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黒石板と白墨



 ティングレイスがドラグーナの子供達の家で過ごすようになって半年が経った。


『最近おとなしく瞑想しているようだが……それにしても開いて無さ過ぎだな』


「えっ!? えっと……」


『ああそうか。まだ判別出来ないのだな?

 しかしそれが何か問題かな?

 君にとっては此処に住んでいる誰もが師なのだから、誰が話そうがよくないか?

 姿も見えない、何処から話し掛けているのかすらも分からないのだから』


「でもそれじゃあ呼びようが――」


『呼ばなくていい。

 私達の言葉を聞いて考え、己と向き合うだけなのだから。

 誰もが師だと言ったろう?』


「……はい」


『不服そうだね。

 獣神から指図されるのが嫌なら今直ぐ出て行ってくれて構わない。

 修行という形だけを格好良く続けたいのなら、人神の師の元で緩く楽しめばいい』


「術が使えるようになりたいんです!」


『ひと口に術と言っても難度は様々だ。

 人神が得意とする、人神にしか使えない術なら、容易に使えるようになるだろう。

 しかも私達では教えられない。

 使いたいだけ、が目的なら出て行ってくれるかな?』


「え……?」


『問題は、その先だと言っているのだよ。

 何の為に術を使いたいのか、だな』


「あ……」


『周囲の神が使っていないから自分だけが使えたら便利? 格好良い?

 その程度かな? だったら迷惑なだけ。

 人神の師を探してくれ』


「僕って……獣神だったら何歳くらいなの?」


『比較出来ない』


「人神と獣神は違うから?」


『強いて言うなら、生まれたて以下。

 違っていても、それは方向性だけ。

 力の強さ、大きさなら比較出来る。


 比較出来ないと言ったのは、小さ過ぎて話しにならないという意味だ。

 獣神は生まれて直ぐに、その程度が出来なければ死に直結する。

 生まれた その日のうちに姿を消し、神眼を使えるようになれなければ、ただ生きる事すら出来ないのだから。


 獣神にとって修行とは日常。

 それだけに没頭するなんぞ有り得ない。

 生きていく為の諸々の合間に高めなければならないのだよ。

 勿論、勉強もする。知識は武器だから。


 対して都で暮らす人神は、禁忌で護られている事すらも知らず、安穏と生きている。

 修行なんぞしなくても生きていけるし、学ばなくても生きていける。

 そうして代を重ねてきたから劣化した。

 親神の力が強い程、子は強く生まれる。

 閉じたままの力は、閉じたまま受け継がれ、やがて忘れ去られてしまうからね』


「僕……修行しても強くなれないの?」


『私がいつそんな事を言った?

 閉じている力ならば開けばいい。

 己で見つけ、開き、極める。

 それだけだ』


『サンダーリア兄様イライラ~♪

 話しかけたら終わらないから、静かに見守っててってお願いしたのに~』


『確かにキリが無いな。

 それで今度は何で呼ばれたのだ?』


『治癒~♪

 王なのに病気って、ある意味スゴいよね♪

 しかも治癒使える臣下いないなんてね♪

 だからラナキュラスが残って様子見~♪』


『治癒なら私も使えるが?』


(ジュ)だと思ったみたいだよ♪』


『そうか。解呪としてか』『うんっ♪』


『人神に対して治癒や解呪を使うのは許されたのか?』


『ううん。今回は特別だって。

 許してくれたら いくらでもお医者さんしてあげるのにね~』


『どうにもならぬのだな……』『だね~』


「あの~、話が見えないんですけど~」


『解らなくていい』

『まぁまぁ兄様~。

 キミに関連するとしたら、キミの力を開いたり伸ばしたりもできないってコト。

 キミがもし病気になっても呪われても、ボク達はただ見てるしかできないんだ。

 獣神が人神に対して発動する術は全て禁忌だからね』


「そんなぁ……」


『だから人神の師を探せと言っている。

 人神なら禁忌になどされていないからな』

『治癒ですら探すの大変だろうけどね~』


「その……治癒が使えるようになりたい!

 病気を治せるんだよねっ!?」


『怪我もね~』

『難度は中程度以上だ。やればよい』


「はいっ♪」


『じゃあ、いい加減ソレできるようになってね~♪ 兄様 行こっ♪』

『そのペースでは治癒に至るには万年必要だ。集中しろ』


「は、はいっ」



―・―*―・―・*・―・―*―・―



 そうして100年が経った。



「集めた力を手に移すのはスムーズになったね~」

「あとはその力を治癒に変えるだけ。

 術はコレ。唱えてみて」

「つっかえず丁寧に読めばいいだけだから、やってみてね~」


 どうにか薄く見えるようになっても区別のつかない橙龍達がテーブルに3枚の石板を並べた。


「コレが初級の治癒の術だよ~♪」

「怪我はコレ。病気はこの2枚ね」

「読むだけだから怪我からねっ♪」


「え……っと……」石板を凝視!


「やってるうちに覚えるから、まだ暗記しなくていいよ~」


「あの……なんて読の?」1語目。


「「え?」」


「ほぼ読めなくて……」


「学校で何習ったの?」「怠けてたんだろ」


「そっか~」消えて、本を持って現れた。

「はい♪ 辞書ねっ♪」


「今日は解読で終わりだな」「だね~」


「何か書く物を……」


「調べて覚えるだけだよね?」「うんうん」

「ま、頑張って」「ボク達、離れとくね~」



―◦―



 昼から始めて、夕方――


「あ!! テーブル汚すなよなっ!!」


「え?」


「『え?』じゃないっ!!

 炭なんてどっから持って来たんだよ!?

 とにかく掃除しやがれっ!!」

プリプリ怒っている金龍は掃除道具を手に出した。

「サッサとしろっ!!」


「掃除……?」


「したコト無ぇのかよっ!?

 キレイに消して、元に戻しやがれっ!!」


「消したら読み方が――」「覚えろ!!」

「そんなムリな――」「うっせーっ!!」


「兄様ど~したの?」「ああっ!!」

「あ~、書いちゃったんだ~」

橙龍達が現れて顔を見合わせる。


「だって書く物――」「「「無い」よ」」

「え?」


「ウチは貧乏だから余計な物なんて買えないんだ。

 んな赤子レベルなコトで汚されちゃあ堪んねぇよ」


「王に仕えてるんじゃ――」「奴隷だよ」


「そんなまさか――」「事実だ」「だよね~」


「ずっと前に『人質』だと言ったよね」

「誰かひとりは神王殿に居なきゃダメ」

「向こう都合でいつでも呼び出される」


「だからサンダーリア兄様が詰めてる」

「他の誰かが呼び出されて着かないと」

「帰っても来れないんだ。監禁だよな」


「でも……」金龍を指す。


「鱗色しか区別できないんだ~」

「ま、神眼は遥かなる道程だな」まだ心眼。

「それはそうと、掃除しろよな」


〈クレマーガル、父様が呼び出された〉

〈ん。また身代わりだな。行くよ〉〈頼む〉


〈そんじゃあ見張っててくれ〉〈〈うん〉〉

金龍が消えた。


「えっ!?」「呼び出されただけ~」

「そんなふうに呼び出されるんだ……あ! さっきのは?」


「「クレマーガル兄様」」


何神(なんにん)居るの?」


「100年も住んでて今?」

「ま、やっと見えたんだし~」


「あら、また止まってるのね」

「エーデリリィ姉様」「お帰りなさ~い♪」


「炭……そんな事に使っちゃったの?」


「姉様が渡したの?」「絵のヤツか~♪」


「外で描いてたら寄って来たのよ」

煌めく白龍は肩を竦めて、木炭を回収した。

「テーブルに書いちゃダメね」浄化。


「「ああっ」」「え?」

「掃除させようとしてたんだ」「うんうん」


「そうだったのね。身を以て反省ね?」


「浄化なんて遥か彼方だから」「うんうん」


「じゃあ他の家事をさせてあげるわ。

 100年も何もせず暮らさせてあげたのだから。

 ただし此処には便利な道具は無いわ。

 自分達で作った物と術で生活してるの」


「絵は?」


「けっこう売れてるのよ♪ 収入源ね♪」

「コイツまたサボってるのか」緑龍が現れた。


「マムアイビー兄様お帰りなさ~い♪」

「ダンデライラ兄様は?」


「外で薪割ってるよ」


 窓の向こうで黄色い龍が丸太を前に光を宿した爪で縦横に宙を掻くと、丸太はバララッと薪に変わった。


「ふ~ん。初級治癒に進めたんだな。

 唱えてみろよ」


「まだなんだよ~」「読めないんだ」


「ったく人神って面白いなっ♪

 チビッ子みたく読んだヤツ丸暗記するか?

 それなら読んでやるぞ♪」


「たぶんムリ~」「だよな」


「生まれて数日の子達が覚えられるのに?」


「何百回も唱えるコトになるよ?」「だな」


「ふ~ん」「これ……使って……」

現れた蒼艶の藤龍が書き取り用の黒石板と白墨(チョーク)を差し出した。


「ラベンベール姉様、ソレは?」


「買ったの……一生懸命だったから」


「「「えっ?」」」「まさか――」

驚きで動けない兄弟を押し退け、エーデリリィがラベンベールの後ろに回った。

「やっぱり髪を……」


「……うん。また伸びるわ。

 だから気にせず使ってね」


「あ……はい……」


「ちゃんと礼を言えっ!」羽交い締め!


「うわわわわっ」ジタバタッ!


エーデリリィとラベンベールは笑って出て行った。


「姉様、爪も……」「短くなってたな……」


「マジかよっ!?」「「うん……」」


「おい! 獣神にとっちゃあなぁ、爪や牙は命と同じに大事なんだ!

 つーか命そのものなんだよ!

 髪もなっ! 女神の命なんだよっ!!

 龍は特に! 飛ぶ時 (なび)く髪の美しさを競うくらいなんだぞっ!!」


「それなのに……売って……」石板を見詰める。


「だから本気で」「真面目にね?」

「感謝は態度で」「示せばいいんだからね」


「うん……うんっ!」うるうるっ――







あっという間に100年経ちました。

けれども相変わらずなティングレイスです。


とは言え、ラベンベールのおかげで少しは変われたようです。


この頃には、末2神とティングレイスはラナン・ソニア・グレイと呼び合っていました。



王都を護っている初代の兄弟は8神です。


〈ドラグーナの子供達(初代)〉

1サンダーリア(★金)

2クレマーガル(★金)

3エーデリリィ(☆白)

4ラベンベール(☆藤)

5マムアイビー(★緑)

6ダンデライラ(★黄)

7ラナキュラス(★橙) ラナン

7ソニアールス(★橙) ソニア


この代には狐や猫はいません。



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