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極秘任務



 そうして更に100年――つまり、ティングレイスが龍神兄弟の家に住み始めて500年が経った。



 この日ティングレイスが仕事から帰ると長兄と双子達は神王殿に出掛けていた。


「今日の収入です♪」テーブルに置いた。


「おいおい、このまま町医者になる気か?

 貯めとけよな」


「町医者として働いてるのは評判を上げる為だけなので、これは必要ありません。

 だからこそ正規ではなく日雇いなんです」


「でもなぁ――ってエーデリリィ姉様どこ持ってくんだ?」


「ちゃんと支度金として貯めてるのよ♪」


「そっか~♪」

「え? 貯め、てる?」ぱちくり。


「当然でしょ?

 貴族様のお屋敷に入るには必要なのよ。

 知らなかった?」


「そうなんだ……」


「で、紹介所には行ってみたのか?

 流石に俺達は入れないからな。

 いや、姿消しゃあ入り込むだけなら入れるが、話も聞けないんじゃあ調べにならないからな」


「まだ……」


「大きな勇気が必要ですもの。

 その気になるまで、ゆっくりと……ね?」

「そっか。ま、ゆっくり頑張れ」


「はい……うん。明日、行ってみます!」


「お♪ 行くのか♪」

「あらあら……大丈夫?」


「はい!」


「ま、どこの子になろうがグレイの家はここだからなっ♪

 いつでも帰って来いよ♪」


「はい♪」



―・―*―・―



 翌日の夕方。

仕事を終えたティングレイスは、優秀な養子を求める貴族と、後ろ楯を求める若者との橋渡しをする紹介所に足を運んだ。


 以前、サンダーリアが『劣化した』と表現したが、それを自覚している人神も少なからず居り、貴族の間では優秀な若者を養子として迎える事が流行っていた。


 子を作れた貴族は、その子を支える弟妹を求めているので、ティングレイスの歳にもなってしまうと、そちらの望みは無いに等しかった。


 しかし、子を作れない貴族も確かに居た。

それ程に人神は『劣化』しているのだった。

そちら側の望みに懸けてティングレイスは扉を開いた。


「こんばんは」


「おや、そこの先生じゃないか。

 ああそうか、開業の為の後ろ楯が欲しいんだね?」


「あ……まぁ、そんなところです」


「先生ほどの腕なら、後ろ楯次第で神王殿の専属医にもなれるだろうよ」


「それ程では……」照れ苦笑。


「ま、ここに書いてくれるかな?」


「あ、はい」示された書類に目を通した。

「親って……必須なんですか?」


「そうだね。親は子の完成形だからね。

 重要視されてしまうんだよ」


「親が……分からなくて……」


「先生、それでよくそこまで……いや、だからこそ努力できたんだなぁ」


「どうすれば……?」


「貴族様相手だからなぁ……他の道を探すしか……そうだ! 医者を求めてる貴族がいないか調べておくよ。

 うまくいけば実力で養子になれるかもだ」


「はいっ! お願いします!」



―◦―



 帰宅してソニアールスにその話をした。


「ん~、それじゃあ解呪も覚える?

 ちょっと大変だけど~」


「ソレって強い武器になるよね?

 使える人神に会ったことないもん」


「うん。今の人神じゃムリかな~」


「やってみたい!」


「ただね、治癒は共通の術もあるんだけど、解呪は人神と獣神とで違うんだ。

 あ、そっか♪ ちょっと待ってて♪」

消えて……本を抱えて戻った。


「その本……」


「神王殿の書庫から拝借~♪

 昨日 呼び出されて頑張ったら入っていいって鍵増やしてくれたんだ~♪

 でも長居できないから持って来ちゃった。

 探して覚えるから待っててね♪」


物凄い速さで捲っていき、ポン、ポンと読み終わった本の山を築いていった。



「ん♪ 解呪だけじゃなく覚えたからねっ♪

 返してくる~♪」本を抱えて消えた。


「覚えた、って……」


「たっだいま~♪ 石板 借りるねっ♪」

ラベンベールが買った黒石板にツツツツツと書いていく。


「はい♪ 人神用の解呪♪

 上級治癒レベルだから消耗激しいんだ。

 練習には気をつけてね。


 回復――あ、してあげられないんだった~。

 それじゃあ書いとくねっ」

解呪の下に線を引き、回復を書いた。


「コレも人神用♪ 頑張ってねっ♪」


「ありがと……さっき いくつ覚えたの?」


「ん? 全部」「その覚え方 教えて!」


「ん~、、入っちゃうだけなんだよね~」


「入っちゃう、の?」「うんっ♪」


「獣神に生まれたかったよ……」


「真反対なだけだから人神にも入るトコあるハズ~」


「そっか……探してみるよ」「うんうん♪」



―・―*―・―



 数日後、再び紹介所に行ってみた。


「ああ、先生」


「どうですか?」


「それがねぇ、どこも口を揃えて養子も医者も同じだと言うんだよ。

 変に期待させてしまったねぇ。

 人なら貴族だけじゃなくて、実業家とか他にも金と地位のある者がいるんだけど神は……いや、すまないねぇ」


「そうですか……」


「あ、医者じゃないが」ガサゴソ――

「ああ、これだこれ。

 先生は武術の方はどうだい?

 貴族の養子を望むくらいだから、それなりに鍛えてるんだろ?」

見つけた紙は胸に伏せている。


「あ、ええ。剣と弓なら」


「都の外に出る気は?」


「出てもいいですけど……」


「四獣神って知ってるかい?」


「はい。最果てで禍と戦ってるくらいは」

身を乗り出して『会いました!』と言いたい気持ちを押さえて、それだけを言った。


「内密な募集なんだがね、神王殿からなんだよ」

やっと紙を見せてくれた。


「え? 連絡係?

 四獣神様の仲間になれ、と?」


「神王殿に出入りできるようになれば何か展開するかもなぁ」


「あ……そうですね。

 考えさせてください」


「くれぐれも他言無用だよ」



―◦―



「――という話なんだ」

口止めされたがソニアールスには話した。


「う~ん。スパイだね~」


「やっぱりそうだよね……」


「でも、他の誰かがするくらいならグレイにやってもらいたい、かなぁ?」


「あ……そうか。誰かがするんだ……」


「でもね、神王殿側って立場で報告とかしなきゃなんないよ? できる?」


「演技、だよね?

 でも何が目的なんだろ?」


「きっとね、四獣神が禁忌で戦ってるって証拠が欲しいんだよ。

 最近 人神の間でも四獣神信仰が広まってるみたいだから」


「堕とす為……?」


「かもね。だから……頼める?」


「やってみるよ」


「父様と兄様達に話していい?」


「うん。お願い」



―・―*―・―



 翌朝、紹介所を通じて返答すると、急募だったらしく直ぐに神王殿から病院に呼び出しがあり、出向いたティングレイスは その場で試験を受け、即、雇われた。


 ティングレイスに負けた兵士達が去り、試験官が近寄って来た。

「さて、何か質問は有るかな?」


「私は親が分からないのですが、よろしいのでしょうか?」


「何の問題が有ろうか。

 これだけ武に長け、治癒と解呪も出来るなんぞ今時の若い神にはそうそう居らんよ。

 十分十分。親を超えたと見なそうぞ。

 して、遠いが、行ってくれるな?」


「はい! 行かせてください!」


「おお。1つ確かめるのを忘れておったわ。

 四獣神に関して如何程(いかほど)知っておる?」


 ここで落ち着いて答えないと!


「たいして存じておりませんが……。

 最果てで禍と戦っていると噂で耳にした程度でございます」


「応募したのならば獣神を嫌ってはおらぬのであろうが……逆に、四獣神を救世主と信じ、憧れておるか?」


「いえ……よく存じませんので、考えるなど致す程でもございませんでした……。

 あ、あのっ、憧れていないと失格なのでしょうか!?」


「いやいや。公平な立場で見聞きしたままを報告してくれさえすればよい。

 嫌うも憧れるも無いのが良いのだ。

 では、旅支度を終えたならば儂を訪ねよ」


「はい! 宜しくお願いいたします!」







かなり時を要しましたが、ティングレイスは優秀な医師になりました。


この過去のお話はティングレイス王が見ている夢ですので、お話的には100年100年とポンポン進んでいますが、王は時系列に長い夢を見ているようです。



神世が中世ヨーロッパ風?


無自覚でない堕神が神世を懐かしんで人世に再現したのか、人世で働いている職神達が人世の面白そうなものを神世に取り入れたのか、でしょうね。

両方かも、ですけど。



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