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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第一部 第1章 ショウと力丸
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門前逃走



―◦― 約5年前 秋 ―◦―



 人世からは見えない神世の晴れ渡る下空(げくう)二神(ふたり)の男の子が飛んでいた。


〈ねぇ兄様、アレ何だろ?〉大騒ぎ?


〈余計な事に首突っ込むなよ。

 浄化域なんだから()っとけ()っとけ〉


〈兄様は気にならないの?〉


〈言いつけ守らないと父様に滅されるだろ。

 俺達王子は反逆者を見つけて捕まえるのが役目なんだからな〉


〈うん……ちゃんと巡回するよ〉



―◦―



 兄弟が通過する少し前――


〈私にのみ意識を向け、心に言葉を乗せ、お話しください〉


〈は、はい……こうでしょうか?〉


――病死したばかりの男・飛翔(たかし)の魂が、死を司る男神(おがみ)に導かれて昇っていた。


死司(シシ)の男神がフードで隠していた顔を見せ、ダンディそのものな笑みを飛翔に向けた。


 あ……髭がカッコいい。

 神様に不謹慎かもしれないけど……。


そして真顔になると目を伏せた。

〈何も存じなかったとは申せ、誠に申し訳ございませんでした。

 全てはフェネギ様より伺いました。

 神世(かみよ)の為、生きとし生ける全ての魂の為、貴方様には現世(うつしよ)にお戻り頂きます〉


〈えっ……?〉


〈神世での御記憶は抜き取られ、封じられて御座います。

 故に全てをお話し出来ませぬが、これよりお話し致します通り、現世に戻り、龍神(ドラグーナ)様と貴方様の娘神様を御護りくださいませ〉


〈龍神様? 娘神様?

 (すず)も神様なのですか?〉


〈貴方様も神で御座いますよ。

 再び生きておりましたならば龍神様にもお会い出来ましょう。


 彼方(あちら)に見えておりますのは『浄化の門』。

 魂を無垢に戻す神々の領域への入口で御座います〉


前上方に差し示した杖を右方に軽く振る。


〈そして彼方に見えております大木は『永遠の樹』。

 無垢なる魂に再び生を与えます、再生の神々の領域への門のひとつで御座います。


 浄化の門に一歩入りましたならば、私を突き飛ばし、永遠の樹へとお逃げください。

 フェネギ様がお待ちで御座いますので、『現世の門』へと降り、現世に入りましたならば、リグーリ様と共にお住まい近くへと降り、新たなる御身体をお探しくださいませ〉


〈フェネギ様……リグーリ様……〉


〈他の神が邪魔立てせぬよう私が阻止致しますので、他の神には会わないでしょう。

 御安心くださいませ〉


〈そう、ですか……〉


〈それでは、浄化の門へと急ぎま――〉『待て、ディルム』


「あ、はい。如何(いかが)なさいましたか?

 ルロザムール様」〈敵方の神で御座います〉


初老の男神が現れ、睨み据えた。

「その男の死と引き換えに娘を生かせたとは真か?」


「はい。

 死司の最高司(サイコウシ)(:職域毎の最高神)ナターダグラル様よりの御許しは頂いて御座いますが、何か問題が御有りなのでしょうか?」


「その男と娘が何者なのか知らぬのか?」


「存じておりませぬが……もしや堕神(だしん)――」


「言うな。

 それ以上この者に聞かせてはならぬ。

 ふむ。知らぬのも当然と言えば当然か。


 では、新たなる(メイ)を下す。

 戌井(いぬい) 飛翔(たかし)を浄化の神に渡したならば、即、戌井 (すず)を導け。

 生きさせるなんぞ許せるものか。

 よいか。即、浄魂(ジョウコン)させるのだぞ」


「慎みまして速やかに」深々と礼。



 ルロザムールの姿が消え、御付きの神達の気配が全て消える迄、ディルムは礼をしたまま留まっていた。


それは上位神に対する礼儀でもあったが、見張りが居る限り動かぬ、見張りなんぞ不要だというディルムの意志の表れでもあった。


御付きの神達は、それを服従心と捉え、去ったのだった。



〈では速やかに、現世にお戻りください〉

飛翔を連れ、上昇を再開した。


〈紗は――〉


〈死を引き寄せぬよう努めますが……どうか再び生き、御護りくださいませ。


 私は、門の中央の神へと貴方様をお連れ致します。

 中央の神へと一歩進みましたならば反転し、全力で永遠の樹へとお逃げください。

 中央の神は動きは致しませんが、両の神は武神(ぶじん)で御座います。

 ですが貴方様ならば……どうか思いの儘に〉


〈思いの儘……?〉


此処(ここ)は神世。貴方様は高位神様。

 龍神様の盾であり剣と呼ばれし大いなる賢神様で御座います。

 ですので思いの儘に〉


〈あの樹まで……紗の為に……〉

頷く代わりに目を閉じ、決意を示した。


〈では、門に入ります〉

「浄化を司る神様、成仏の程、宜しくお願い致します」


「死魂の導き神様、新たなる魂のお導き、ありがとうございます。

 さあ、此方(こちら)へ」両手を広げた。



 柔らかな光を湛えた大理石に似た床に飛翔が足を着け、一歩――


「まだ成仏なんかしないっ!!」


奮い起たせる為に声を上げ、反転した。

その勢いでディルムが弾かれて飛ぶ。

心の内で謝りつつも眼下に見える樹へと全力で飛んだ。


しかし、門の両神が前を塞いだ。


 僕が戦う? どうやって?


何の武道の心得も無い。

どちらかと言えば体育は苦手だった。


唯一、戦えそうなのは高校・大学と続けていたアーチェリーだけ。

国体で優勝した腕の見せ所――などと悠長な事を考えてはいられなかった。


眼前に2神が迫り、剣を振り(かざ)した。


思わず構えた手に、光が弓矢を成す。

驚く暇も無く、2神の剣が天の彼方(かなた)へと光矢(コウヤ)に連れ去られていた。


 僕が射ったのか……?

 これが思いの儘……そうか!


2神が次々と出す武器を(ことごと)く弾き飛ばし、少しずつ2神との位置を入れ換えるように樹へと回り込んだ。


『捕らえるのです!』



 その声に門を仰ぎ見れば、複数の武神が手に手に武器を構え、飛来していた。

光矢で応戦しつつ、背を向けている樹へと後退する。


〈全てが敵では御座いません!〉

〈今は逃げきる事こそ大事!〉

〈神の力、少し開かせて頂きます!〉

門神達の制止を聞かず前に出た若い3武神が光矢を()(くぐ)り、飛翔に迫った。


弓が伸び、振るわれた3剣を止めた!


〈流石で御座います! では!〉


飛翔の内で何やら蓋が開いた感覚が起こり、そこから強い光が溢れ出たように思えた。


〈我等を弾き飛ばし、連射なさいませ!〉


弓で軽く押すと、3神は声を上げて勢いよく飛ばされてくれたので、飛翔は連射しつつ全力で樹に向かった。



―・―*―・―



「僕、書物大庫に行っていい?」

弟は王が住む都に入ったとたん、すぐ近くに見える大神殿を指した。


「またかよ」


「だって勉強したいんだも~ん」


「さっきの所には間違っても行くなよ?

 俺達は事が起こる前に通過したんだからな」


「うん♪

『異常ナシ』って報告するんでしょ?♪」


「トーゼンだろ。

 何かあったなんて報告なんかムリムリ。

 当たらず障らず目立たず生きるしかないんだからな。

 さっきの、後で知ったらメーイッパイ驚くんだぞ?」


「わかってるって~♪」

『これはこれはダイナストラ王子様とショウフルル王子様。

 今日も仲良く巡視の任で御座いますか?』


兄弟は内心ビクリとしたが、にこやかに振り返り、兄ダイナストラが頷き答えた。

「ええ。王子としての大事な任ですので。

 あとは報告を残すのみ。

 ですので弟には先に勉強しているよう話していたところなのです。

 ところで何事かありましたか?」


「いえいえ、ご無事でしたら何も。

 では私はこれにて」

でっぷりとした中年男神は、大きな顔を愛想笑いで埋め尽くして去って行った。



「腰巾着大臣さん、さっきのの報告かな?」


「たぶんな」


「兄様も勉強する?♪」


「するかよ。

 とにかく俺達の報告が先じゃないとダメだよな。

 急ぐから俺は行くぞ」

返事を待たず飛び去った。



 残された弟ショウフルルは、とりあえず降下して書物大庫に入り、暫くは大人しく本を読んでいたが――


 やっぱ気になるよね~♪


――騒ぎのあった場所へと飛んで行った。



―・―*―・―



 どうして、あのラインで留まったのかな?


 神であった頃の記憶が少し戻ったことで攻撃が的確になり、武神達を引き離せた飛翔は、横並びな武神達に見送られる形で永遠の樹に着いた。


()れは此処(ここ)が再生の神の領域だから〉


飛翔が声の主を捜すと、太い幹の向こうで真っ白なふさふさが揺れていた。


此方(こちら)に〉


〈フェネギ様?〉回り込んだ。


〈様なんて要らない。友なのだから〉


純白の小さな狐が宙にチョコンと座り、尾を揺らしていた。


〈何度も現れてくれたよね?〉

困れば現れる小さな白狐・狐儀(コギ)に姿を重ねる。


その目が嬉しそうに細まった。

〈戦い逃げる為に、少し開いてもらったのだろう? アーマル〉


〈アーマル……? あっ――〉


内で何かが弾け、光が(ほとばし)った!


〈――そうか……フェネギが狐儀であったか〉

心からの笑みを友に向けた。







『ユーレイ外伝』最初のお話は、飛翔(アーマル)友神(ゆうじん)達、ダイナストラ王子とショウフルル王子の2筋で始まりました。


ユーレイ探偵団本編エンディングとユーレイ外伝プロローグから遡って約5年前の秋、飛翔(たかし)は娘・(すず)の命を狙う死神と契約し、身代わりとして病死しました。


そして1回目の門前逃走を果たしたのです。



通称『死神』こと死司神(シシシン)を含む職神(ショクシン)達は王の直属で人神のみです。

そこに人姿で潜入している獣神が居るんです。


獣神達は人神には人姿を隠しています。

獣のクセに姿を2つも持っているとは、と要らぬ諍いが起こる事を防ぐ為です。


中間管理職なルロザムールは人神です。

ではディルムは? それはこれからのお話で。



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