喋る犬は出入り自由
驚いている竜騎に向かって両親が小走りに迫っている。
その表情から、かなり心配して捜し回っていたのだろうと容易く想像できる。
「もう一度 電話したら部屋に居ないと聞いて驚いたのよ」
慌ててスマホを確かめると両親の携帯番号と会社からの着信履歴がズラリと並んでいた。
時間は自転車で輝竜家に向かっていた頃。
出ないので家に掛け、そこから騒ぎになったようだ。
「手分けして方々捜したぞ。
何故 誰にも言わずに出掛けたのだ?」
「っ……」
「連れ出してしまい申し訳ございません。
私、1年2組の副担任、狐松と申します」
「いえ先生、その前が問題なのです。
輝竜さんのお宅に居たと伺いました。
黙って出掛け、他人様のお庭に入り込む。
これでは泥棒と同じです」
「先生、竜騎を保護してくださいまして ありがとうございます」
「ああそうだな。ありがとうございます」
揃って深々と礼。
「いえいえそのような。
確かめもしなかった私が悪いのです。
申し訳ございませんでした」
こちらも丁寧に礼。
「竜騎さん、もう一度 乗りませんか~?」
白桜に乗った彰子が声を掛けた。
「彰子お嬢様……」
「竜騎、ご指導いただいているの?」
「えっと……はい」
〈猫かぶり?〉〈言ってはなりませんよ~〉
「お嬢様がお待ちだ。早く行きなさい」
「見ていますからね」
「はい」駆けて行った。
彰子はウィンローズに戻った。
「後を追ってくださいね~」スタート地点へ。
「猫かぶりで悪かったな」乗った。
〈そろそろ反省するって覚えられないの?〉
「ウルサイ」蹴る。
〈だから指示なんて要らないし、今スタート地点には彰子お嬢様が居るから行けないでしょ〉
「指示通り動け!」
〈危険だってば。あ、スタートしたね〉行く。
「今は指示してないだろ!」
〈ホントに落とすよ? ご両親が見てるのに〉
スタート地点で止まる。
「お前……覚えてろよ」また蹴る。
〈今? 嫌だよ〉自分で見計らってスタート。
後は何を言われようが、されようが無視してウィンローズを追った。
―◦―
「馬を蹴るのは癖なのか……?」
「そのようですね。悪い癖です。
竜牙は鞭と蹴りを怖れていました。
それが不整脈の原因なのです。
手綱を引き寄せるのは『止まれ』、蹴るのは『行け』です。
それらが強いので『緊急停止』と『緊急発進』となりますね」
「それを同時に?
馬はどちらに従っているのですか?」
「どちらにも従っておりません。
今日、初乗りですが、ずっとそうですので無視しておりますね。
馬は賢く、怪我をしたくはありませんので」
「あの馬は?」
「輝竜君の馬です。
白桜は大障害Aの2大会連続優勝馬です」
「馬の方が上手なのですね……」
「終わったようですね」
2周して戻った白桜は竜騎が降りると逃げるようにウィンローズの方へ。
「竜騎、帰るぞ」
狐松と彰子に礼をして背を向けた。
「はい……」
あれ? 褒めてくれない?
2回ともパーフェクトだったのに……。
「先生と彰子お嬢様にお礼は?」
「あっ、ありがとうございました!」
「どういたしまして~」
「また遊びにいらしてくださいね」〈ヤダぁ~〉
返事はせずにペコリとして父を追いつつ白桜をチラリと睨んだ。
「全く反省できないのですね……」
彰子が悲し気な視線で追った。
「既に何度も禍が膨らんでおります。
内の大神様だけでなく馬白君も呪を受けてしまっているかも知れません」
「それは……救えないのですか?」
「今宵、此方の大神様方にご相談致します」
ドラグーナとガイアルフの話は知らないものの、フェネギもまた大神をキツネの社に集めようと考えていた。
―・―*―・―
竜騎の母は社用車で会社に向かい、竜騎は走屋が運転する自家用車で父と共に帰宅した。
走屋を車に残して玄関に入った父が息子を睨む。
「大勢の乗組員の命が危ない時に考え無しな行動を起こすとは……」
「ごめんなさい!」先手必勝の謝罪!
「輝竜さんが笑って許してくださったから良かったものの、不審者として通報されてもおかしくない行為だ。
暫くは登校以外の外出を禁ずる。
大人しく勉強していなさい」
「ですがっ――」
「竜騎は謝るより先に言い訳をするのだな。
輝竜さんは家に上げたのは自分だからと、竜騎は悪くないと潔く謝罪してくださった。
しかし先に庭に入ったのは竜騎だ。
輝竜さんは許し、招き入れてくださった。
この違いすらも解らぬようなら竜騎を後継者の候補からも外す。いいな」
有無を言わさず背を向けた。
扉が音を立てて閉まり、父の姿を追えなくした。
そして外のエンジン音が去った。
「いさぎよく謝罪しただと!
俺が庭に居たとチクってるじゃないか!」
〈違うよ~。僕が言っちゃったんだよね~〉
「喋る犬かっ! どこだっ!」
〈入っていいの?〉
「来いよ!」捕まえてやる!
〈うん♪〉
玄関扉のノブが動き、隙間が出来ると大型犬がスルリと入って来た。
〈おじゃましま~す♪
事情知らなくて見たまんま喋っちゃった。
ゴメンね~。
ソレ伝えに来たんだ~。じゃ~ね~〉
二足で立ち上がり、扉を開ける。
〈今度は ちゃんと遊びに来てね~♪〉
尻尾を振って、閉まる前に出ようと四足に。
「待てよ! 不審犬を逮捕してやる!」
〈ん?〉
すぐ近くに迫ってから声を上げた竜騎をタタッと躱して離れ、広い玄関ホールの真ん中辺りで一点を見上げて尻尾を振る。
〈僕、許しを得て入ったよね?〉
扉に ぶつかった竜騎が体勢を整えて反転した。
「誰に聞いてるんだよ!」もう一度!
『竜騎、いい加減にしなさい』「父様!?」
『それがお前の本当の姿なのだな。
よく分かった。部屋に行きなさい。
ショウ君、わざわざ来てくれたのに愚息が申し訳ない。
ショウ君が謝る必要は無い。
もう相手をしなくていいよ』
〈帰る前にお庭のコと遊んでいい?〉
心話なのでカメラに向かって話さなくても直接 馬白社長に伝わっているのだが、違和感がないように向いて尻尾を振っている。
『構わないが番犬だぞ?』
〈ありがと~♪ お友達になる~♪〉
また開けて出て行った。
『隅居』「はい旦那様」 「え?」
隠れていた執事が出て来た。
『犬崎に犬達の様子を見させてくれ。
ショウ君が襲われぬようにな』
「はい」
『ショウ君は出入り自由だ。
首輪にチャームを付けるよう、飼い主宛ての手紙に添えてくれ。
それと竜騎を部屋に』
「畏まりました」
―・―*―・―
大収穫で上機嫌な白久が運転するバスは、すっかり夜になってから帰宅した。
「リーロン、連絡した通りだ♪
皆に飯を頼む♪」
「ちょうど出来立てだ♪ 任せろ♪」
「で、手紙とやらは?」
「テーブルの上だ♪」
「ん。マジで馬白さんか……」
手紙を摘み上げてヒラヒラ。
「ま、渡音フェスでも世話になるし、繋がりを保つのもアリかぁ」
瞬移で青生が現れた。
「その件で少し。
金錦兄さんの部屋に行きませんか?」
「だな」
「行くならメシ持ってけ! 青生もだっ!」
「ん♪ ありがとなリーロン♪」「ありがとう」
―・―*―・―
〈ヒビキお帰り~♪ カナデも一緒だ~♪〉
響は研究室の忘年会旅行から、奏は友達との旅行から戻った。
「ショウ、ご機嫌ね♪」「寂しくなかった?」
〈遊びに行ってたから大丈夫♪
でねっ、首輪にお手紙~♪〉
話しながら玄関へ。
と言っても響にしか聞こえていないが。
「え? 誰かに迷惑かけたの?」〈違うよ~♪〉
取って開く。
「何か入っていない?」「家紋チャーム?」
「出入り自由の証であるチャームを首輪に?」
「馬白海輸の社長さん!?」
〈うんっ♪ ガオウとギオウ、お友達~♪〉
「って誰よ?」〈お庭番してるコだよ~♪〉
「犬なのね?」〈うんっ♪〉
「住所、栂野原よ?」
「そんな遠くまで行ってたの?」〈うんっ♪〉
「ま、いっか」チャームを付けた。
「あんまり遠くに行っちゃダメよ?」
〈は~い♪ あ、そろそろお兄と替わるね♪〉
ワフッ♪
「イキナリお姉ちゃんに甘えるか~」あはっ♪
「この、急に変わるのは?」
「そろそろ話しても信じてもらえそうね♪
これはショウとお兄が入れ替わるから♪
正確に言うと、このショウの魂の本体は紗ちゃん家で飼ってたショウなの。
ほら、ユーレイになった時にお兄と重なってたでしょ?
一緒に喋ってお姉ちゃんビックリさせたアレよ♪
今もお兄はショウの魂の中に居るのよ♪
生まれ変わった時に赤ちゃんになって、今はチビッ子だけどね♪」
「本当に……翔なのね……」
「お利口さんなショウと、ヤンチャで子犬そのものなお兄――」『響!』
ソラが駆けて来ていた。
「お姉さん、こんばん――わっ!!」ワフッ♪
飛びついたショウに押し倒された。
「またお兄だったのかぁ。あっ!!」
「え?」「あ~、またぁ?」「うん……」
またまたまたでショウを抱えて風呂場に直行するソラだった。
善悪すらも判断できないのかと思える竜騎。
きっと馬龍の大神様はカンカンでしょう。
竜騎と馬龍の大神様のお話は続きますが、神世の方にもラピスリがエィムに渡した神器の件と、プラムが見つけた日記帳の件がスタックされていますので、そちらを挟みたいと思います。
そんな訳で、みんなが帰宅したところで、この章は終わりにします。
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