サクラ牧場の鞍桐
響とソラは少し離れた場所から竜騎達の様子を見ていた。
「問題の子が乗ったわね」
「うん。いつもよりずっと大人しいけどね」
竜騎は竜桜に乗って軽く歩かせている。
「あの馬……お嬢様の時は楽しそうだったのに萎縮してない?
あの子の馬なのよね?」
「竜牙には心因性の不整脈があるんだ」
「あ~、原因なのね」
「昨日、彼のミスで怪我をしたんだ。
彼は座り込んでしまった竜牙を見捨てて帰ったんだよ」
「酷い……」
「トレーナーの鞍木さんにもクビだと言ったんだ」
「そうなのね。ワガママお坊っちゃまなのね。
時々なんだか黒いものが膨らむのは?
また生霊なの?」
「彼も欠片持ちなんだよ。
欠片の神様が彼の態度に怒ってるんだ。
それが危険だから八郎さんとお嬢様が近くで様子を見ているんだよ。
怒りから生じて膨らんだ禍に霊が触れると怨霊化してしまうからね」
「お嬢様も祓い屋なの?」
「修行中なんだ。八郎さんが指導してる」
「いい感じよね♪
それじゃあ私達も このまま見ていましょ♪」
「そうだね」
「ずっと向こうの二人は? ほら金髪の。
馬と話してない?」
「話してるよ。馬の神様だから」「ええっ!?」
「獣の神様は人の姿にもなれるんだよ。
キツネ様とか狐儀様とか、どっちの姿も見るよね?」
「化けてるんじゃないのね♪
じゃあ狸の神様も居るの?」
「居ると思うよ。
大抵の動物には獣神様が居るらしいから」
「龍神様は居るのに竜は?」
「さぁ……絶滅したとか?」
「あ! 恐竜ねっ♪」
響は冗談のつもりらしいが、当たっている。
―◦―
この馬……
見た目だけじゃなく竜牙そっくり?
けど、脚はケガしてないよな?
さっきも跳んでたし、別の馬だよな。
手綱を引いてコースに向かわせようとしたが、思うようには動いてくれなかった。
「おい、さっきみたくコースに行けよ」
『GO』と軽く蹴ったつもりが、けっこう強く当たってしまった。
〈イタイってば!〉痛さよりも驚いたらしい。
〈竜牙そっち行っちゃダメ!〉
白桜が止めたが、竜桜はコースとは反対側、離れて見ている鞍木の方へと走ってしまった。
「止まれ! おいっ!」
手綱を引いても止まらない。
「止まれって!」「蹴ったら止まりません!」
「あ……」無意識に蹴っていたようだ。
竜桜が走るのを緩めていき、止まった。
鞍木の前で。
〈鞍木さん助けてぇ〉〈聞こえないってばぁ〉
「もう大丈夫だよ。
コースを跳んでくれるかな?」〈うん♪〉
「お前……鞍木か? 鞍木なんだろ!」
ビクッ!「い、いいえ!」
『鞍桐君! シロとユキを止めてくれ!』
「あっ、はい!」全力で走って行った。
その先、競技コース隣の練習コースでは白馬が2頭、騎手なしで勝手に跳んでいた。
「クラキリ……別人か? 本当に?」
竜桜が歩き出す。
〈白桜とローズちゃんだ~♪ 僕も~♪〉
〈じゃなくて競技コースねっ〉〈うん♪〉
「今度は指示してないのに……ま、いいか」
競技コースに向かっているので そのままにした。
鞍桐は白馬達を連れて厩舎に向かった。
竜桜は競技コースのスタート地点で止まった。
「白馬達も慣れてるし、ここのスタッフか……」
後ろ姿を目で追いつつ呟いた。
「よし、行けっ」
〈もうっ! 蹴らないで!〉〈竜牙ガマン!〉
〈仕方ないなぁ……〉〈1周したら降りるよ〉
〈うん。頑張る〉〈僕達も見てるからねっ♪〉
走り出し、すぐに第一障害。
〈お嬢様とタイミング違い過ぎっ〉体重移動の。
次々と障害が迫る。
〈なんだか逆だけど頑張って!〉
〈仕方ないなぁ。うっ――〉
〈蹴るの、クセかなぁ〉
〈鞭の代わり? なんかそんな感じするぅ〉
―◦―
〈黒いのが少し膨らんでない?〉
〈膨らんでるね……。
彼の中の神様も馬らしいから、あの馬が虐められてると思っているのかもね〉
〈気づけないのかなぁ。困った子ね〉
〈そうだね……〉
―◦―
彰子と八郎は竜桜がスタート地点に立った時に馬白社長に近寄り、並んで見ていた。
竜騎と竜桜は2周目に入っている。
「あんなに蹴っては跳べませんね~」
「彰子お嬢様、蹴るとは――ああ確かに蹴っていますね」
「速く、高くと焦っているようですね~」
「そう、素人の私にも見えます。
それにリズム? テンポ? が悪いように思えます」
「どなたが、ご指導を?」
「最初は馬を買った牧場から派遣してもらっておりました。
ですが、どうやら息子が断ったようです」
「竜騎さん、音楽は得意ですか?」
「音楽? いえ、体育の他は、成績は良くありません」
「大切なのは馬に合わせようという気持ち、あとはリズム感ですよ~。
馬にとって騎手はお荷物ですから~」
コースを終わって、また軽く走らせている。
「竜騎さんは、まだ走らせたいようですが、竜桜は休みたいと言ってますよ~」
「仕方の無い奴だな。
竜騎! 初めてなのだから、そのくらいに!」
父の声に竜騎が向くと、竜桜は嬉しそうに駆けて来た。
「竜桜、お疲れさまですよ~。
よく頑張りましたね~」よしよしですよ~。
〈いっぱい蹴られたぁ~。2周も走った~〉
〈お父様にも気づいていただきましたからね~〉
〈うん♪ お嬢様、もう1周~♪〉
〈少し休んでからですよ~〉
〈うん♪ あ♪ 鞍木さんだ~♪〉
金髪の若い男女と一緒に戻った鞍桐は桜瀬と話して離れようとした。
「待って! 顔を見せてください!」
「鞍桐は紫外線アレルギーなんですよ。
では、そうですね……あの売店の中でなら。
どうぞ」
竜騎は、やっと竜桜から降りた。
そして前を歩く桜瀬と鞍桐を観察しながらついて行った。
〈あれれ~? 鞍木さんじゃなかった~。
鞍木さん、どこ?〉
〈向こうだよ〉〈いた~♪ さっきのは?〉
〈顔を見せろと言われそうだったから代理を頼んだんだ〉
〈そっか~♪
白桜 ローズちゃん走ろうよ~♪〉
〈そうだね♪〉〈はい♪〉
―◦―
売店裏の事務所に入った。
「こんな格好で失礼しました。
改めまして、鞍桐と申します」
鞍桐はカウボーイハット、サングラス、バンダナと取って顔を見せ、名札を示した後、頭を下げた。
「別人だ……」「気が済んだか?」「……はい」
「こんなですから接客はさせていないんですが、竜桜が懐いていますから、お客様から離れた場所に居させているんですよ。
今日は人見知りな竜桜の方から近づいて来ましたけどねぇ」
「彰子お嬢様を乗せたかったように見えました」
馬白社長が頷きつつ話して微笑んだ。
「そうかもですねぇ。牡馬ですから」ははは♪
「竜騎、それで竜桜は気に入ったのか?」
「はい!
今日は乗りこなせませんでしたが、実力は見ましたので、あの馬がいいです」
「そうか」
「今日すぐにとは参りませんが、よろしいのですか?」
「ああ、療養中だったな」
「10日程は様子を見させてもらえますか?」
「丁度、期末試験だ。
此方もその成績を見るとしよう」「え?」
「再来週の末に来させて頂きます」
「ではそのように」にこにこ。
【八郎さん、もうお帰りのようですので、この後はボク達が見ておきます。
デートなんですよね?
夕食、間に合うように動いてくださいね】
【ソラ君もデートなのでは?】
【そうですけど、これも祓い屋の仕事です。
それにボクと響はユーレイ探偵団ですので♪】
【ユーレイ探偵団?】
【ユーレイ専門の探偵団なんです♪
この件も浮遊霊を怨霊化させない為に動かなければならないと、ボクだけでなく響も思っているんです。
ですので仕事とデート、一緒に、真剣にです】
【そうですか。では、お言葉に甘えます】
【頑張ってくださいね】
【あ……はい】
内緒話をしている八郎を不思議そうに見ている彰子に微笑み返し、気合いを入れる八郎だった。
―◦―
〈ソラ? 馬の神様から何? 何してるの?〉
〈鞍木さんの身代わりだよ。
あの子が自分の馬だと気づけば鞍木さんは姿を見せるつもりだったんだ。
でもまだ半信半疑だから鞍桐さんは別人って事にしたんだ〉
〈そっか。あ♪ 見えた♪
背が高い? 顔も違う?
どうなってるの?〉
〈修行の成果だよ〉
〈やっぱり七変化を目指してるのね♪〉
〈そうじゃないんだけど……〉
〈これぞ探偵よね♪〉
〈この後の尾行はボク達が八郎さんから引き継いだからね。真剣に行くよ〉
〈うん♪ あら? 先に出たの?〉
〈鞍木さんと入れ替わらないとね。
もう顔は見せたし、鞍桐さんは暇じゃないし、連絡先とか書いてもらってるだけだから〉
〈そっか♪ 任務お疲れさま♪〉
〈あ、うん〉なんだか照れる。
不穏は膨らんだものの大事には至らず、馬白父子はサクラ牧場を後にするようです。
八郎と彰子はデートへ。
ソラと響は尾行します。




