ソラ、響の父に挨拶
そして翌日、11月最初の土曜日の朝。
紗桜家の玄関前に立ったスーツ姿のソラにショウが近寄った。
〈頑張ってねっ♪〉フリフリフリ♪
〈うん。頑張るよ。
ありがとショウ〉気合いを込めて深呼吸。
呼び鈴を押すと、響がドアを開けた。
「どうぞ入って♪」
その後ろには母・華音と奏が見えた。
「失礼します。天海 翔と申します」礼!
「緊張しなくていいってば~♪」
「もう響ったら」「翔君どうぞ上がって」
華音は響の腕をぽすっと叩き、奏はソラの後ろで尻尾を振っているショウも入れてあげようとタオルを手に出て行った。
〈ソラ、スーツ置きっぱなしだけど?〉
〈うん。緊張してお茶とか溢したらと思って今回は具現化にしたんだ。
次は貰ったのを着るよ〉
実は嫌な予感がして、だったりする。
〈そっか♪〉
リビングに入るとソラの何倍も緊張してソワソワしている父・晃典が居た。
前夜、夕食時に響が『会わせたい人が――』と言いかけただけで『明日、連れて来なさい』と偉そうに言ったにも拘わらずだ。
ソラは此処でも名乗り、響と並んで晃典の前に腰掛けた。
奏は少し離れたラグにクッションを運んで、ソラと響の背中を見る形でショウと一緒に座った。
そこは冬場は炬燵を置く場所なので ゆったり寛げる広さだ。
お茶を運んで来た華音は晃典の隣に。
揃ったのでソラは話し始めた。
「春から響さんと同じ大学院に進学します。
ですので卒業後になりますが、響さんと結婚したいと思っていますので、ご挨拶に参りました」
「合格は教授から連絡貰ってるのよ♪」
スマホの画面を両親に向けた。
「まさか一緒に行っていたのか!?」
名前が並んでいるのを見て目を剥いた。
「お父さん、私も一緒に行ったのよ?
宿舎も予約してくれていて車中泊しなくて済んだのよ?
どうして大声を出すのかしら?」
奏が首を傾げて父を睨んだ。
「そうですよ、あなた。
響が初めて男の人を連れて来たのよ?
友達すらも一度もなのに。
追い返したりなんかしたら私、響と一緒に家出しますからね」
「私もショウと一緒に♪」
「皆して……驚いただけだろ。
それで翔君は、大学も響と同じなのか?」
「いえ、アメリカの大学卒業資格試験を受けました」
まだ響からは外国籍だとは聞いてないから、
その資格を有する邦和人って
設定なんだよね?
「アメリカの? その試験は何だ?」
「お父さんに説明してもねぇ。
とにかく邦和の大学を卒業するより遥かに難しい試験よ。
当然、全て英語だし」
「しかし何故そんな事を?
普通に邦和で大学に行かなかった理由は?」
「それは……」
「ソラは早くにご両親を亡くしてるの。
だから邦和では生き辛くて渡米したのよ。
あんまり突っ込んで聞かないでよね」
「そ、そうか……」女性陣に睨まれて怯んだ。
〈サクラ? コッチ見てる?〉
神眼を感じたショウが窓の方を向いた。
〈あ、うん。
俺もランちゃんと真剣だって示さないといけなくなったから、ソラ兄の参考にしよぉと思って〉
〈タカシに?
タカシ寝てるから起きたら言うねっ♪〉
〈そっか。飛翔さんにも話さないとね。
後で教えてね?〉
〈うんっ♪〉〈んん……〉〈〈ん?〉〉
ショウは魂の中のカケルに目を向けた。
〈カケルさん、目覚めかけ?〉
〈そうかも~♪ モソモソしてるよ♪
タカシね、サクラにナカヨシサンタさんお願いしたいって言ってたよ♪〉
〈ナカヨシサンタさん?〉
〈スズちゃんのサンタさん♪〉
〈うん。頑張るよ。
ソリにも一緒に乗るつもり〉
〈そっか~♪〉
『アキ、そんなにイジメるんだったら、アキの恥ずかしい話、ぜ~んぶソラに話しちゃうわよ?』
「その声……まさか!?」
『忘れてないわよねぇ?』
晃典の祖母としての姿を見せてニッコリ。
「お久し振り。
でも私、ずっと見てたのよ?」
「婆さん……ずっとって……?」
「成仏せずにアキをずっと見てたのよ」
姿を若くした。
「渡した笛は忘れるし、私が祓い屋として稼いだお金で育ったのに響ちゃんの話を信じないし、その上 響ちゃんの結婚まで邪魔しようと?
ソラは私の弟子なの。
祓い屋の修行する為に渡米したのよ。
ゴースト退治してたんだから♪
それが忙しくて大学には行けなかったの。
だから資格試験を受けたの。
天才が現れたって大騒ぎだったのよ♪
響ちゃんとは祓い屋として知り合ったのよ。
これ以上のペアはナイわ。
祓い屋としても、夫婦としてもね♪
他に何かある?」
「わわわわ分かったからっ!」
「そう♪ それならアキに取り憑くのはヤメてあ・げ・る♪
二人の結婚、許さなかったら~」
「だから分かったって!」
「響ちゃんはソラじゃなきゃ結婚しないわよ。
これだけは忘れないでねっ」消えた。
〈ヨシさん♪ ありがと♪〉
〈ありがとうございます!〉
〈どういたしまして~♪〉
一方、晃典の頭の中では『生涯独身』と白久の声がリフレインしていた。
「お父さん?」「あなた?」
奏と華音の声でハッとする。
「あ、いや、そうだな。結婚は許す。
で、だ。そうと決まれば東京に行く前に結婚して一緒に暮らしなさい。
親としても その方が安心できるし、その先の生活の為に節約すべきだろう?」
「いいの!?♪」「ありがとうございます!」
〈あ♪〉ムクッ♪ 〈お兄? 起きた?〉
ショウの魂の中で目覚めた赤ちゃんカケルはキョロキョロしてショウを見つけると笑顔になり、四つん這いに。
〈ん~~~♪〉
突いた両手を伸ばしてお尻上げて伸び~♪
〈あれ? あれれ?〉お尻に……?
〈シッポだよね!?〉〈あ♪ だ♪〉ハグ♪
〈お兄ちょっと!?〉〈だぁ~~♪〉ワン♪
〈離して、お兄!?〉〈ばぁ~ぶ♪〉
〈強っ! ダメッ!〉〈ぶぁ~~♪〉
〈ヨシさん! サクラ! 助けて!〉
〈ショウ!?〉〈どしたのっ!?〉
〈お兄がっ! タカシ起きて!!〉
ショウが押さえ込もうとしているカケルを目覚めた飛翔も押さえようとしたが、
〈だぁう!〉〈〈ああっ!!〉〉
弾き飛ばされてしまった。
寿もショウの身体を押さえようとしたが同じく弾かれ、壁の向こうに見えなくなった。
彩桜は入る訳にはと窓の外で待機した。
強引にオモテになったカケルがショウの身体を動かしていた。
しかしまだ自由にとはいかないらしく、力任せに動かせる箇所を全て動かそうとしていた。
「ショウ? どこに――きゃっ!」
その場でジタバタと暴れた後、滅茶苦茶に駆け回って周りの物を倒して壊し、振り返ったソラを見つけて大喜びで間の物を倒しながら一直線に走るとソファーに跳び乗った。
「ちょっとショウ!? 待って、ストップ!」
〈お兄に乗っ取られたぁ~〉〈〈えっ!?〉〉
ソラに のし掛かるように前足を突き、後ろ足で立ってワフワフ大喜びでソラの顔を舐めている。
「突然どうしたんだ?」
「翔君を大歓迎ね♪」
「え?」妙な生温かさに思わず手を当てた。
「ええっ!?」かなり濡れている。
「ちょっとショウ!?」
ショウとはソラを挟んで反対側の響も気付いた。
〈お兄、やっと眠らせた~けど……〉あ~あ。
「ソラ早くお風呂場! こっち!」
「うん!」流体具現化固定!
響が先導し、ショウを抱えたソラが続いて走った。
『お母さん! お父さんにバスタオル渡してショウ受け取らせて!』
「そうね。あなた!」「お、おう」
華音に引っ張られて晃典が出て行ってすぐに、ショウ用のタオルを持った響がリビングに戻った。
「お姉ちゃん、お父さんのスウェット!」
「あ、そうね」
呆然としていた奏だったが、ハッとして駆けて行った。
〈彩桜クンお願い!〉〈うんっ!〉
響が掃き出し窓を開けると、待機していた彩桜が浄化を放った!
〈すっかり綺麗ね~♪
ありがとう、彩桜クン♪〉
〈えへへ~♪
ソラ兄師匠の指導がいいから~♪
あっ、はい、大きなビニール袋♪
魂入れる用だけどフツーに使えるから♪〉
〈黒いビニール袋?〉ゴミ袋?
〈スーツ入れないとでしょ?
クリーニングもウチのお店に来てねっ♪〉
〈あ、そっか。
そういうフリしないと、よね〉
〈壊れた物も持って来てねっ♪
じゃ後で~♪〉駆けて行った。
「あら? ソファーは無事だったの?」
華音と奏が戻った。
「水溜まり、ヨシお婆ちゃんが来て浄化してくれたよ♪」
「「浄化?」」
「サッと消したのよ♪
でも、お父さんには3人で掃除したってしない?」
「「そうね……」」母娘、苦笑。
『おお~い、助けてくれ~』
父の困りきった声に笑いながら母娘3人は風呂場に向かった。
脱衣所ではショウをワシワシ拭いていた晃典が『この後どうすれば?』な困り顔で見上げた。
「ドライヤーとブラシよね♪
でもソラが出られなくなるから廊下でね♪」
〈ヒビキごめ~ん〉シュ~ン。
〈ショウは悪くないわよ♪
それで、お兄は?〉
〈僕が捕まえてて、タカシが眠らせてる~。
すっごく強い赤ちゃんなの~〉
〈力は継いで継いだ3人分のままなんだよ〉
飛翔が補足した。
〈困った赤ちゃんお兄だね……〉
〈そ~なの~〉〈響、この黒い袋、何?〉
〈それにスーツ入れてクリーニング出しに今から出かけましょ♪
ちょっとサイオンジに相談したいし、飛ばされちゃったヨシさんも気になるから〉
〈掃除は?〉
〈終わったわよ♪
お母さんもお姉ちゃんも笑ってたよ♪
後でトドメの浄化お願い♪〉
〈うん。お兄が倒して壊した物は?〉
〈今、お姉ちゃんが集めてる。
道具屋さんに預けに行きましょ♪〉
〈じゃあ出るよ〉
〈そのスウェット着てね♪〉
〈え……ボクこれで出掛けるの?〉
〈サイズ合わないからソレしかないのよ。
すぐ着替えればいいでしょ♪〉
〈うん……〉
ソラの悪い予感は的中して、目覚めた赤ちゃんお兄にメチャクチャにされてしまいました。
でも、おかげで晃典の変な緊張も解けたのではないでしょうか。




