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四獣神に会いたくて



 ティングレイスはモグラが去った床を物憂げに見詰めていた。


「今でも……友だなどと……」


何か指図されたのかと寄って来た臣下達に手だけで去るよう示すと、視覚も聴覚も全て閉ざして壁の方を向いた。


顔を見合わせた臣下達は、目障りだと叱責される前に壇上と広間を隔てる幕を引いて閉ざしてから、各々の持ち場に向かった。



―・―*―・―

―◦―



 この森を抜ければ四獣神様に会える!


その向こうなんて全く見えない巨木ばかりが高く聳え立つ森に、若い人神(ひとかみ)は意気揚々と踏み込もうとした。


〈待て小僧。其の森は獣しか受け入れぬ〉


「声だけ? どなたですか!?」


〈神眼すらも持っておらぬのか?

 無知無謀にも程があるな〉


「今は持っておりません!

 ですので四獣神様の元で修行させて頂きたいのです!」


〈基本修行ならば都でも出来よう。

 入れば消滅するのみだ。去れ〉


「では四獣神様にお取り次ぎを!」


〈呼び出せと申すか〉


「あっ、いえ、そうではなくっ」


〈何が言いたいのだ?〉


「あ、あのっ!

 ここで通るまでお待ち致しますっ!」


〈見えもせぬくせに……〉

〈ま、そのくらいにしてやれよトリノクス〉


「ええっ!? トリノクス様っ!?」


〈これ以上ごちゃごちゃ言ってたら両極端が来てしまうぞ♪〉


〈確かにな。

 オフォクスが気付いたならば、即、滅されてしまうであろうな〉


〈そうなる前に追い返してやらんとな♪〉


〈マリュースの爪でひと掻きであろ?〉


〈そんな可哀想なこと言わないであげてよ〉

〈森に絞め殺されるより遥かに良かろうよ〉


〈ほら、両極端が来てしまった♪〉


〈確かに両極端だよね♪

 でもオフォクスは優しいんだよ。

 それはそうと君、せめて俺達の姿が見えるようになってから来ようね。

 どの都にも獣神は大勢居るんだから、しっかり基礎修行してからまたお出で〉


「ですがっ!!

 やっとここまで来れたのです!

 どうか弟子にしてください!

 お願い致します!!」


〈話も聞けぬのか?

 愚か者の相手をしておる暇なんぞ無い。

 向こうに戻るぞ〉


〈はい、兄様〉

〈ドラグーナは見捨てられないんだろ?

 此処は任せるよ♪〉


「あっ、あのっ! オフォクス様!

 マリュース様! トリノクス様!

 どうかお待ちください!

 お願い致しますっ!!」


〈今の君では其処に居るだけで危険なんだ。

 俺達が森の向こうに戻ったら、あっという間に君は木に捕まって浄化域に直行だ(死ぬ)よ?

 悪い事は言わない。都で修行しなさい〉


「木に……捕まる?」


〈君には見えていないだろうけどね、枝や根が君を狙っているんだよ。

 何だかんだ言いながらも3神は、此処に留まって阻止してくれているんだ。

 と、話すだけでは信じられないかな?

 少しだけ見せてあげよう〉


目の前に光球が現れて膨らみ、人神を包み込んだ。

「あ……」


 碧色光を纏った白狐と、黄金光を纏った白蛇が組んでおり、地から次々と触手の如く現れ伸びる根と戦っていた。


 緋光と紫光を明滅させ、豊かな(たてがみ)を靡かせている獅子の如き虎は、纏う光を次々と変えている金龍と共に次々と伸びてくる枝と戦っていた。


 そこに龍 狐 猫などの子神達が飛んで来た。


〈あの青年を離して〉〈はいっ♪〉一斉。



 子獣神達が宙にズラリと並び、

〈少し下がって頂けますか?〉

最年長らしい龍の子が話しかけたが、四獣神を見詰めるばかりの人神は全く動かなかった。


数神が首を傾げて光球をツンツン。

〈動けないの?〉〈怪我したの?〉

〈見えてない?〉〈聞こえてもない?〉

〈枝 来たっ!〉


〈早く森の域から出て!〉枝を断つ!


〈運んでしまおうぜ〉〈だな〉〈ふむ〉


枝と戦う者、光球を運ぶ者に分かれて子獣神達は素早く動いた。


「す……凄い……速い……」〈喋った~♪〉



 人神入りの光球を森から離すと、木々は不穏な気を放つのを止め、触手のように蠢いていた無数の枝と根はスッと消えた。


〈戦えもしないのに何しに来たんだよ?〉

運ぼうと言った龍の子が光球をツンツン。


〈きっと間違って入って来たんだよ。ね?〉

〈父様の光が助けなきゃ見えないんでしょ〉

〈きっとそうだね~♪ ね、もっと離す?〉

〈追い出しちゃえ♪〉〈危ないもんね~♪〉

もう一度 浮かせた。


「ああっ! 四獣神様っ!!」


四獣神はチラリと見たが、無言で消えた。



〈偶然じゃなくて父様達に会いに来たの?〉

〈いやムリでしょ。森に瞬殺されるだけ~〉

〈だから父様達が助けに来たんだろ~よ?〉

〈森にエサあげちゃったら大変だもんね~〉


〈そんな言い方は可哀想だよ〉戻った。


〈ドラグーナ父様♪〉一斉♪


〈皆ありがとう。修行に戻ってね〉


〈は~い♪〉また一斉。そして消えた。


「僕も一緒にっ!」〈無理だよ〉


走ろうとした人神の前を塞いだ龍神の鱗が金から瑠璃に変わり、人神は新たな光に包まれた。


〈此処に来るのに消耗した分は回復させる。

 だから帰りなさい。

 俺達が此処で何をしているのかも知らないんだよね?

 此処が如何なる場所かすらも。

 あまり離れて居られないんだよ。

 俺の代わりは、王に仕えている長男に頼んだから、王都に帰ってね〉


「あ、あのっ!」


〈全ては修行しながらサンダーリアから聞けばいいよ。

 それじゃあ、また会える時を楽しみにしているからね〉


「あのっ――え……? 王都……?」


目の前の龍神が消えたと思ったら、生まれ育った王都に戻っていた。


「そんな……神世の果てに……やっと行けたのに……」


《君がティングレイス?

 私はサンダーリア。

 直ぐに始めるのかな?

 今日は休んでもいいのだが?》


背後からの声に振り返ると、龍神ドラグーナによく似た小ぶりの金龍が浮かんでいた。


「子供?」


〈姿が気になるのか? 獣神が珍しいのか?

 都は人神に合わせているから獣には窮屈。

 小さくしなければ暮らせない。

 それで修行は?

 今から始めるのか? 明日からなのか?〉


「直ぐに! あ、でも先に教えてくれる?」


〈私は君の友なのか?

 躾から始めないといけないのか?

 礼儀指導なら――〉「すみませんっ!!」


〈私は人神が好きではない。

 人神は獣神を下に見る。

 しかし父様の御指示だから指導だけはする。

 馴れ合うつもりは全く無い。

 そのつもりで修行にだけ集中しなさい〉


「はい! ですが先に――」〈ソニアールス〉


〈兄様なぁに?〉橙龍が現れた。


〈此奴を頼む。私は務めに戻る〉


〈はぁい♪〉


 金龍サンダーリアはフンッと鼻を鳴らすと一瞥して消え、橙龍ソニアールスが興味津々な笑みを浮かべて寄って来た。


〈兄様に何言って怒らせちゃったの?

 あ~、解ってないって顔だね♪

 それじゃあ――〉額をツン。〈ここに集中〉


「え?」


〈ソレも解らない?

 じゃあ引っ張るから維持してねっ♪

 はいっ♪ 離すよ?〉手を引っ込めてパ~♪


「あっ!? ええっと……」


〈もう散っちゃったの? 初めてなの?〉


「な、何が……?」


〈修行♪ ま、百歳越えてて初めてでも驚かないけどね♪

 人神って神だってコトに胡座(あぐら)かいて修行も勉強も(おろそ)かなのフツーだもん♪〉


「え……っと、キミって?」〈562歳♪〉

「ええっ!?」〈キミは154歳だよね♪〉

「えええっ!?」〈読めてフツーだよ♪〉


ソニアールスはティングレイスの額をツンツンして笑う。


〈そろそろ真面目にしないと見捨てるよ?

 ボクが最後の砦だからね?

 都に来ている兄弟では末っ子なんだから〉


「まままま真面目にしますっ!」


〈父様達は神世の最果ての地で『試練の滝』から生まれる禍を消しているんだ。

『試練の滝』ってのは人神の呼び名ね。

 僕達 獣神は『(わざわい)の滝』って呼んでるよ。


 父様の父様達の代からずっと四獣神が禍を滅してるんだよね。

 だから神世は平和なんだよ。

 それを理解せず、人神の王達は四獣神を脅威と感じてボク達を都に留めているんだ。

 人がよくやる『人質』ってヤツ。

 ボク達は父様達の後継として修行してたのにムリヤリ来させられたんだよ。

 だから父様達は新たな子を作って育てているんだ。

 そうしないと都の中でも超厳重な王都だって禍だらけになる――な~んて、人神の王達、解ってないんだよね。

 獣神をバカにしてるから四獣神すらも最果ての地の野獣扱い。


 滝の手前の森は『選別の森』。

 禍と戦える者だけが通過できるんだよ。

 力も備えてないのに通ろうとする愚か者を食ってしまうんだ。

 食らう度に滝の禍は強大になるんだよ。

 だから直ぐに助けに行ったんだ。

 このくらい話せば修行に集中できる?

 はい♪ もっかいねっ♪〉ツンッ♪







ユーレイ外伝 第一部 第2章は、物語の『今』より920年ほど前のお話から始まりました。

神の王ティングレイスの若き日のお話です。



神世は周囲を高く険しい分厚い壁のような山脈で囲まれています。

この山脈は内側から見ると聳え立つ岩壁のようです。


神世の中央部の環境の良い場所に人神達は都・街・村を造り、獣神達は辺境部に里を造って暮らしています。


王都(おうと)は神世の中心にあり、少し東に副都(ふくと)、南に大都(だいと)、その外を囲んで東西南北の小都(こと)があります。

街と村は合わせると数百になります。



四獣神が戦っている滝は、東の最果ての壁のような山脈から流れ落ちています。


西の最果てには、前話の最後に名だけ登場のマヌルヌヌ婆様が住んでいるマヌルの里があります。


各種族の里は山脈付近や、岩壁に出入口を作って中に、山脈の上にと、各々が暮らし易いように造っているんです。

しかも人神からは見えないようにしています。



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