輝竜大明神のお守り
賑やかな夕食が終わった。
その間、廊下側の襖は開けっ放しにしていて、風呂に出入りする者を捕まえては話し掛ける美雪輝達だった。
そんな美雪輝達は両親と一緒に帰るとは決めたが、週末に泊まりに来たいと、そうやって捕まえた白久に頼み込み、親からは強引に許しを得たのだった。
そうなると、様子を見に来ていた祐斗達も泊まると言い出し、夏月も沙都莉に誘われて泊まると決めた。
「もしかしてクラスみんな来ちゃうとか?」
「修学旅行みたいだね♪」「そ~しよ~♪」
「狐松先生も居るし~♪」「砂原先生も♪」
「私も!?」
「引率の先生~♪」「仲間だし~♪」
「さっきから、その仲間って?」
「常識に疑問持ってる仲間♪」
「あのねぇ、私は教師なのよ?」
「あ♪ フリだったよね♪」「ナイショね♪」
「あなた達って……正気に戻ったのよね?」
「もう取り憑かれてないよ♪」「だから正気♪」
「正気でそれなの?
あっ、中学生によくあるアレですからっ」
騒いでいる子供達を離れて見ている心配ありありな親達に慌てて弁解した。
「その話は明日ね?
ご迷惑だからそろそろ帰りましょう。
久世君達も、もう帰らないといけないわ」
「はい。それぞれ連絡してましたけど、帰ります」
「彩桜、サーロン。また明日なっ♪」
「「うん♪」」
「そんじゃあ近所のヤツは送ってってやる♪」
食器を片付けに来た黒瑯が笑顔を向けた。
「美雪輝、帰るぞ」「待って荷物!」
「体操着~」「カバン学校!」「お弁当箱!」
「お布団は?」「敷きっぱ~」「たたむの?」
「そのままでいいの~。
シーツ洗うし、干すから~。
学校の荷物も持って来てるからぁ」
見えてなかったのかと指した。
体操着の袋と鞄やらが並んでいた。
「よかったぁ」
駆け寄って体操着の袋を抱いた。
「ん? 何か固い?」
ごそもそ。
「お守り? 輝竜大明神♪」「えっ!?」
皆、探って取り出し、大喜び。
掲げたり振ったりしているので金糸で丁寧に刺繍している文字と龍神が美しく煌めいている。
「魔除けの守りだ。肌身離さず持つように」
紅火も来ていた。
「はい♪」一斉。
そしてようやく帰って行った。
〈紅火兄どぉして『輝竜大明神』なのぉ?
恥ずかしくないのぉ?〉
〈刺繍したのは若菜だ。俺は知らぬ。
ま、あれならば捨てたりはしないだろう〉
〈そっか~〉にゃははは~。
〈持っておけ〉大きな紙袋を押し付けた。
〈ほえ?〉こんないっぱい?
〈明日、ねだられる〉
〈ふえぇ~〉みんなに輝竜大明神ってぇ~。
―◦―
夜遅く、ソラは紅火の作業部屋に行った。
「紙漉きですか? もしかして妖秘紙?」
「その通りだ。東京で漉けるよう教える。
この紙は神世の物。それを物質化する。
物質化は具現化と同様だ。
神世の物を成すには、内なる神を確かに目覚めさせ、記憶を込めているであろう尾も集めねばならぬ。
故に、その為の修行をせねばならぬ。
探り、揺り起こす方法と、魂の共鳴から微細な欠片を見つけ出す方法を教える。
が、その前に話を聞こう」
「見抜かれていましたか……」
「当然。ソラは俺の弟子だからな」ニヤリ。
「ボクの相棒は今、犬の赤ちゃんです。
祓い屋として動く時は婚約者と組んでいますが、サーロンをしている間は……」
「ふむ。1日の大半がサーロンな今は、彩桜と組みたいのだな?」
「はい! 今日ずっと一緒に戦ってて、とても動き易くて。
何も伝えなくてもピッタリで驚いたんです。
彩桜クン、ボクよりも戦えるのに高校からって……どうしてですか?」
「彩桜は、ごく最近まで友も作れず、殻に閉じ籠っていた。
心の強さが足りなかった。
だから高校に入ってからだと言ってきた。
今ならば、少し踏み込むのも良いだろうと思っている」
「だったら!」
「ふむ。そんなにも彩桜と組みたいのか?」
「はい!」
「ならば彩桜にそう伝えればよい。
俺はソラが望むのも待っていた」
「ボクを……? どうして……?」
「今、無意識ながらも探りを広げている内なる大神様は間も無く目覚めるだろう。
その大神様が確かに目覚め、記憶を取り戻すに連れ、ソラの記憶の蓋も消え去るだろう。
今日の処は相棒の部屋に戻れ。
修行は疲れを癒してからだ」フッ。
「はい! ありがとうございます!」
―◦―
「彩桜♪ まだ起きてる?♪」
『にゃ~にぃサーロン♪』
部屋を仕切っている本棚の向こうから眠そうだがハッキリと返事が聞こえた。
「紅火お兄さんが相棒していいって!♪」
『ホント!?♪』
「ホントだよ♪」
『サーロンもヒトデしてくれるの!?♪』
「え?」
『一緒にヒトデねっ♪』
「そっか。もう寝てたんだね……」
『サーロンとヒトデ~♪
ヒトデの相棒なの~♪』
「うん。相棒ね」あはは……。
『サーロンだぁい好きっ♪』
「うん。ボクも彩桜が大好きだよ。
じゃあ、おやすみね」
『うん♪ おやすみ~♪』
―・―*―・―
狐儀はキツネの社に戻っていた。
【主様。人神の支配と同様に、人に込められております悪しきモノも揺らいでおります】
【ふむ。やはりザブダクルに何事か起こったのであろう。
引き続き――】【【お稲荷様】】
青生と瑠璃が手を繋いで現れた。
【如何した?】
【その『悪しきモノ』は禍ではありませんか?】
【回復光を当てますので探って頂けませんか?】
【ふむ。ドラグーナが言ったのか?】
【いえ。二人で話していて】
【其処に至りました】
【探ってみよう】目を閉じた。
―・―*―・―
その頃、ザブダクルが体内に隠している封珠の中では――
【神力射って、もしかしてザブダクルから教わったの?】
――修行を休憩していて、ふと思いついたエーデリリィが尋ねた。
【はい。ですが教わったのではなく、流れてきたのです。
私としてはザブダクルの力だけを得たつもりだったのですが、入り込まれてしまっていましたので。
そうだとは全く気づかずに……今思えばなのですが、ザブダクルの睡夢が伝わってきていたようなのです。
様々な力を盗み取っていた私は、力に残存する記憶も得ており、獣神様の弱点なども、そこから得ておりました。
ザブダクルの力は大きく、それだけに残存記憶も多いのだろうと安易に考えていたのです】
【神力射だけでなく、堕神の作り方を変えたのも、そこからなのね?】
【はい。
保護魂を使った再誕方法から、堕神もそうして封じれば容易く浄魂できると。
人魂にも神力に反応し嫌悪するように小さく弱い禍を込めておけば回収も早くなるだろうと。
……酷い事を考えたものです】
【保護魂の方はもう見つけていたからマディアの同代達が分離を進めている筈よ。
人魂の方もラピスリあたりが気づくのではないかしら?
だからそれは大丈夫だと思うのだけれど、ザブダクルは神力射を更に凶悪にも調整できるのね……】
【可能だとは思いますが、微調整でしたらともかく、初期の設定を変更するのは、かなり面倒なのです。
神力も消耗しますので、余程の事がなければ変えないと思います】
【あら、そうなのね?】
【はい。ただしそれも改善が可能なのかも知れませんが……】
【変えずに、新たに作って増やせば……】
静かに聞いていたユーチャリスが呟いた。
【あらそうね。
変えたくなれば、そうするでしょうね。
ザブダクルの睡夢から他には?】
【神を水晶に封じる術も、神力や記憶を水晶に保管する術も、そこから発動する術も得ました。
神力や記憶の分離や、神力封じの縄は浄化域に居た頃に会得しておりましたので、合わせて使っておりました】
【悪行の殆どにザブダクルが絡んでいたのね。
まぁ術は使いようだけれど】
【悪用しか考えておりませんでしたので……】
【それはもういいの。
十分過ぎる程に反省したのだから。
他には何か? 何でもいいのよ】
【謎なのは『ルサンティーナ』または『サンティーナ』という言葉なのです。
何度も何度も繰り返しておりましたが……唱えても何も起こりませんし、何なのやら……】
【術の略唱でないのなら、何かの名前?
何度も……もしかしたら!
ザブダクルの奥様なのかも!】
【呼び掛けていた、のでしょうか?】
【と、思ってしまったのよ。
睡夢なのでしょう?
寝言で呼んでいたのではないかしら?
だからこそマディアとグレイの最も大切なものとして、私達を封じたのではないかしら?
どの夫婦も互いを己が命よりも大切だと思っていると信じているのでは?
そのくらいに愛している奥様なのではないかしら?】
【そんなにも純粋なのでしょうか?】
ユーチャリスが首を傾げる。
【この状態、マディアとグレイの苦しみを思えば、とてもではないけれど許せるものではないわ。
でもねユーチャ、ザブダクルを変えたものが、きっとある筈よ。
最初から、こうではなかったと私は思うの。
根拠も何もないのだけれど……】
【それは私も感じておりました。
本来は善王だったのでは、と】
ダグラナタンが大きく頷いた。
【此処にも睡夢が届かないかしら?
良いヒントが得られそうなのに……】
エーデリリィが見上げたのを追って、ユーチャリスとダグラナタンも見えないが強固な壁が在る筈の空を見上げた。
どうやら青生は治癒や浄化を当て、話しながら美雪輝達の魂を探っていたようです。
動物病院に帰ってから瑠璃と話しているうちに至った事を確かめてもらおうと、稲荷の社に行きました。
彩桜とサーロンの方は、彩桜が以前 望んでいた形になりそうです。
ヒトデの相棒じゃなく、祓い屋の相棒として、これから動けるようになるんでしょうね。




