偽ティングレイス?
人神タンブラングとコンシロフォは牛の女神カウベルルに連れられ、幾重にも聳え立つ城壁の如き結界の門をくぐり、最奥の間へと通された。
しかし玉座に相当しそうな奥の壇上には誰も居らず、気配すらも無かった。
人神達は神眼を全開にしても自分達には見えないのだろうと、壇下の右側に控えたカウベルルに顔を向けた。
「あの場所にいらっしゃるべき獣神の王ドラグーナ様は、今は堕神なの」
壇下、左側に目を向けた。
「姉様、ティングレイスの友神達です。
サティアタクスとも話したそうです」
四獣神で獣神の大きさには慣れていると思っていた2神でも驚いた程に巨大な猫神が姿を見せた。
「ふむ。して、サティアタクスは?」
「私共の上官、クラベルスとテブロークがお護り致しておりますが、各々が牢の如き個室に閉じ込められておりますので、自由に話せる状況では御座いません」
「何事か異変が起これば部屋を脱し、お助け致す所存で御座います。
その為、より強い上官達が残ったので御座います」
「サティアタクス王様は勿論の事、私共はティングレイスも救いたいのです。
行方知れずのティングレイスを捜し出し、王を騙る偽ティングレイスから玉座を奪還したいのです!」
「彼の者は偽者とな?」
「サティアタクス王様は簒奪の理由が解らないと仰っておられました。
その必要は皆無だと」
「詳しくはお話しくださいませんでしたが――いえ、上官達でも読み取りきれなかったのではないかと存じますが、簒奪したのはティングレイスではない。
それは確かだとも思えるような御言葉も御座いました」
「私共の思いも同じで御座います。
私共が知るティングレイスが、このような世にするなんて到底思えません!」
「獣神様を片っ端封じるなんて絶対しません!」
「大好きな! 尊敬するドラグーナ様を堕神にするなんて! 有り得ません!!」
「ですので、どうか御力を!」
「どうかお願い致します!!」
「既に神王殿には獣神が潜んでおる。
人神の姿で、操られておる振りをしてのぅ。
他にものぅ、浄化域にも死司域にも再生域にも同様に紛れ込んでおるよ。
証拠を集め、また、堕神とされた獣神らが滅されぬよう動いておるんじゃよ。
だだのぅ、貴神殿だけは入れんで困っておったんじゃよ。
二千もの王子達が常駐し、残りの千もが周囲を巡回し、頻繁に出入りしおって、サティアを奪われまいと守りを固めておるからのぅ。
少々 時を要するが……道を開くからのぅ、貴神殿で待っておってくれるか?」
「はい!」「ありがとうございます!」
笑顔になった2神は勢いよく深く頭を下げた。
「「あ……」それなら……」「だよな……」
「如何した?」
「「監視の巡回までに戻らないと!」」
「副都まで送り届けてやろうぞ。
サティアの事、頼んだぞ」
「「はいっ!♪」」
―・―*―・―・*・―・―*―・―
〈――という事があったそうじゃよ。
普段通りに連絡が入ったとすると……10日程前かのぅ〉
〈そう……その人神達、確か最果てに来ていたね?
リグーリは覚えているかな?〉
〈ティングレイスを追って2人神組が来ておったが、その後、ティングレイスが迎えに行った2人神組も居座ったのぅ。
その、後の人神達じゃよ。
フェネギも覚えておったか〉
〈忘れられるものか……〉
フェネギは額の傷痕に触れた。
完全に治すのは容易いが、忌々しい人神に会った際に疼くよう残しているのだった。
〈アーマルとウンディの方は?〉
〈相変わらずだよ。全く開かないね〉
〈ドラグーナ様――彩桜様は?〉
〈主様がずっと付いておられるよ。
その御様子を兄様方に伝えに行った帰りなのさ。
学校は病欠という事になさっておられたけれど……そろそろ通わせなければならないだろうね〉
〈早く開いて頂きたいものよのぅ……ん?〉
空き地から天を見上げていた白狐が近くの住宅の生け垣に身を隠し、結界の外の老神は何事も無かったかのように離れて宵闇に消えた。
老死神が街の結界から離れた直後、高位となった死司神ルロザムールと、端正な顔立ちの若い男神が その場所に現れた。
「エーデラーク様、如何で御座いますか?
死司の神を阻む この忌々しい障壁、破壊叶いましょうか?」
「これは……何故ここまでになる前に破壊しなかったのです?
これ程の強い力……堕神とした獣神が目覚めたのではありませんか?
見逃し、放置したと知られれば、間違いなく大失態として処罰されますよ?」
「し、しかし、如何にすれば……」
「神としての正しき道に厳しい死司の最高司ナターダグラル様に知られぬ為には、導く魂の数を減らしてはなりません。
堕神達は変わりなく無自覚なまま人として過ごしており、人世は穏やかで、予定通り導けていると示さねばならないのです。
死司神が降りられぬなんぞと知られてはならないのです」
「降りられも出来ぬのに導かねばならぬとは……どうすれば……」
いつもの威厳は何処へやらなルロザムールがオロオロしている間に、街では小怨霊が現れており、丁度この時、祓い屋達によって結界から出されていた。
「あの者達を利用なさい」
出された小怨霊を若い死神が連れて消えた。
「あのように導けばよいのです。
堕神や欠片持ちであろうが利用しなければ露見してしまいますよ?」
「クッ……で、では、そのように……」
―・―*―・―
「お稲荷様、そろそろ学校行っていい?」
瞑想を休憩した彩桜が稲荷の前に行って、にこにこ座った。
「行きたいのか?」
「修行の方が楽しいけど~、青生兄みたく獣医さんなりたいんだ♪」
「然うか」
「ここには通わせてください♪
力丸には会わないよぉに気をつけます。
あ、そろそろオヤツ運んであげないと力丸 泣いちゃうねぇ」
「狐儀が毎日運んでおる」
「そっか~♪ 良かった♪
でも……俺、どぉなっちゃってるの?」
「ふむ……」
ドラグーナの封じられ方は酷く強い。
お前こそが堕神だ等とは
罷り間違っても話せぬな……。
「堕神の欠片の話をしてやろう。
堕神の欠片とは、神の魂や力の一部なのだ。
祓い屋達は、己が魂の内に其の欠片を持っておるからこそ、彼の様に怨霊と戦えるのだ。
彩桜達兄弟が持っておる欠片は、最強の龍神のものだ。
其の龍神は七つの強い力を持っておった。
其れ等を全開発動する際には鱗色を変え、神力を集中させて放っておったのだ。
己が力を一気に増し高める際には金華。
速さを増す際、具現の際には淡藤。
他神の力を写し放つ際には白銀。
他神に力を与える際には黒輝。
護りに徹する際には深紅。
攻撃や破邪には綺桜。
治癒や回復、浄化には瑠璃であった」
「その色……俺達の名前と同じ?
ソレって、兄貴達と俺に同じ龍神様の力が1コ1コ別々に入ってるってコト?」
「然うだ。
生まれた際、両親に鱗色光を見せ、名を伝えた」
「俺達の名前、お稲荷様がつけたの!?」
「然うだ。其の龍神は儂の真の友だからな」
「ごめんね……持ってきちゃって……」
「何故謝る?
彩桜が持ち出したのではなく、込められて生まれただけだ。
謝らず、其の力を生かせてくれればよい」
「欠片の力を使えるよぉに修行なんだね?
祓い屋にもなれるよね?
俺、頑張る!♪」
―・―*―・―
〈ぴょ~~ん♪〉
ショウが塀を飛び越えて庭に戻った。
〈タカシ♪
今日のヒュ~ンもキレイだったねっ♪
ルリもカッコ良かったねっ♪〉首輪OK♪
〈やっぱり瑠璃は強いね〉
〈ね~っ♪ タカシは光のアーチェリーで、ルリは光の剣なんだねっ♪
僕も何か出した~い♪〉
〈ショウなら出来ると思うよ〉
〈ん~ん~ん~ん~ん~ポンッ♪〉
〈え? 縄?〉
〈あ♪ カウボーイ♪ 西部劇の♪〉
〈そうか、飛鳥と見たね〉
〈じゃあ輪っか作って~♪
ヒュンヒュンえいっ♪〉ヒョ~~~ン♪
庭木の枝を捕まえた。
〈もっと鋭くかなっ♪〉〈そうかもね〉
〈練習する~♪
んと、消して、出して、くるくるえいっ♪〉
ふわりと高く浮き、落ちて枝に絡まった。
〈あれれ~?〉
〈どうやら具現化が確か過ぎて風を受けてしまうようだね〉
《それは神力封じの縄だ。
無闇矢鱈と投げるでない》
〈ショウ、そんな縄を知っていたの?〉
〈知らな~い。
フツーの縄、出ないのかなぁ?〉
〈偶然そんな縄が出てしまうなんて……〉
《私が導く。アーマル、力を貸せ》
〈え? あ、はい……〉またアーマルって――
〈じゃ、もっか~い♪〉ポンッ♪
第一部 第2章の最終話です。
ラナキュラス達はティングレイスだけどティングレイスじゃないと感じており、友となった兵士達はダグラナタンに違いないと思っています。
さて、真相は如何に。
カウベルルは牛と言っても羚羊。
鹿っぽい美牛なんです。
次章からは人世と神世を行ったり来たり。
登場人(神)物もどんどん増えます。
ですが、その場その場の神様も大勢ですので、サラッと流してください。




