彩桜も飛翔に挨拶
スウェットなソラと、ショウを連れた響がリビングに戻ると、華音と奏は壊れた物を集めており、晃典はバラバラになっただけの物を組み立て直していた。
〈カナデ~、ママ~、ごめんなさ~い〉
寄って行ってスリスリ。シュ~ンと伏せた。
「いいのよショウ。
翔君が大好きなのね♪」よしよし♪
華音は笑顔だ。
「次は気をつけるわ。ごめんなさい」
奏は申し訳なさそうに苦笑している。
「翔君、スーツは?」
晃典も申し訳なさそうだ。
「大丈夫です」にこっ♪
「これからクリーニングと修理に出しに行って、ソラの服も買うから。
集めたの貰うね?」
そうして大きな黒ビニール袋を二人各々が持って玄関を出ると――
〈ソラくん、ヒィちゃん。
出るの手伝ってぇ~〉
――カケルに飛ばされた着地点が『ショウのおうち』だったらしく、突っ込んでしまって、胴体が犬小屋な状態の寿がジタバタしていた。
〈中途半端に具現化されちゃって解けないのよぉ~〉
〈あっ、それなら。強具現化! 解除!
どうですか?〉
〈出られたわ♪ ソラくん ありがと♪〉
這うような低空で、ふわりと抜け飛んだ。
〈お~い嘉藤、ど~したぁ?〉現れた。
〈もうっ、先生ったら遅いわよ!
ソラくんに助けてもらったわよ!〉プンッ。
〈そ~かぁ? そんじゃあオイラは――〉
〈待ってサイオンジ!〉〈何だぁよ?〉
ソラに慣らせるからと連れて出たショウを響が前に出す。
〈お兄を見てもらいたかったの。
今、飛翔さんが眠らせてるんだけどショウが捕まえるのすら大変で〉
〈力も漏れていて、私、中途半端に具現化されて大変だったのよぉ〉
〈つまり目覚めたんだぁなぁ?〉
〈はい〉〈目が覚めただけ、なんだけどね〉
サイオンジがショウに乗った。
〈飛翔よぉ、メーイッパイだろ~が、ちぃと教えてくれよなぁ?〉
〈はい〉
〈その男の子がカケルだろ?
1歳から2歳てぇトコかぁ?
茶色い尻尾が見えるんだが、あるのかぁ?〉
〈はい、あります。
性格も人よりは犬だと思います。
暴れていた間は耳も犬でした〉
〈力は?〉
〈以前のカケル君と同じだと思います。
ただ、箍が外れた状態ですので、遥かに強いんです〉
〈そんじゃあ意識もシッカリ戻る迄、その馬鹿力だけは封じてもらわにゃあなんねぇなぁよ。
すぐにキツネ殿の所に――〉《おい》
〈〈えっ!?〉〉
ソラは『あ~』と苦笑している。
《俺に試させろ。
ガイアルフ、先ずは俺だけに試させろよ?》
ソラは寿に対して響を盾に出来る位置に動き、小さく頷いた。
〈〈誰っ!?〉〉
〈龍神様の父神様だぁよ。
姿は見えねぇがなぁ〉《俺も龍神だ》
〈分かってるだぁよぉ。
ドラグーナ様の愛称だぁよ〉
《ふむ。まぁいい。
その半獣人の魂の神力を封じる。
その力……トリノクスは眠っているようだが遠慮せぬぞ》
〈頼むなぁよ〉
サイオンジの霊体が輝き、その光が青く変わって落ち着くと、爽やかな青の龍神の姿になっていた。
〈どうなってるの……?〉
〈先生に龍神様が宿ったのよ♪〉
〈すっごいわね♪〉〈そうね♪〉
ショウの上に浮かんだ龍神から放たれた青光がショウを包み、色と輝きはそのままに鎖へと変わると、ショウの中に吸い込まれた。
《フン。ま、上出来だろ》
サイオンジの姿が戻る。
〈飛翔、ど~だぁ?〉
〈はい。力の流出が止まりました。
起こしてみましょうか?〉
〈だぁな。嘉藤、ヒビキチャン、ソラ。
よ~く見ててくれよなぁ〉
〈〈〈はい!〉〉〉
〈では眠りを解きます。
ショウ、放してみて〉〈うんっ♪〉
〈起きたね〉〈キョロキョロ~〈あっ!〉〉
ワホッ♪ 「え?」「ああっ!!」
〈嬉ションだなぁよ〉苦笑。
〈やっちゃったわね~♪〉あははっ♪
〈また乗っ取られた~〉も~ヤダ~。
「これは変わらないんだ……」ったく~。
「もうっ、お兄ってば!
ソラもう着替えちゃって。
そこの商店街で買った風なトレーナーとデニムでいいでしょ。
靴は浄化して、でも洗ったってコトにして干しときましょ」
「こんな感じかな?」靴もスニーカーに。
具現化した革靴を干しておく。
「ん♪ いい感じねっ♪
お父さんのスウェットは洗濯機で浸け置きしとくわ」
「先に浄化しておくよ」「ありがと♪」
―◦―
そんなこんなあって、ようやく稲荷堂へ。
「ん~と、それじゃあ犬用修行クッキー食べさせてみる? 毎日お散歩の時に。
ショウ、その時だけカケルさんにしてね?」
〈うんっ♪〉
響が面白おかしく話したのを聞いて彩桜が提案した。
「修行クッキー、犬用もあるの?」
「うん♪ 犬の神様用なの~♪」
「へぇ~♪」
「毎日 食べてたら、ちゃんと目覚めるの早くなると思うの~♪」
「えっと、おいくらに?」
「欠けたのとか あげる~♪
だからタダ♪」「「またっ!?」」
「持って来る~♪」タタタッ♪
「私ずっと紙もタダなんだけど……」
「だから響も通って友達になったら?
その方が恩返しし易いと思うよ?」
「そうだけど……いざとなると怖くなるって言うか……」
「彩桜クンなら大丈夫とか言ったの、響だったよね?」
「そうなんだけど……」
「響が言ってた通り、彩桜クンもお兄さん達も とってもいい人達だよ。
でも……ゆっくり乗り越えてね。
それまではボクが頑張るから」
「ありがと……」
軽やかな足音が近付いて彩桜が戻った。
「カケルさんメインでショウも飛翔さんも一緒に食べてねっ♪
ソラ兄、食べ始めるまで離れててね?」
「そうだね」姿を消した。
「クッキーだよ~♪」
差し出されたクッキーに大喜び。
バクついているのを皆で眺めた。
「ねぇショウ、ホントにお兄なの?
おとなしくない?」
〈魂としては~、ほぼ犬なお兄がピョンピョンきゃあきゃあ大喜びしてる~♪
豆じゃない柴って感じだってタカシが言ってるよ♪
おとなしいのは遠慮じゃないかって♪
ソラには遠慮ナシで~、ナンでも許してもらえると思って甘えてるって~♪
サクラには飛びかかったらクッキー貰えなくなるかもって遠慮してるの~♪〉
〈何でもなんて許さないけど?〉
〈でも甘えてるんだよ~♪〉
「ショウ、力は貰えてる?」彩桜が撫でる。
〈うんっ♪ タカシにも伝わってるよ♪〉
「じゃあ毎日クッキーで強化ねっ♪」
〈うんっ♪〉〈彩桜君ありがとう〉
その後、電話機だけは先に直すと紅火が言っていたので、庭で犬達と遊んでいると、ソラが紅火に呼ばれた。
ソラは大きなコンテナ箱を抱えて戻った。
「それ、電話機だけじゃないわよね?」
「うん。置物とかも殆ど。
すっかり元通りになってたよ。
蓋を開けても詰め物で見えないけどね。
テレビも倒れてたって言ったら、後で見に来てくれるって」
「それじゃ帰って待たないとね♪
彩桜クンも来る?」「いいの!?♪」
「これからショウの お散歩をお願いするって両親にも紹介したいから」
「うんっ♪
あ♪ デュークも連れてって お庭で遊んでいい?」
「デューク? って、この前の?」
「うん♪ ショウと仲良しさんな犬♪」
「それなら大歓迎よ♪」
「ありがと♪
追っかけるから先行ってて~♪
ショウ行こっ♪」〈うんっ♪〉
勝手口だった門まで駆けて、
「ソラ兄、店の台車 使ってね~♪」
大きく手を振って、見えなくなった。
「ホントいい子よね……」
「うん。いい友達だよ」歩き始めた。
―◦―
〈彩桜君〉〈あっ、はい。飛翔さん?〉
立ち止まった。
〈うん……これから紗を――〉〈俺に護らせてください!〉
〈――うん、お願いね。ランマーヤ様もね〉〈はいっ♪〉
また進み始める。
〈えっとぉ、俺その挨拶しよぉとしてたんですけどぉ〉
〈うん、伝わっていたよ。だから先回り。
なんだか照れるし……苦手なんだよね〉
〈『ランちゃん』て呼んでていいですか?〉
〈もちろん。
これからずっと……仲良しサンタさんもお願いね〉
〈はい♪
でも動けるよぉになったらパパサンタさんもお願いします♪〉
〈ありがとう彩桜君〉
―◦―
「私……頑張って乗り越えてみせる。
でも私の初めての友達が男の子でいいの?
ソラは大丈夫なの?」
「彩桜クンならね。
彩桜クンは紗ちゃんが大好きなんだ。
紗ちゃんは悪い死神に狙われてるから、彩桜クンは護れるように修行してたんだ。
その間、何年も紗ちゃんには姿も見せずにね。
真剣に大好きだから、今日のボクをずっと見ていたんだよ」
「だからショウが呼んだらすぐに来てくれたのね?」
「うん。
たぶん今、飛翔さんと話してるんじゃないかな? ボクみたいに緊張して。
好きが他を向いてるからじゃなくて、そんな彩桜クンだから響の初めての友達に相応しいと思うよ」
「トラウマもコンプレックスも、悪いもの全部、明るく吹き飛ばしてもらえそうよね♪」
「うん。すっかり浄化してくれるよ」
「あ~、ソラのお弟子さんだったわね♪」
「恥ずかしいからヤメてよ」
『ソラ兄~♪ 響お姉ちゃ~ん♪』
「あ♪」振り返る。「凄っ!」
彩桜が紗をおぶって走って来ている。
その両側を護るように犬達が走っているのだが、どう見ても全力疾走だ。
「ホント、笑顔に好きが溢れてるわね♪」
「だよね♪」
「追いついた~♪ ランちゃんも一緒に♪」
「そうね♪」「うん♪」
「でも、どうして『ランちゃん』?」
「どぉしてもなの~」照れ照れ~。
〈僕の好きな花が鈴蘭だからだよ〉
〈恥ずかしいから言っちゃダメなのぉ〉
〈タカシ♪
と~っても久しぶりに笑ってる~♪〉
〈うん、そうだね。
彩桜君、紗をお願いね〉〈うんっ♪〉
聞いていたソラと響も微笑み合った。
危うくソラはスウェットに革靴で出掛けさせられるところでしたので、赤ちゃんお兄に少しだけ感謝しています。
飛翔は彩桜を知っていましたし、気持ちにも気づいていましたので素直に紗を託そうと思っています。
ただ、以前のようにショウから離脱できなくて、パパサンタも終わりかと思うと寂しくて落ち込んでいたので、その部分だけは気持ちが晴れずにいたんです。
それに気づいた彩桜の言葉で少し上向きになれました。




