馬耳だらけ
順志の両親、啓志と淳は外を楽しみたいと『ログハウスモドキ』から出て行った。
順志と京海は、京海の両親と話しながらモニターを見続けていた。
「頭に何を着けているんだろう?」
「けっこう大勢ね……あ♪ きっと馬耳よ♪」
「そうか。キリュウ兄弟の馬頭が違和感ないように配っているのかな?」
「ほら、シッポも♪」
「フードコーナーのスタッフは馬頭と馬帽子か。
で、説明ブースのスタッフが馬耳。
同じのを何処かで配っているんだな?」
「木を隠すなら森の状態ね♪」
「いろいろと画策してくれるよなぁ」
「楽しそうだから良いんじゃない?♪」
「京ちゃんも馬耳とシッポ着けたい?」
「こういう場でなら♪」
「そうなんだ」
「京海、外に出てみたらどうかな?
モニターなら僕達が見ておくよ」
「お父さん……一緒に行かない?」
「僕は座っている方がいい。
此処はとても気持ちがいいからね」
「お母さんもなの?」
「窓を開けているだけで十分よ♪
デートしてきなさいよ♪
私達もデートするから♪」
「そうだね。此処でデートだ」「ね♪」
「それじゃあ着替える?」順志に。
「現場も見ておくべきかな」邪魔っぽいし。
―◦―
『こちらが『ちょっと相談室』で~す!
何でもご相談くださ~い!
DIYのご相談も喜んで!
お気軽にどうぞ~!』
「巧、随分な行列になっているけど大丈夫なのか?」
マイクをオフ。
「部長の計画がいいから大丈夫ですよ♪
この10ブースに留まるのは1分未満。長くなっても5分まで。
リフォーム、レンタルとDIY教室の小屋、展示室に案内するだけですから~。
で、部長はお客様の生の声調査ですか?」
「そんなところだよ」
「それじゃあ並んでくださいね♪
馬の耳も貰って着けてください♪」
「此処で配ってたのか……」
「強制的な最初の関門でもないし、馬耳も押し付けてませんからね。
ちょっと相談室の来場記念品の中にあるってだけです。
で、一番人気が馬耳とシッポなんですよ♪
どっちかだから、わざわざ2回並んで貰ってくお客様もいるんです♪」
「2回も展示室に?」
「はい♪ リフォームとかしなくても展示室を覗いて回って、どれかに入ればいいんで、違う展示室を楽しんでくださってますよ♪
2回目は全部入ったりして♪」
「そんなに嬉しいのかな……?」
「この街は持ち家率けっこう高いですからね、夢が膨らむんじゃないですか?
どの展示が良かったかって投票するようになってますから確かめてください」
「それじゃあ回ってみるよ」
『ちょっと相談室・最後尾』のプラカードを掲げている巧から少し離れて並んだ。
『プロの道具でDIYしてみませんか~?
道具レンタルもありま~す!
レクチャーは無料ですよ~!
材料のみの調達も喜んで!
お気軽にどうぞ~!』
―◦―
厨房は客からは見えないので、黒瑯とリーロンは馬頭を被っておらず、コックコートで奮闘していた。
「今で この忙しさなら、昼になっちまったらどーなるんだ?」
「ナンとかしてくれ、神様♪」
「いや、神はフツー料理しねぇからなっ」
「けど人よりゃあ効率よく動けるんだろ?」
「いやぁ……どーだかなぁ……あれ?」
「ん? 藤慈、ソフトクリームは?」
黒瑯を見て馬頭を取った。
「両姫様が代わってくださいました♪
とても楽しそうですよ♪」
「「へぇ~……」」原液 飲んでねぇか?×2。
「信じてなさそうですけど、とても器用に巻いてますよ♪」
「「特技発見かぁ?」」
神眼を向けた後、驚き顔を見合わせた。
「そうかもしれませんね♪
では私はお皿のウィスタリア様をお手伝いしますね♪」
「「頼む!」」「はい♪」
「私達にも何かさせてくださらないかしら?」
「牡丹義姉さん、いいんですか?」
「みかんさんとリリスさんは販売の方をお手伝いしてますの。
瑠璃さんと若菜さんも此方に向かっていらしてますわ」
「そんじゃあパンとピザの焼き上がりを確かめて出すのをお願いしていいですか?」
「ええ」
「ふむ。パンとピザならば任せろ」
「私も成形なら得意です♪」
「って、フルでお願いしていいんですか?」
「任せろ」フッ。
―◦―
「あ♪ ソラ兄~♪」
「彩桜クンこれは?」
「欧州中世の民族衣裳で荷馬車に乗って牧場半周なの~♪
コスモス畑の方をぐるっとね♪
コレが当時のキャンディとビスケット♪」
薄紙を三角に折って作った袋に苺ジャムを固めたような小さなキャンディ3個と素朴なビスケットが2枚入っている。
「歴史研究部としての参加だよね?」
「うんっ♪」
「で、どうして馬の頭?」顔が見えないんだけど?
「騒ぎになるからなのぉ」
「ああそうか。そうだよね。
だからCMでも被ってたんだね?」
「そぉなの~。
ね、響お姉ちゃんは?」
「また奏お姉さんと一緒に東京。
手続きしに行ったよ。
郵送でもいいんだけどね……」
「またお見合い?」
「そうなんだよ。
今度こそ会うように言われてしまったらしくてね」
「そっか~。ショウは?」
「お兄が目覚めたら大変だから彩桜クン家の庭に置いて来たよ。
デュークも居たから」
「そっか~♪」
「手伝うよ。ボクも部員だからね」
「うんっ♪ はい馬耳とシッポ♪」
「え?」
「スタッフ用のなの~♪」耳飾り付き~♪
「そ、そう……」
―◦―
祐斗の両親は息子が楽しく頑張っている姿を見た後、リフォーム相談ブースに来ていた。
「そんな大掛かりなリフォームする費用なんて無いんだけどね、風呂の床が少し不安に感じるから、ちょっとね」
「歩くと撓む感じですか?」
「そうなんだよ。もしかしたら腐ってるのかと心配でね、調べてもらうとかもお願いできるのかな?」
「もちろんです♪
この催しでのご依頼は全て、調査を含めてお見積りまで無料ですのでお気軽にどうぞ♪
お見積もりまでのご成約で、こちらの中から記念品を差し上げております。
ご住所、お名前、ご都合の良い日時をお願いできますか?」
記念品のパンフレットと記入用紙をテーブルに広げた。
夫が記入している横でパンフレットを手に取った聖水は何とはなしにページを捲った。
「そちらはリフォームご成約の記念品です」
「え……KiN様の絵が!?」
「はい♪ ご提供くださいましたので加えさせていただきました♪
展示室に飾っている絵への問い合わせが多くございましたので。
急遽 決まりましたのでパソコン印刷のを貼り付けていますけど、本当ですよ」
「展示室にKiN様の絵が……」
「どうかなさいましたか?」
「あなた! リフォーム決定よ!」
「おいおい、輝竜さんから沢山お借りしているのに、まだ欲しいのか?」
『キリュウさんだと!?』ガタッ!
パーティションの向こうで立ち上がった目から上しか見えない女性が睨んでいる。
「えっ!?」『落ち着け淳!!』
「啓志君か?」『あっ、はい!』
啓志がパーティションから出て来た。
「すみません、お騒がせしてしまって」
後ろ手で淳を押さえたまま頭を下げた。
「啓志君もリフォームを?」
「はい。向衣さんから家を借してもらえて、リフォームも自由だって。
結婚までは彼女だけで住んでもらうんです。
ウチは兄が住むでしょうから」
「そうか。郁斗君は戻らないつもりなんだね? せっかく平穏になったのに」
「下のお子さんまで第一中に行かせたいそうなんですよ。
それでご実家は売ってもいいって」
「それよりも絵について聞きたいのだが?」
「説明するから淳は黙って。
それじゃあ、お騒がせしました」ペコリ。
啓志は淳の背を押してパーティションの向こうに戻った。
「啓志君も大変ね……」
聖水の呟きに夫が口の前に指を立てる。
「リフォームはいいが、遣り繰りを頼んだよ?」
「ええ♪ 頑張るわ♪」
―◦―
『第1回 馬術ショーは、聖渡女学園、馬術部の皆さんに依ります、障害競技です。
間も無く始まりますので、中央馬場にお集まりください』
「彩桜は出ないの?」祐斗が向いた。
「午後のショーなの~♪」
「見に行かなくてもいいの?」
「祐斗の方が見たいんでしょ?
行っていいよ♪」
「けっこう忙しいのに?
僕はポニー達が集まってくれてるから行かなくてもいいよ。
このコ達、彩桜が集めてるんだよね?」
「集まっちゃった~♪」なでなで♪
歴史研究部の荷馬車乗り場は小動物ふれあい広場の隣なので、ミニチュアホースやサラブレッドの子馬達が柵から出て彩桜の周りに集まっていた。
「うんうん♪ 次の案内もお願いね~♪」
更衣室から出て来たお客様を荷馬車まで案内する係も楽しそうにしている。
「賢いよね……」
「うんっ♪」
輝竜兄弟と各部所の責任者が馬頭を被り、他のスタッフは馬帽子か耳飾り付き馬耳カチューシャを着けているようです。
馬頭は紅火が作っているので馬そのものにも出来ますが、牧場でそんなのを被っていると人も馬も驚きますからデフォルメして着ぐるみ感を出しています。
渋滞は起こしてしまいましたが、今のところ順調です。




