚して変わったかと思っていたが……】

【ハーリィは相変わらずだな……】

兄弟、顔を見合わせる。


【取り敢えずの応援を呼んで来る】

(ロークス)(ラナクス)の肩をポン。


【チャリルとタオファか?】


【然うだ】

少し離れてから術移した。



―・―*―・―



 十分に確かめたので長居は無用と、ラピスリは何時(いつ)来るとは約束できないが必ずまた来ると約束して礼拝神殿を離れた。


 地下道を進みつつ

【姉様、次は?】

今ピュアリラの弟子(エィム)は期待の眼差しを向けた。


【都の一般神の魂も確かめたいが……何やら呼ばれているような気がする。

 一旦、観測域に戻ろう。

 観測神達(テイムとアクアローズ)も戻した方が良かろうしな】


【はい!】


【ん? 何やら楽しそうだな】


【こんな感情は初めてで……これがワクワクというものなのかと……】

複雑そうな、はにかんだ笑みを浮かべた。


【そうか。

 それもまた成長だな】ふふっ♪


【子供扱いですか?】ムッ。


【表情も豊かになったな】


【あ……】


【確かに若いのだから大いに学べ。

 様々な経験をし、知ってゆけ】


【はい♪ 姉様を目標にしますね♪】


【それは……断る。

 私は反面教師にしかなれぬ。

 兄弟は多いのだから他に目を向けてくれ】


【いいえ♪

 僕の目標はラピスリ姉様しか居ませんよ♪】


【困った奴だな】苦笑。


笑うエィムの仮面が取れた表情に安堵しつつ、早くマディアにもと気を引き締め直すラピスリだった。







神が神を崇め奉る。アリなんです。

神殿は偉大なる神の御座(おわ)す場所です。

王の居所、神王殿(しんおうでん)なんかも その類いです。


日記帳の件も絡んでくるようです。

全てを遮断している礼拝神殿でも呼ばれていると感じ取るラピスリは、本当に今ピュアリラになれそうですよね。



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