拓斗の発表会の日①
翌日、日曜日。
歴史研究部の面々は東の街の中央公園近くにあるイーストホールに来ていた。
バスを停めに行っていた白久が両手に楽器ケースを持ち、トレービとジョージを案内して公園を歩いていると――
「おい、白久。彩桜が木と話してるぞ」
トレービが白久の袖を引いた。
「ん? ありゃあサーロンだ。
木の向こうに誰か居るみたいだな」
「あ、女性だな」見えたらしいジョージ。
「お~いサーロン! 迷子になったかぁ?」
気付いて向いたので漢語でもう一度。
サーロンが駆けて来た。
「違う、です。聴きたい、言ってます」
「彩桜達は?」
「先に、みんな、席に。
ボク、目印。待ってたです」
「あ~そっか。俺達待ちしてくれてたのか。
そんで声掛けられたんだな?」
「ハイ♪」
「青生が来れなくなったチケがあるからな。
そのレディも一緒に――ってオッサン達どこ――ああっ!」
既に女性を口説いている。
「ストーップ!! オッサン達ヤメッ!!
ったく油断も隙も無ぇオッサン達だな!
失礼しました! スミマセン!」
「いいえ」艶やかに笑っている。
「チケ余ってますからどうぞ」
「あら、いいの?
当日券が完売で困っていたのよ~。
助かったわ♪」バッグを開け――
「ああ、そんないいですよ。
それよか もう始まりますから急ぎましょう」
と、急ぎ足でホールに向かった。
〈ユーレイとしてコソッと入らなくて済んだわ~♪
今回ばかりは生身に近く音を感じたかったのよね♪〉
〈確かに霊体だと通り抜ける音を感じるから違いますよね。
青生お兄さんが急患で来られなくなったんですよ〉
〈そうなのね。獣医さんも大変ねぇ〉
〈それでトウゴウジさんは誰を?〉
〈私の公園で練習していたボクちゃんが彩桜君の指導でどう変わったのか確かめたかったのよ。
きっと大化けしたでしょうからね♪〉
〈拓斗クンを知ってたんですか?〉
〈あのマンションに住んでるの。
毎夕ここで練習してたのよね。エアーで。
暗い顔して帰るから気になってたの。
でも龍神様のアトリエで楽しそうにしていたのよね♪〉
ホールに着いた。
〈白久兄コッチ~♪〉
1階席の3列目の真ん中辺りで彩桜が手を振っている。
行って座る。
「祐斗 拓斗はもう行ったのか?」
「うん。小学生は前半だから~」
「ヒナちゃんは?」
「アッチ~、おばさんトコ~。
すぐ戻って来るよ~」
〈で、どぉしてゴウちゃん師匠?〉
〈彩桜の知り合いかぁ?〉
〈うん〉
〈師匠ってぇ?〉
〈祓い屋さんなの~〉
〈ふぅん。
公園でサーロンと話してたんだよ。
そっか。彩桜と間違えたんだな?
で、聴きたいつーから青生のチケでな♪〉
〈そっか~♪〉
―・―*―・―
その頃、青生と瑠璃は動物病院に次々と現れる神達を連れてキツネの社に場所を移したところだった。
【では此方はお願い致します】
【ええ、お任せくださいラピスリ様】
【では】礼をして隣室へ。
フェネギが仕切る事になった この部屋では、稲荷山と奥ノ山で修行中の人神達が、力無く横たわるルロザムールを囲んで浄化や治癒を当てていた。
「うっ……ぁ……ああ、私は助かったのですね。
皆様ありがとうございます」
起き上がれないのか横たわったまま、申し訳なさ気に見回して小さくペコペコ。
「ルロザムール様、何があったのですか?」
囲みの中からフェネギが進み出て尋ねた。
「下位死司の二神は!?」ガバッ!!
「無事ですよ。
まだ眠っておりますが、支配が残っておりますので目覚めさせるのは解けた後と致します」
まだ起き上がるのは無理だと、そっと肩を押した。
「そうですね……そうなりますよね。
これは二神が叫んでいた言葉からの勝手な憶測でしかないのですが、どうやら人の負の感情を怨霊だと思い込み、結界を無視して回収しようとしたのではないかと……怨霊は居りませんでしたので」
話しながら記憶も流した。
「ルロザムール様は止めようとなさったのですか?」
「はい。ですが支配が強く発動しており、妨害している敵だと思われてしまったらしく攻撃されまして……」
「相手は全力での見境の無い攻撃。
それを受けて気を失い、結界内に落ちてしまったのですね?」
「そのようですね」苦笑。
「それで、フェネギ様が私を?」
「いいえラピスリ様です。
皆様の黒衣を滅消して結界の力を断ち、浄治癒を当ててくださったのです。
地上で落下を見ていた者、察知した者達が集まりましたので、此方に場所を移して直ぐにルロザムール様がお気付きになられたのです」
「そうだったのですね。
申し訳ないばかりですが……そのラピスリ様は?」
「二神の支配を解こうとしております」
「ああ……ピュアリラ様でしたね」
【ルロザムール様っ!!
ご無事で――】現れた。
「ハーリィ、大丈夫ですよ」
フェネギの言葉にルロザムールも頷く。
「ハーリィは再生最高司補なのですよね?」
「ですから直ぐには降りられなかったのです。
ご無事で……良かった」
ルロザムールはハーリィの言葉に微笑んだが、弱々しいものだった。
安堵したのか、ゆっくりと目を閉じた。
「未だ万全ではないのですよ。
皆様、引き続き浄化と治癒をお願い致します。
ハーリィ、私の社で経緯を説明しますね。
上の様子をお願いします」
連れて瞬移。
――山の社。
フェネギはハーリィにルロザムールの言葉と記憶を流してから尋ねた。
【死司の方では騒ぎにはなっていないのですか?】
【今のところ静かなものだ。
死司は最高司ナターダグラルが怖れられているが故に報告する者なんぞ居らぬだろうな。
最高司補は獣神エーデラークだしな】
【そうですか。
それで落ちたのを見た者達は?】
【あちこちで話されるのも災いの元。
支配の副産物的な作用も起こり得ると考え、可能な限り集めてロークスとラナクスに預けた。
支配されておらぬ者には口止めだけはしておいたが?】
【流石ハーリィですね。
ありがとうございます】
リグーリとエィムが現れた。
少し遅れてミュムも。
【リグーリ、主様は?】
【間も無く。チャムが残っております】
【ありがとう。では先にエィム】
【マディア兄様が単独でしたので、尾に触れて直接流し伝えるのを試しました。
鳴きで小さく『解った』と。
ですので伝達成功です】
【チャムのアイデアも時に役に立つのですね】ふふっ♪
【はい】くすっ♪
【では、ミュムは?
指示はハーリィなのですね?】
【はい。ハーリィ様のご指示通り、支配が解けている方々にご協力頂いて、再生域も死司域と同様に口止めし、支配されている方々は眠らせた上、ロークス様とラナクス様に預けて参りました】
【ありがとう、ハーリィ、ミュム。
では主様のお社に――】
〖狐印の大術移~♪〗
【――チャムが戻ったようですね】ふふふ♪
揃ってキツネの社へと瞬移した。
―・―*―・―
イーストホールでは拓斗と祐斗の演奏が始まったところだった。
〈やっぱり楽しそうに弾いているわね♪
可愛くて優しい音♪ それに上手ね♪
ピアノは彩桜君と一緒に居た子ね♪〉
〈ピアノの祐斗クンは拓斗クンの従兄なんですよ〉
〈どうして最初から一緒に音楽してなかったのかしらね?
とっても仲良さそうなのに。
このまま続ければ、もう負の感情を溜め込む心配は無いわね。
安心したわ~〉
〈拓斗クン、そんな感じだったんですか……〉
〈外に出さずに内に内にって溜め込んでたの。
生霊化したら大変だと思って、ず~っと見てたのよぉ〉
〈生霊化?〉
〈あらヤダ、ソラは知らないの?〉
〈はい……怪談とかでなら、生霊って聞いたコトありますけど……〉
〈生き人の負の感情が外で膨らむと怨霊化のモトになるわよね?〉
〈はい。それは何度も見ました〉
〈内で膨らみきってしまうと、それが魂の内側で起こってしまうの。
その生霊が完全に独立してくれれば怨霊と同様に倒せるわ。
もちろん死神に渡す必要もナシ。
でもね、ごく一部でも本人に繋がってるとダメージは全て本人にも伝わるから、倒したら本人も死んでしまうのよ。
大抵どこか繋がっているのよね。
だから倒せない、死神にも渡せない厄介な悪霊になってしまうの。
それが生霊よ〉
〈どう解決するんですか?〉
〈先ずは説得ね。
原因を探って、本人を説得するの。
無自覚な事も多いのよ~。
それで望みが叶えられればいいんだけど、まず無理な事が多いのよ。
だから大変。
説得して納得してもらって、望みを他に向けてもらうとかね、溜めない方向に向けてあげないといけないのよ。
それでも生霊は消えないわ。
負の供給源が断たれても元気なものよ。
いきなり乱暴には倒せないから、破邪で少しずつね。
浄めながら、説得しながらよ。
数年かかったりもするんだからぁ〉
〈そんなコトになるんですか……〉
『悪霊』は怨霊や生霊などの世の害になる霊の総称です。
強い負の感情の塊である『不穏』に霊が触れるなどして生じる怨霊と、生きている魂が自身の不穏に取り込まれたり、他者の不穏に取り憑かれたりして生じる生霊。
これまでは怨霊がよく登場していましたが、この章が前編、次章が後編で生霊と戦います。




