リーロンの弟サーロン
「おい祐斗、どこ行くんだ?」
輝竜家のアトリエで勉強会と称して今後を話した後、部員達は家に向かったのだが、祐斗が家を素通りしたので堅太は呼び止めた。
「夏月の家。暗くなったから」
「そっか。なぁ祐斗」
「ん?」夏月と手を繋いだまま引き返した。
他の部員も戻り、堅太の家の前に集まった。
「彩桜、大丈夫かなぁ?」
「気になるけど……お兄さん達に任せるしかないんじゃないかな。
バイトに専念するって笑ってたソラさんも気になるけど……」
「だよなぁ。彩桜が落ち込んでるのもソラさんなんだろなぁ」
「僕、彩桜に泊まるの断られたのって初めてなんだよね」
「ひとりになりたいくらいアイツ、ショックだったんだろなぁ」
「明日もう一度ソラさんの参加、狐松先生に相談してみようよ」
「だな。俺、明日はバスケ部 休むからな」
「また?」
「またってナンだよ?」
「土日も休んだのに?」
「あ~そっか。忘れてた。
けど今が大事だろ?
一緒に相談に行くぞ」
部員達は決意の眼差しで頷いた。
―・―*―・―
〈彩桜クン、みんなが帰ってからって何?〉
〈帰ったから来て来て~♪〉
稲荷堂の片付けを手伝ったソラは、彩桜の部屋へと瞬移した。
「あのね、ソラ兄……中学生しない?」
「え? どうして急に?」
「ん~と、今日ずっと考えてたんだけどぉ。
ソラ兄、歴史好きでしょ?
歴史研究部したいでしょ?
でも学外部員ダメなったでしょ?
それに部対抗スポーツ大会も参加したいし。
だから中学生して正式部員なって~♪」
「そ……う……」
「ダメ? 中学生イヤ?」
「そうじゃないよ。驚いただけ。
正直すっごく嬉しいよ。
学外部員ダメってボクもショックだったし。
ボク……実は小学生でユーレイになったんだ。
だから中学に通えるなんて夢みたいで……。
ありがとう彩桜クン」
「よかったぁ~♪ でね♪
どこで何してた? 小学校どこ?
とかって聞かれても困るでしょ?」
「そうだね。うん、確かに」
「だから♪ リーロンの弟ってどぉ?♪」
「え……って漢中国人!?」
「ダメ? 漢語ムリ?」
「無理じゃないよ。ちゃんと勉強したし」
「メンドーなったら漢語で逃~げる~♪」
「そっか♪」あははっ♪
「中学生なれる? 体格、俺と同じくらい」
「このくらいかな?」
小学生に戻してからクンッと成長させてみた。
「あと、リーロン似できる?」
「それはちょっと……」つまり彩桜クン似だよね?
「ソラ兄のお稲荷様すっごいから化けられるよ♪」
「そうなの!?」
「うんっ♪」【狐儀師匠~♪】
小さな白狐が宙に現れた。
「あ……狐儀様?」「当ったり~♪」
〈偽装の術を、なのですね?〉ニコッ。
「うんっ♪ お願いしま~す♪
狐儀師匠、ソラ兄のお稲荷様の孫なの♪
だから修行してねっ♪」
「修行……はい! お願いします!♪」
修行好きに火が着いたらしい。
―・―*―・―
街を散策したアルニッヒとリカイネンをホテルに送った白久は支社に戻り、建築物改善部長室に行った。
「今日1日ど~だったぁ?」
開けたドアをノック♪
「無茶苦茶だったよ!」フンッ!
「どう無茶苦茶だったんだ?」
「それよかテレビ局のを解決するのに丸1日も掛かったのか?」
「午前中に解決したけどな、その後でアルニッヒ様とリカイネン様に付き合ってたんだよ」
「そんな早く解決できてたのか!?」
「恩人を大量生産してな」
「そっか。ま、良かったな」
「ああ。で、ソッチは何してたんだ?」
「大量の受注をどうにかこうにかスケジュール組んで人当ててたんだよ。
それだけでも四苦八苦だったのに電話が ひっきりなし!」
「電話? 何処から?」
「あっちこっちの飲食店からだよ!」
「改装かぁ?」
「じゃなくて次のイベントではウチも出店させてくれってヤツ!」
「って順志が黒瑯のダチ連れて来たんだろ?
イタ飯屋の」
「そんな話だとは知らなかったんだっ!
けど……次って、やれるのか?」
「暫く様子見ねぇとナンともなぁ。
で、そのリストがコレかぁ?」
順志のパソコンモニターをつんつん。
「だよ。一応 連絡先を纏めといたんだ。
もしかしたら、またできるかもと思ってな」
「ん~~~、ウチ主催じゃなくアウトレットパークのなら、また近いうちにやれるかもな♪」
「ああっ! そうか。その手が……そうか!」
「順志って、そんなお祭り好きだったかぁ?」
「なんか……楽しかったんだよ。充実してて」
「そっか。
そんならまた出来るよ~に実績たんまり積み上げて信頼回復しねぇとな♪」
「ああ。足場も改善してやる」拳をグッ。
「燃えてやがるな♪
そんじゃあ俺も仕事すっかぁ♪」
「今から?」
「少しだけな♪
あとは帰って恩人の皆様にラブコールしまくりだ♪
それも次へのステップだからなっ♪」
「あ、そうだ。少し待ってくれ。
氷垣君、これを建築部長に頼む」
「はい♪」紙束を受け取って部屋を出た。
「データを送信すりゃいいだろ?」
「ひとつ言っておきたかったんだ。
京海のお父さんの素性、知ってるのか?」
「少しだけな。春日梅家の方なんだろ?
だから行かせたのか」ドアを見た。
「ああ。京海には内緒だから。
駆け落ちして家とは縁を切っていたらしい。
けど、テレビ局ので助けてくれと連絡してくれたらしい」
「春日梅家に?」
頷く。
「京海の幸せの為ってのじゃなく、輝竜家に恩返ししたくて、大勢の人生を背負ってる白久を助けたくて。
清水の舞台なんてメじゃない高さから飛び降りてくれたんだよ」
「そっか。それで秋小路様と松風院様にも伝わって……か。そっか……」
「おい、泣くなよ?
そろそろ京海が戻るからな」
「そんじゃ支社長室に戻るよ♪
邪魔したな♪」
サッとドアに寄ってノブに手を掛ける。
「……ありがとな、順志」
振り返らずに出て行った。
―・―*―・―
「ソラ兄すっご~い!♪」
〈大変なのは維持ですよ。
修行を続け、頑張ってくださいね。
今後、祓い屋として生きていく上でも重要な力となりますので〉
満足気に目を細めると薄れて消えた。
〈ありがとうございました!〉
【狐儀師匠~♪ 明日からもヨロシク~♪】
【はい♪】
「制服コレねっ♪」
「こうかな?」
「うんうん♪」
上着だけ羽織って姿見の前にソラを引っ張った。
「ソックリ~♪」
「そうだね……コレを維持ね。頑張るよ」
「偽装環のがいい?」
「ううん。修行したいから頑張る」
「うんっ♪ でねっ、お名前ね♪」
今度は机に引っ張った。ノートに書く。
「翔、颯龍♪」
「サーロンね……うん。ありがと♪」
「イトコだから~、彩桜って呼んでねっ♪
サーロン♪」
「うん……サクラ」何故か頬が染まる。
「慣れてねぇ?」
「うん。頑張る」
「それじゃ次はリーロンねっ♪」「わっ」
引っ張って台所へ♪
「リーロン♪ 弟のサーロン♪」「ええっ!?」
「彩桜クン!」慌てて姿を戻した。
「あれれ?」
「な~んだソラか。ビックリしただろ」
「でもリーロンの弟なんだもん。
中学生のサーロンなんだもん」
「そっか。
中学生するのに素性ゴマカシなんだな?」
「そゆコト♪」
「んで、さっきのは偽装か?」
「うんっ♪ 狐儀師匠に習ったの~♪」
「そっか♪
そんじゃサーロン♪ 今から兄弟なっ♪」
「はい♪」またサーロンに。
「スッゲーなっ♪ 簡単に偽装マスターか♪」
「なんだか違う意味に聞こえるんですけど?」
「人が勝手に違う意味にしちまったんだよ。
ま、維持してりゃ、いい修行になるだろ。
頑張れよなっ♪
で、メシ食えよな。
部屋に籠ってっから、また落ち込んでるのかと思っちまったぞ」
彩桜の頭をワシワシ。
「食べる食~べる~♪
サーロンも一緒にねっ♪」隣の席ポンポン♪
「ありがとサクラ♪」「ん♪」『ただいま~』
「白久兄おっ帰り~♪」「おう♪ ん?」
「ん?」
「疲れかぁ? 彩桜がダブって見える……」
「違うよ~♪ リーロンの弟でサーロン♪」
「ふ~ん……って今度は弟だと!?」
「うんっ♪」
「ま、いっか。居候だらけだな♪」
「うんっ♪」
―◦―
食後、彩桜の部屋に戻ると、室内が本棚やらで3分割されていた。
「え……?」
「紅火兄に頼んだの~♪
手前が共有部分ね♪ 居間モドキ♪
瞑想とか此処ねっ♪
俺トコが真ん中~♪
サーロン奥なの~♪
窓あるから庭の木と仲良しさん♪
誰か開けた時ソラ兄なってても大丈夫だから~♪」
「ありがと彩桜♪」
「行ってみよ~♪」「うんっ♪」
彩桜はソラを中学生にする策を考えて、屋上で狐儀に相談しました。
問題は新たな部員が増やせない事です。
それを解決する為に白儀として現れた狐儀が校長に話したんです。
何を? は次話で。
本来なら、まだ小学生なソラ。
中学生できるのが嬉しくて仕方ありません。
リーロンに すんなり弟として受け入れてもらえたのも、白久が笑顔で従弟を受け入れてくれたのも嬉しくて嬉しくて~です。




