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弱禍の置き土産



 沙都莉達を送り届けて帰宅した彩桜は白久に引っ張って行かれていた。

「何するのぉ。俺サーロンと修行するのぉ」


「サーロンまだ帰ってねぇだろーがよ」


「あれれ? 今日 遅い?」


「ソラにとっちゃあコッチが仮の宿だろーがよ。

 邪魔なんかしてたら馬に蹴られるぞ?」


「あ、白桜!」


「馬達は牧場だろーがよ。

 明日は放牧日だとか昨日の彩桜から聞いたぞ?

 逃げようとすんな」


「俺の部屋、素通り? じゃあアトリエ?」


「だよ」


「楽器の手入れ、ダメだった?」


「じゃねぇよ。感謝してるよ」


「じゃあどぉして?」


「黙ってついて来いよな」扉を開けた。


「兄貴達!? どしたのっ!?」


金錦を除く兄達が揃って楽器の手入れをしていた。


「これからは音楽も真剣に全力でやるんだ。

 だから手入れも全力だ♪」

説明しつつ白久は奥へ。


「仕事を理由に、彩桜に押し付けていたのを反省しているのですよ」


「藤慈兄~♪」おんぶハグ♪

「じゃあ毎日一緒?」


「ま、時間だけは仕事都合でバラバラかもだがな。

 離れててもオレ達の心は一緒だ♪」


「うん♪ 黒瑯兄~♪」おんぶハグ移動♪


「金錦兄も時間を見て戻るそうだ。

 彩桜も動物達の世話や店番で忙しくしていたのに、押し付けて すまなかったな」


「紅火兄♪ 俺どれも楽し~から大丈夫だよ♪

 兄貴達♪ 忙しかったら俺するからねっ♪」

胡座の膝に腰掛けて横ハグ♪


「そんなに気を遣わないで、友達との時間も大切にね。

 学生の時間は本当に短いんだからね」

青生が横から彩桜の頭を撫でる。


「青生兄~♪ また修行しに行っていい?

 時間できたから~♪」横ハグ移動♪

「もちろん。いつでも来てね」「ん♪」


白久が紅火特製の台車に楽器を積んで来た。


「白久兄~♪ 一緒にやろ~♪」「おう♪」



―・―*―・―



 今夜は牧場な馬達は――


〈白桜、どこ消えてたんだよ?〉


〈巡視。仕事だよ〉


〈ナンだよソレ?〉


〈怨霊が現れてないか、悪いヤツが来てないかって見回るんだよ〉


〈神だから?〉


〈……うん。知ってたんだね〉


〈ばあやサンから聞いたんだ。

 で、どーやったら神になれるの?〉


〈え?〉ぱちくり。


〈人でもいいんだけど?〉


〈神や人になって何がしたいの?〉


〈サヤカが結婚したいって♪〉


〈・・・へ? 馬と結婚!?〉


〈だから人になりたい! お願い!〉


〈う~ん……もっと上の神様に相談してみるよ〉


〈頼む!♪〉ニッコニコ♪



―・―*―・―



「あれれ? サイオンジさんとトクさん?

 パイプオルガン聴きたい?」


「い~や、チィと頼みたくてなぁ。

 さっき、あの事故の遺族が来てたんだろ?」


「来てたけど~、何か引っ掛かった?」


「悲しみも辛さも負の感情だぁ。

 しかも大勢な筈だぁな。

 生霊化する前に見つけて助けてやってくれねぇかなぁよ?」


「そっか。

 だから篠宮さん、生霊 生んじゃったんだ……」


「あの時の皆さんは全て成仏したんですか?」


「コッチに残ってるのはカケルとショウだけじゃねぇがなぁ。

 眠り期もあったからなぁ、ま~だまだ修行中だぁよ」


「ご家族とは会わせられませんか?」


「具現環を使えるくらいに霊力が上がりゃあ会えるがなぁよ」


「それはもっと先なんですね……」

「でもソラ兄もショウも、他のユーレイさん具現化できるよ?」


「そ~か! だぁなぁよ!

 ショウとソラに手伝ってもらうとすっかぁ」

「旦那様、私もお手伝いしますよ♪」

「トクも強ぇからなぁ」にこにこ♪


「あとは想いの欠片をお借り出来るか聞いてみます。

 他には? 何かアイデアある?」


「現実問題としてイチバン困ってるのは、やっぱ金だろ?

 支援団体とかあるハズだよな?

 寄付? あ! 演奏の収益!」


「チャリティーコンサートとかもいいかもね」


「ソレだ!」「俺達にピッタリ~♪」


「ありがとなぁよ。

 そんじゃあオイラ達は――」


「パイプオルガン弾く~♪」タッタカタッ♪



―◦―



 そうして夜更け。

彩桜は京海の部屋から灯りが漏れているのを確かめてノックした。

「京海お姉さん、いい?」


『どうぞ』



 やっぱり泣いてたんだ……「あのね――」


「どうぞ座って」


「あ、いいの?」


「少し……背が高くなった?

 見上げないといけないから」

無理矢理な笑顔が痛々しい。


「そぉかなぁ。

 あのね、お願いがあるんだ。

 俺達、チャリティーコンサートしよぉと思ってるんだけど、順志お兄さんと一緒に司会者さんしてもらえない?」


「え……私に? 私でいいの?」


「うん♪ ボランティアでお願いしま~す。

 でね、支援団体さん知ってる?」


「あの事故の?」


「うん。そのチャリティーだから」


「知ってる……けど……」


「ん? けど?」


「かなり寄付は集まってると思うの。

 でも……何軒か遺族の方のお宅を見つけてるんだけど、暮らしが改善されてないのよ」


「黒い感じ? する?」


頷いた。

「私の中に居た黒いのと同じ臭いがしたの」


「行ったの?」


また頷いた。

「活動内容とかも知りたくて、直接 寄付しに行ったんだけど……」


「ソレも確かめてみるねっ。

 あ……あのね、思い出したくなかったら話さなくていいんだけど~」


「何でも聞いて。役に立ちたいから」


「その、黒いのの種って、何キッカケで目覚めるの? どんな感じなるの?」


「確かに『種』ね。ピッタリ。

 大きくなるまで気づけないのよ。

 それで、大きくなったら もう私の手には負えない。自由が無いの。

 私の意思では動けなくて、勝手に動いてしまうのよ」


「ぼんやり見てる感じ?」


「そう。テレビをボ~ッと見ているみたいな……自分の声なのに遠くから聞こえているみたいな……他人事な感じ」


「そっか……」やっぱり乗っ取られるんだね。


「あ、キッカケね。

 今思えば、なんだけど、鈴本さんと話して怖いと思ったのと、その後で秋小路の奥様と話して、また怖いと思ったのかな?

 嘘ばかりで入社したから……それを全部 見透かされているみたいに思えて……」


「『怖い』から芽吹くんだね?」やっぱり。


「だと思うの。その時は気づいてないから。

 それで……どんな手を使ってでも鈴本さんと奥様を追い出さないと、って思いに取り憑かれて……いつの間にか、ぼんやり。

 勝手に動いていたのよ」


「松風院さんトコでも?」


「松風院の奥様は鈴本さんと同じだと思えて。

 と言っても私自身は抜け殻みたいに考えられなくなっていたんだけど。

 あの牧場での事も、その場では ぼんやりよ。

 でも……黒いのが消えて、記憶が私のものになっていって……なんだか降り積もって定着する感じかな?

 それでやっと悪夢の中じゃなかった。現実だったんだって実感して……その後は罪悪感と絶望感しかなかったわ」


「そっか……だから祐斗達も……」


「彩桜君も何かあったの?」


「俺、小っちゃい頃、祐斗にボコボコされちゃって。

 俺みたく丈夫じゃなかったらユーレイなってたかもってくらい。

 でもね、やったのは黒いので、祐斗じゃないって俺 知ってるし、だから気にしないでって言ってたんだ。

 兄貴達をイジメたヒト達も押し潰されそぉな感じで謝りに来たんだ。

 俺達、気にしないでしか言えてなかった。

 そんな記憶の押し付けあると思ってなかった。

 京海お姉さん、ありがと。

 俺、祐斗達と もっかい話す。

 ちゃんと話すから!」

勢いよく立ち上がってペコリ。

そのままの勢いで部屋から出ようとして――

「篠宮さんのも、ありがとございます。

 これから、篠宮さんみたく困ってるヒト達、助けるの手伝ってください」

――ドアを開け掛けたままクルリ、ペコリ。


「そんな……それは私が――」


「やったのは黒いのなの!

 京海お姉さんじゃないの。

 だからそんな責めちゃダメなのぉ」


「ありがと……今度こそ救われたかな……」


「これから一緒に頑張ろ~ねっ♪」


「そうね。よろしくお願いします、神様」


「またなのぉ。俺、神様じゃないのぉ」


「カワイイ♪」くすっ♪

「あっ、支援団体のパンフレット――じゃなくて、パソコンで印刷したものね。

 支援団体の事務所で貰ったの。

 はい、これ」


「駅の北側……白久兄と黒瑯兄の職場が近いんだ~。ん♪ 決~まり♪」


「えっと、何が?」


「作戦♪

 ちゃんと寄付が届くよぉにするからねっ♪」


今度こそ京海の部屋を出た。



「やっぱり神様……間違いなく神様よね……」







京海の話で弱禍は膨らんで乗っ取った後、記憶を押し付けると知った彩桜は兄・従兄達、師匠達と情報を共有して動き始めます。


音楽も全力、弱禍退治も全力です。

『普通』と『平穏』は、その向こうにある筈と信じて進みます。


桜「み~んな幸せなったら俺達も平穏なる~♪

  だよねっ、兄貴達♪」



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