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優しい制裁



「それならっ!」

京海はバッグに手を突っ込み、何かを掴み出してウィンローズへと突進した。


「何しやがる!」

白久が土に半分埋もれて残っていたハイヒールをアンダースローで投げた。

それが京海の脚に当たって膝がカクンとなったのに一瞬 遅れて、馬の後方から飛び出した3人が押さえ込み、その衝撃で白い何かがバラッと弾けるように飛んだ。


「食べちゃダメッ!!」


「いや、落ちたのなんか」

「間違っても食わねぇけどよぉ」

「ナイフじゃなかったのかぁ」


京海が激しく咳き込んでいる。


「松風院さん、秋小路さん、お馬さん下げて。

 みんなも逃げよ~」

彩桜はミニチュアホース達を連れて離れた。

白桜(ルルクル)も彩桜の動きに合わせて白馬達を連れて遠くに。


 青生と藤慈が散らばった物をピンセットで拾い、ジップ袋に集めている。

柵の内に落ちたのもコソッと引き寄せて。

「皆さんは触れないでくださいね」


〈ソレ、毒?〉〈はい。馬にとっては〉

〈人には違うの?〉〈まだ何とも……〉

〈秘書さんソレ飲み込んじゃったよ?

 浄化していい?〉〈お願いしますね〉

苦笑する藤慈に頷いて、彩桜は瞬移して京海の背後へと回り込み、破邪を放って元の位置に戻った。

それは肉眼では見えないくらい素早い動きだった。


「た……助け、て……」


「この錠剤は何ですか?」

藤慈がジップ袋を突きつけた。


「馬を眠らせて……安楽死させる……」


「やはり そうですか」

「では神様が、反省しない貴女に死を以て償えと仰っているのでは?

 馬に対する薬なら人には早く効くでしょう。

 街から離れた此処に今から救急車を呼んでも間に合いませんよ」

青生も藤慈に並んだ。


「そんな……あなた、医者なんでしょう?

 命を救うのが仕事なんでしょう?」


「そうですけどね。

 死神様がお待ちなんですよ」「えっ……」


「やはり見えていましたか」

うっすらと姿を見せた。

(うつ)し世で裁きを受ける気がないのなら、()の世で受けるといい。

 ま、地獄行きは確定だけどね」

深く被った黒フードからニヤリと笑う口元だけを見せた。

              〈エィム、入れたの?〉

「イヤッ! 離しなさい!   〈来ていたのか……〉

 離さないとアンタ達も殺人罪よ!」

暴れるとポロポロと錠剤が落ちる。突き飛ばそうとした手からも。

           〈物凄い負の感情だったから〉

「離すのはいいけどよ」     〈僕も同じくだよ〉

「そのブッソーなカバン渡せよ」

「手のは? もう無ぇよな?」両手首確保中。

          〈この服は偽物。だから入れる〉

「ほら! 持って行きなさいよ!   〈そっか~♪〉

 早く離して!!」


良太がバッグをシッカリ抱えて離れたのを確かめてから英雄と善喜も離れた。


泥だらけの京海が泣きながら這って逃げようとしている。が、全く進めない。

「どうして? どうして動けないの!?」


「薬の効果では?

 そのまま眠ればいい。

 トドメなら任せて」三日月鎌を振り上げた。


「嫌よ! 神様なんでしょっ!

 助けなさいよ!!」


「死神に向かって それを言うの?

 今、キミを助けたところで死を迎えるまで苦しむだけ。

 助けるとは、この場で安楽死させてあげる事なんだよ」


「なっ、何よっ!! 苦しむって何!?」


「ならば見せてあげよう。

 動けない本当の理由を」

三日月鎌からの鈍い光が京海を包んだ。


「イッ、イヤァーーーーーッ!!」

ひと声だけでなく叫び続けている。


京海の上には無数の霊が乗っており、泥から伸びた手が所狭しと身体のあちこちを掴んでいた。


「キミが引き起こした多重事故で命を断たれた者達だ。

 その重さは彼らの想いの強さだよ。

 僕を睨まないでもらえるかな?

 僕が呼び寄せたのではなく、彼らはキミが発する負の感情に引き寄せられたんだからね。

 人に対しては証拠は残していないのだろうけどね、神には全て見えている。

 軽い悪戯心で起こしたのではないのも知っているんだよ。

 ここまで話しても反省できないかな?」


〈ねぇ死神様、すっごく泣いてるよ?

 もぉいいでしょ?

 事故の時、黒いのが いっぱい降ったって聞いたよ?

 ショウからも、ルルクルからも。

 黒いのが くっついたヒト達だけ死んじゃったって。

 だから秘書さんだけが悪いんじゃないんでしょ?〉


〈あれは死印。

 確かに彼女だけではないとも言える。

 けれども細工させた車が引き金になったのも事実なんだよ〉


〈そっか……じゃあ反省したらいいの?

 毒は浄化できてるよね?

 みんな成仏できたらいいんだよね?〉


〈彼女を生きさせたいの?〉父様は……?


〈う~ん……ちょっと返事 困るけどぉ~。

 お馬さん好きになってもらいたい、かなぁ〉


〈反省させられるの?〉


〈やってみる!〉瞬移!


 視線が泥だらけの京海に集まっている間に彩桜は考えを兄達にも伝えて行動させていた。



 やがて、優しい風が穏やかに頬を撫でるような弦の音色が京海の耳にも届いた。

迫り来る死に怯えて考える事すらも儘ならず、ただただ泣いていた京海は、やっと周りを認識できた。

 恐ろしい形相で のしかかっていた霊達も聴き入っているらしく、皆、穏やかな表情で同じ方を向いていたのだった。

京海も霊達の視線を追った。首を動かす事が出来たのだ。

「キリュウ……兄弟……」


「心に響く音色だね。

 心の底から反省したなら、キミを助けてやってほしいと訴えてきたよ」


「キリュウ兄弟が? 私を?」


「そう言ったつもりだけど?

 言いたいのは それだけなの?」


「ごめんなさい……私がバカでした。

 皆さんの命を奪ってしまうなんて……考えてなくて……でも、ごめんなさい」


 京海が謝罪の言葉を繰り返しているうちに、霊達が、ひとり、またひとりと消えていった。

ある者は穏やかな表情で天を仰ぎ見、またある者は京海に微笑みを向けて――


「許してもらえるの? 私……」


「心からだと伝わったんだよ。

 音色にも後押しされてね、許さざるを得ない気持ちにさせられたんだよ。

 僕もね」


「えっ……?」


「あと一歩。

 もう暫く聴いて心を浄めてもらうといい。

 その間は薬の作用を止めておいてあげよう」

フッと笑って少し浮いた。


「この皆さん、成仏させてもらえますか?」


「当然。それが僕の仕事だからね。

 キミは生きて償っていけばいい。

 地獄行きは償い次第だよ」


「はい。ありがとうございます……」


「うん。それじゃあ、またいずれ。

 キミが生を全うした時に」

最後の霊を連れて死神は昇った。


〈死神様ありがと~♪〉兄達も口々に。



 父様は……やはり優しい……。



―◦―



 エィムは結界を出る前に霊から手を離した。

〈死神な僕は、今日は休みなんだ。

 それに祓い屋ユーレイは仲間だと思っている。

 また協力を宜しく〉笑顔で結界を出た。



〈エィムだけズルい~〉ぷんっ。


〈ちゃんと見張っててくれたの?〉


〈もっちろん♪ 次回は私ねっ♪〉


〈次回なんて無いから〉


〈人って、こんなの茶飯事でしょ♪

 だから次は私ねっ♪〉


〈どうして喜んでいるんだか〉溜め息。


〈エィムてばぁ、お休みなんだからぁ、雲地デートの続きしましょ♡〉


〈……そうだね。行こうチャム〉〈うん♡〉



―◦―



〈〈ナンジョウさん、おかえりなさい〉♪〉

響とソラが仲良く迎える。


〈ったく、冷や汗モノだったよぉ〉


〈エィムなら大丈夫よ♪〉〈そうですよ〉


〈一緒に押さえてた動物霊達は?〉


〈霊じゃなくてキツネ様のお弟子さん達よ♪〉

〈帰ったんじゃありませんか?〉


〈そっか。また仲間には無理かぁ。

 で、ヒビキチャンとソラは勉強は?

 試験、週末なんだろ?〉


〈試験は余裕よ♪〉〈そうだよね〉


〈流石だなっ♪ あ、ホウジョウ!〉


死神に連れて行かれた兄の無事だけを確かめて、消えようとしていたホウジョウが振り返って留まった。


〈もう帰るのか?〉


〈負の感情は消えたのでな〉


〈ツカサチャンとデートは?〉


兄を睨んで消えた。


〈ソッチも大丈夫よ~♪〉〈そうだよね♪〉

〈ナンジョウさんこそ相手を探したら~?〉


〈いやぁ……俺も帰ろっかな~〉消えた。



―◦―



 音色が止み、キリュウ兄弟が京海に歩み寄った。

「はい、解毒剤です」

藤慈が小さな袋に入れた錠剤を京海の掌に乗せた。


「あ……本当に? 私、生きていいの?」


「死神様がお許しくださいましたので。

 水もどうぞ」ペットボトルも渡す。


〈藤慈兄ソレなぁに?〉〈ビタミン剤です♪〉

〈そっか~♪〉〈浄化は完璧だそうですよ♪〉


〈彩桜、浄化ってヤツ頼む〉〈ん♪〉

白久が京海のハイヒールを掲げた。


〈堅固〉地面が一気に乾いた。


〈お♪ 紅火スッゲーなっ♪〉


〈固めただけだ〉フイッと外方向いた。


〈照れるなってぇ♪〉

「立てるか?」手を差し伸べた。


「ありがと…………ごめんなさい」


グッと手を引いて立たせて抱き止め、お姫さま抱っこ。


「こんなことしたら貴方も泥だらけに――」

「お~い彩桜ぁ浄化してくれ~♪」


「みかん姉ちゃんに言ってやろ~♪」


「言うなバカ彩桜っ! 早く浄化しやがれ!」


「じゃあ浄化~♪」シューッ、スッ、スッ。

「あれれ? 酸素なくなっちゃった~。

 じゃあ浄化だけ~♪」光 当てる~♪


「え……ウソ……」ぱちくり。


「そんじゃ靴履いてもらえっか?」


「あ、うん。ごめんなさい」

揃えて置いてあるハイヒールへと降ろしてもらった。



「お兄さん達も浄化~♪」


「お♪ スゲー♪」「「ありがとな♪」」


そして一緒に京海の所へ。

「コレ、返すけどよぉ」バッグを突き出す。

「ブッソーなモン何とかしろよな」

「毒だけなんだろーな?」


「それは……」


「動物 殺すとかヤメてくれよな」

「アイツら、俺達でも人だと認めてくれるンだよ」

「人は人だと思ってくれねぇけどな」


「だからバイトしたくなったんだな?」


「「「そうなんですよ白久サン」」」


「学校と両立できる日だけなら雇ってあげよう」

牧丘が3人の目をジックリ見て笑顔になった。


「「「ありがとーございます!」」」礼!


「朝は早いよ?」


「「「頑張ります!」」」


『そんじゃあイベント用メニューの試食会だっ♪ 集まれー♪』


 黒瑯のマイクを通した声で事務所の方を見ると、テーブルが並んでおり、白久を除く兄弟が忙しなく動いていた。


「彩桜までアッチ行ってやがる!?

 皆、行くぞ♪ お嬢様達もなっ♪」



―・―*―・―



〈ね、ソラは輝竜さん達 見えてたの?〉


〈見えてたけど、どうかした?〉


〈もちろん肉眼で見える距離じゃなかったけど、神眼ではシッカリ見えてたのよ。

 でもユーレイとか神様とかは見えてたのに輝竜さん達だけ ぼんやりしてて、声も聞こえなかったのよね……〉


〈不思議だね……〉


〈踏み込めないから、かな?〉ボソッ。


〈ん?〉


〈なんでもっ!

 ユーレイと生き人の違いかなっ。

 きっとユーレイにピントが合ってたのね!〉


〈そうかもね。

 もう不穏は消えたし、帰らない?〉


〈うん♪ ソラと二人乗りしたいな~♪〉


〈自転車で?〉


〈自転車で来ちゃったんだもん。

 まさかソラ、自転車に乗れないとか?〉


〈乗れるからっ。行くよ〉身体を具現化。


〈うんっ♪〉



 響の神力は強い筈なのに

 どうして見えないなんて起こったんだろ。

 少し――ほんの少し、だよね?

 ほんの少しだけ弱まってるよね?

 疲れたのかな?


背中に密着している響から伝わる神力に首を傾げたい思いを抱きつつ、ほんの少しだと己に言い聞かせながらペダルを漕ぐソラだった。



【ソラ。心配せずとも響が輝竜兄弟を受け入れられれば神力は戻ります。

 輝竜兄弟を知るのも受け入れてから。

 そうしなければ――いえ。それが叶うよう、協力してあげてください】


【どなたですか? もしかして狐儀様?】


フッと笑ったような気がしたが、相手は答えてはくれずに気配が消えた。







心の底から反省すれば、それでいい。

輝竜兄弟もドラグーナも、そう考えます。


一件落着~ではなく、まだ続きます。



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