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夜明け前の作戦会議



 瑠璃が白桜を連れてキツネの社に行ったのと入れ替わるように彰子と清楓は輝竜家に送り届けられた。


〈夜明けが近くなりましたので、朝は ゆっくりなさってください〉

小さな白狐は小首を傾げて微笑み、光を纏うと姿を消した。


「不思議なことばかりね。

 でも考えるのも説明を求めるのも解決してからよね。

 決戦は午後なのだから」

清楓は独り言ちつつクローゼットを開けた。

「開けるとライトが灯るのね♪」


彰子も並んで隣のクローゼットを開けた。

「これ……パジャマですね♪ 可愛い♪」


「確かにね。

 この家、女性も住んでいるのかしら?

 よく解っているとしか思えないセレクトね」

2つのクローゼット内を見比べる。

「こちらが私、そちらが彰子さんのようね」


「そうですね♪」

いくつか取り出してテーブルに運ぼうと振り返ると、テーブルには紙が置かれてあるのが見えた。

「何かしら? 見取り図?」


「この家じゃない? 説明付きね。

『お風呂はいつでも』なら、シャワーくらいは浴びたいわね」


「そうですね♪ 行きましょう♪」



―◦―



 その頃、青生の部屋には金錦を除く兄弟が揃っていた。

彩桜から話を聞いた兄達は、個々に考えを纏めた後、合わせて策を練っている最中だった。


「ヨシ♪ 明日の会談の後、社長を連れて山南(やまなみ)牧場に行く。

 いい季節だからな、ファミリー向けの展示イベント会場候補の視察だ♪

 敵も会談の後で行くだろうから上手く社長を連れ回してやる♪」


「シルコバ連れて行くのか?」

黒瑯が白久の頭上を指す。


「あ~そっか。

 ペット連れも想定しねぇとな。

 お前ら連れてってやっからな♪」

豆チワワ達を撫でてニヤリと企み顔。


「牧場で展示……ならば」

一瞬だけ消えた紅火はコンクリートブロックくらいの機械らしい木箱を持っていた。

「説明は省くが空気清浄機だ。

 家族連れが対象ならば獣臭は大敵だろう。

 通路を示すブロック代わりに使えばよい」


「へぇ~♪ 流石 紅火だなっ♪

 幾つあるんだ?」


「ひと月後ならば百」「俺、手伝える?」

「ふむ。ならば二百」「俺も手伝うよ」

「若菜も加わるのならば五百だな」


「ま、明日 下見して必要数を出すからな。

 1m間隔くらいか?」


「通路を示すのならば間にダミーを置け。

 5m間隔で十二分だ」


「屋外なのにか?

 あ、紅火作なんだから倍の10mでも十二分なんだな?」


「そうだ」フッ。


「フードコーナーは?」「黒瑯、頼む♪」


「ん。リーロンとやるけど手伝いも頼むよ」


「そんじゃあレストランの宣伝も兼ねて担当者達を当ててやる♪

 青生、動物だらけだからな、来てくれ♪」


「うん、いいよ」


「彩桜は馬術競技ショーを頼む♪」「ん♪」


「藤慈は青生と一緒に来るだろ?」「はい♪」


「紅火は力持ちだから馬にチビッ子 乗せる係なっ♪」


「む……」睨む。


「他にもイロイロだから来いよなっ♪

 馬がダチな兄貴は必須だし、飾る絵も頼めるよな♪

 ヨ~シ組み上がったぞ♪」


「ってマジでイベントやるのか?

 視察のフリじゃなく?」


「トーゼンやる♪

 いいイベントになりそうだからな♪」



―◦―



「まるで温泉旅館だったわね♪」

「とっても良いお湯でしたね♪」


二人一緒にベッドに寝転がった。


「ここ、優しい場所ですね……」


「そうね。落ち着くわね。

 でも彰子さんは お父様と一緒に暮らしているのよね?」


「ええ。清楓さんは別なの?」


「私は彰子さんを捕まえた近く。横浜よ。

 両親は東京で忙しくしているわ。

 年に数回しか会えなくて……だから、ばあやが親のような存在だったの」


「そう……」


「でも揃っているだけで十分よね。

 愚痴ってしまって ごめんなさい」


「そんな……私のお母様のことは気になさらないで。

 また幽霊として見守ってくださるから」


「また?」


「ええ。2月に亡くなって、5月までずっとお家に居たの。

 それまでと変わりなく お話しして。

 ローズさんが届いてからは一緒に乗ったりして♪

 でも……元気がなくなって、薄れてきて、黒いものに消されているような……。

 良くなさを感じて不安に思っていたら、それは呪いだから、一度 成仏するべきと教えてくださった幽霊さんがいらしたの。

 それが鈴本さんでしたの。

 鈴本さんに送っていただいて、お母様は天に。

 その時に、秘書さんに気をつけるように仰られて、あの話し方にしたの。

 目を見せないようにニコニコを徹底して。

 何も気づいていない振りをしていたの」


「そうだったのね。

 その秘書って?

 もしかして逃げ出した原因も?」


「お父様と結婚しようとしているの。

 お母様が亡くなってすぐに、お家に住み込もうとして。

 でもそれは他の皆さんから反対されて、秘書さんは渋々離れに。

 いつも お父様と一緒で……お父様も信頼していて……受け入れたみたい。

 私がローズさんに乗って裏口に向かっている時に、離れに向かう お父様を見たの。

 ですから私、お母様の遺骨も持って来たの」


「その秘書と対決するのね。解ったわ。

 どこも秘書には苦労するのね。

 以前、私の方にも困った秘書がいたの。

 東京と横浜を行ったり来たりしていて。

 だから東京での話は信じてしまっていたわ。

 両親は不仲で離婚寸前だとか、経営も立て直さなければ私の代まで無理だとか。

 経営不振の原因は母だから、早急に離婚するべきだと私から父に話せとか。

 その秘書は、いつも ばあや――鈴本さんが留守な時に そんな話ばかり。

 両親の事だからと、誰にも話すなって。

 中等生だった私は素直に従っていたわ。

 珍しく父だけが帰ってきた時に秘書から言われた通りを話したら父は激怒して……秘書は解雇されたわ。

 今思うと私、愚かだったと……嫌になる」


「以前の男性秘書さんの方が ずっと良かったのに……」


「今の秘書に追い出されたのでは?」


「えっ……あり得るわ!」


「事故の方も車に細工とかしてそうよね。

 きっと用意周到に証拠隠滅しているとは思うから、図に乗っているのを利用するしかなさそうね」


「図に……そうなのかも……」


「きっと彰子さんのお父様は、その秘書に脅されているのよ。

 だから受け入れたのではないわ。

 元気を出して。

 一緒に やっつけましょう」


「一緒に……?」


「そうよ、一緒によ。

 さっきの幽霊さん達も、キリュウ兄弟も協力してくれるわ。

 だから怖いものなんて無いわよ。

 そうと決まれば眠らないとね♪

 しっかり寝て、食べてないと戦えないわ!」


「ありがとう清楓さん!」抱き締めた。


「私達、親友ですもの♪」抱き締め返した。



―・―*―・―



 娘達が幽霊だと思っている職神達が職域に戻り、静かになったキツネの社では、オフォクスがユーレイ母娘に今後について話していた。


〈ルナール様?

 どうして私は呼んで頂けなかったの?

 共鳴が大騒ぎでしたのよ?〉

不満アリアリな顔で現れた。


〈スザクインの欠片は大き過ぎる。

 儂では抜き取るのは不可能だ〉


〈ショーちゃんのも?〉


〈然うだ。

 其のショーコに二人を頼みたい〉


〈同じ女神様なのね♪

 東京で祓い屋として、ですか?〉


〈ただし、各々が護りたいと望む娘の為のみの祓い屋だ〉


〈解りました♪ 基本、自由行動。

 前に輝竜君達を見守っていたように、救援にはショーちゃんが駆けつける、でよろしいのね♪〉


〈頼む。

 修行の仕方は教えた。後も頼む〉


〈畏まりました♪

 それで、マーレット様は全て集まったのですか?〉


〈騒いでおった欠片が三割程。

 スザクインとショーコを合わせると八割、と云った処だな。

 他は潜在しておるか、細か過ぎるか。

 何れにせよ集めるのは現時点では難しい〉


〈そうなのね~〉残念アリアリ。


〈しかし皆が集まればマーレットは神として姿を成し、動く事も叶う。

 ドラグーナも然うだからな〉


〈では必要とあらば集結ですね♪〉

鈴本と皐子に微笑んだ。

〈私はスザクインよ。

 孫娘のショーちゃんは生き人なの。

 東京の祓い屋を纏めているのよ♪

 ヨロシクねっ♪〉


鈴本(すずもと) 幸与(さちよ)と申します〉

松風院(しょうふういん) 皐子(さつきこ)と申します〉

美しい所作で揃って礼。

〈〈よろしくお願いいたします〉〉



〈ルナール様、コードネームは?〉


〈片仮名で呼べばよいらしい〉


〈それでも♪ 付けてくださいな♪〉


〈スザクインが決めて如何するのだ。

 ショーコの管轄下なのだぞ?

 それに何時(いつ)使うのだ?〉


〈欲しいわよね? そうでしょ?♪〉


〈〈あの……〉〉顔を見合わせた。


〈困っておるではないか〉


〈困っているのはルナール様でしょ♪

 でも……お嬢様達も困っているわね。

 協力した後で伺いますね♪〉


〈欧州総括、また居座る気か?〉


〈せっかく来たのですから当然♪

 ヨシちゃんも誘いましょ♪〉


〈渦中の娘達は友情という力を得た。

 協力するという事を覚えねばならぬ。

 くれぐれも邪魔はせぬようにな〉


〈解っておりますわ~♪〉ルンルンで消えた。



〈決戦には当然 連れて行く。案ずるな〉

オフォクスはフンと鼻を鳴らして丸まった。



―・―*―・―



「そういえば……競技会場から砂浜に向かう途中で輝竜君を連れていなくなったわよね?」

清楓がクルンと彰子の方を向いた。


「それは……」


「告白でもしたのかしら?♪」


「そうではなくて、逃げ込める場所をお願いしたの。

 ……それも鈴本さんからの指示だったの」


「ばあやが? いつ?」


「鈴本さん、清楓さんと一緒に競技会場にいらしたの。

 またお会いできたのが嬉しくて……お母様の時のお礼を言わなければと近づいたの。

 お話ししていたら、輝竜さんでしたら避難場所をご用意くださるからお願いなさいな、と。

 砂浜に向かう途中、今が好機ですよ、と。

 それで離れたのです」


「ばあやが どうして そこまで?」


「お母様の時が偶然で、今回は ご縁ですからとしか……」


「そう……不思議ね……。

 さっき ばあやは、4月に亡くなって以降ずっと横浜の私の傍に居たと言ったわ。

 偶然、東京にだなんて……」


「ご両親に何か……ご用か何かあって、いらしていたのでは?」


「それなら あり得るわね。

 まぁそれは ばあやに確かめましょ。

 それより~♪」にやにや♪


「なっ、何ですか?」


「輝竜君が好きなのでしょ?♪」


「そ、そんなっ――輝竜さんは歳下ですよ?

 そんなの……あり得ません!」

ふいっと背を向けた。


「どうしてお顔を隠すのかしらね~♪

 輝竜君、お兄様が6人もいらっしゃるからお名前で呼ばなければね♪

 彰子さんも、そうなさいな♪」


「無理ですっ」


「ほらほら~、彩桜君とお呼びなさいな♪」


「もうっ、揶揄(からか)わないでくださいっ」


「今 言えなかったら、面と向かってなんて無理でしょう?

 ご家族お揃いの場で、その有り様はないわよ? 練習なさいな」


「確かに……そうですね……」


「ほらほら♪」


「ですが楽しんでいますでしょ?」


「解決したら何も言わずに帰るおつもり?」

揶揄いを含まない声音になった。


「そうするしか……可愛らしい彼女さんが必死でしたし……ですから私は静かに去るしかないのです」


「せめてシッカリお友達にならなければね。

 呼ぶ練習はしておくべきよ。

 こちらを向いて、私を彩桜君だと思って呼びかけなさいな」

くるりと向かせた。


「もう……清楓さん、強引ですぅ」


「一度 声に出したら乗り越えられるわ」


「さく、ら、さん……無理ですっ!」


「言えたじゃない。もう一度、滑らかにね」


「……彩桜さん」「もう少しハッキリと♪」

「彩桜さんっ!」〈どしたの!?〉「あら♪」


〈何かあった!?〉「聞こえてしまったわね♪」


〈松風院さん!? 返事してっ!〉


〈だ、だいじょ、ぶ、、です〉


〈良かったぁ~〉


〈ごめんなさい……お願いした時の夢を見ていましたので……〉


〈そっかぁ。もぉだいじょぶだから、ゆ~っくり休んでねっ♪〉


〈はい。お騒がせしました。

 ……おやすみなさい〉


〈おやすみなさ~い♪〉


「可愛い声ね♪」「もうっ」


「届いてしまったから、もう呼び方は戻せないわよ♪」


「ううっ……」布団に潜った。


「それでは、おやすみなさい♪」


「おやすみ、なさい……」







清楓と彰子は すっかり仲良しです。


輝竜兄弟は言わずもがなに仲良しこよし。

仲良しパワーで黒い企みに挑みます。


黒瑯は普段なら起床時間、彩桜も間も無く朝の日課な犬達のお散歩タイムなんですけどね。



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