また退治したけれど
「私もお手伝いさせていただきます!」
かつては表玄関だった庭に面した出入口から沙都莉が駆け込んで茜と葵を追い越し、女子達を運び込もうとしている部屋の襖をサッと開けた。
狐松が苦笑を浮かべて、その後を追って来た。
〈もしかして見せてたのぉ?〉
〈使徒ですので、已むを得ず〉
〈ふえぇえぇ~〉
〈でも恐怖も恋愛感情も無いから大丈夫だよ〉
話しながらも次々と運び込み、使徒と双子が敷いている布団に横たえていった。
「「掛布団どうします?」」
双子、同じ角度で小首を傾げる。
「自然に目覚めるのを待ちましょう。
ですので掛けておきましょう」
白儀と狐松も加わって、ちょうど1対1で掛け終えた時、砂原が来た。
「これは……?」
「真っ黒オバケ見て気絶しちゃったんです」
「やっぱり……憑いていたのね……」
「どぉしてソレ知ってるんです?」
「白久君がそう教えてくれたのよ。
学校のトイレで私を追い出したオバケが憑いて来てるって」
「そぉですか……」白久兄どこだろ?
〈あれれ? 白久兄、会社なのに?〉
〈確かにね〉〈あ~ソレな。オレだ〉
〈リーロンが白久兄? 黒瑯兄じゃなくて?〉
〈この先生、白久の知り合いなんだろ?〉
〈金錦兄の同級生だって聞いたよ?〉
〈ゲ……オレ、やらかしたか?〉
〈平日に金錦兄いないし、いんじゃない?〉
〈マジでか?〉
〈みかん姉ちゃんのお友達だし~♪〉
〈そっか♪ よかったぁ~〉
〈で、何お話ししたの?〉
〈オバケ話だけだよ。
逸れねぇように必死でだ。
思い出話とかになったらムリだからな〉
〈そっか~♪〉
その間に狐松と砂原は保護者に何と説明しようかと話し合っており、連絡する為に狐松の部屋に行ってしまった。
「待つしかないかにゃ?」「そうだね」
「「私達が見ておきます」」
「男ムリだもんねぇ」「アトリエ行かない?」
「あ! 祐斗達!」「うん。だから行こうよ」
「サーロンさ――君、普通に話してる?」
「えと、練習してる、から」焦っ!
「篠宮さんも早く行こっ!」廊下に逃げっ!
「神様ですから当然ですよね」ふふっ。
廊下で追い付いた沙都莉が囁いた。
〈怖ぁあいぃ~〉〈そうだね……〉
これから気が抜けないと不安になる二人だった。
―・―*―・―
その頃、白久は建改部長室で順志と話していた。
「ついさっき確定情報が届いたんだがな、足場利用の客席、いつまでに改善できる?」
「早くて2月……きちんと組んで試すなら3月かな?」
「十分だ♪ 5月だからなっ♪
音楽と食の祭典、渡音フェスで、その客席を組んでほしいそ~だ♪
やれるか?」
「やって、、いいのか?」
「牧場イベントで お前が連れて来た黒瑯のダチがな、フェスの運営なんだよ。
だから牧場でのアレも知ってる。
だからこそウチにと手紙をくれたんだ。
手紙時点では春とだけだったが、さっき確定したと真っ先にメールをくれたんだよ。
この渡音フェスなぁ、いつもは3月末にやってたんだ。
けど前回はスポンサー不足で中止。
次も諦めてたんだと。
けど、この前テレビ局で俺達兄弟を助けてくれた後、思いきって秋小路さん達に持ち掛けたら、スポンサーになってくれたんだと♪
んで、規模拡張。大慌てで準備中だ♪
だから俺達もステージに立つ。
満員御礼にしてやるから、足場客席もそのつもりで本気でな」
「あんな嫌がってたのに出るって……」
「彩桜だけじゃなく本気出すって決めたんだよ。
自分で選んだ仕事はモチロン本気。
音楽も本気で全力だ♪」
「そうか……だったら俺も本気だ。
フェスの場所は? 規模は?」
「港広場。デカイぞ♪」
「渡音港の!? あの埋め立て広場か!?」
「だよ♪ 全国から集まるぞ~♪
詳細はコレだ♪ 頼んだぞっ♪」
―・―*―・―
「あれれ? 藤慈兄だ~♪」
渡り廊下で沙都莉に疑われるような言動は絶対にしないでと念を押した後、アトリエの2階に行くと、祐斗達と一緒に藤慈が居た。
「少しお話しをしていたのです」にこっ。
〈青生兄様は書庫、瑠璃姉様は駐車場、慎介君は庭で怨念塊が外に飛ばないように紅火兄様の結界を保っていたのですよ〉
〈そっか~♪〉〈慎介君?〉
〈狐松先生♪ 藤慈兄の親友なの♪〉
〈そうだったの!?♪〉〈うんっ♪〉
「サーロン、宿題しよっ♪」「うん!」
―◦―
『まだ眠ったままかな?』
女の子達が眠っている広い部屋の襖の向こう、廊下から穏やかな声が聞こえた。
「「あっ、はい」」
『失礼するね』
襖が開いて、子犬を抱いている明らかに彩桜の兄が微笑んだ。
「俺は三男の青生。
普通のダメージではないから、回復くらいは当てようかと思ってね」
「「はい♪」」
横並びの7人の足側中央に座り、治癒に浄化を混ぜた光で女の子達を包んだ。
「彩桜君とサーロン君は戦う人で」
「青生さんは治す人なんですか?」
「俺は獣医だから、法的に人の治療が出来るのは白久兄さんなんだけどね。
こういう治療なら俺だけでなく彩桜も出来るんだよ」
「私達、祓い屋さんのお手伝いをと」
「言われたんですけど……」
「何が出来るのかは、これから見つければいいんじゃないかな?
素質があるから誘われたんだろうからね。
必要とされるのは、生きる為の心の支えになるんだよ。
これから精一杯、思う存分、生きてね」
「「あの……」」
「もう死んでいるのに、かな?
魂が生きているんだから死んでいないよ。
身体を失っただけ。
それも神様の御力で得られたんだから、確かに生きているんだよ。
と、偉そうに言っているけど、俺の方が歳下でしたね」
「あ、いえ、それは……」
「私達、中学生で「止まってましたから」」
「じゃあ中学生でいいんですか?」
「「はい♪ あ……」」動いた?
「うん。動いたから、もうすぐ目覚めるよ。
このまま居る?
具現化を解けば姿を消せるけど?」
「「このまま居ます」」
「そう」にっこり。
「あ……」「ここ……?」
「彩桜君のお兄さん?」
次々と目を開けていく。
「うん。彩桜の兄だし、此処は俺達の家だよ。
俺は三男の青生」宙に字を書いた。
「どうして此処に居るのか覚えているかな?」
周りや隣の顔を窺いつつ、暫し考え、思い出したらしく勢いよく身体を起こした。
「真っ黒オバケは!?」「廊下の!!」
「彩桜君は!?」「サーロン君は!?」
「双子の3年生は!?」「居たっ!!」
「ちょっと! みんな落ち着こーよ!」
「うん。もう大丈夫だから落ち着いてね。
記憶はあるんだね?」
皆、深刻そうな表情で頷いた。
落ち着こうと言った美雪輝が恐る恐る口を開く。
「真っ黒オバケ、居ましたよね?」
「あれは君達が懐いた負の感情から生じたものだよ。
怨念の塊、もっと解り易く言うと生霊だね。
それは白儀先生と弟達が浄滅したから、もう安心なんだけど、二度と生まないでね」
「私達、取り憑かれてたんですか?
記憶はあるんですけど……たぶん。
遠くから見てただけで、勝手に動いて話してたんです」
他の女の子達も頷いた。
「そう。勝手に……。
うん。取り憑かれていて、魂を喰われる寸前だったそうだよ」
「それを彩桜君とサーロン君が退治してくれたんですか?」
「他にも居たんだけどね。
メインは彩桜とサーロンかな?」
「彩桜君達って……」
「怖い?」
「ううん。カッコイイです!
彩桜君の声を聞いて……目の前が暗くなって。でも見えたんです。
光る剣を持って飛んでる彩桜君とサーロン君が何かに突き刺したの。
夢じゃなかったんですね?」
「そう……見たんだね」
「あのっ! 見たら月に帰るとか、そんなのありませんよね!?」
「帰る家は此処しか無いけどね。
でも話さないでもらいたい、かな……」
「はい!」「話しません!」と口々に。
「ありがとう。
気になるだろうけど詳しくも話せないんだ。
君達の命が危険になるからね」
女の子達は驚きつつも『やっぱり』という顔つきで頷いた。
「ありがとう。
今、生きているという事は奇跡の積み重ねなんだ。
生を受けた、それだけで大きな奇跡。
ここまで生きてこれたのも、護ってくれた人達のおかげなんだよ。
だから命を大切にしてね」
「はい」と、渋々感を漂わせながらも頷いた。
「それじゃあ――」「あのっ!」「――ん?」
立ち上がりかけた青生は座り直した。
「あの……お姉さん達は?」視線は双子に。
「貴積 茜さんと葵さん。
漢中国で生まれ育った邦和人だよ。
ご両親を亡くされて、白儀先生が後見人に。
それでウチに下宿する事になったんだ。
中学3年生。今日は学校見学に行っていたんじゃないかな?
今は気を失った皆さんを見守ってくれていたんだよ」
茜と葵は、そういう背景になったのかと聞いていた。
「やっぱり3年生なんだ」「下宿?」
「いいなぁ」「一緒に住めるのかぁ」
女の子達は『下宿』に食いついていた。
「もういいかな?」
「私達も下宿させてください!」一斉。
おかしかったのは取り憑かれていたから?
生霊が乗っ取るとかアリ?
まだまだ謎だらけですが、美雪輝達は とりあえず正気に戻ったようです。
相変わらず賑やかですけど。
貴積姉妹の方は背景も決まったので、これからは普通に中学生生活ができそうです。




