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フラれても諦められない



「八郎君、食事は好きな時間に好きな場所で頂いていいそうだよ」


 翌早朝、東京に帰る彰朗の時間に合わせたらしい八郎は、すっかり打ち解けた様子で一緒に食堂に来た。


「すみません。

 半年もなので自炊するつもりだったのですが、本当によろしいのですか?」


「オレ達は大家族の料理番だ♪

 少し増えたくらいじゃビビりゃしねぇよ♪」


「既に居候だらけだからなっ♪

 問題なんか無ぇよ♪」


「言ってるリーロンも居候じゃねぇか♪」


「だったなっ♪」

どう見ても双子が楽し気にテキパキと調理している。


その片方が両手にトレーで振り返った。

「松風院さんも遠慮なく座ってください♪」


「あ、ああそうだね。

 見事な手捌(てさば)きに見惚(みと)れていたよ」座った。

「八郎君も」隣の椅子を引く。


「あっ、すみません!」

「あれ? 清楓(さやか)お嬢様だけ?」

「一緒に牧場で練習するんだろ?」


「ええ♪ あら? 彰子(あきらこ)さん?」

逃げたらしい彰子を呼びながら捕まえに行き、連れて戻った。


「彰子さんはお隣ね♪」「清楓さん!?」

彰子は反対側の父の隣に逃げようとしたが、皐子(さつきこ)が その椅子に現れた。

「おはよう彰子さん♪」「お母様……」


「彰子さん早く。こちらに♪」

既に朝食のトレーは置かれている。


「失礼いたします……」渋々座った。


やっと朝食が始まった。



「黒瑯兄 リーロン、俺達2回目~♪

 あっ、おっはよ~ございま~す♪」


「サーロンど~した? 元気ねぇぞ?」

リーロンが覗き込む。


「大丈夫、です」弱々しくニッコリ。


「うんうん大丈夫なの~♪

 犬達と走り回っただけなの~♪」

〈ガイアルフ様に吸い取られてるのぉ〉


「そんじゃあシッカリ食え♪」「特盛だな♪」

〈で、ガイアルフ様は起きてるのか?〉


〈ガッツリ寝てる~〉「俺も特盛♪」

〈揺り起こし方、紅火兄に習った~♪

 ちゃんと起こすの~♪〉


〈そっか♪ ま、頑張れ〉「ほらよ♪」


〈うん♪〉〈はい!♪〉

「店の座敷で食べよ~♪」「うん♪」

(こぼ)す事も足音を立てる事もなく、どう見ても双子の弟組は弾むように素早く去った。



―◦―



〈サーロン今日だいじょぶ?〉もぐもぐ。


〈できれば瞑想してたいけど……〉箸が止まる。


〈じゃあ茜さんと葵さんの手続きに一緒に行ったってしない?〉

『手続き』と理由付けて、梅華が漢中国を案内する予定になっている。


〈いいの? クラスみんな来るのに?〉


〈そゆのもアリでしょ♪

 コッチでソラ兄で瞑想してて~♪〉


〈ありがと彩桜クン〉


〈ソラ兄トキも『クン』いらにゃいの~〉


〈いいの?〉


〈ナシがいいの~♪ 友達なの~♪〉


〈うん♪ じゃあ彩桜♪〉〈うんっ♪〉



―・―*―・―



 金邑(かなむら)父子と彰朗は東京に帰ったが、皐子は彰子達と一緒に山南(やまなみ)牧場に来ていた。


 障害コースを何度か跳んで、清楓と交替した彰子が休憩場所に行くと、皐子がベンチに現れた。

「まだ話せないのかしら?」


「……はい。

 彩桜さんへの想いは蓋をして消えるのを待つつもりでした。

 ですが……」


「今朝みたいに姿が見えてしまうと蓋が開いてしまうのでしょう?」


「……はい。ですからまだ……。

 猪瀬さんは良い方だとは思っているのですが……」


「その想いを消す為にも新しい恋を見つけるべきではないかしら?

 それとも彩桜君にハッキリとフラれた方がよいのかしら?」


「フラれても消えないと……」


「新しい恋が見つかれば消えるわ。

 きっと良い思い出に変わるわよ。

 猪瀬さんを押し付けるつもりはないのだけれど……機会としては良いのではないかしら?」


「踏み出す練習、ですか?」


「そう言ってしまうと猪瀬さんには申し訳ないのだけれど、こういう形でも出会いは出会いなのだから、踏み出してみてはどうかしら?」


「そうですね……」

ゆっくりと視線をウィンローズに向けた。

「潔くないとは思いますし、逃げなのかもしれませんが……明日の競技会の後で考えます」


「そうね。今は競技に集中しなければね♪

 あら、ほらあそこ♪」


「京海お姉様……」


「とうとう乗れるくらい馬が好きになってくれたのね~♪

 笑顔が眩しいくらいね♪」


「笑顔は馬にではなくて、恋人さんにでは?」


「そうよ♪ だから眩しいのよ♪

 すっかり別人よね~♪」


「そうですね。

 別人だと思って接していますよ。

 そうとしか思えませんもの」ほんわか微笑む。


「きっかけを作ったのは輝竜さん達だけど、あんなにも変えたのは恋の力よ♪

 恋って強いのだから♪

 それだけに苦しい恋は、負の方向に強く変えてしまうのよ」


「……気をつけます……」



―・―*―・―



 輝竜家は彩桜のクラスメイト達で賑やかになっていた。


「サーロン君は?」


「白儀先生と貴積さんと一緒に手続き行ったの。

 今日は居ないの~。

 俺も午後は牧場なの~」


「牧場!?」「一緒に行っていいの!?」


「いいけど、お馬さん達ビックリするから騒ぐのナシね?」


「うん!♪」一斉。



「またあの牧場?」「行く?」「トーゼン!」

美雪輝達は少し離れて話していた。



「牧場で何するの?」「馬の牧場?」


「明日、競技会だから練習なの~。

 みんなも乗せてもらえるよ♪」


乗りたいだの怖いだの大騒ぎ。


「見てるだけでもいいよ~♪

 牛とか羊とか、隣の鶏 眺めても楽し~よ♪

 ちっちゃい馬もカワイイよ♪」


「行くの決定~♪」「行こ行こ♪」

「競技会って雑技団の?」


「違うよぉ」にゃはは。


「それまで何する?」「ゲームしよ♪」

「また祐斗君と対戦するの見たい!♪」


「それじゃ俺の部屋ねっ♪」



―◦―



 美雪輝達は彩桜の部屋には行かず、アトリエへの渡り廊下で話していた。


「私達が泊まりに来るの頼んだのに~」

「みんなで騒いじゃって!」

「彩桜君に近づけないじゃない!」


「ね、この向こうって楽器があるのよね?」


「彩桜君やお兄さん達の楽器よね♪」


「行ってみる?」「行こっ♪」


勝手にアトリエに行ってしまった。



―◦―



 今日は賑やかになると聞いていた八郎は2階の書庫に避難していた。

興味のある本ばかりなので、これは半年では読みきれないと嬉しくもあり、残念でもありな気持ちで1冊を選び、窓際の椅子に腰を落ち着けて読み始めた。


「気に入って頂けたのならば、いつでも持ち出し、また来てもらえばいい。

 歴史に関するものならば、煌麗山(こうれいざん)の私の研究室に来てもらってもいい」

またまた増えた彩桜の兄が微笑んだ。


「ありがとうございます! ええっと……」

増えたとは思うのだが『初めまして』と言ってよいものか自信は無い。


「長男の金錦です」


「猪瀬 八郎です。

 宜しくお願いします。

 煌麗山大学にお勤めなのですか?」


「歴史学をしております。

 本田原(ほんだわら)教授のお知り合いなのでは?」


「ああ、はい。

 専攻は音楽ではありませんが」


「音楽に興味は?」


「聴くのは大好きです」


「では、それも後程。

 明日、馬術競技会に家族皆で行く予定なのですが、ご一緒に如何ですか?」


「馬、ですか?

 全く知らない世界ですので拝見させていただきたいです。

 お連れください」


「出発は10時頃を予定しています。

 それでは、ごゆっくりなさってください。

 お邪魔を致しました」

微笑んで会釈すると、持っていた本を棚に納めて去って行った。



「あの方がご長男。

 白久さんと、黒瑯さんと、彩桜君。

 リーロンさんとサーロン君は従兄弟。

 他にも居そうな雰囲気ですね……」


何人住んでいるのだろうと首を捻りつつ本に目を戻した八郎だった。



―◦―



「でも勝手に入っていいの?」


「鍵も開いてたし、いいんでしょ♪」


「どれが彩桜君のピアノ?」


「ほらここ! 名前じゃない?」

目立たない場所だが金色の装飾文字で『KIN』と書いてあった。


「ここね♪」

互い違いに置いてある隣のピアノの同じ位置を見ると白銀色で『HAKU』とある。


「青い文字、見~つけた♪」「赤もある♪」

「これ灰色?」「銀色?」「でもKURO?」

「黒いピアノだからじゃない?」「そっか」

「薄い紫?」「FUJI、藤色ね♪」「ああ~」


「やっぱり端っこが彩桜君ね♪」

「あったSAKURA♪」

「指で間接キス~♪」「アタシが先!」「私!」


蓋を開けて鍵盤をペタペタ♪ 滅茶苦茶な音が出る。

浄化しているので指紋も何も残っていないのだが。


「誰か弾ける?」「ムリ~」「私も~」

「他の部屋、行ってみる?」「行こ♪」


「階段あるよ♪」「上がってみる?」

「探検みたい♪」「行ってみよ~♪」







フラれても諦められないのは彰子だけではないようで、美雪輝達も想いを募らせる一方なようです。

それでも勝手にウロウロして楽器に触るのは間違いですよね。逆効果必至。嫌われたいとしか思えない行為です。


神眼で追っている彩桜には、これも違和感で、まだ何か潜んでいるとしか思えません。



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