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究極の選択



 オフォクスの探りも、マディアが見たオーロザウラの記憶も知らない彩桜は清々しい朝を迎えた。

と言っても、まだ夜明け前なのだが。

 元気よく起き上がると、本棚の向こうからも布団を押入れに仕舞ったらしく襖が閉まる音が聞こえた。


「サーロンおはよ♪」『彩桜おはよ♪』


彩桜も急いで布団を押入れに。

自身を浄化してサッと着替えた。

「「行こっ♪」」

同時に共有スペースに瞬移して出た二人は、弾むように台所に向かった。




「黒瑯兄ご飯~♪」「兄さん、おはよ♪」


「彩桜の挨拶は『ご飯』なんだな?」


「黒瑯兄だけねっ♪」


「ったく。ほらよ♪」「うんっ♪」


すっかり兄弟なリーロン サーロンは心話で楽し気に話している。


「居間で食べよ♪」「猫メシも運べよ!」

「あ、だよね~♪」「ほらよっ」「ん♪」


「犬とかもなっ♪」「はい♪ 兄さん♪」


 各々が自分の朝食と動物達の餌入れを並べた大きなトレーを持って居間へ。

すり寄って来た猫達に餌入れを並べると、庭に出て犬達にも餌入れを並べる。

 次は小動物だらけの青生の部屋へ。

鳥や兎やモルモット、ハムスター等々に給餌して、ようやく具沢山な分厚いサンドイッチを頬張った。


〈彩桜、今日から祓い屋の相棒だよ♪〉


〈いいのっ!?♪〉


〈紅火お兄さんから許しを得たよ♪〉


〈響お姉ちゃんは?〉


〈だからサーロンの時だけね。ダメ?〉


〈ううん! ありがとサーロン♪〉


〈次は犬達だね♪〉〈おさんぽ行こっ♪〉



 庭の大型犬達全てを連れて全力疾走な『散歩』は1時間程。

街を大きく1周して――


「彩桜 サーロン!」


――久世家前で呼び止められた。


「「祐斗おはよ♪」です♪」


「おはよ。こんな早くに走ってたんだ……」


「「うんっ♪」祐斗どしたの?」


「いろいろ考えてたら目が冴えて……」


「俺達 待ってた? 話してよ。

 あ、犬達――」「ボクが連れてくよ」

「ありがとサーロン♪」リードを渡した。


「デュークもいい? 行きたい言ってる」


「あっ、いいの?」「「もっちろん♪」」


嬉しそうに尾を振っているデュークも連れて、サーロンは先に帰った。



「祐斗?」


「うん……まだ何か起こりそうで、気になって眠れなかったんだ。

 取り憑かれてたからって、開き直ってる感じで反省なんてしてなさそうだったから。

 僕も夏月を護らないといけないけど、彩桜も紗ちゃんを会わせたんだよね?

 大丈夫なの?」


「俺、ランちゃんを護り抜くよ。

 その覚悟で会わせたんだ。

 護る為なら力を使ってもいい。

 それで邦和に住めなくなってもいいから」


「やっぱり……そこまで覚悟してたんだね。

 一番の心配は、そこだったんだ。

 彩桜が居なくなるんじゃないかって。

 力を見て怖いと思ったらダメなんだよね?

 その誤解を解いたらいいんだよね?

 居なくならないでよ。ね、彩桜」


「一時的に出ても、高校で戻るよ♪

 音楽修行に出るだけ♪

 居なくなったりしないよ♪」


「2年も……」


「たった2年だよ♪

 一生ずっと友達なんだから♪

 でもね、ソレ最悪の場合。

 そんなならないよぉに頑張る。

 だから心配しないで。ね?」


「そうだね。僕も頑張るよ。

 彩桜と一緒に卒業できるように何でもするから、何でも話してね?」


「ん♪ ありがと祐斗♪

 俺も一緒に卒業したい♪

 もぉ寝てる時間ナイよね?

 治癒、回復♪」光で包んだ。


「この光も……力なの?」


「うん……怖い?」


「全然! 彩桜ってホント凄いね♪

 ありがと♪ とってもスッキリだよ♪」


「良かった~♪ でも俺、凄くにゃいからぁ」


「良かった♪ ちゃんと彩桜だね♪」


「どゆ意味なのぉ?」


「安心したって意味だよ♪」



―・―*―・―・―・―*―・―



 と、祐斗は眠れない程に心配していたが、何事も無く時は過ぎ、木曜日の放課後になった。

 この日は月に一度の部活日なので、楽しく話しながら和室に向かっていたが、

「俺、職員室 寄るから、先に行ってて~」

彩桜がサーロンを連れて離れようとした。


「誰に呼ばれてるの?」

また心配そうな顔になった祐斗が彩桜の腕を掴んだ。


「部対抗の用紙 貰って~、ぐるぐる相談♪」


「カケモチばっかだからか?」

今度は堅太が肩を掴んだ。


「昨日しときたかったけどぉ、狐松先生 出掛けてたから~。

 すぐだから副部長お願いね?」


「何してたらいいの?」


「来月までの月テーマ決めといて~」


「ん。じゃあ行こ」「だなっ」




 和室は廊下側の戸を開けて入った場所で上履きを脱ぐようになっている。

皆、閉まっている襖に背を向けて脱いだ上履きを揃えていたが、手を止めた。

「話し声……してるよね?」


恐る恐るな感じで皆、頷いた。


「アイツらか?」「女子なのは確かだよね」

襖の方を向いて聞き耳を立てたが、小声なので話している内容までは分からなかった。


「歴史研究部です。

 部活で使いたいんですけど?」

意を決して祐斗が声を張った。


『あっ』『すみません』


「開けていいですか?」


『『はい』』


 開けると双子が二組――なのか、四つ子が二人ずつなのか、とにかくソックリな四人が向かい合っており、手前の二人が振り返っていた。

奥側の二人が部員達に微笑みを向けて、小さく会釈すると消えてしまった。


「えっと……貴積(きせき)先輩、もしかして消えたのは幽霊ですか?

 幽霊と話してたんですか?」


「私達の親戚なんです」

「私達が生まれる前に亡くなりましたけど」

「邦和名をいただいたのと」

「代わりに卒業しますのでと」

「伝えたくて……」

「成仏してほしくて……」


「そっか。それぞれだったんだな。

 幽霊も居たし、先輩達も居た。

 ベツモノだったんだな」うんうんと納得。


「笑顔だったから、成仏したと思います」

「うんうん。幸せそうに笑ってたよね♪」

「直史、幸せそうって……ま、いいけど」


「「良かった……」」

幽霊が居た方を向いて手を合わせた。


祐斗達も合掌した。


 暫くそうしていたが、

「「あっ、お邪魔しました!」」

ハッと気付いた貴積姉妹は慌てて出て行った。



―◦―



 姿を戻して、職員室の狐松の席に戻った彩桜とサーロンは部対抗スポーツ大会の話の続きをしようとした。


『あ、ちょうど良かった』「ほえ?」


担任の古嶧(こせき)と話していた沙都莉(さとり)が振り返った格好で笑みを浮かべており、急いで寄って来た。


「先にど~ぞ」「行かないで」ガシッ。


「ええっと、なぁに?

 狐松先生に用事でしょ?」


「狐松先生、部活関連は先生の方だと古嶧先生が。よろしいですか?」


「はい、私ですよ」

狐松が引き受けたと視線を送ろうと古嶧の方を向くと、古嶧は美雪輝達に手を引かれて職員室を出るところだった。

「おや……ま、よろしいでしょう。どうぞ」


「ようやく母が退院しましたので、部活保留を終わらせていただきます」


「入院してたの!?」

「彩桜、声大きい」苦笑。


狐松は抽斗(ひきだし)からファイルブックを取り出してホルダーを(めく)っている。


「病気……とも言えるけど、弟が生まれたの。

 妊娠が分かってからずっと入院してて、生まれてからも長く入院してたの。

 入院したのが入学直後だったから、部活保留届けを出していたの。

 母の代わりに家事とか、妹の世話とかしないといけなかったから」


「ありました」抜き出した。

「では、保留停止欄を埋めてくださいね」


「はい」受け取って書き始める。


「入部届けも書けますか?」


「歴史研究部に入れますか?」「「え?」」


「そうですね……教育委員会に確かめましょう。

 部名以外を書き込んでくださいね。

 輝竜君、校長室に」


「サーロンも一緒でいい?」


「構いませんよ」



〈狐儀師匠、断るんですよね?〉


〈いえ……〉〈嫌ですからねっ!〉


〈神眼を音楽準備室に向けてください〉


〈え……〈集まって何してるの!?〉〉


〈新たな部を作りたいそうです。

 火曜日の放課後からずっと砂原先生に付き纏っているのです。

 応援と手伝いをする――〉〈〈嫌です!〉〉


〈ですから女子部員がもう1人必要だとは思いませんか?

 現状、他の生徒は入部出来ません。

 保留していた篠宮さんでしたら入部可能かも知れませんよ?〉


〈でもねぇ……〉〈究極の選択だね〉

〈だよねぇ……〉〈ボクも苦手だよ〉神様扱い。

揃って盛大に溜め息。


〈では、お手伝いを受けるのですね?〉


〈もっと嫌……〉〈そうだよね……〉


〈あまり時間はありませんよ?〉


〈祐斗達に相談したい!〉〈そうだね!〉


〈では急いで話し合ってください〉


〈〈はい!〉〉和室に駆け込んだ。







親衛隊に付き纏われるのも嫌だし、神様ごっこもしたくない。

彩桜とサーロンにとっては学校生活上での死活問題です。


祓い屋としても、どちらも生霊を生じさせたんですから、再発させない為にも離れて観察したい。

とにかく関わり合いたくないんですよね。



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