翔兄弟と輝竜兄弟
響が眠った後、ソラは春からの為に勉強していたが、ふと手を止めて屋根の上に出、冴えた空に瞬く星を見上げた。
響との大学院生活は楽しみなんだけど……
ボクはサーロンもしていたくて……
彩桜と相棒するのも楽しくて……。
「サーロンしてるボクの方が自然なのかな?
生きてたら、ちょうどそのくらいなんだよね……」
誰にともなく呟くと星が滲んでしまった。
「どっちもできないかなぁ……」
〈大学院卒業したら、またサーロンすりゃいいんじゃねぇか?〉
「え?」
気を感じて振り返るとリーロンが居た。
「な~んか弟が悩んでそうだったからな」
言いながら近寄り、ソラの頭をぽんぽん。
「今はソラだけどな」
並んで座った。
少し迷ったが、ソラはサーロンに姿を変えた。
「オレも似たような悩みならあるんだ。
もっと先の話なんだがな。
父様が復活したら、まず間違いなく敵神から神世を取り返してくれる。
その戦いから復興まで、オレも神世に行く。
行くのは問題ない。
けど、父様が復活したら、あの兄弟はどーなるんだ?
最初は父様自身だと思ってた。
優しくて穏やかで、真面目で。
けど明るくて、心も強くて、自分に厳しくて。
マジで若くなっちまった父様だと思ってたよ。
けど違った。
だから兄弟は最高のダチに変わった。
オレ、アイツらとずっと笑ってたいんだよな。
アイツらが無事ならオレはまた人世でリーロンするつもりだ。
そうなったらいいんだけどな……」
「彩桜とお兄さん達、どうなるんですか!?」
「ウィス兄様は犬の魂を持ったままだ。
ルルクルも白桜を、ジョーヌもキィちゃんを持ったままなんだよな……」
「そんな……」
〈オニキス、ソラ。そんな心配しないで。
俺は融合と分離を極めるつもりだからね。
神世が元通りになったら俺は人世で暮らすつもりだよ。ラピスリもね。
きっと他の妻達も同じだよ。
人世の宝なキリュウ兄弟の生活は変わらず続くよ。それは約束するからね〉
〈父様……神世、どーするんですか?〉
〈子供達に任せるよ。
幸い大勢居るし、良い世になれば禍も減るからね〉
〈獣神王は?〉
〈誰の事かな? 神の王はグレイだよ。
そろそろ俺は修行に戻るからね。
オニキス、ソラをお願いね〉
〈はい♪ あっ、チョイ父様!〉
もう返事は無い。
「いつ神世に行くつもりなのか聞いときたかったんだけどなぁ。
けどまぁ、つまりオレの黒瑯も、サーロンの彩桜も戻るらしいな♪
だから今度は高校生か?
また留学でも、もう邦和に住むでもナンでもだ♪
ソラも二足の草鞋だな♪」
「響との生活と、彩桜との生活……」
「狐神の力で分身すりゃあいい♪
狐儀みたくな♪
修行、頑張れよ♪」
「はい♪」
笑顔を上げると冷えた夜空に明瞭な星々が尖るように煌めいていた。
「頑張りますよ。
彩桜の相棒、サーロンとして戻る為に。
心友ですから♪」
「ソラ、眠り期の間の記憶は?」
「飛び飛びですけど、サイオンジからいろいろ習ってましたよ」
「だけか?」
「え?」
「夢遊病みたくフラフラ歩いてたのは?」
「ええっ!?」
「あ~、すっかり記憶の彼方なんだな?
そんならいいけどな。
ああそうそう!
前にトレービとジョージが言ってたが、キリュウ夫妻は どっちも一人っ子だ。
謎のイトコ問題、辻褄合わせとかねぇとな。
キリュウ兄弟が世に出たら、オレ達も引っ掛かっちまうかもだからな」
「確かに問題ですけど、夢遊病の方が気になるんですけど……」
「ま、フラフラ歩いてたってだけだ。
眠り期あるあるだから気にすんな♪」
「そうですか……」
「そもそもオレは梅華チャンの弟として黒瑯に弟子入りしたんだ。
梅華チャンは瑠璃の双子の妹。
つまりオレは輝竜兄弟にとっては赤の他人だ」
「それがどうしてイトコに?」
「あまりにソックリだからだよ。
コレはオレの自然な姿なんだがな。
大神な父様の影響で兄弟も父様ソックリだ。
で、父様似が自慢なオレもソックリ仲間だ。
コレで他人だなんて説明ムズいだろ?
つーかメンドーだ。
金錦はそーゆーつもりじゃなかったんだろーが、オレが弟子入りしてすぐに、イトコになって兄弟の輪に入ってもらえないかと言ってくれたんだよ♪」
「金錦お兄さんが持ち掛けたんなら考えてるんじゃないですか?」
「あ……だよなっ♪
週末だし、一緒に聞いてみようなっ♪」
「はい。それで夢遊病――」
「ったく~。
フラフラ~と総合病院に向かってたんだよ。
しょっちゅうな。
で、オレとか狐儀とかも見つけてはサイのトコに連れてってたんだ。
サイが遠出する時は社で預かってた。
事故現場にフラフラ行ったら地縛霊になっちまうからな。
ま、そーゆーコトだ」ぽんぽん。
「生きてた続きも、眠り期も同時進行だったんですね……」
「そうなるな。ま、気にすんな。
ユーレイ誰しも通る道だ。
今はシッカリ祓い屋だし、オトナだし♪
そんでもってオレの弟だ♪
オレはマジで嬉しいんだからな♪」
「ボクも兄さんが居るの、嬉しいです♪」
「そんじゃあオレは朝メシ作らねぇとな♪
サーロンもそろそろ彩桜の部屋に戻れよ♪」
「はい♪」
―◦―
響の部屋に戻って机上を片付けていると――
〈ソラ?〉
〈また起こしちゃった?〉
――響が見ていた。
〈どこ行ってたの? 怨霊とか出た?〉
〈屋根の上で星を見てただけだよ。
神眼向けなかったの?〉
片付け終えたのでベッドに腰掛けた。
〈向けられなかったの……〉
〈まだ怖い?
ボクは居なくなったりしないよ?〉
〈それは……うん……〉
〈お店になら来れるよね?
用がなくても来てよ。
夜はボクが来るけどね〉
〈最近、彩桜クンは?〉
〈ボクが配達とかで出たら店番してるよ。
会うのが怖い?〉
〈少し……あんなに良くしてくれたのに避けちゃったから……〉
〈そうなの?〉
〈中の様子見て、彩桜クンじゃなかったら入ってたの〉
〈彩桜は避けられてるとか思ってないよ。
今は紅火お兄さんが試作してないから、話す機会が減ったな~くらいじゃないかな?
響に会えたら喜ぶよ〉
〈そっか……うん、行ってみる〉
〈うん、待ってるね。
それじゃあそろそろ行くけど……いいかな?〉
〈まだ真っ暗なのに?〉
〈犬の散歩が5時半からなんだ。
もう5時過ぎたからね〉
〈そっか。行ってらっしゃい〉
〈うん。行ってきます〉
頬に優しく触れるだけのキスを落として微笑み、瞬移した。
「屋根の上って……彩桜クンとお兄さんが話してたじゃない。
どこ行ってたのよ。もうっ」
枕に顔を埋めた。
それも話せないことなのかな?
だったら早く乗り越えなきゃ!
―・―*―・―
ソラは自分スペースに出て即サーロンに。
『サーロンおはよ♪ ご飯 行こっ♪』
「彩桜おはよ♪ 悟君は?」共有スペースへ。
「八郎さんのお部屋♪
なんだか兄弟みたいなの~♪」
一緒に八郎の部屋に向かおうと襖を開けると、ちょうど八郎と悟も出て来た。
「おはよう」「よ♪ 今日も走るからな♪」
「昨日と同じ路地から竜騎君家ねっ♪」
「だな。覚悟して行くよ」「え?」
「悟君、呼び出されたの~」「えっ!?」
「私と狐松先生が行きますよ。
おはようございます、黒瑯さん、リーロンさん」
「おはようございます!」「「おはよ~♪」」
「「ほらよ♪ 元気充填だ♪」」
テーブルに目にも美味しい朝食が並ぶ。
「「「「いただきます」!」♪」」
〈狐松先生は?〉
〈チョイ前に出てったぞ〉
〈先に浜で待ってくださるそうです〉
〈ふぅん。悟君、篠宮さんは?〉
〈家で朝食だって帰ったけど、ナンジョウさんと一緒に浜に来てくれるって〉
〈ナンジョウさん来てたの!?〉
〈さっきな。篠宮さん迎えに来てたよ。
俺も鍛えてくれるって♪〉
〈スカウト魔なのぉ~〉
〈俺は八郎さんの弟子になる!〉〈え?〉
〈お願いします八郎さん!〉
〈私は6月には東京に戻りますよ?
出向しているだけですから〉
〈その半年だけでもお願いします!〉
〈私に弟子だなんて烏滸がましいよ。
クーゴソン様とカイハック様がお喜びだから、一緒に神様の弟子として修行しよう〉
〈はい! ありがとうございます!〉
〈八郎さん、彰子お嬢様は?〉
〈それぞれの時間を作るつもりです〉
〈そっか~♪〉〈へ? お嬢様?〉
〈八郎さんの――〉〈彩桜君!〉
〈おい彩桜、ゆっくり進行中なんだから、そっとしといてやれよな〉
〈だよ。大事な時なんだからな〉既婚者達。
〈は~い♪〉
〈黒瑯さん、リーロンさん……〉真っ赤。
〈〈順調なんだろ?〉〉
〈それは、たぶん、はい……〉真っ赤っか。
―◦―
その心話は廊下の彰子にも聞こえていた。
「彰子さん入らないの?」
「清楓さんっ」こっちも真っ赤っか。
「もうっ、こちらにいらしてっ」
背を押して離れた。
いつの間にか輝竜兄弟と従兄弟になっていたリーロンとサーロンは、翔 梅華の弟でしたよね。
まぁソラが言うように、金錦が持ち掛けたのなら考えての事でしょうけど。
響は神眼でチラッとだけ見て彩桜と兄の誰かだと思い込んでしまいました。
サーロンの存在も知っていた筈ですが、彩桜の話題が出たトコトコでしたので。
ソラが隠し事だらけ嘘だらけだと疑心暗鬼にならなければいいんですけどね。




