また馬頭雑技団する
怨霊化していた霊達を死神に渡した祓い屋ユーレイ達は、眠らせた生き人達をどうする気だろうと話しながら結界の中に入り、会場を囲む木に散開して隠れた。
少し遅れて八郎、響と身体を具現化したソラも戻ると――
【元の位置に立たせ、一斉に覚醒させます。
御協力をお願い致します】
――と聞こえた。
〈ねぇソラ、協力って?〉
〈神様へのお願いだよ。
でもボク達も声の方に力を向けない?
後押し的に。
ほらサイオンジ達もしてるよ〉
〈そうね♪ 無難な力なら治癒とかかな?〉
〈響、いつの間に治癒なんて?〉浄化!
〈前から少しあったのよ。
手を当ててると傷が治っちゃうの♪
ヨシさんに治癒だって教えてもらって、鍛えてもらったのよ♪〉治癒発射♪
〈ん?〉
〈何?〉
〈さっきの聞こえたんだ……〉
〈聞こえたけど何? 何か変?〉
〈さっきのは獣神様だけの話し方なんだ。
今話してる、いつもの心話とは違うんだよ。
鍛えなくても聞こえるなんて……やっぱり響って凄いね〉
〈ソラは鍛えたの?〉
〈うん。輝竜さん家で。
紅火お兄さんの弟子だから〉
〈へぇ~♪ じゃあ私にも教えてよ♪〉
〈うん。じゃあ今夜からね〉
〈ん♪〉
―◦―
ラピスラズリから分離した――という説明を瑠璃がして、会場に戻った青生 藤慈 彩桜は、話しながら兄弟を捜し、金錦を見付けて瞬移で近寄った。
【目覚めた人達は違和感とかないのかな?】
青生が会場を見渡している。
【人々にとっては一瞬だけ意識が揺らいだ、という程度になるらしい】
またラピスラズリから聞いているとして説明。
【この、眠らなかった人達は?】
【別途 説明が必要だろうな】
【未だ不十分だが私が説明した。
この後も残って頂ける】
金錦が三男夫婦に微笑んだ。
【間も無く皆が目覚める。
急遽ではあるが、不安から負の感情を膨らませぬよう、演技で喜ばせ、上書きするのはどうだろう】
【いいですね♪】【うんうんっ♪】
【弟達が喜んでいますので俺も♪】
【そうか】フッ。
【ならば此れを】紅火が現れた。
【紅火兄サンタさん?】その袋♪
【む……】
【ではありませんよ。馬頭と馬術服です♪】
【でも馬は? 兄貴達も白桜に乗るの?】
【当然、連れて来ている】【彩桜コッチ~♪】
紅火が向いた方では白馬達が白桜を囲んでいた。
ショウも その中に居る。
【じゃあ目覚める前にスタンバイ♪】瞬移♪
神力が高まるに連れて、立ち上がり、眠る直前のポーズになる人が増えていった。
その間に着替えて馬頭を被った輝竜兄弟はゲートに並んでいた。
【では眠りを解きます!】
狐儀の声がし、人々が一斉に動きだした。
『この競技会の最後に、ゲストによる演技を行います♪
皆様、手拍子でお迎えください♪』
【みかん姉ちゃんだ~♪】
マイクの音量は馬達を驚かせないように控え目にしているが、明るい声に続いて曲が流れ、マイクを通した手拍子が弾む。
『馬頭雑技団の皆さんで~す♪』
白馬達は曲のリズムに乗って軽やかに入場し、馬上の馬頭達はバイオリンの弓を持った手を大きく振って、華やかに楽しさを振り撒いている。
競技コースを連なって軽やかに1周すると、少し広くなっている場所に尾を合わせるように円形に並んだ馬達はステップを踏み始めた。
馬頭達が背のバイオリンを取って構える。
流れ出した音色は華やかさに更に彩りを添え、人々を魅了して気持ちを上向きにしていった。
―◦―
楽し気に賑わう会場から、生霊騒ぎの原因となった3人を連れて離れた狐松とその弟は、会場の人々は輝竜兄弟に任せようと、廃教会へと術移した。
【で、この娘達、どうするんだ?】
【原因が解消しなければ、どうにも……。
ですが破邪だけは込め続けますよ】
【原因って嫉妬だろ?
解消なんて無理なんじゃ――あ、梅華様】
【梅華、どうかしましたか?】
【バステト様が、気休めですがと】差し出した。
【香袋ですか。
この香り……葉麝香ですか?】
【はい。弱禍に効くのでは、と】
【では『輝竜大明神』の内に加えておきましょう】
各々のお守り袋を浮かせて香袋を込めた。
【では私は――】【待って】【――はい?】
【葉麝香と共にでしたら輝竜家に寝かせても大丈夫でしょう。
梅華も一緒に参りましょう。
気分が悪くなって倒れたので先に戻った、という事にして浄破邪で包んで寝かせます。
いくら副担任でも狐松は男です。
その妻として様子を見ていて頂けますか?】
【はい♪】
―◦―
輝竜家へと瞬移すると、前にも寝かせた大部屋に布団を並べて3人を寝かせた。
「では、狐松の妻、梅華でお願いしますね」
「はい、あなた」
梅華は瑠璃と同じ顔では、と少し偽装している。
狐松の妻だと思うと、どうしてもその頬が熱くなってしまうので少し顔を伏せた。
そんな妻を気にしつつもフェネギはリグーリを連れて狐松父子と白儀の部屋に入った。
【で、俺まで一緒にって?】
輝竜家に連れて来られてしまったリグーリが兄に困り顔を向けた。
【私は会場に戻って狐松とサーロンをしなければなりません。
あの3人が梅華を襲わないよう、お願いしますね。
見付かってしまったら狐松……そうですね、弟の慎也とでもしておいてください】
【狐松 慎也ね……ま、いっか。
父と兄の名は?
確か父親も此処に居候してるんだよな?】
【はい。父は慎一、私は慎介です。
それと父の双子の弟が白儀 慎二です。
では】術移。
【慎介って藤慈様の親友してた?】
【そうですよ】ふふっ♪
―・―*―・―
紫龍エィムに乗って死司域に戻ったナターダグラルは、エィムとチャムには鍛えてもらえと人世に戻らせて、最高司の居室のベッドに横になった。
《最高司様、起きてるかなぁ?》
首輪を通してマディアの声が聞こえたが、まだ執務室には戻っていない。
〈エーデラーク、戻れるか?〉〈はい!〉
返事と同時に執務室に戻ったエーデラークがノックした。
「入れ」〈はい!〉
入って来たエーデラークを見ると、自然と笑みが浮かんだ。
「そう食い気味に返事をせずとも」
苦笑に変わる。
あれれ? すぐ返事しろって言ったよね?
それも忘れたとか?
「申し訳御座いません。
それで、治癒ですか?」
「そうか。心配してくれたのだな。
治癒ならばマディアの姉から受けた」
えええっ!?
「今頃はエィムとチャムを鍛えてくれておるであろうよ」
どーゆーことっ!?
「エーデラークを呼んだのは、浄化と保魂の最高司と話したいのでな、会えるよう手筈を整えてもらいたかったのだ」
「畏まりました。いつがよろしいでしょう?」
「最速で――今の人神は眠るのであったな。
今夜が無理であれば明朝にでも」
「畏まりました。では失礼致します」
重ねても問題無いので治癒で包んでから瞬移した。
ふむ。やはりマディアの治癒は優しい。
姉の治癒は爽快で、力強く、速く効くが、
儂にはマディアの治癒が良い。
しかし……あの姉が儂に付いてくれれば、
臥せる事は無くなりそうだな。ふむ。
マディア、エィム、チャムの指導役として
迎えたいが――
〈最高司様、両最高司様と最高司補様が丁度お揃いでした。
今からで如何でしょう?〉
〈ふむ。迎えに来てくれるか?〉
〈畏まりました〉現れて龍に。「どうぞ」
この、ルサンティーナの瞳と同じ色が好きだ。
嬉しさを隠しつつ、マディアの背に乗った。
―・―*―・―
馬達が驚かないようにエレガントを保った拍手の中、馬頭雑技団が退場して建物に身を隠すと、妻達が現れた。
【姉ちゃん達、上で何してたのぉ?】
【破邪や浄化を当てていただけだ。
人の魂に込められた弱禍が少しでも消えてくれるよう願ってな】
瑠璃が彩桜の頭をぽんぽんする。
【そっか~♪ 俺もこれからずっと破邪する♪】
【彩桜は学ぶべき時だ。
破邪は俺達に任せ、勉強を――】【するからぁ】
紅火と彩桜の遣り取りに他の兄達が笑う。
【兄貴達も二足の草鞋なんでしょ?
み~んな全力♪ み~んな一緒♪ ねっ♪】
紅火も含めて兄達が大きく頷いた。
【閉会式が終われば広場に大勢が集まる。
着替えて向かおう】
【【【【【【はい!】♪】】】】】
【ん? 大勢って?】
【俺のクラスメイトでしょ?】
【だけではない。
今日この場で欠片の神様の御力が目覚めた方々だ。
その方々には残れない場合も考えて私と白久の名刺を渡しておいたが、殆どが残ってくださるそうだ。
説明には私が残るが、青生と瑠璃殿も残ってもらえるか?】
【【はい】♪】
一瞬 意識が揺らいだ程度とは言え、皆こぞってとなると大騒ぎになります。
だからこその馬頭雑技団です。
ま、誤魔化しですけどね。
一方、紛らわしいタイミングで人世に来ていたザブダクルはラピスリの依頼を早速 叶えようとしています。
このまま善き最高司してくれればいいんですけどね。




