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踏み出した者、離れた者



 昼食後、彩桜達は白久が運転するバスに乗って山南牧場に行った。



 静かになったので昼食をと八郎が食堂に行くと、入口で彰子と会ってしまった。

「「あ……どうぞ――あ……」」

揃ってしまったのが気まずく、俯いてしまう。


八郎は気を取り直してドアを開け、

「どうぞ」

微笑んでみた。


「ありがとう、、ございます……」

今更 逃げるのは失礼だと思いきって入った。


「お友達は?」椅子を引いて『どうぞ』。


「失礼いたします。

 お部屋でイメージトレーニングしたいからと追い出されてしまったのです」


「イメージトレーニング?」


「明日、馬術競技会がありますので……」


「ああ、それで。

 私も見に行かないかと誘われまして」


「え……?」


「あ~、あまり意識なさらないでください。

 会長様のお話は当面無視しませんか?」


「あら……そうですね♪」ふふっ♪


「ただの同居人でお願いします」


「はい♪

 私……お祖父様が少し苦手で……。

 このお話にも何も言えませんから、受け入れるしかないと諦めていたのです。

 ですが……猪瀬さんで良かった……」


「一昔前ならともかく、今のご時世で押し付けられて結婚なんて有り得ませんよ。

 あ~、でも、それは平民だけで、高貴なお家柄だと そうなんですかね?」


「そんな……高貴だなんて……」ふふふ♪

「本当に高貴なお家は、こちらですよ♪」


「確かに……このお屋敷は『高貴』の結晶でできているように清らかですよね」

天井を見上げていると視界の隅でズッコケていた黒瑯が苦笑を向けた。


「ナ~ニ言ってんだか。ほら昼メシだ♪」

トレーを置いて隣室へ。


「隣……?」八郎が目で追う。


「食品庫だそうですよ」


「本当に凄いお屋敷ですよね」


「キリュウ夫妻、キリュウ兄弟のお家ですもの♪」


「ええっ!? あの有名な!?」


「はい♪ 今夜、離れのホールで聴かせていただけますよ♪」


「ホール……ああ、キリュウ家でしたら、あって当然ですね……」


「はい♪」



―◦―



 美雪輝は牧場には行かず、家から数学と英語の教科書を持って来て再びアトリエの階段を忍び足で上がった。

「良かった~。まだ居た~♪」


「何? また邪魔しに来たの?」


「勉強、教えてください!」

両手で持った教科書を突き出してペコリ。


「ふ~ん。どうやら本気らしいね。

 他の女子は?」


「ナンか~温度差? 感じちゃったから私だけ。

 みんなとは親衛隊するからいいの。

 離れたくないけど、ムリヤリもね~」


「そう。で、どこが分からない?」


「全部!」


「はあ? 中学に入ってからずっと授業中は窓の外でも眺めていたとか?」


「前が愛綺羅だから~、ずっと手紙でおしゃべり♪」


溜め息。「小学校のは? 理解してる?」


「やっぱソコから? 持って来てない……」


「九九は?」


「後半ダメ~」てゆーかゼンメツ的~。


また溜め息。「半分覚えればいい」


プリンターが動き始めた。


「九九表」

紙を取ってマーカーのキャップを抜いた。

「覚えなくていいのは消すから」

塗り潰し始めた。


「半分? ホントに?」


「掛け算は足し算。

 だから前後入れ換わっても答えは同じ。

 わざわざ覚えなくていい。

 3を6回でも6を3回でも足せば同じだろ?」


「足してみる!」


紙を美雪輝に向けて置いた。

「足し算と引き算は大丈夫?」


「ソレはサスガに~」あはは。


「で?」「同じだねっ♪」


「だから最悪、前の数字を後ろの回数だけ足せばいい。その逆でもね」


「すっご~い♪

 掛け算が足し算だったら割り算は引き算?」


「あのね……ま、そうだけど。

 前の数字に後ろの数字が何回入っているか。

 という事になる」


「そっか~♪ 引いてったらいいのね♪」


「いいけどテストの時間が足りなくなる。

 とにかく、まずは九九を覚えて。

 覚えるのは集中力。

 これは助けられないから」


「は~い♪」真剣に集中ねっ!



「いい雰囲気でごじゃりましゅるな♪」

「うんうん♪

 3組目でごじゃりましゅるな♪」


「あのね」「わわっ!「ごめんなさい!」」



―◦―



 昼食を終えて廊下に出たが、部屋には戻れない彰子は困っていた。


「2階の書庫、いかがです?

 私も上がりますが、広いので離れていれば気にならないと思います」


「そうですね……では失礼いたします」

俯き加減で付いて行った。




「様々なジャンルの本があるから――って知ってますよね」


「最初に案内していただいたきり来ていませんので……」


「馬の生態に関する本もありましたよ。

 教科書や参考書も沢山。

 小説とかも色々と。

 探索するのも楽しいと思いますよ」

座って読みかけの本を手に取った。


「それは?」


「三國志なんですけど、蜀を中心として描いたものではなくて呉を中心として描いているものなんです。

 ですから三國志演義に比べれば、ずっと最近のものの現代語版です」


「小説、ですか?」


「はい。あ~、興味ありませんよね。

 つらつらと、すみません」


「三國志……」


「読み易い、絵の多いものから漢語まで色々とありましたよ」

見つけた辺りを指した。


「探してみます」

ひとつ頷いて書棚の向こうに入った。



 暫くして1冊を抱くようにして戻った彰子は八郎の横に立った。

「あの、お邪魔をして すみません」


「いえ、何でしょう?」にこっ。


「この本……どうでしょうか?」


「私も読みましたよ。

 会話がくだけていて読み易いです。

 内容は三國志演義と同じで、要約といったところです。

 最初に読むには最適だと思いますよ」


「そうですか♪ あの……よろしいですか?」

向かいの椅子を示した。


「いいんですか?

 椅子なら沢山あるのに?」ぱちくり。


「お邪魔でしたら離れます、けど……」


「どうぞどうぞ!

 お邪魔は私の方ですよ」


「そんな……では失礼いたします」



 あとはページを捲る音だけの静寂そのものだったが、陽射しの暖かさもあってか穏やかな空気に包まれているように思えて、安堵感を懐きつつ読み耽る二人だった。



―◦―



 アトリエが夕陽色に染まった頃、ドタドタと騒がしい足音が上がって来た。


「美雪輝いた!」「どーしてここ?」

「家の用事は?」「終わったとか?」

「何してるの?」「まさか勉強!?」


「勉強~♪ 九九覚えたし~♪

 今、分数してるの♪」


「「「「「「美雪輝が!?」」」」」」


「帰ってたから、ほら教科書。

 でぇ、時間的に牧場に追っかけるより勉強かな~ってね♪

 私、本気で真剣にやるつもりだから♪」


「本気で櫻咲に行けると思ってるの?」


「ど~だかだけど~、チャレンジするのもいいかな~と思ったの♪」


それまで耳を塞いでいた凌央が手を離した。

「限界を決めつけたら、そこで終わり。

 枠の外に出たいのなら限界なんて勝手に決めるな。

 要はヤル気次第なんだよ。

 だから騒ぐだけのヤツは出て行け」


「みんなとは離れたくない。

 だから親衛隊するの。

 それでいいでしょ?」


「親衛隊はいいんだけど……」

「彩桜君は? 諦めたの?」

「それとも乗り換えた?」凌央を見た。


「違うけど~、彩桜君は手が届かないアイドルでしょ? だから親衛隊♪

 波希センセーはマジで先生♪

 授業よかずっといいよ♪」


「アイドルかぁ」「確かにね」

「美雪輝、理解できてるの?」


「できてるよ♪ まだ算数だけどね~♪」


「1週間で算数を卒業させる。

 学期末で成果が出せるようにするから覚悟して」


「はいっ♪」ケイレイ♪


「真面目にしろ」「ハイッ!」

「次の問題」「やります!!」


「美雪輝が……」「別人してる……」


「キミ達は? 騒ぐのなら――」


「行こ」「考えさせて!」「だよね……」

「私……見てたい。静かにするから」

「私も。もう少し!」「うん。お願い!」


「どっちでもご自由に」


3人去って、3人残った。



「できたっ♪」

「ん、正解。次、あれね」プリンターを指す。


「よーし! わかってきた♪」

紙を取って楽しそうに解き始めた。


「凌央君、これ……」「解けたけど……」

尚樹と星琉もおずおずと差し出した。


スッと視線を走らせる。

「うん。合ってる。

 ただし遠回り。時間かかったよね?」


「うん……」「だから自信なかった……」


「合ってるから自信持っていい」書き込む。

「解説するから少し離れよう」


「「うん♪」」



「聞いていいのかな?」「ど~だろ……」

「避けられちゃったんじゃない?」ヒソコソ。


「山勢さんの邪魔になると思っただけ。

 聞きたければ来れば?」


「意外~」「優しい?」「かも……」


「聞こえてるんだけど?」


慌てて動いた。







彰子(あきらこ)美雪輝(みゆき)も踏み出しました。

彰子の方は良い雰囲気ですが、美雪輝の方は……。


美雪輝自身は理解する楽しさを知ったようで、もう大丈夫だろうと思えますが、離れた3人が気になります。

美雪輝の幼馴染みで親友の愛綺羅(あきら)が離れた側のリーダーになりそうで、ついて行ったのが茉那実(まなみ)夢結花(ゆいか)です。



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