夢から覚めて
最果てから神王殿の門前に連続瞬移したティングレイス達が事情を説明していると、慌てた様子の宰相が飛んで来た。
「あ、叔父様。
この無礼者達をお願いしますよぉ」
勝ち誇った笑みを浮かべたダグラナタンが宰相の方に一歩進んだ。
「全く甘えおって。
今回ばかりは確と裁きを受けよ。
兄上も来ぬそうだ。観念せよ」
ダグラナタンの笑みが引き攣った。
宰相は無視して手に水晶玉を出した。
「証拠として記憶を此処に。同時でよいぞ」
3神が水晶に触れた時、隙ありとばかりにダグラナタンは動いたが、門兵達に捕り押さえられ、そのまま連行された。
「恥の上塗りにも程がある」
怒りが露な視線を甥に向けたまま、宰相は水晶玉を仕舞った。
「さて、彼奴の事を除いての報告を陛下がお待ちであるからな、師団長達も共にな」
―◦―
謁見の後、最果てに戻ると、兵士2神が泉から頭を出した。
「なんでそんなトコに?」
「私共が指示致しました」
「四獣神様より、禍から逃げるのに最適の場所と伺っておりましたので」
師団長達が答えた。
「ダグラナタン自身が禍だもんねぇ。
もう大丈夫だから出ていいよ」
泉から上がった2神は、ずぶ濡れのまま日当たりの良い場所に座った。
「えっと~、どうして?」
「「え?」」
「まず、どうして濡れてるの?
で、どうして乾かさないの?」
「どうして、って……」「なぁ……」
「おそらく身を護る術を知らぬのでしょう」
「水滴を消せる事すらも」
「そっか……そうだよね。僕もそうだったよ。
じゃあイチからだねっ。頑張ろうねっ」
水滴を消した。
「もしかして……」「ずっとここで……?」
「先程そう決定した」
「我々と共に過ごすと、な」
2神が固まった後、カクッと項垂れた。
「貴殿等を遣わしたのは貴族会。
嘘偽り無き報告を、との事だ」
「先ずは名乗ったら如何か?」
「第15師団、射手兵タンブラングです」
「同じく、コンシロフォであります」
「射手……じゃあ、剣は得意じゃなかったんだね? それなら納得♪
僕、弓も少しは習ったから一緒に鍛練しようねっ♪ 始めよう♪」
「えっ!?」「もう!?」
師団長達に睨まれた。
「「ぅ……はい」」
『陛下!!』
―
―◦―
―・―*―・―
「陛下!! 神王殿の近くに禍が!!」
目を開けたティングレイスは、気だるげに手だけで『善きに計らえ』と示した。
「はっ! しかし念の為、奥の結界に――」
「無用だ。好きにさせてもらう」
足を組み直し、外方を向いた。
「……畏まりまして御座います」
―◦―
ふむ。誰も疑いすらしておらぬな。
幕内で入れ替わったとは気付かれておらず
あの愚王がずっと座しておったと
信じておるのならば臣下共には
新たな支配は込めずともよかろう。
しかし王は……何やら様子が変わったな。
今日二度目となるが、
支配を加え、強めてておくとしよう。
玉座の王のみになったのを見計らい、黒装束の人神は王の背後に瞬移した。
―・―*―・―
〈グレイ起きちゃったぁ。
ここからが見たいトコなのにぃ。
繋ぎ直す力が残ってな~い!〉
何度か繋ぎ直そうとしていたらしい。
神王殿に3室在る『水晶の間』の1室。
塞いだ窓から細く漏れる月光の力を借りているのか、2つの龍形の水晶が仄かに光を帯びていた。
〈随分と進められたから十分だよ。
疲れたろ? 眠っておけよ〉
〈うん……眠っちゃうけどね~、起きてられる間はラナンと話したいんだ~〉
〈いいけど、無理だけはするなよ?
ソニアしか術発動できないんだからな〉
〈前は子供の頃のを見たでしょ。
あの時はボクが力尽きて眠っちゃってラナンと話せなかったから。ね?
グレイ……ずっと苛められてて……教科書とかも全部 滅されちゃって……〉
〈そうだったな。
サボってたとか言ったの謝らないとな。
頑張って生きてたんだよな……〉
〈あの牛の女神様って、もしかして……〉
〈たぶん老神の姿に変えてたんだ。
施設の先生も同じ女神様だったろ?〉
〈あ♪ ラナンもそう感じた?
ボクもなんだ。
カウベルル様じゃないかと思うんだ♪〉
〈きっとそうだよな。
カウベルル様……ご無事だろうか……〉
〈マヌルヌヌ様トコに帰ってる気がする~〉
〈ソニアがそう感じるんなら きっとそうだよ。当たるからな〉
〈えへっ♪
エーデリリィ姉様も会ってる気がする~〉
〈あの姉様は強いから、ちゃんと着いてる。
マヌルヌヌ様に僕達の欠片を渡してくれてるよ〉
〈うん♪ でも……〉
〈……ん? 寝たのか?〉
〈ううん。
玉座に居るの、確かにグレイなんだけど、なんか……グレイじゃないんだよね〉
〈それもソニアがそう感じるんなら、そうなんだよ。
信じたいって気持ちからじゃなく、ちゃんと違和感を拾ってるんだよ〉
〈ん♪ ありがとラナン……。
ボクは何があっても……グレイを、信じて、る……よ…………〉
〈僕も信じてるよ〉眠ったな。
また暫くボッチだな……。
双子だからかソニアとだけは話せるけど
並んでいる筈なのに兄様達とは
全く話せないなんて……。
あ……そろそろグレイの日課の頃かな?
近づいてるよな?
それすらも感知が鈍くて……
もどかしくて仕方ないよ。
うん。来たね。
今日こそは――
扉が開き、ティングレイスがフラリと入って来た。
そしてゆっくりと棚の水晶を数えていく――
やっぱり、ソニアも言ってたけど
違和感がある。
神力を封じられて
身動きすらもできないけど……。
それでも僕はドラグーナの子!
砂粒みたいな僅かな力でも
集め高めればきっと――グレイが来た!
棚の角を曲がったティングレイスが水晶を数えながら近づいて来る。
確かに数えているのだが、何も考えておらず、感じてもいなさそうな無表情のままラナキュラスの前を過ぎた。
ラナキュラスはティングレイスの魂に打ち込むべく、今 成せる最大の命の欠片だが、小さな小さな欠片を楔とし、その背に渾身の力で放った。
魂に届け!!
――すると同時に、右に並ぶ兄姉達と左のソニアールスからも細い光が飛んだ。
えっ……? 皆……同じ事を考えてた?
これならきっと……――
何事も無かったかのように離れて行く背を見詰めていたラナキュラスも、神力を使い果たして眠りに落ちた。
―・―*―・―
「どうか!
どうかこの門をお開けください!」
「お助けください!!」
四獣神達が戦っていた滝とは反対側の最果ての地で、強い神眼でなければ見えない門を必死の形相で叩く2神が叫んでいた。
『人神よ……此処が獣神の聖地と知って開けよと申すか?』
「存じております!
此方を目指して参ったのです!」
「どうかお助けください!」
『人神は信用出来ぬ。都とやらに帰れ』
「帰れないのです! どうか――!」
『最外なら良いでしょう?
お話を伺いたいわ』
門外の人神達は嬉しそうに頷き合った。
「「どうかお助けください!!」」
『私が最外に参ります』
『カウベルル様だけで行かせるなどっ』
『王都に住んでいた私が最適でしょう?』
内門が次々と開く音が近づき、話し声も近づいて、とうとう人神達の目の前の門が少しだけ開いた。
『お入りなさいな。通れるでしょう?』
「「はいっ」」
すり抜けるように入ると、光に包まれた。
「そう。グレイのお友達なのね」
微笑む美牛が人姿になった。
「え……?」「姿が……」
「人神には見せない姿なのだけれど、グレイのお友達なら特別よ。
タンブラング、コンシロフォ。
どうぞ此方に」
「え?」「名前……」
「どうぞ?」
「「は、はい!」」
外門と次門の間に建っている塔に入った。
「それで、何を訴えにいらしたのかしら?」
「私共は副都の貴神殿に閉じ込められておりました。
神力封じの縄を掛けられた上に見張りが厳しく、何年も部屋からすらも出られずに居りましたが、神力を高め、縄の力を超えさえすれば打開できると信じて静かに修行を続けていたのです」
「長くかかりましたが、どうにか各々が隣室の者と話せるようになったのです。
そして上官達と念入りに計画を立て、縄を抜け、やっと前王様にお会いできたのです」
「サティアタクスは話せたの?」
「言葉は発せませんでしたが、上官が読み取りました」
「それもこれも全てティングレイスの指導があったからこそ!
グレイは……アイツはこんなことしない!
玉座に居るのはダグラナタンに違いない!」
「だからこちらに助けを求めに来たんです。
グレイを助けて頂きたいんです!」
「玉座のグレイは……そう……。
私も賛成だわ。
あの子は優しくて真っ直ぐですもの」
「やはり前王様が仰っておられたのは――」
「姉と私よ。
姉がサティアタクスを、私がティングレイスを助けたの」
「では――」
「助けるわ。
でもね、獣神は見つかれば水晶に封じられるか堕神にされてしまうの。
だから準備が必要よ。各所との連携もね。
姉様の所に案内するわ。
詳しく聞かせてね」
ティングレイスの夢の中、過去のお話に登場した彼らの今へと続きました。
第一部 第2章は残り1話です。
第3章への繋ぎで、やっとショウも戻ってきます。
〈ん~~ポンッ♪
あ♪ 僕、次からなんだ~♪〉




