決戦直前
そして朝遅く。
ベッドから抜け出した彰子がカーテンを開けると、陽は すっかり高くなっていた。
「ん……彰子さん?」
「この高さは10時を過ぎていますね。
そろそろ支度しませんか?」
「そうね。遅いくらいね。
軽く支度してブランチね♪」
「ダイニングは……ええ、着替えましょう」
見取り図を確かめてクローゼットを開けた。
「どこのブランドなのかしら……?」
「ブランドタグがありませんね。
私はこの服にします。
決戦は乗馬服で向かいます」
選んだ服を合わせて微笑み、抱いて少し離れた。
「そうね♪ 私は……これにしましょ♪」
ササッと抜き出して離れた。
「サイズもピッタリね……動き易いし……」
「とても着心地が良いですね♪
確かに競技場に女性もいらしていましたね。
スタイリストさんも その中にいらしていたのでしょうか?」
「きっとそうね♪
見ただけでサイズも好みも分かるくらい凄腕のスタイリストさんなのよ♪
世界のキリュウ兄弟なのだから♪」
「そうですね♪」
そして『ダイニング』へ。
「お♪ よく眠れたか?」
読んでいた本を置いて立ち上がった。
「はい、「おはようございます♪」
とても心地よく眠れました。
「ありがとうございます」」
「ま、礼は此処の兄弟に言ってくれ。
シッカリ食えるか?」
「ここの兄弟、って……?」
「えっと、貴方はキリュウ兄弟の……?」
「イトコのリーロンだ。ヨロシクなっ♪」
「大陸の方、ですか?」「だよ♪」
リーロンは背を向けたままテキパキと用意している。
「慣れていらっしゃるのですね?」
「シェフな四男の弟子だからな♪
好き嫌いあるか?」
「いえ……」「メニューは、お任せで♪」
「ん♪」
「あの……皆様は?」
「とっくに仕事と学校だ♪
五男なら其処の店で お嬢様達専用の腕輪を作ってるけどな♪」
「「腕輪を?」」
「昨日、お稲荷様から力を貰ったろ?
ソレを引き出し易くする道具だよ。
ほら、スペシャル朝定だ♪」
1プレートに盛った朝食を各々の前に置いた。
「まぁ綺麗♪」「色鮮やかですね♪」
「栄養バッチリ♪
だから色とりどりになる♪
レシピは四男、黒瑯のだけどなっ♪」
「「いただきます♪」」「おう♪」
「美味しい……」
「優しいお味ですね……」
「おいおい食いながら泣くなよなぁ。
緊張してたんだな?
これからだから仕方ねぇが、食う間くらい緩めておけよな。
乗り込む時に引き締めりゃいいんだからな」
―・―*―・―
その頃、中渡音では『ミツケン』の愛称で親しまれている『駅前の黒光りビル』ミツマル建設では、松風院財閥総帥の彰朗と その秘書が、ミツケン社長の光威と常務の白久に業務提携案について説明していた。
「――以上となります。
ご質問等おありでしょうか?」
と、ミツケン側に尋ねている筈なのに、秘書は自身の雇い主に微笑みかけた。
どうにもドヤ顔に見える その態度にカチンときたらしい光威が白久に視線を送る。
それを受けた白久が冷ややかに秘書を見た。
「条件的には良いと判断しますが、同様のご提案を他社からも頂いておりますので、比較検討させて頂きたく存じます。
回答は10日後で如何でしょう?
質問は、その間にさせて頂きたく存じます」
問いかけていると言うよりは断定的に語った。
口を開こうとした秘書を彰朗が手で制した。
「それでお願いします」
「では問い合わせは、どちらに?」
即座に動いた秘書をまた手で制す。
「私の携帯に」
白久に頷きスマホを取り出すと、まだ口を挟もうとしている秘書に向かって、
「重要な場だ。席を外してもらえるかな?」
嫌悪を垣間見せた。
部下とは到底思えない睨みを利かせて秘書は退室した。
白久は取り出したスマホに
『彼女は私の名刺を確かめもしませんでしたね』
と書いて光威と彰朗に見せた。
『お若いので――』書き掛けて続きを躊躇う。
『ナメきっていますね』ニヤリ。
『キリュウ兄弟だとも気付いていません』
『変装していますので』声は出さずに大笑い。
『ファンらしいのですが』苦笑。
『睨まれてしまいました』また静かに大笑い。
『娘は?』申し訳なさ気に。
『お元気ですよ。馬も。ご友人も』
『友人?』
『秋小路財閥のご令嬢です。
横浜で見掛けて馬で追い、一緒に。
馬術競技会で仲良くなったそうです』
『そうですか。ありがとうございます。
昨夜、彩桜君とも話しました。
助けて頂きました』
『この後、もっとお助けしますよ』
会話は終了と目配せし、メールを送信した。
内容を確かめた彰朗の驚き顔に微笑み返し、
「ホテルのレストランを予約しています。
少々早いのですが」
ドアに向かって声を張った。
「ありがとうございます。
朝が早かったので本当に有難いですよ」
「では」ドアを開け、「ご一緒に如何ですか?」
所在なく佇んでいたが怒りも露に睨んできた秘書に極上の笑みを向けた。
―・―*―・―
彩桜は国語の教科書に視線を向けていたが全く読んではおらず、神眼であちこちを見ては溜め息をついていた。
俺、何も出来ないのかな? このまま学校?
あの秘書さんが牧丘さんトコに
行くまでは何もしなくていいと思うけどぉ。
でもぉ、落ち着かないっ!
最悪ルルクルに乗ってっていいよね?
絶っっっ対! 渡さないんだから!!
お金……たっくさん必要だったら?
兄貴達、ステージに立ってくれるかなぁ?
俺……それしか稼げないもん。
アメリカで貰ったの、寄付したのかなぁ?
いくらあったんだろ?
1ステージで、いくらになるんだろ?
何回でルルクル分に――「輝竜君?」
「あっ、はい!」
顔を上げると数学教師が心配そうに見ていた。
慌てて教科書を数学に換えた。
4時間目と6時間目、
チェンジなってたんだった~!
珍しいミスをするくらい心此処に在らずだった。
「体調が悪いのなら保健室に行ってもいいですよ~?」
「あ……えっと、昼休みまでは頑張ってみます」
「無理はしないようにね~?」
「はい。だいじょぶです。
それ、解いたらいいですか?」
「当てようとして呼んだのではないけども~、書いてもらえるかなぁ?」
「はい」
立ち上がると少しフラッとした。
「彩桜、大丈夫?」
「うん」振り返って微笑んだ。
「ホント具合悪そうだね。早退したら?」
「ありがと祐斗♪」たぶん寝不足~。
後で回復しなきゃと思いつつ黒板に向かった。
―・―*―・―
昼食を終えた白久と光威は最速で山南牧場を訪れた。
車で事務所前までは行けるのだが、外の駐車場から徒歩で門をくぐり、白久は説明しながら先導して事務所へと向かった。
「此処でイベントをしようと考えています。
ファミリー向け。軽いリフォームや補修等を受けるのを目的とします。
家に ちょっとした不具合があっても、どう対処したらいいのか、何処に相談すればいいのかすら分からずに騙し騙し生活するのは、よくある事ですからね」
「確かにな。小案件を数多く、か。
新たな部所の初仕事なのだな?」
「はい。生活改善を目的とする課ですので。
お子様向けとして動物を、女性向けとして柵の向こうに見えているコスモス畑をと考えています。
柵に囲まれているのは馬の放牧場で、競技練習場もありますので馬術ショーも行います。
水族館で言うならイルカショーですね。
展示ブースは此方の広場に並べます。
フードコーナーも――」
「この臭いの中で食べるのか?」
「では早速これを試しましょう」
小脇に抱えていた木箱を置いてニッコリ。
「ん? 動物臭が……消えたな」クンクン。
「空気清浄機ですので♪
これを、通路を示す木製ブロックに混ぜて並べます。
この位置なのに頭の高さにも即効。
爽やかでしょう?」
「確かにな。
これなら食事も旨いだろう。
屋外というだけで旨くなるのだからな」
「先程の昼食は如何でしたか?」
また木箱を抱えて歩き始めた。
「あのホテルは古くから知っているが、いつの間に凄腕のシェフを雇ったのだ?」
「社長が東京に落ち着かれた頃に東京から来た、と言うか戻って来たんですよ」
「輝竜君を支社長にした頃か?」
「はい。一緒に家に帰りましたので♪
昼食を作ったのは弟なんですよ。
ですからイベントのフードコーナーも頼んでいます。
勿論ホテル側の許可も。今朝、予約した際に得ましたよ。
フードコーナーには、巷で人気上昇中のサクラ牧場のソフトクリームとチーズケーキも頼んでいます。
この建物が事務所です」
ドアを開けて『どうぞ中へ』と手で促した。
「着いていたのか。
つい話に夢中になってしまっていたよ」
苦笑しつつ入ると、奥の机に居た男性二人が笑顔で寄って来た。
「ど~も。またお邪魔します。
今朝は早くからお騒がせして すみませんでした。
社長、山南牧場主の牧丘さんとサクラ牧場主の桜瀬さんです」
ミツケンに業務提携話を持ち込んだのは松風院グループだったようです。
もう1社あるようですが。
光威社長=坊っちゃんの父です。
父子とも、これからも登場しますが……坊っちゃんを人物紹介に載せていなかったような……?
ええっと、もう少し後で加えます。




