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沙都莉の父



「拓斗君どこ~?」

彩桜が声を掛けながら捜していると、拓斗は書斎の机で真空パック状態になっている修理中らしいオルゴールを見詰めていた。


「彩桜お兄さん、このオルゴール、このままでいいの?」


「ここ……お父さんの部屋だね。

 交通事故で亡くなってしまったんだ。

 だから、これも修理途中のままなんだよ。

 ご家族も そのままにしておきたいんだろうね」


「そっか……でも、オルゴールさんは、さみしくないの?」


「そうかもだけどねぇ……あれれ?

 死神様どしたの?」「死神様!?」


「ご本人に確かめてみたらどうかな?」

差し出した光球が膨らみ、男の人になった。

「具現化」


足音が駆けて来る。

「お父さん!?」

開けっ放しだったので勢いそのままに沙都莉が抱き着いた。


「本当はお盆でないと連れて来てもらえないんだけど、今日は引っ越し祝いで特別なんだって。

 新しい家を覚えておかないと来年からのお盆に会えないからって。

 沙都莉。突然 居なくなってしまって、ごめんね」


「寂しかった……悲しくて……辛くて……」


「ごめんね。

 もう何もしてやれなくなってしまったね。

 謝るくらいしか出来ないけど……」


「ずっと居てよ。それだけでいいから」


「そうもいかないらしい」

具現化が解けつつあるらしく揺らめいた。


「まだ消えないで!

 お母さん連れて来るから!

 沙優莉と沙都志にも会ってよ!」


「連れて来た~♪」「あなた……」「パパ♪」

いつの間にか部屋を出ていた彩桜と一緒にサーロンも沙都莉の母と妹の手を引いて来た。


「「具現化補充♪」」して、サーロンは外へ。


「神様ありがと!」「ソレやめてぇ~」


「もう1人、連れて来ました♪

 スカウト魔のナンジョウさん♪

 祓い屋ユーレイです♪」

仕掛人(サーロン)、部屋の入口でニコニコ♪


ふわっと現れて苦笑。

「スカウト魔ってなぁ。ま、いっか。

 ふ~~~~ん。磨けば光りそうだな。

 アンタ、祓い屋にならないか?

 鍛えてやるからよ♪」

父親の周りをグルグル。


「ええっと、ハライヤ? スカウト?

 僕は成仏したんですけど……」


「そうは言うけどなぁ。

 ど~見ても盆に見るヤツラとは違ってシッカリ居られるユーレイだぞ?」


「その通り。まだ浄魂されていないよ」

「ゲゲッ! 死神!? 居たのか!?」


「街の結界内に居る時は死神していないから安心して。

 彼は獣神の欠片持ちだから仮保管されていただけ。

 正式な保魂登録すらされていない。

 だからユーレイとしてなら人世に居られる。

 でも上で静かに待っていたいのなら、それでもいいよ。

 どうしたい?」


「居られるのなら……せめて家族を見守らせてください!」


「見守るじゃなく、護れるように鍛えてやるっつってるだろ♪

 嬢ちゃん達も赤ちゃんも同じ力を秘めてるんだから護ってやれよな♪」


「お願いします!」


「よ~し♪ 決まりだなっ♪」

「そう。それなら僕は これで」消えた。


【死神様ありがと~♪】

【エィム様、ありがとうございます!】


【あとは任せたから。ご自由に】クスッ♪



―・―*―・―



 エィムが結界の外に戻ると、チャムはフェネギのエィムと楽しそうに話していた。


 もしかして本当に気づいてないとか?


全てを消したまま近寄る。



〈ね、エィムぅ~いいでしょ~? ねっ♡〉


〈ちゃんと弟して〉


〈してるでしょ~?

 ね、明日はお休みなんだからぁ。

 デートしましょ♡〉


〈今は仕事中〉ぷいっと離――ガシッ。〈離してよ〉


〈イヤッ!

 デートの約束してくれるまで離さないも~んっ!〉


〈纏わり付くなっ!!〉


〈約束してよぉ~。ねっ♡〉「あえれっ!?」

両頬を摘ままれてムニーーッと外側に引っ張られた。

〈何!? 誰っ!? なんなの!?〉


獣神なら赤子でも見える程度に姿を見せてジト~~~っと睨む。


〈どーしてエィム!?〉


驚いたチャムの力が抜け、掴んでいたフェネギエィムがスルッと抜けて、腹を抱えて笑いながら消えた。

其処から光球が飛んでエィムに当たると死司衣に。同時にシッカリ姿を見せた。

〈仕事しろっ!!〉プイッ。


〈どうなってるのぉ~???〉



―・―*―・―



【ね、ソラ兄♪】


【どうしたの?

 彩桜にも話さなかった理由とか?】


【じゃなくて~♪

 これからユーレイさんなったヒト達、み~んな戻って来る?♪】


【神様の欠片持ちの方だけだよ】


【あの事故のヒト達は?】


【欠片持ちばかりだってエィム様は仰ったよ】


【そっか~♪】


【でも悪神の死印は禍と呪がセットになってたんだって】


【死印?】


【老衰とかの ゆっくり自覚できる場合は自然と浮かび上がるらしいんだけど、死神様が死が近いって宣告した時に付ける印なんだって。

 だから普通は無害なんだけど、あの時のは魂に害を及ぼすものだったんだ。

 悪神の呪と禍の影響が残ってる間は浄化で包んでおかないといけないし、影響が消えると眠り期に入ってしまうらしくて、殆どの人が まだまだ戻れないんだって】


【そっか~。篠宮さんの父ちゃんは目覚めてて良かったね♪】


【そうだね。本当に そう思うよ】


【ソラ兄ありがと♪】


【え? ボクはエィム様にお願いしただけだから、お礼はエィム様にね】


【思いついて、お願いしてくれたから~♪】


【そ、そう?】【うんっ♪ ありがと♪】



―・―*―・―



 前夜、解決したと彩桜から聞いていた京海は、支援団体事務所の様子を見に来ていた。

ドアの小窓から明かりが見えたので安堵してノックすると、

『は~い! 本日 絶賛 営業中で~す♪』

『億野さんたら……』

と笑い声が明るく聞こえた。


「失礼します」


「あ♪ 何度も ありがとうございます!」


「今日も寄付とか大丈夫ですか?」


「はい♪」


「お話しも?」

パソコンに真剣な眼差しを向けている事務の女性をチラリと見た。


「私でもよろしければ~ですけど」


「昨日の夕方――」

「それでしたら伺います。

 こちらにどうぞ」

ブースではなく個室に案内された。



 腰掛けて待っていると、お茶と一緒にタブレットやらを持って戻って来た。

「億野と申します」名刺です♪


「氷垣と申します。

 ミツマル建設に出向中なんです」

名刺は松風院グループになっているので付け加えた。


「では中渡音の方ではないんですね?」


「ええ。でも、もうすぐ中渡音市民になりますので」


「もしかして、ご結婚とか?」


「……はい」


「昨日の営業さん?」


「いえ……昨日って、輝竜常務ですよね?

 あ……持ち歩いている名刺は営業のなのね」


「常務、さん? あの若さで!?」


「社長さんのご子息でもないんですよ。

 本当に凄い方なんです。

 私も助けていただいたんです。

 ……事故の原因を作ったのは私なんです」


「もしかして」声を潜めた。「悪霊ですか?」


頷いた。

「それで生涯、ご遺族様に償わないとと思って――」

「それが記憶の押し付けね!」

「――え……?」


「弟くん達が言ってたんです!

 悪霊が悪行の記憶を押し付けるって!

 十万(とうま)さんには、そうならないようにしてくれたんですよ。

 成功したって喜んでて……そっか……」


「彩桜君……本当に神様ね……」


「ですよね! 納得です!

 馬頭雑技団は神様ですよ!♪

 あっ、その、事故の原因作ったって記憶!

 氷垣さんのじゃないです!

 他人事でいいんですよ!」


「……ありがとう」


「私も昨日はパニックになってて、悪霊退治が終わったとたん逃げ出してしまってて。

 無我夢中で走ってたら、横領だったら警察に行かないと! とか思っちゃって。

 そしたら幽霊お姉さんに腕を掴まれて。

『落ち着いて。自分の目で見た事を信じなさい』って言われて、やっと……怖かったのとか、なんだか納得したのとかブワッて感情が爆発したんです。

 ずっと押し込めて、見ない、信じないって我慢してたんだって、やっと分かったんです。


『人が知り得ている事なんて僅かなの。

 ほんの僅かよ。

 そんな常識なんてチッポケな枠に全てを押し込めようなんて無理な話だわ。

 貴女の大好きなお友達は悪霊に取り憑かれていたの。

 彼女は何も悪い事なんてしていないのよ』って。

 とっても響いたの。

 心に突き刺さるみたいに。


 十万さんは前の会社の先輩で、私の指導者してくれて、とっても優しくて、でも仕事には厳しくて。

 とっても大好きで。

 だから退職して支援するって聞いて私も! って、ついて来たんです。

 収入が減るからアパートをシェアして。

 最初は楽しかったんです。

 もちろんお仕事は真剣で。

 それが……2ヶ月くらいで十万さんの様子がおかしいなと思い始めて。

 夏にはアパートを出てしまったんです。

 私、怒らせちゃったんだろうなって思ってて……。

 それからは話すのも必要最低限。

 悲しくて辛くて……。


 だから……昨日の事でホッとしました。

 って、ちょっと変ですよね。

 でもホッとしたんです。

 だって十万さんが戻ってきてくれたから。

 一緒にアパートに帰って、一緒にご飯作って食べて♪

 十万さんの部屋でお布団並べて、寝落ちるまでお喋りして♪

 あ……私ばっかり喋ってる……」


「いえ……聞かせてくださって、ありがとうございます。

 実は……こちらに何度か伺って、その、悪霊を感じていたんです。

 それで彩桜君に話してしまって。

 その責任というか……申し訳なさもあって、今日は伺ったんです」


「そうだったんですか!

 ありがとうございます!」


「お礼なんて……でも安心しましたので寄付も続けさせていただきますね」

バッグから取り出した封筒を差し出す。


「確かめさせていただき――えっ……?」


「何か?」


「こんなに沢山……」


「悪行の副産物を民間オークションで換金しただけです。

 ご迷惑をお掛けした方にお返ししようとしたら、突き返されてしまって……」


『あら、なんだか人聞き悪いわね~♪』


「えっ?」 「あ!♪」

「奥様……」「幽霊お姉さん♪」


姿を見せた皐子がニッコリ。

「ユーレイはお金なんかに縛られない自由な存在なの♪

 だから生きている人に生かして使ってね♪

 京海ちゃんも、もう縛られていないで幸せになりなさいな♪」

『じゃ~ね~♪』と手をヒラヒラさせて消えた。


「幽霊お姉さんステキ♪」


「そうですね……実の母よりも母のように包み込んでくださる大きな方です」


「はい♪ あ、額が大きいので所長に同席してもらいますね」


呼びに行こうとドアを開け――「「あっ!」」


「所長!? 十万さんまで!?」


――室内向けに開け掛けたドアに二人が寄り掛かってしまった。


「いや……十万君に聞かせるべきかと思ってね。

 勝手に すまないねぇ」

体勢を整えて十万を支え、京海にペコリ。


「もうっ、恥ずかしいじゃないですかぁ。

 ちゃんと入って座ってください!」


京海は堪えきれずに笑ってしまった。







普通でない事は起こりましたが、良い出来事でした。


あの時、ザブダクルが放った呪禍付き死印の対象は獣神でした。

つまり多重事故で浄化域送りになったのは魂に獣神が入っている人や動物ばかり。

なので全てロークスとラナクスがコッソリ仮保魂していたんです。

人世に帰すとかは考えていなかったんですけどね。



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